チューター！ ～あなたの桜、咲かせます🌸～

⒈ 偏差値のカラクリ ～受験指導は甘くない？～ ②

　ごくり。
　周りの新入社員仲間達が固唾を飲んで見守っている。
　自分じゃなくて良かった、という安堵感と、次は自分かも、という緊張感が交互に伝わってくる。無言の視線に囲まれながら、急いでクールビューティの研修内容をフルスピードで脳内再生。パワーポイントにお行儀良く整列するグラフをじっくり見返す。
「……えっと、全受験生の年間模試もし偏差値スコアごとに人数分布表にして、実際の入試での合格者数と不合格者数がほぼ同数になる箇所が各学校の予想偏差値ランク、で合っていますか？」
　ざわざわっ。同期達のざわめきが驚きに変わる。
　あ、あれ？　間違えていたかな、おそるおそる教壇へ向き直すと、
「その通りです」
　氷山のような顔つきがほんのり溶けていて、ほっと安心したのもつかの間、クールビューティは何事もなかったようにパワポ画面に向き直る。
「では、今の花田さんの説明を念頭に、手元の偏差値データを見て下さい。左ページ、早生わせ大学・政治経済学部の昨年度入試の受験生集計です」
　小さく印字された数字が横にずらりと並ぶグラフは三段重ねだ。最上段の左端、項目名に「模試偏差値」とあり、左から〈80以上〉そのすぐ右隣に〈77.5　75.0　72.5　70.0……〉と、0.5刻みで数字が続き、そのまま右端までいくと〈37.5以下〉で終わり。
　この数字目盛りが、模試での偏差値を表す。
　そして、この目盛りの下に二段。真ん中の段に〈合格者〉、最下段に〈不合格者〉と記されている。
　0.5刻みの模試偏差値ごとに、〈合格者〉と〈不合格者〉のそれぞれの段に〈35（名）〉とか〈72（名）〉とか数字が並ぶ。
　左右とも両端に近いほど人数が少なく、真ん中ほど人数が多くてグラフにしたらピラミッド型だ。そして〈合格者〉の段ほど偏差値〈80以上〉のある左端に数字が偏り、〈不合格者〉の段は右端〈37.5以下〉に近い方に数字が増える。
　結果、同じ列に「合格者は96名で不合格者は102名」とほぼ同数である〈偏差値72.5〉が、この大学・学部の〈ボーダー偏差値〉と示される。

　つまり、「模試での平均偏差値72.5の学生が二人いた場合、本番入試で片方が合格で泣いて、もう片方が不合格で泣く」ということだ。
　あな、恐ろしや！