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松編 ③

31 ソルト城 ④

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 部屋に入った俺は驚いた。

 広いのはわかる
 豪華なのもわかる
 ソルトと部屋が一緒なのもわかる

「おい!」

「はぃ…」

「何だよ、この部屋!ベッドがど真ん中にあるぞ!しかも何か花が所々に散りばめられてるし、このよくわかんない置物に香水みたいな匂いなんなんだよ」

 部屋の一段高い場所にベッドが誇張されて置かれている。シーツがピンクにベッドがいろんな色の光で照らされてるのもなんなんだ。今時ラブホでも無いぞこんな部屋。天井に鏡は流石に無いよな。

「なぁ、何か文字かいてある。ベッドの所」

「はぃ、読みます。えっと…今宵、二人だけの甘い時間をゆっくりとお過ごしください」

「………。なんだよそれ。お前のうちはラブホでも経営してんのかよ。あ~だから城。ってなわけないよな。地方じゃあるまいし、このセンス」

「話されてる意味は良くわかりませんがここが実家です。この部屋は私の部屋ではないですが似たような部屋はいくつかあります。簡単にいえば行為部屋ですかね」

「ハッキリ言うな。てか、どうみてもそうだろ。こんな部屋しかないのかよ」

「こういった部屋は多数存在します。ここのテーマは初夜でしょうか?」

「どーみても、ピンクのやり部屋だ。何が初夜だ、こんな場所」

「では、とら様はどこが理想ですか?」

「無い!」

「もっと広い部屋ですか?」

「ここじゃないのだけは確かだ」

 何で実家で親の許可ありでやり部屋があるんだよ。やるの公認ってなんなんだよ。

「絶っっ対!!!何もしないからな」

「はぃ、それは勿論です。多分、盗聴や盗視もされてますから」

 さらっと怖い事言うな!

「あ、ありました。全部壊しますね」

 バキバキと何かを潰す音が聞こえた。
 何て家なんだ。

「これで全部ですね」

 ほっとため息をついて俺はクローゼットに服を入れようとした。

「うわあっ!!」

「とら様!!」

 クローゼットを開けるとさっき案内してくれてたソイが中で拍手をしていた。

 マジで、マジで心臓止まるかと思った
 これ、トラウマになる

 すぐにソルトが俺を抱きかかえ剣を抜く。

「ヒマイラ様、お見事です」

「ソイ。斬られたいのですか?とら様にこんな思いをさせるなんて。出ていって下さい」

「失礼しました。お二人の様子を伺うよう言われましたので待たせていただきました」

「盗み見とは卑劣です」

「いえ、そんなつもりは。ただ、お二人がどんな会話をするのか気になってしまいまして。育ての親心というのでしょうか」

「ソイにはお世話になりましたがとら様が怖がるような事をすれば許さないです」

「なんと!?あのヒマイラ様が私に意見を仰るとは。あちらで何かあったのでしょうか?」

「関係ないです。私は自分のしていた事に目が覚めただけです」

「なるほど。それはその大事に抱えるとら様のおかげですか?」

「とら様と呼んで良いのは私だけです。二度と呼ばないで下さい」

「これは失礼いたしました。私なら許して貰えると思ったんですがダメですか」

 さっきから全然クローゼットから出てこないじゃん!

