宿命のマリア

泉 沙羅

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第2章 壊れたもの同士

第12話

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「おはよう、宏美」
「………」

可憐が挨拶をしても背を向けたまま、台所の作業を続ける宏美。
可憐はため息をつき、テーブルに置かれた朝食を眺めた。
あれから、宏美は一言も可憐と口を利いてくれなくなった。それでも家の事はしっかりやってくれ、こうして食事も用意してくれるのだが。
可憐はテーブルの席につき、いつものように祈った。声に出すと宏美が怒りだしそうで怖かったので、心の中で祈りの言葉を唱える。そして食事に手を付け始めた。
……しかし、こんな凍りついた空気では、何を口に入れても砂を噛んでるかのよう。
ずっとこのままなんて、耐えられない。

「……あの、宏美? こないだは私が悪かったわ。あなたの気持ちも考えないで、無神経なことばかり言ってしまったわね。これからはもっと言葉に気をつけるから、せめて普通に口は利きたいの」

すると宏美は作業をやめ、無言で可憐ににじり寄ってきた。彼の目は据わっている。
「……宏美………」
氷を見るような彼の表情に、怯える可憐。三白眼の宏美がそんな顔をすると、まるで蛇のような妖気を感じる。

「…………そういうところが…………ムカつくって言ってんだよ!!!」

宏美はそう叫ぶと、テーブルに置かれていたオレンジジュースを可憐にぶっかけた。
「きゃあっ!! 」
そして、可憐の胸ぐらを掴んでこう怒鳴りつけた。
「僕にぶち込むこともできやしないくせに、大人ぶって主人面するんじゃないよ!! このヘタレアルファが!! そんなんだからクソアルファどもに馬鹿にされる上に、生えてこねーんだよ!! 二度と僕にそんな口を利くんじゃない!! 」
「…………」
宏美の剣幕に動揺する可憐。
「まじイライラ製造機だよ、あんたは」
宏美は可憐を鷲掴みにしたまま、椅子に座っている彼女の上に跨った。体重の軽い宏美であるから、上に乗られてもさほど苦しくはない。
「ひぅっ……っ!! 」
可憐の首をおさえ、その小さく、雅な口に指を突っ込む宏美。そして彼女の滑らかな舌をぐいっと引っ張り出す。
「そして本当に憎らしいほどよく回る舌だな!! この舌も!!」
宏美は憎しみいっぱいの声でそう言いつつ、鬼のような顔で可憐を睨みつける。
彼は今、息がかかるほど可憐に顔を近づけている。そのためアプリコットのような甘い匂いとフェロモンが可憐にもろに伝わってしまっていた。
(どうしよう……こんな状況なのに、お腹の下の辺りが熱い……なんだか宏美に酷いことをしてしまいそう……)
宏美も可憐の瞳がチカチカと金色に光り、彼女の香りも濃くなっていることに気がついた。アルファが興奮したときの反応だ。
「何だよ。こんなことされてんのに、発情してんのかよ!! 情けないアルファだな!! ムラムラきてんなら犯せよ!! アルファなら、オメガの僕を犯してみな!! 」
宏美が嘲りながら挑発する。
(宏美やめて……私、どうにかなりそうなのよ…………)
可憐はここまでオメガに密着したことがない。オメガのフェロモンに当てられたのも初めてなのだ。
可憐は初めての感覚に恐怖を覚えた。目の前の暴走機関車より、自分の中のアルファの本能が恐ろしいのだ。可憐の栗色の大きな瞳からポロポロと涙が溢れてくる。
「はぁ……っ」
宏美に舌を掴まれ、ずっと口を開けた状態であったせいか、可憐の口から涎がダラダラと垂れてきた。
その様子を見て、宏美が嘲笑う。
「ははっ! 財閥令嬢もこんなじゃ目も当てられないな!!まるで卑しい雌犬じゃないか! 」
宏美は可憐の舌を掴んだまま、彼女の口元に唇をつけ、その涎をじゅるじゅると啜った。可憐の羞恥心を煽るため、わざと音を立てる。
「ふぃっ………」
発情と羞恥心から可憐の顔が真っ赤に紅潮する。
宏美が可憐から唇を離した。宏美の紅い唇に、可憐の涎が雫になって垂れている。宏美がそれをペロリと紅い舌で絡めとった。まるで可憐に見せつけるように。
「………っ!!」
