My destiny

泉 沙羅

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第10話

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「全く、こんなに"F"関連で逮捕される人多かったのになんでもっと早く廃止しなかったのかねぇ……。ベータだけじゃなくて、アルファも沢山逮捕されてるじゃん……」
サラは資料館でコンピュータに向かいながら言った。
「……お偉いさんたちが、『サンドバッグ』がないと色々困ったんじゃないの。江戸時代の『えた、ひにん』的な? 国民の『見下し要員』や『捌け口』を作らないと自分たちに批判の矛先が向くでしょ? だから多少の犠牲を払ってでも"F"の制度を維持したかったのよ」
明日果は淡々と持論を述べた。
サラはそんな明日果に感心して、10秒くらい沈黙してしまった。
「……明日果ちゃん、本当に8歳? 」
「8歳よ」
明日果はコンピュータに向かったまま、あっさりと答えた。
明日果は8歳にして、既に高校1年生。しかし、もう大学生になってもいいのではないかと思うくらいの知能の高さだった。
だが、彼女は理路整然としていると思えば、突然幼稚園児のようなことを言いだしたりする。とてもアンバランスなのだ。そしてそれも孤立してしまう要因の1つである。だが、サラにとってはそのギャップも魅力の1つだった。
「明日果ちゃん、将来は何になりたいの? 明日果ちゃんを見てるとどんな大人になるのか、本当に想像つかなくて」
「……宇宙飛行士よ」
明日果はサラの方を見て微笑む。なんとも大人びた微笑みだった。サラはまたドキリとしてしまう。
「へー、宇宙飛行士ってエリートの中のエリートしかなれないけど、明日果ちゃんなら絶対なれるよ。でもなんでまた? 」
「……ママがね、よくお祈りしてたのよ。私はこれでも科学的な人間だから、神様なんて信じてなかった。だからママがなんでお祈りなんてするのかわからなかったのよ。だから聞いてみたの『いっつもお祈りしてるけど、神様信じてるの? 』って」
「………」
サラは明日果の話の意図が読めず、怪訝な表情を浮かべていた。
「そしたらね、また『明日果はパパと同じこと聞くんだね』って言われちゃった。でね、ママは世間で言われてるような意味で神様を信じてるわけではないんだって。私たちがこうして日常生活を送っている世界の奥底に何か大きな存在を感じ取りたいからなんだって。『私たちはみんな、この広い宇宙に漂う塵の一つなんだ』って」
「……明日果ちゃん……」
「ママは海を見てそれを感じたらしいけど、私はもっと大きいものを見て感じたいの。だから、いつか宇宙に出て、ママの言ったことを思い出したいわ」
サラは明日果の知性と感性の豊かさに感銘を受けた。
「……明日果ちゃん……」
サラは明日果の手をとろうと手を伸ばした。

そのとき

「サラちゃんっ!?」
サラがガクッと床に倒れてしまった。明日果は焦ってサラの肩に手を添え、顔をのぞき込む。
サラの顔は紅潮し、息も荒くなっている。
そして彼女の香りであるラズベリーの匂いが先程までより何百倍も濃くなって漂う。
(……発情期だわ)
明日果は知識としてはあったが、対処を迫られたのは初めてで、パニックになりそうだった。
そして………
(……どうしよう、なんか変な気分になってきた……)
精通前の子供であっても、アルファの本能はあるらしい。今までも宏美やケイの発情期フェロモンに当てられて少し変な気分になることがあった。だが、彼らは発情期の間、明日果に気をつかってか、あまり部屋から出てこない。だから今まで発情期のオメガを目の当たりにすることはなかった。
「……明日果ちゃん……なんか私……体が熱いの……気分も変なの……」
サラが苦しげに訴える。様子からしておそらく、初めての発情期なのだろう。オメガの発情期はだいたい思春期を迎えるくらいの年齢から始まる。だから13歳のサラはドンピシャだ。
(………どうしよう、私も変な気分なんだけど……でもサラちゃんをこんなところで放っておけないわ)
「サラちゃん、私に掴まって。医務室まで連れていくから」
明日果はサラの腕を自分の肩に回し、彼女を支えながら医務室へ連れていくことにした。
「ごめんね……明日果ちゃん……」
「いいのよ、散々手伝ってもらったんだからこれくらいしなくちゃ」
明日果は身長130cmと8歳にしては大柄だ。しかし、自分より30cm近くも背が高いサラを運ぶのは容易ではない。いくら怪力と言えども。しかもアルファの本能と闘わなくてはならないのだから地獄である。

「何あれ、高等部の子達よ。例の飛び級してるバレエ部の子達!! 明日果ちゃんとサラちゃん!! 」
「どうしたのかしら……」
「発情期なんじゃない?  大丈夫かしら……明日果ちゃん、自分よりずっと体の大きい子運んで……助けなくていいのかな? 」
「……だって……発情期フェロモン怖いじゃん……」
「え? あんたアルファ用の抑制剤飲んでるでしょ? 」
「飲んでても怖いものは怖いの!! あんたこそ、ベータだからいけるでしょ!! 」
「だ、だって、オメガの発情期の匂いきっついんだもん……胸焼けしそうになるし……あの子怪力だから何とかなるでしょ。8歳なら精通前だろうしさ」


世の中は冷たいものである。2人を見かけた大学生はチラホラいたが、誰一人として手を差し伸べてくれない。

「……サラちゃんっ……大丈夫だよ……もうすぐ……着くから……」
「明日果ちゃん……」
最大の難関、階段がやってきた。
昇りなら何とかなるが、降りなくてはならない。
明日果が覚悟を決めて、1段降りようとした、しかし……

