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🏡一日目の終わり🌌
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🦦🦦🦦🦦🦦🦦
「大層なもんご馳走になって。ありがとうごぜえます」
「伊達さん、また来て下さいね」
「へえ、ぜひ寄らせていただきます。次はちゃんとお客さんでえ来ますんでえ。そん時は是非お代ば払わせて下せえ」
どうしても伊達に親子丼を食べて欲しかった兵太郎。もうしわけねえと遠慮する伊達を強引に説得して、本日はお代は頂きません。兵太郎がそう決めたのであれば奥様達は何も言いません。もちろん家来もです。
「しかしまさか妖力が戻るとははあ思いませんで。もうやってかれないかと思っとったもんですが、これだら十年でも二十年でもいけそうで」
「まあ頼もしい。ぜひ頑張っていただかないと」
伊達の言葉にタルトが好きな方の奥さんも喜びます。伊達が仕事をやめてしまえばフルーツタルトも作れません。
「でも伊達さん。戸籍上はかなりの御年ですわよね。後継者などは大丈夫ですの? 妖鼬の変身術は優れたものと聞きますが、変身術で何とかなることばかりでもないでしょう?」
「いやあ。化かすはなんも、化けることばっかでもねえもんで」
うへへ、と笑う伊達に藤葛は目を丸くしました。なるほど九化け。いや九化かし。
「御見それいたしました。あの古狸なんかよりよほどの大妖怪ではございませんか」
「えへええへえ。他ははあ、からっきしですが。鶏作るのに必要だってんなら何でもやってのけまさあ」
一応謙遜はして見せるものの。鶏を作る妖怪伊達は、お仕事に自信とプライドを持っているのでありました。
それを見ていたショートケーキが大好きな方の奥さん紅珠。ふと何かを思い出したようにぽんと手を打ちます。
「おおそうじゃった。伊達よ。お前の鶏、大層見事じゃった。ついてはこの紅珠より加護を授けようと思うのじゃ。豊穣神だった頃のようにはいかぬが、それでもかなり力を取り戻しておる。助けになると思うのじゃが、受け取ってくれるかの?」
「ひえっ、なんと願ってもねえことでございやす」
せっかく洗濯した服が汚れてしまうのも気にせず、伊達ははあーっとひれ伏します。雨も上がり大分地面も乾きましたから、先ほどの様にひどくは汚れないのですが。
「そこまで畏まらんでもよいのじゃ。お前がいなければ儂も困るのでの」
紅珠のねぎらいの言葉に、伊達は安心するどころか、もったいねえもったいねえと、もう地面についている頭をさらに下げようとこすりつけます。
苦笑しつつ紅珠がむんと胸を張ると、抱えた鏡からあたたかな紅色の光があふれ出し、伊達を優しく包みました。
「ありがとうございやす。ありがとうございやす」
伊達は地面にこすり付けた頭の上で、紅珠に手を合わせました。
「紅さんの加護にはどんな効果があるの?」
あまりに必死に伊達が頭を下げるものですから、気になった兵太郎が紅珠に聞きました。奥さんの加護がどんなものかくらいは知っておいた方がよいでしょう。
「何、ごく一般的なものじゃ。五穀豊穣、無病息災というやつじゃな」
「へえー。紅さんはすごいねえ」
ひたすらに感心する兵太郎。本当はよくわかっていません。なんかすごそうだなと思っただけです。
五穀豊穣とは言いますが、五穀のみにとどまらず食物全般にわたります。鶏農家の伊達には嬉しい加護。
それに無病息災。この加護の効果は伊達のみにとどまりません。伊達の農場全体を守ってくれます。
つまり、昨今鶏業界を騒がし、スーパーから卵がなくなる原因のあの恐ろしい病から、伊達の農場は守られるということです。
「良かったねえ伊達さん」
「へえ、へえ。ほんにありがてえこってす」
神様の加護なんて曖昧なものです。神様に祈りを捧げても神様が聞いているかどうかはわかりません。もしも願いが叶っても神様のおかげかどうかはわかりません。
でもこの神様は特別です。なんといっても話ができます。それに伊達は紅珠が偉い偉い神様であることをよく知っています。
「もちろん百パーセント完全補償とはいかんのじゃ。管理はきっちりと……。まあ、言うまでもないの」
「へえ勿論でございやす。この伊達、この後も誠心誠意努めさせていただきやす」
伊達は鶏を作る妖怪ですから、農場の衛生管理はもちろん完璧です。
でも鍵はしっかりかけましょうね。農場の中まで黙って入ってきて鶏を眺める変人もいたわけですから。
かくして妖力とプライドを取り戻した伊達。何度もお礼を言いながら、おんぼろワンボックスで去っていきました。
家についた伊達は鶏小屋の周りをウロウロする小さな鼬を見つけるのですが、このお話は別の機会といたしましょう。
***
さて夕の十七時を迎えまして、喫茶こくり家は閉店でございます。
ご来店のお客様は鼬の伊達のただ一人。伊達はこくり家ではなく兵太郎のお客さまでしたので、実質ゼロでございました。
せっかく兵太郎が焼いたケーキもこくり家スタッフのおやつと相成ります。余ったのだから仕方ありません。みんなで平等にわけましょう。
多少は自分の置かれている状況が理解できるようになった兵太郎。初日お客様ゼロは少々不安です。でも奥様達は笑いながら言うのです。
「何を言っておるんじゃお前様。初日からお客さんが来るわけないじゃろう」
