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11 スティックの|芯《しん》は同じ ⑪
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鋭い視線をゆるめ、神谷さんは体をほっとイスの背もたれに寄りかかった。
「……変わっていなくて、安心したよ。『どうやって他人の受験を合格に導くのか、知りたいからです』――何て、正直な就活生だと思ったよ。採用面接の花田さんが印象的でね」
まさか、入社志望理由を暗記されていたなんて。ニコニコと受け入れる姿勢が返って怖い。
「でも、面談後に僕も気付いたんだ。言われてみてそうだよな、って。他人、ましてや他人様の人生がかかっている受験を預かっているんだからね。勤続二十二年の僕もまだまだ未熟者だなって。チューターって、受験生に何が出来る仕事なのか、明確に説明できないんだから」
わざと謙遜する神谷さんは、迷っている私に視点を合わせているんだと伝わる。
「受験生の力になるという目標、〈私立大文系B〉クラスの担任として今は何点をつける? その理由も」
「……十点も、ないと思います」
「十点満点って意味じゃないよね? 自分に厳しいね。謙虚なのは、田代くんに分けてあげて欲しいけど」
「……今度の四者面談の相手。佐藤くんは多分、私を信頼していません」
佐藤くんだけじゃない。菊池さんも玉置さんも、きっと鈴木さんと高橋さんも、もしかしたら何も言ってこない生徒だって、その可能性はある。
「花田さんは独学で現役合格だったよね?」
突然、話の先が変わる。浪人生にとって現役合格者は見たくない存在だろう。だからこそ、渋谷校は〈現役生専用校舎〉が別に設置されている。
そこに、きちんと習いもせずに我流で押し通した、独学のチューターが現れたら。今更、担当生徒から自分がどう見られているのか、嫌になるほど実感する。
「――そのせいで、佐藤くんも含め一部の生徒から、予備校のチューターとして頼りないと思われています……」
「そうなんだ? 逆に、花田さんの強みなのに」
神谷さんの意図が分からず黙っていると「続けていいかな?」と伺うので、コクリと頷く。
「どんなに模試でA判定が続いても、合格するまで不安は消えないよね? 受験生、ましてや一度失敗している浪人生なら、尚更。不合格を貰ったら誰だって、もう無理なんじゃないかって辛いよね。どうやったら自分は、OKを貰えるんだろうって」
「……どうやったら?」
「……変わっていなくて、安心したよ。『どうやって他人の受験を合格に導くのか、知りたいからです』――何て、正直な就活生だと思ったよ。採用面接の花田さんが印象的でね」
まさか、入社志望理由を暗記されていたなんて。ニコニコと受け入れる姿勢が返って怖い。
「でも、面談後に僕も気付いたんだ。言われてみてそうだよな、って。他人、ましてや他人様の人生がかかっている受験を預かっているんだからね。勤続二十二年の僕もまだまだ未熟者だなって。チューターって、受験生に何が出来る仕事なのか、明確に説明できないんだから」
わざと謙遜する神谷さんは、迷っている私に視点を合わせているんだと伝わる。
「受験生の力になるという目標、〈私立大文系B〉クラスの担任として今は何点をつける? その理由も」
「……十点も、ないと思います」
「十点満点って意味じゃないよね? 自分に厳しいね。謙虚なのは、田代くんに分けてあげて欲しいけど」
「……今度の四者面談の相手。佐藤くんは多分、私を信頼していません」
佐藤くんだけじゃない。菊池さんも玉置さんも、きっと鈴木さんと高橋さんも、もしかしたら何も言ってこない生徒だって、その可能性はある。
「花田さんは独学で現役合格だったよね?」
突然、話の先が変わる。浪人生にとって現役合格者は見たくない存在だろう。だからこそ、渋谷校は〈現役生専用校舎〉が別に設置されている。
そこに、きちんと習いもせずに我流で押し通した、独学のチューターが現れたら。今更、担当生徒から自分がどう見られているのか、嫌になるほど実感する。
「――そのせいで、佐藤くんも含め一部の生徒から、予備校のチューターとして頼りないと思われています……」
「そうなんだ? 逆に、花田さんの強みなのに」
神谷さんの意図が分からず黙っていると「続けていいかな?」と伺うので、コクリと頷く。
「どんなに模試でA判定が続いても、合格するまで不安は消えないよね? 受験生、ましてや一度失敗している浪人生なら、尚更。不合格を貰ったら誰だって、もう無理なんじゃないかって辛いよね。どうやったら自分は、OKを貰えるんだろうって」
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