夜の冒険者は牙をむく

かぷか

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76  レイの家再び ④


 この子は研究室に来ても顔色は全く変わらないな。冒険者としても一流の部類だろうな。さっき招き入れる時に肩を触ったが、きゃしゃな割にしっかり鍛え上げられていた。

それに、あの知識…魔獣の一部を見てすぐにレアを見定めていたのは偶然ではなさそうだ。まるで自分の答えと私の説明が合っていたかのような頷き。

まさか…魔の森の第3にいる魔獣を…

ルーベンはレイの好きな人というより、ソードに興味が湧き始めていた。

「そうか…残念だな…いつでも君なら歓迎するから」

「ありがとうございます」

肩に置いていた手を背中に変え、別の場所へ誘導する。

「君は魔の森へは行った事は?」
「あります」
「どのエリアまで?」
「前にレイさんと第3深層前半に。ただ、失敗して倒れましたが(レイが…)」
「そうか、魔の森は危険だからな。今のサンプル以外で討伐した魔獣はいたかな?」

 ふふ、第3深層まで行ける実力か…
なのにあまり有名ではないのは何故だ…
そのぐらいの冒険者ならウェザーでも専門依頼を受けれるから私の耳にも一度ぐらいはいりそうだが…この子がわからんな。

「そうですね」
「是非教えて貰いたい!」
「はい、構いませんよ。お時間は宜しいのですか?」
「構わないよ、お茶を用意させ…いや、私が直ぐに入れる。良かったらそこに掛けて」
「はい」

お菓子とお茶を直ぐ用意した。どうぞと勧められ飲む。自分の知らない魔獣を知っているソードから、情報が聞きたくて話を勧めた。途中自分が予想以上に興奮しているのに気付いて慌てて冷静になる。

「すまない、お菓子もどうぞ」
「ありがとうございます」

「にしても、君と話していると飽きない」
「私も知識のある方と話せるのは有意義です」

ソードはお菓子を食べれる嬉しさに、一つ取るが上手く開けられない。なかなか開けれないのを見てルーベンが私がといい上手く開けてくれた。

「ありがとうございます」

ニコリと笑って答えた。今までずっと無表情だったソードが不意に見せた笑顔の表情。ルーベンは思わず笑顔で返した。

ん?何だ、今の私の反応は…。

会話が思った以上に弾み久しぶりに楽しい時間を過ごし、そういえばこんな感覚懐かしいなと柄にもなく思っていた。

ソードがもう一つお菓子を取ろうとしたら、すぐに袋を開けて渡した。ありがとうございますとまた言われ嬉しくなった。

…いや、ん?
なんだ、心臓が速まる…

「ソード君は第3地下に興味は?」

「何があるんですか?」

自分の気持ちをかき消すかのように言った。

「生きている魔獣の研究だ」
「そうですか」

「よかったら見せよう」
「わかりました」

 背中に手を当てられ地下3階まで降りた。周りの研究者達はルーベンがレイ以外のしかも冒険者とわかるような人物を連れて入って来た事に驚いた。何故なら、安易に関係者以外は入れては行けない場所であり神聖な場所でもあったからだ。しかも、祈りもなく入って来たので皆どよめいた。

「あれが今の魔獣だ」
「そうですか」

 やはりこれを見ても驚かないか…ふっ。

 鎖に繋がれ檻に入り、魔獣の頭上以外の周りは強化ガラスで塞がれていた。ソードはあの魔獣に見覚えがあった。前にレイが毒でやられそうになった時の魔獣だ。1体が眠らされもう1体は起きていた。

よく、捕獲できたなとソードは関心したが眠らされたほうが自爆する方だとすぐにわかった。

 こいつら、わかってるのか?2体行動の意味が。もう1体起きたら大惨事だぞ。鎖や檻なんて自爆したら意味ないし、毒針が飛んで来たらかするだけで動けなくなるのに。

「あのガラスは?」
「強化ガラスだ。あそこが割れない限りでられないから問題ない。それに1体は眠らされている」
「その一体が起きたら大変になるのでは?」
「そうだな」

 流石邪教、お構い無しで魔獣の情報採取が最優先か。レイが滅入るわけだ。そらそうか、こんな場所に毎日いたらな…。怪我人がでる前に警告しとくか。

「あの…」

 ソードが話かけようとしたら研究員の一人が何やら始めた。檻の中に煙り玉のような物を入れたら寝ている1体が刺激され目を覚ます。辺りが冷たくなり隙間から大量の霧が湧き出る。

「あれは?」

「冷気の塊に近い煙だよ。寒さに強いか調べるんだ」

 まずい!

 霧と冷気の寒さでガラスが割れる!

「クラークスさん、ガラスが割れます!」

「鎖がまだある、君は下がっていなさい。神の導きが始まる」

 そんなんじゃねぇよ!まずい!

