しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

文字の大きさ
56 / 130

ライオネット暗躍す

しおりを挟む
 風のない夜。
 エルグラッドの結界の外側。そこは、空間さえも静止したかのような沈黙に包まれていた。
 月だけが、木々の隙間から銀色の光を差し込み、地面に斑な影を落としている。
 人目を避けるには、これ以上ない場所。魔導学園都市の監視の目が届かぬ、森の奥──。

 「──やはり、奴はここに居たか」
 漆黒の外套を翻しながら、インスーラが冷たい声で言った。
 その瞳は獣のように鋭く、感情の起伏を一切見せない氷のような理性に支配されていた。

 「間違いないね。あんたらが探してる“特異点”ってやつさ」
 木の幹に背を預けたまま、ライオネットは口元だけで笑う。まるですべてを見透かしているような調子だった。

 「魔王様は、あの男を所望しておられる」
 インスーラの声には、威圧よりも確信があった。もはや“選択”ではなく“命令”という響きを帯びている。

 「“魔力に干渉されない電力”を持つ特異体……確かに、興味深い素材だね。ただ、少々目立ちすぎる」
 ライオネットは薄く目を細め、木の葉を払った。
 彼女の脳裏には、次々と家電を生み出しては周囲を笑顔に変える電次郎の姿がよぎっていた。

 「我らもすぐに動きたいが、ここの結界は厄介だ。下手に手出しすれば反転障壁が働く」
 インスーラは森の奥を見やる。視線の先には、今もなお霧のように漂う魔導結界の気配があった。
 彼の胸中には、この学園を制圧できないかという思惑が、かすかに、しかし確実に燻っていた。
 この学園さえ落とせば、未来ある魔導士たちも、未知の技術もすべて魔王軍の手に落ちる。
 だが、それを表に出すほど愚かではない。ライオネットという“情報屋”を手放すつもりはなかった。

 「なんとかして、学園の外に連れ出してくれないか? 礼はする。貴殿が欲しがっていた“実験に使える魔物”──あれを幾体か、手配してやろう」
 「魔物ね……」
 しばらくの沈黙。夜風が二人の間を抜けていく。

 「悪くない取引ではあるけどさ。それだけじゃ足りないんだ。魔物を飼うにも、調べるにも、研究資金がいる。ボルトリア王国からの“仕送り”も期待できなくなった」
 ライオネットは小さくため息をつく。だがその表情に焦りはなかった。

 彼女には彼女なりの計画がある。電次郎は“素材”であると同時に、“鍵”でもある。
 魔王軍の手などに渡すつもりは、毛頭ない。
 魔王が欲しがるほどの存在なら、なおさら──自らの手で、解明し尽くす価値がある。

 「足りぬものがあるなら、魔王様に相談しよう」
 インスーラは一歩、こちらへ踏み込んだ。言葉というより、通告に近い低さだった。
 「ただし……我々は君の裏切りを許さない。電次郎は“王”のものだ。分かっているな?」
 「ふふ……あんた、私を誰だと思ってるんだい? 私は研究者だよ。“結果”が最優先なんだ」
 ライオネットは皮肉げに口角を上げた。だが、その瞳は笑っていない。

 「ただ──“素材”が他人の手に渡るのは、少しだけ惜しいと思ってるだけさ」
 その一言に、インスーラの目がわずかに細くなった。

 互いに利用し合っている。ただ、それ以上でも、それ以下でもない。
 月光がライオネットの眼鏡の奥を照らし、白く反射した。
 まるで夜鳥の眼のように、静かに、鋭く。

 「どこまで信用していいか、分からんな」
 インスーラが吐き捨てるように言った。
 「それは、こっちのセリフだよ」
 ライオネットは笑みを崩さずに応じる。

 森の中に再び沈黙が満ちた。
 二人は互いに背を向け、別々の闇へと音もなく歩き出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...