「心配しなくてもよいのですよ兵太郎。すべて順調に進んでいます」
はてさてお客様ゼロ人で、何が順調なものなのでしょう。兵太郎にはとんとわかりませんが、奥様達が大丈夫というのなら、きっと大丈夫なのでしょう。
「大層なもんご馳走になって。ありがとうごぜえます」
「伊達さん、また来て下さいね」
「へえ、ぜひ寄らせていただきます。次はちゃんとお客さんでえ来ますんでえ。そん時は是非お代ば払わせて下せえ」
どうしても伊達に親子丼を食べて欲しかった兵太郎。もうしわけねえと遠慮する伊達を強引に説得して、本日はお代は頂きません。兵太郎がそう決めたのであれば奥様達は何も言いません。もちろん家来もです。
「しかしまさか妖力が戻るとははあ思いませんで。もうやってかれないかと思っとったもんですが、これだら十年でも二十年でもいけそうで」
「まあ頼もしい。ぜひ頑張っていただかないと」
伊達の言葉にタルトが好きな方の奥さんも喜びます。伊達が仕事をやめてしまえばフルーツタルトも作れません。
「でも伊達さん。戸籍上はかなりの御年ですわよね。後継者などは大丈夫ですの? 妖鼬の変身術は優れたものと聞きますが、変身術で何とかなることばかりでもないでしょう?」
「いやあ。化かすはなんも、化けることばっかでもねえもんで」
うへへ、と笑う伊達に藤葛は目を丸くしました。なるほど九化け。いや九化かし。
「御見それいたしました。あの古狸なんかよりよほどの大妖怪ではございませんか」
「えへええへえ。他ははあ、からっきしですが。鶏作るのに必要だってんなら何でもやってのけまさあ」
一応謙遜はして見せるものの。鶏を作る妖怪伊達は、お仕事に自信とプライドを持っているのでありました。
それを見ていたショートケーキが大好きな方の奥さん紅珠。ふと何かを思い出したようにぽんと手を打ちます。
「おおそうじゃった。伊達よ。お前の鶏、大層見事じゃった。ついてはこの紅珠より加護を授けようと思うのじゃ。豊穣神だった頃のようにはいかぬが、それでもかなり力を取り戻しておる。助けになると思うのじゃが、受け取ってくれるかの?」
「ひえっ、なんと願ってもねえことでございやす」
せっかく洗濯した服が汚れてしまうのも気にせず、伊達ははあーっとひれ伏します。雨も上がり大分地面も乾きましたから、先ほどの様にひどくは汚れないのですが。
「そこまで畏まらんでもよいのじゃ。お前がいなければ儂も困るのでの」
紅珠のねぎらいの言葉に、伊達は安心するどころか、もったいねえもったいねえと、もう地面についている頭をさらに下げようとこすりつけます。
苦笑しつつ紅珠がむんと胸を張ると、抱えた鏡からあたたかな紅色の光があふれ出し、伊達を優しく包みました。
「ありがとうございやす。ありがとうございやす」
伊達は地面にこすり付けた頭の上で、紅珠に手を合わせました。
「紅さんの加護にはどんな効果があるの?」
あまりに必死に伊達が頭を下げるものですから、気になった兵太郎が紅珠に聞きました。奥さんの加護がどんなものかくらいは知っておいた方がよいでしょう。
「何、ごく一般的なものじゃ。五穀豊穣、無病息災というやつじゃな」
「へえー。紅さんはすごいねえ」
ひたすらに感心する兵太郎。本当はよくわかっていません。なんかすごそうだなと思っただけです。
五穀豊穣とは言いますが、五穀のみにとどまらず食物全般にわたります。鶏農家の伊達には嬉しい加護。
それに無病息災。この加護の効果は伊達のみにとどまりません。伊達の農場全体を守ってくれます。
つまり、昨今鶏業界を騒がし、スーパーから卵がなくなる原因のあの恐ろしい病から、伊達の農場は守られるということです。
「良かったねえ伊達さん」
「へえ、へえ。ほんにありがてえこってす」
神様の加護なんて曖昧なものです。神様に祈りを捧げても神様が聞いているかどうかはわかりません。もしも願いが叶っても神様のおかげかどうかはわかりません。
でもこの神様は特別です。なんといっても話ができます。それに伊達は紅珠が偉い偉い神様であることをよく知っています。
「もちろん百パーセント完全補償とはいかんのじゃ。管理はきっちりと……。まあ、言うまでもないの」
「へえ勿論でございやす。この伊達、この後も誠心誠意努めさせていただきやす」
伊達は鶏を作る妖怪ですから、農場の衛生管理はもちろん完璧です。
でも鍵はしっかりかけましょうね。農場の中まで黙って入ってきて鶏を眺める変人もいたわけですから。
かくして妖力とプライドを取り戻した伊達。何度もお礼を言いながら、おんぼろワンボックスで去っていきました。
家についた伊達は鶏小屋の周りをウロウロする小さな鼬を見つけるのですが、このお話は別の機会といたしましょう。
***
さて夕の十七時を迎えまして、喫茶こくり家は閉店でございます。
ご来店のお客様は鼬の伊達のただ一人。伊達はこくり家ではなく兵太郎のお客さまでしたので、実質ゼロでございました。
せっかく兵太郎が焼いたケーキもこくり家スタッフのおやつと相成ります。余ったのだから仕方ありません。みんなで平等にわけましょう。
多少は自分の置かれている状況が理解できるようになった兵太郎。初日お客様ゼロは少々不安です。でも奥様達は笑いながら言うのです。
「何を言っておるんじゃお前様。初日からお客さんが来るわけないじゃろう」
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