「どうでもいいから、そこから早く出ていってください!」

「はい、速やかに」

 バタンと扉が閉まる。

 やっと誰もいなくなった
 はぁ~恐怖体験でしかない

 俺はソルトの胸ぐらを掴んで怒りを露にした。
 ソルトは目を反らしていた。

「おい!おまえんちマジでなんなんだよ!」

「す、すみません。うちはちょっと行き過ぎる所がありまして…」

「ちょっとの騒ぎじゃない!あんなの部屋に居たら怖くて寝れないだろ!」

「すみません、ソイは昔から私の部屋に隠れては私の行動を監視してまして。親よりも長く関わっていましたから気になるんだと思います」

 ぶっちゃけ風呂も誰か潜んでないか怖い。有りとあらゆる場所をソルトに開けさせ人がいないことが確認できてから俺は一息ついた。

□□□□□

「どうだったソイ!」

「はい、盗聴、透視は全て壊されました。しかし、私がクローゼットに隠れている間に少し会話を」

「何を話していた!」

「あの部屋は松君様は気に入らないご様子でした。ピンクがお気に召さなかったようです」

「確かに…王妃様のご友人なら紺色系統にすべきだったか。私としたことが初歩的なミスをした」

「それと私を見つけ驚かれた松君様をいち早くヒマイラ様が抱き抱え庇われました。格段に腕が上がっていますから側近というのも間違いないです。それと…」

「なんだ」

「初夜の部屋がどんな所が良いか話されていました。そんな会話はありましたので仲はよろしいかと。あと、とら様と私が呼ぶと気に入らない様子のヒマイラ様でした」

「そうか!ならばこのまま進めるぞ!」

「はい」

□□□□□


「とら様、私を触ろうとした輩から守っていただきありがとうございました」

「許可無く触ろうとした奴が気に入らないだけ」

「はぃ、ですがあまりしないでださい。あの姿は私だけのものです。いくら調教師という設定とはいえあのように私以外にされると相手を嫉妬してしまいどうにかしそうです」

「設定とか言うな。調教師の説明もっと他になかったのかよ」

「はぃ、ですがあれでとら様の職業が特別かつ能力が使えないと説明できました」

「はぁ~まぁ、なんでもいいや。風呂はいる」

 疲れた俺はこれ以上考えるのはごめんだと思ってソルトにお風呂を見張らせ入った。風呂から出るとあの眩しいベッドが目立つ。あんな場所で寝られるかよ。俺は窓際のはしっこの壁に凭れながら寝る事にした。ソルトも察したようで布団を持って俺の隣に来た。ここでソルトと離れるのは命取りだから素直に受け入れる。

「とら様、それだと体が冷えますから私の布団へ入ってください。何もしませんから」

「わかった。おい、絶対ナグマ城着くまで離れるなよ」

「はぃ、離れません」

「とりあえず魔物送りにされなくて良かったな。歓迎されてるっぽいじゃん」

「はぃ、とら様のおかげです」

「何もしてないだろ」

「とら様が居てくれるだけでいろんな状況が変わりましたから」

「あっそ」

 俺はとりあえずソルトが今後も負い目を感じず暮らせることがわかればいいやと思った。暖かい布団に埋もれた俺はいつ寝たかもわからなかった。

 翌朝目が覚めるとソルトの腕の中で目が覚めた。

 コンコンコン

「朝食の準備が整いました」

 俺達は着替えて部屋を出ると昨日とうってかわって穏やかなソイさんが朝食を準備してくれていた。食事を終えるとソイさんの提案で城の周りを散歩することになった。
 城の周りは綺麗な庭があるがこれも室内。外は吹雪いていた。にしても庭も広いな。

「松君様、あちらへどうぞ」

 案内された場所へ行くと綺麗に手入れされた庭に墓石のようなものが。横には大きなベルがたてかけてあった。ソイさんがベルと繋がっている紐を掴んで引っ張る。

カーンカーンカーン

 もしかしてソルトのお母さんか?
 一度も見てないからそう言うことか

 俺は自然と手を合わせた。

「ここは恋人の語らいの場。別名『憩いの恋人』です。ここを訪れたものはお互いの好きな所を言いあい親睦を深めるのです。うちの散歩スポットです」

 おいコラ、ふざけんな
 俺の祈り返せ!別名つけんな!

「とら様、大丈夫ですか?ご機嫌が」

「悪い!すこぶる悪い!!」 

「すみません、うちの家は妃候補を出すためにあらゆる事をしていますのでこういった場所も多数ありまして。他よりもお付き合いに関することが敏感なんです」

「あっそ」

 ラブホの次は恋人岬だ?
 次は何が来るんだよ。もう、騙されない。

 その場にとどまらせようとするソイさんをスルーして城に戻った。次に待ち構えていたのは父親だった。絶対何かある。てか何を企んでやがる。

「松君様、ささどうぞこちらに。散歩はいかがでしたか?」

「特には」

「ソイ!ちゃんと案内したのか!語らわせたのか!!」

「も、申し訳ございません。すぐに通りすぎてしまわれて」

「全く何をやってるんだ!」

 語らわせるって何だよ

「父上、私達に何かさせようとしてるんですか?」

「あ、いや。そうじゃない。素敵な庭で二人の語らいが見たかっただけだ。それよりも喉が渇いただろう、こちらにお茶を用意してある。ささ、お菓子でも食べて休憩しよう」

 疑いをかけながらソルトの父親の後ろをついて行く。いくつか階段を登り中々遠いなと思ったら見晴らしのいい部屋についた。

「へー綺麗だな」

「お気にめされましたか!!」

「あーまぁ」

「ソルトお前はこちらに座りなさい。松君様のすぐ隣だ」

「…父上、私たち隣同士で座るのですか?」

 何故かソルトと向きあいではなく誕生日席みたいな配置に二人並んで座った。俺達が主催者みたいになってるが…グラスに入った飲み物には何かボールが入っていた。綺麗だけど、お茶にグラス?

 河口君とお茶するときはティーカップかコップもあるけどこんなワイングラスみたいなのは使わない。

 すると数名の人が入ってきた。一緒にお茶をするらしいがどことなくかしこまっている。皆は俺達と違う飲み物っぽい。

 怪しい。

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