「霧もでてます!魔術士で霧が晴らせる人は?」

「私が」

「お願いします!」

 レイには劣るが霧が徐々に晴れる、見ると強化ガラスにヒビが入り今にも割れそうだった。魔獣の近くにいた研究員の一人が叫ぶ。

「強化ガラスを変えますか?2体は倒れたままです」

「では、強化ガラスの入れ替えを」

 研究員がガラスを魔術で割り新しいガラスが上から下ろされる。

 …違う、そんなわけない。さっき寝ている1体は起きたはずだ。しかも2体ともそんな事で倒れたままにならない。幻影だ。ガラスが無いとわかり攻撃する。

 今、近づくと死ぬ。

「離れろ!!幻影だ!!」

 ソードが大声を上げながら直ぐに魔獣に近づく。研究員が離れようとした瞬間、大きな爆発音が鳴り響いた。

2体の魔獣は肉片になり辺りは血が飛び散っていた。

「大丈夫か?」

ソードは斬るのは間に合わないと思い、咄嗟に研究員に毒針が飛んで来ないよう盾になりながら庇った。

爆発と一緒に吹き飛ばされた研究員が壁に頭を打ち倒れて気絶している。マントにはいくつか毒針が刺さっていた。幸い研究員にはひどい怪我は無いようだ。

ルーベンはというと、ソードが駆け出したすぐ後に自爆を軽減する魔術を出し相殺したが全部の衝撃と毒針までは防げなかった。

「ソード君大丈夫か!!」

「研究員の方が気絶を、先に彼の手当てを」

「あぁ」

「流石ですね、クラークスさん…」

ソードは立ち上がろうとしたが、足がもつれルーベンの腕を掴みそのまま崩れた。

「すみません、毒針を受けたようです…」

流石に庇いながらの毒針回避は無理か…クソ、体が動かない。状況説明が精一杯だな。

「ソード君!!」

「直ぐに医療室へ!!ぐずぐずするな!私が運ぶ!ベッドを用意しろ!」

 そんな、騒ぎを遠くに感じながソードは目を閉じた。地下三階は一気に慌ただしくなった。

□□□

 ソードは地下で手当てを受けた後、最上階にあるベッドで静かに眠っていた。意識か戻り始めるが部屋の外が騒がし。

あー体だるい。もうすぐで動かせるな。外うるさいから起きたくないな~どうせレイだろうな。ロキが止めてるのかなー。

そんな事を思いながらゆっくり目を開けた。天井を見上げると、視界に入ったのはルーベンだった。一瞬驚いたがそのまま目を閉じた。

「君は毒の対処方法もわかるんだね、何もしない事が一番早く治ると。感心するよ」

「いや、すまない。先にお礼と謝罪だな。研究員を助けてくれてありがとう。後は君に怪我をさせて申し訳なかった」

ソードは目を閉じたまま聞いた。

「君はあの魔獣を知ってたんだな、本当に驚いたよ。声を掛けてくれなかったら大惨事だった」

抑揚のない話し方。まるで、大した事じゃないような感じだった。

「……。」

「こんな事があったのだが、君にはまた研究室に来て貰いたい」

「……。」

「先程の警戒心とはうって変わって、君は今こんなに私に無防備な訳だが…」

ぎしりとベッドが沈む。
ソードが目を開ける。ルーベンはソードの顔を覗き頬を触った。そのまま下に手を持っていき、ソードの首に手をあてがった。

「レイとの結婚は無くしては貰えないだろうか」

「……。」

「このまま、力を入れる事もできるのだが」

「……。」

親指が食い込む

「……。」

「はぁ~」

ルーベンがため息をつく。

「あぁ儚い、このまま殺されても良いなんて。こんなにも強い君を無防備のまま手にかけれるなんて…君をこのまま研究室に置きたいぐらいだ…たまらない気持ちになるよ」

頬を触り目を細める

「最後にいいたいことは」

「お菓子食べたい」

「……。」

「……。」

「とっくに動けるだろ、殺されても良かったのか?」

ソードがルーベンの手を掴み首から手をどけ、起き上がる。

「すみません、クラークスさん。レイとの結婚取り消しも属に入る事もできませんがいいですか?」

「研究室には顔を出します」

「ルーベンでいい…私との時間を取る約束をしてくれるなら悪いようにしない」

「わかりました、約束します。ありがとうございます」

 ニコリとソードは笑った。

 今さっき殺そうとしたのにこの笑顔。考えることなくすぐに返ってくる返答。研究員を助けるのに自分は殺されてもいいという相反するソード。

ルーベンは何やら自分がしてはいけない事に手を出したような感覚に陥っていた。

 属以外の人と結婚してはいけない。
 人の好きな人を取ってはいけない。
 妻がいるのに他に手を出してはいけない。

 信仰に叛いてはいけない。

 この御法度の多さが更にこの上なく破壊したい高揚感を誘いたまらなくなった。誰にも言わずソードと密約のような約束に心が浮かれ、この気持ちは絶対にしてはいけないと思うほど我慢できないものだった。ソードを壊したいが壊したくないという矛盾。

ソードの髪に触れようとした瞬間。

バン!!

と勢いよく扉が開いてレイが入ってきた。すぐ後ろにロキもいた。

「ソード!!大丈夫か!!」
「うん」

 二人はすぐにソードの元へ駆け寄る。無事を確認できるとレイに怒りが沸き起こる。

「ソード君ありがとう研究員を助けてくれて。助かったよ。じゃあ、また」

「待て!ソードがこんなんになったのお前のせいだろ!すぐ帰る、もうどうでもいい!!」

「レイ、夕食に話をしよう」

「ふざけんな!!!」

部屋が一気に冷気で冷たくなる。そんなレイを見て優しく声をかけた。

「レイ、大丈夫だ」
「ソード…俺が嫌なんだよ」

ぎゅっとソードを抱きしめた。

「悪いようにはしない。約束する、ロキ君にも心配と迷惑をかけたね。私が至らなかったのを許しもらえないだろうか」

「はい。ただ、ソードを連れていく時はちゃんと話して欲しいです」

「すまなかった、今度からそうするよ」

と部屋をでていった。

□□□

 廊下を歩く二人。

「宜しいのですか?生かしておいて。てっきりその為の時間稼ぎかと思いました」

 ルーベンはニヤリと笑った。自分もさっきまではそれも有りだと考えていたがソードを目の前にして気持ちが高揚してしまう自分に気づいた。

「シリルには絶対話すなよ」
「かしこまりました」

といい案内人は消えた。
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