「きゃぁぁぁああ!! 」

発情期フェロモンに当てられ、頭が少しぼーっとしていたせいもあるだろうか。明日果はサラの体重に足をとられ、一緒に落ちそうになった。


「大丈夫!? 2人とも」


だが、最悪の事態は免れた。誰かが2人を受け止めてくれたから。


「暁先生!! 」

首輪を付けている状態の千歳はベータ女性に毛が生えた程度の力しかない。だから、成長期の女の子を2人も受け止めるのはさすがにキツかったようだ。彼女はしんどそうに顔を歪めていた。
千歳は明日果に代わってサラの体を支え、医務室まで連れていってくれた。首輪さえとれれば、細身のサラなどお姫様抱っこで運べるのだろうが、今の状態では無理らしい。
「小俣先生、この子、初めての発情期みたいです。よろしくお願いします」
千歳は医務室の保健師にそう言うと、サラをベッドに寝かせてくれた。
「ありがとうございます、暁先生」
明日果とサラは千歳にお礼を言った。
「いいのよ、お大事にね」
千歳はそう言って去っていった。
(……サラちゃんの匂い嗅いでも何ともないってことはやっぱりオメガなのかな、あの人)
明日果はそう思ったが、本当はアルファ用の抑制剤を飲んでいるからだった。首輪をしていても発情はしてしまう。


「明日果ちゃん……どうしよう、私……今……すごく明日果ちゃんが欲しい……明日果ちゃんに抱いてほしい……」
「えっ!? 」
サラの衝撃発言に明日果は身を引き攣らせる。
先程保健師から抑制剤を貰って飲んだばかりだが、効果が出るには時間がかかる。
明日果は8歳とはいえ、高校生なのでサラの言っている意味はわかった。
「………そんな………無理だよ………だって私、『まだ』だもん……」
そう、明日果は精通前でペニスも生えてない。サラを抱くことなどできない。
「じゃあ、せめて、もっとこっちにきて……」
サラが熱っぽい声で言う。いつも凛とした低めの声でハキハキ喋るサラが。
明日果はどうしたらいいかわからない。が、とりあえずサラに言われた通りに傍による。
サラが明日果の首に腕を回して抱き寄せる。
「はあ……明日果ちゃんの匂い……、前からすごく好きだったんだ……」
首筋にサラの熱い息がかかる。
よく見れば、布団の中で何かゴソゴソやっている。卑猥な水音が聞こえてきた。
さすがに自分にはその経験はないが、明日果にはサラが何をやってるかは理解できた。知識としてはあったから。たまらず目を固く閉じ、全ての感覚を麻痺させようとする。
(オメガの発情期ってこんなになってしまうの……? サラちゃん、いつもそこらのアルファの男の子よりかっこいいのに……)
いつもしっかり者で凛々しいサラの無防備な様子、そしていつもより何倍も濃いラズベリーの匂い。……明日果も今までにない気分を味わうことになった。
高校生とはいえ、知能が高いとはいえ、8歳だ。
この状況はある意味恐怖だった。
目の前で自慰をされてるからではない。こんなサラを見ておかしな気分になっている自分が怖いのだ。いくら知能が高くても、経験したことのないものはわからないし、怖い。
(……どうしよう。サラちゃんに酷いことしたくなる……首に噛みつきたくなる……)
「いいよ……噛んで……」
サラは明日果の顔を見て察したのか、あっさりとそう言った。というより、むしろ求めているようだった。
「サラちゃん……」
明日果は言われるがまま、サラの細く白い首に歯を立てる。性交時ではないので番にはならない。けど、気に入ったオメガの首筋に噛みつきたくなるのはアルファの本能だ。
「明日果ちゃんの目、光ってる……すごく綺麗……」
「…………」
アルファは興奮すると目が金色に光る。
サラが明日果の頬に手を当ててきた。
「……キスしていい? 」
そして13歳とは思えないほど妖艶な表情を浮かべて誘ってくる。
なんだかんだ言って、サラのことは好きだった明日果。ためらいながらも、頷いた。
サラが熱い唇を押し当ててくる。さすがにサラもまだ子どもなので、それ以上のことはしてこなかった。だが、まだ8歳の明日果にとってはとんでもない刺激だった。
(……どうしよう……サラちゃんとキスしちゃったよ……)
明日果は子どもの作り方も知っている。しかし、感覚はまだ8歳。保健体育の授業でセックスや自慰について学んだときは「げー!! なんて気持ち悪い!! こんなこと一生するもんか!! 」と思った。
だが、今は「サラちゃんとなら……」という気持ちになっている。
(いやいや、まだそんなこと考えちゃいけないよ、だって私たちまだ子どもだし……)
サラが押し当てた唇に力を込めたのを感じた。……そして彼女の体が少し震えたのも……。


「ごめんね……怖かったでしょ……。明日果ちゃん、まだ8歳なのに……。あんなこと言われても困ったよね……」
しばらく経って少し落ち着いたサラが申し訳なさそうに言った。抑制剤も効いてきたらしい。正気になると自分のしたことが恥ずかしくなったのか、明日果から目をそらしている。
「……ううん……別にサラちゃんなら私……」
ベッドの端にちょこんと腰掛けていた明日果がそう言いかける。
「えっ……」
明日果の言葉に目を丸くするサラ。明日果もサラに意味深な眼差しを向けた。
「……とにかく、私は調べもの続けるから、サラちゃんは休んでて」
明日果はそう言ってベッドから降り、医務室から出ていった。




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