しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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ドラゴン接近す

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 空を飛ぶのが、こんなにも怖くて──そして、美しいものだとは思わなかった。

 バンボルトの背中に無造作に担がれ、結界の穴から飛び出してからどれくらい経っただろうか。背中に生えた十本の腕が羽のようにうねり、風を切る音とともに、異世界の空を縦横無尽に滑空していく。

 最初は恐怖しかなかった。あの化け物の腕に掴まれて、ただただ空を舞っているなんて、生身の人間にとっちゃ悪夢以外の何ものでもない。

 でも──
 眼下に広がる大地の景色が、その恐怖をゆっくりと溶かしていった。

 山肌が金属のように光る連峰、虹のような光を発する巨大な湖。大気中に淡く光っていているのはマナ粒子ってやつだろうか……地球とはまるで違う“生命の気配”に満ちた風景が、どこまでも続いている。

 何度かドローンを飛ばして見た景色だけど、肌身に感じるとこんなにも違うものなんだな。

 俺はこの世界に、ようやく“自分の目”で触れた気がした。

 そのときだった。
 空の向こう、雲を割って迫ってくる巨大な影──ドラゴンだ。

 銀色の鱗が日光を弾き、翼を広げて、まるで“王”のような気高さをまとっていた。

 「……あれは」 
 見覚えがあるぞ、ライミの故郷にドローンを飛ばした際に接近してきたドラゴンだ。

 バンボルトですらわずかに速度を落とすほどの威圧感。ドラゴンの双眸が、真っ直ぐに俺を睨んできた。突き刺すような視線──だが、不思議と嫌な感じはしなかった。

 むしろ……なんだろう。懐かしいような、近しいような……最初に見たときとは違う感じ……なんだか、あの瞳、誰かに似ている気が……。

 「……気をつけろ。こっちを見てるぞ」
 バンボルトが不快そうに唸る。

 次の瞬間、ドラゴンが口を開いた。

 その声は風に乗ってかすかに届いた。言葉にはならなかったが、たしかに──俺に向けられた“何か”だった。

 やがて、ドラゴンはくるりと旋回し、どこかへ飛び去っていった。

 「妙な奴だ……」
 バンボルトが呟き、再び羽ばたく。

 俺は背後の空を、しばらく見つめ続けていた。

 ──今の、なんだったんだ?

 風が一変する。前方の空気が重くなった。

 「着くぞ、我らの城だ」
 バンボルトの声に顔を上げる。

 そこにあったのは──想像していた“魔王城”とは、あまりにもかけ離れた光景だった。

 荘厳な黒の塔を中心に、街が広がっている。だが、そこにあったのは陰鬱でも恐怖でもない。

 市場には人々が行き交い、露店の煙が立ち上る。子どもたちが魔道具を手に走り回り、商人が声を張り上げている。

 ──これ……まるで、ボルトリアの城下町じゃねぇか。

 思わず呟いた俺に、バンボルトが言った。

 「魔王ってのはな、見かけに反して“人の暮らし”ってやつをよく観察してるんだ。ここは、その成れの果てさ」
 そう言って、不敵に笑う。

 俺は、もう一度あの市場の光景を見つめた。

 ──魔王領。

 ここで、俺は何を見せられるのか。
 ──そして、何を、試されるのか。

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