可憐は「見ていられない」と言わんばかりに目を固く閉じる。その様子を見た宏美が「このネンネが」とでも言うように鼻で笑った。
「おい、雌犬、餌だぞ」
宏美は可憐の舌から手を離すと、テーブルの上にあるフランスパンを一切れ、手に取った。そしてぐっと可憐の口にねじ込む。可憐が苦しがっても、口からこぼれても構わず、次々ともう一切れ、もう二切れとねじ込んでいく。
「んぐっ………!! 」
可憐の口からはみ出るほどのパンをねじ込むと、今度はシチューを手で掬っては彼女の顔にベチャベチャと塗りつけた。まるでぶつけるかのように。
「………っ!!」
可憐の美しい顔が汚れ、苦痛に歪む。
「いい眺めだな。偽善者財閥令嬢が。ざまあみろ」
宏美が冷たく笑う。そして可憐の長い髪をぐしゃぐしゃにするように、両手で彼女の頭を掴んだ。パンを押し込まれ、シチューでドロドロになったその口に、宏美が舌をねじ入れて無遠慮にほじくりまくる。
「はあっ………!!」
可憐の口から押し込まれたパンがこぼれ出す。宏美の紅く、熱く、長い舌が、可憐の顔を這い回る。まるでシチューで汚れた顔を清めるかのように。宏美の息も荒かった。
「………どうした? 僕を犯さないのか? なら、僕があんたを犯すよ? こないだも上の口に色々いれてやったのに、あんた懲りてないよね。さすが頭がイカレてるだけあるよ。今度は下の口に色々詰め込んでやろうか? オメガにそんなことされちゃ、アルファとしておしまいだけどね」
宏美の声が冷たく、残酷に響く。
「いやっ…やめて……」
可憐がおびえて首を横に振る。だが、その瞳はまだ金色に光っている。
すると宏美は可憐の左乳房をガッと鷲掴みにした。
「いたっ……!」
宏美は痛みに呻く可憐の顎を掴んでぐいと自分の方を向かせる。そして低い声でこう言った。
「……嫌なら、抵抗しろって言ってんだよ……」
「…………ふぅっ!!」
今度は透明なグラスのようなものに入っていた野菜スティックを可憐の口の中に突っ込む。
「あんた全然抵抗しないけど、まさか僕にこういうことされんのが好きなんじゃないだろうね? 」
そう言って可憐の首を絞める宏美。
「んんっ……!! 」
野菜スティックを口いっぱいに詰め込まれ、首を絞められ、死ぬほど苦しいはずの可憐。だが、彼女は苦痛でも恐怖でもない、なにかぞくぞくするような感覚を覚えていた。宏美のフェロモンに当てられているからか? だが、それだけではない気がする。
「……オメガ男に女装させて、こんなことされて喜ぶアルファ女なんて、もう変態通り越してキチガイとしか言い様がないよな? こりゃあ医者も見捨てるってもんだ。さすがの僕もここまで頭がイカれた奴は初めてだ」
宏美は可憐の首を絞めている手に力を込める。
「……んんんっ!! 」
可憐は、ますます苦痛に顔を歪める。だが、宏美の絞め方が上手いからだろうか。苦しいだけではなくて、頭がふわふわして少し心地よくもあった。
「下の口にも色々突っ込んでやろうかと思ったけど、やめとくよ。アルファ女のまんこなんて触る気になれないしな」
宏美はそう言うと可憐から手を離し、彼女の上から降りた。
「……けほっけほっ」
口に入っていた野菜スティックを取り出し、咳き込む可憐。
そのとき、突然宏美に着ていた部屋着を引き剥がされた。
「きゃあっ!! 」
今度は何をされるのかと怯えた可憐だったが、宏美はもう、そんな雰囲気ではなかった。
「汚れたから洗濯しなくちゃいけないだろ、それも脱げよ」
確かに、宏美にかけられたシチューやオレンジジュースの汚れが部屋着の下に着ていたシュミーズまで浸透していた。
だが、ここで脱げと言われても困る。
可憐がまごついていると、宏美は突き刺すようにこう言った。
「あんたの裸なんて見たって何とも思わねーよ。そもそも奴隷は犬や猫と一緒なんだろ。犬猫の前で恥ずかしがる奴がどこにいるんだよ。手間をとらすな、さっさと脱げよ」
可憐はためらいながらもシュミーズを脱いで、ブラとショーツ姿になった。
「シャワー浴びてこいよ。今日は午後から模試なんだろ」
宏美は自分が散々なことをした後始末をしながら言った。
「…………」
可憐は何も言わず、体を隠しながら浴室に向かった。



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