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第一話 🏡古民家カフェ☕
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真っ暗な闇に包まれた山の中、趣のある大きな一軒家。
広い家のほんの一画にだけ、明かりが灯っておりました。
中はカウンターとテーブル席のある喫茶店。古い建材を生かした内装がどこか懐かしさを感じさせる、いわゆる古民家カフェというものです。
木の温かみを感じるカウンターは、崩れてしまっていた部屋の梁を使った手作り。テーブルや椅子もまた手作りで、木の質感を生かしたシンプルだけれど機能的なデザイン。
床は丹念に磨かれた木材。壁には大きなガラス窓。昼間ならば外の美しい山々の景色を一望できることでしょう。
そんな木の香りが立ち込めるカフェ店内のソファー席で横になって、一人の男がぐっすりと眠っておりました。
この男、名を花咲 兵太郎と申します。
とんとんとん。
戸口からなにやら物音が聞こえますが、兵太郎はぐっすりと眠ったまま。日頃の疲れのせいでしょう。無理もありません。
ここまで来るのにひと月以上もかかったのですから。
兵太郎は生来の働き者で正直者。
ついこの間まで務めていた会社でも人一倍働きました。でも馬鹿が付くほどの正直者の兵太郎の手柄は、みんな人に取られてしまいました。
その上、上司のミスと他人の人間関係のいざこざをいっぺんに押し付けられて、会社を辞めることになったのです。
途方に暮れる兵太郎に、家を買わないかと声をかけたのは兵太郎の古い「友人」でした。
親切そうな顔をして「友人」は言います。
「いつか自分でカフェを経営したいって言ってたろ。親戚から相続したんだけどお前になら安く譲ってやるよ」
仲介の不動産屋もニコニコの笑顔で進めてくれました。
「広い敷地に広い建物。建築年数もう少しで百年。雰囲気もバッチリ。駐車場スペースも確保できますし、カフェを開くには最高の物件ですよ」
兵太郎は友人に感謝をし、貯金のほとんどをはたいた上に借金までして、実物を見ることもなくその家を買いました。
さて、着いてみれば広さと古さは不動産屋が教えてくれた通りです。
ただたくさんある部屋のほとんどが、人が住める状態ではなかっただけで。
幸いなことに建物自体はしっかりしたものでしたので、比較的マシな部分をひと月以上もかけて自分で直し、なんとかここまでこぎつけたのでした。
今日はこの家で夜を明かす、初めての日です。
とんとんとん。
物音はまだ続いていますが、兵太郎は眠ったまま。
その家が地元では有名な「いわくつき」物件だとは露知らず。
人一倍の働き者で、人一倍のお人好し。
手柄を横取りされても騙されても、気づきもしないで笑っている。
人の世界ではそんな兵太郎を、馬鹿な奴と蔑むのでしょう?
次はどうやって騙そうか、毟ろうか、陥れようかと寄ってたかって嗤うのでしょう?
でも妖怪は、そんな馬鹿が大好きなのです。
どんどんどんどん!
なにやら戸口の物音がうるさくなってきました。それでも兵太郎は眠ったまま。
うふふ、うふふ。
ほんとによく寝ていますね。ああ、なんて可愛いのでしょう。
うふふ、うふふ、おいしそう。
天井や壁の隙間から、するすると蔦が伸びてきました。
蔦はぐるぐると兵太郎の手足に巻き付き、そっと優しく持ち上げます。
兵太郎。私の兵太郎。
ずっとずっと、貴方を見ていました。
その器用な指先で私を直す貴方のことを、私はずっと見つめておりました。
貴方が一生懸命直してくれて、その度に私は力を取り戻していきました。
やっと私の方から貴方に触れることができるようになったのです。
うふふ、うふふ。
妖怪の口の中で無防備に寝顔を晒すあなた。
うふふ、うふふ。うふふふふ。
ああ、もー我慢できません。据え膳喰わぬは妖の恥。
では謹んで。
いっただきま~
どんどんどんどんどんどんどんどん!
……うるっさいな。
何なんですかさっきから。押し売りだか勧誘だか知りませんが、明日にしてくださいませ。今いいところなんですよ。
ではあらためて、いっただきま
ガンガンガンガン、ガンガンガンガン!!!
え、ちょ、何? なんなの!?
ガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガンガン!
うるさっ、っていうか、痛、いたい、痛いです!
ガンガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガン!
え、何? 何で叩いてるの? 痛っ、痛い、ちょ、やめ、壊れちゃう。せっかく兵太郎が直してくれたのに!
がちゃがちゃがちゃちゃがちゃがちゃがちゃちゃがちゃがちゃがちゃちゃがちゃがちゃがちゃちゃがちゃがちゃがちゃちゃがちゃがちゃがちゃちゃ
ヤダ何? 何してるの!? 鍵? 鍵こじ開けようとしてる?
強盗? ちょっと怖いんですけど!?
広い家のほんの一画にだけ、明かりが灯っておりました。
中はカウンターとテーブル席のある喫茶店。古い建材を生かした内装がどこか懐かしさを感じさせる、いわゆる古民家カフェというものです。
木の温かみを感じるカウンターは、崩れてしまっていた部屋の梁を使った手作り。テーブルや椅子もまた手作りで、木の質感を生かしたシンプルだけれど機能的なデザイン。
床は丹念に磨かれた木材。壁には大きなガラス窓。昼間ならば外の美しい山々の景色を一望できることでしょう。
そんな木の香りが立ち込めるカフェ店内のソファー席で横になって、一人の男がぐっすりと眠っておりました。
この男、名を花咲 兵太郎と申します。
とんとんとん。
戸口からなにやら物音が聞こえますが、兵太郎はぐっすりと眠ったまま。日頃の疲れのせいでしょう。無理もありません。
ここまで来るのにひと月以上もかかったのですから。
兵太郎は生来の働き者で正直者。
ついこの間まで務めていた会社でも人一倍働きました。でも馬鹿が付くほどの正直者の兵太郎の手柄は、みんな人に取られてしまいました。
その上、上司のミスと他人の人間関係のいざこざをいっぺんに押し付けられて、会社を辞めることになったのです。
途方に暮れる兵太郎に、家を買わないかと声をかけたのは兵太郎の古い「友人」でした。
親切そうな顔をして「友人」は言います。
「いつか自分でカフェを経営したいって言ってたろ。親戚から相続したんだけどお前になら安く譲ってやるよ」
仲介の不動産屋もニコニコの笑顔で進めてくれました。
「広い敷地に広い建物。建築年数もう少しで百年。雰囲気もバッチリ。駐車場スペースも確保できますし、カフェを開くには最高の物件ですよ」
兵太郎は友人に感謝をし、貯金のほとんどをはたいた上に借金までして、実物を見ることもなくその家を買いました。
さて、着いてみれば広さと古さは不動産屋が教えてくれた通りです。
ただたくさんある部屋のほとんどが、人が住める状態ではなかっただけで。
幸いなことに建物自体はしっかりしたものでしたので、比較的マシな部分をひと月以上もかけて自分で直し、なんとかここまでこぎつけたのでした。
今日はこの家で夜を明かす、初めての日です。
とんとんとん。
物音はまだ続いていますが、兵太郎は眠ったまま。
その家が地元では有名な「いわくつき」物件だとは露知らず。
人一倍の働き者で、人一倍のお人好し。
手柄を横取りされても騙されても、気づきもしないで笑っている。
人の世界ではそんな兵太郎を、馬鹿な奴と蔑むのでしょう?
次はどうやって騙そうか、毟ろうか、陥れようかと寄ってたかって嗤うのでしょう?
でも妖怪は、そんな馬鹿が大好きなのです。
どんどんどんどん!
なにやら戸口の物音がうるさくなってきました。それでも兵太郎は眠ったまま。
うふふ、うふふ。
ほんとによく寝ていますね。ああ、なんて可愛いのでしょう。
うふふ、うふふ、おいしそう。
天井や壁の隙間から、するすると蔦が伸びてきました。
蔦はぐるぐると兵太郎の手足に巻き付き、そっと優しく持ち上げます。
兵太郎。私の兵太郎。
ずっとずっと、貴方を見ていました。
その器用な指先で私を直す貴方のことを、私はずっと見つめておりました。
貴方が一生懸命直してくれて、その度に私は力を取り戻していきました。
やっと私の方から貴方に触れることができるようになったのです。
うふふ、うふふ。
妖怪の口の中で無防備に寝顔を晒すあなた。
うふふ、うふふ。うふふふふ。
ああ、もー我慢できません。据え膳喰わぬは妖の恥。
では謹んで。
いっただきま~
どんどんどんどんどんどんどんどん!
……うるっさいな。
何なんですかさっきから。押し売りだか勧誘だか知りませんが、明日にしてくださいませ。今いいところなんですよ。
ではあらためて、いっただきま
ガンガンガンガン、ガンガンガンガン!!!
え、ちょ、何? なんなの!?
ガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガンガン!
うるさっ、っていうか、痛、いたい、痛いです!
ガンガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガン!
え、何? 何で叩いてるの? 痛っ、痛い、ちょ、やめ、壊れちゃう。せっかく兵太郎が直してくれたのに!
がちゃがちゃがちゃちゃがちゃがちゃがちゃちゃがちゃがちゃがちゃちゃがちゃがちゃがちゃちゃがちゃがちゃがちゃちゃがちゃがちゃがちゃちゃ
ヤダ何? 何してるの!? 鍵? 鍵こじ開けようとしてる?
強盗? ちょっと怖いんですけど!?
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