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三部
五十七夜
しおりを挟む「美日下、諦めろ。しゃあない。俺らにはもうどうにもできん。これ以上組が無いのを隠し通せんから実行するで」
「けど…もしかしたらずっと悩んでるのかもしれない」
「はぁ…夜の12時まで待つ。けどそれ以上は一秒も無理や」
「はい…」
「美日下、俺が…今後シオンと関わるな言うたら…できるか?」
「……。」
悩む美日下…
「美日下にも聞いておかなあかんのや…友達なんはわかってるけどあいつは」
「わかってる…俺は今、楝さんといることが答えだから…わかった上でしてる…」
「…なら、ええ。俺も美日下がそう思ってると思ってやってるし。言葉で聞きたかっただけや」
楝は美日下の複雑な心境をわかっていた。いつも自分の事で美日下の大切なものを奪ってきたがその都度美日下はずっと我慢を強いられてきた。それは今回で終わりにしたかったが自分とシオンを天秤にかける二択を迫ることになるため最後まで美日下の納得のいく方法を探したかった。
……………
シオンは楝に言われなくともこの先加成が自分と一緒にいるなどと言わないのはわかりきっていた。初めから自分以外にも相手にしてる人は何人もいるのは知っていたし特別なのは楝の情報と金だった。情報流しも本人がいなくなれば会える理由がなくなる。そして美日下もとなれば二つの理由が一気になくなることになる。ましてや今後稼げなくなったら自分さえも捨てられる、そんなことが頭を過る。
それでも好きになってしまっていたから自分でももうどうにもならなかった。
仕事が終わって一息付いていた。約束の時間はとっくに過ぎていた。このまま今日が早く過ぎてくれればと携帯を触るも気も漫ろになっているのがわかる。時間を見ては進まない数字を見ていた。この日を長く感じる。
「フぅーっ」
どうしても時間が潰れず美日下が置いていったコーヒーを入れることにした。簡単に入れれると残していったがシオンには難しくこれが一番時間がかかりそうだと思い選んだ。
お湯を沸かしコーヒーに注ぐと溢れそうになり下に落ちるのを待っていた。
・
・
・
「シオン君あんまりコーヒー飲まないんだね」
「そうだね。嫌いって訳ではないんだけど単純に飲まないってだけ。淹れてまで飲むことないかも」
「そっか、時間かかるもんね」
「そう、待ってられなくて。俺、多分せっかちなんだよ」
「それじゃあ、飲みたくなったら俺が淹れてあげるね」
「うん」
・
・
・
「シオン君いなかったら俺本当にだめだった。シオン君になんかあったら絶対すぐかけつける。絶対絶対悩みとかあったらいつでも聞くから。俺の一番の親友」
もう一度軽く注ぐ。
・
・
・
「ふーっ。長い…」
・
・
・
「シオン、自分で選べ」
・
・
・
・
ヴヴ ヴ
「………。」
「……シオン、君?」
「………。」
「待って、切らないで!まだ、間に合うから!すぐ行くから!お願い…切らないで」
ピンポーン
プツ
画面に映る姿に驚いた。
「…………。」
「はよ開けろ!!オートロックはずせ!遅いんじゃ!!」
オートロックを開けると扉をガチャガチャさせてきた。鍵を開けると勢いよく扉が開く。そこには楝が部屋にどかどかと上がり後から知らない男が一人。そのちょっと後から美日下が入ってきた。
電話をしてほんの1分もしない出来事だった。
「シオン君、お邪魔します」
楝は机に書類とパソコンを広げ男と一緒に付箋の箇所をチェックしていた。
「おい!何ボサッとしてんねや!」
楝は手を引っ張り机の前につれてきた。
「えーっと始めに説明しなければならないので私が話しますので聞きながら同意していってください」
「は、ぃ」
つらつらと長い説明を一方的に話していく弁護士。話の半分以上は入ってこないがそれでも聞かなければならない。
「えー以上、弁護士を通していただくことの同意書ですね…」
「ここにサイン書け。シオンて書くなよ」
「次にこちらですけど…」
息継ぎも省略しつつ早口で話し1時間以上こんなことが行われた。
「なん、で。こんなすぐ?」
「あ?外で待機してたからや。お前が最後の最後で気が変わるかもしれへんって美日下が言うたからや。何時間待った思うんや」
「シオン君、お泊まりセットは?」
「あー…そこ」
「美日下、もっと大事なもんあるやろ」
「シオン君には一番大事なんです!」
美日下はバックに詰めれるだけシオンの私物を詰めた。
「ほな、お願いします。先、タクシー下で待たせてるんで乗ってください。後からすぐ追いかけます。おい、行くぞシオン!」
「え?」
「冷蔵庫の物とか…」
「そんなん腐らせろ!」
楝は荷物を肩にかけると玄関で靴を履いた。美日下はシオンが靴を履くのを待った。しかし、なかなか履こうとしない。
「でも、こんなことしたら…仕事も…全部。それに、もしかしたら…やっぱり」
「また戻るんか?」
「……。」
「決めろ」
「俺は……やっぱり…残る」
「はぁ…そうか」
楝は仕方ないと玄関の扉に手を掛けた。少し後ずさるシオンに美日下は近付いた。
「美日下…行くぞ。時間がない」
「連れていく」
「けどシオンが行かん言うてんのやぞ」
「連れていく。ドア開けて!」
仕方なくドアを開けた。すると楝を押し追い出し鍵を閉めた美日下。
「おい!」
「シオン君…残るの?」
「残る。この生活変えたくない。上手くやってるし、もし捨てられても別に予想してたことだし。こんなことしてあの人に嫌われたくない」
「…加成さんのこと好きなんだね」
「そうだよ」
この思いは美日下もわかっていた。楝を好きになった時にヤクザでも良いと覚悟を決めて付き合った。その時にこの道を進むことに悩んだが結局は自分の気持ちに勝てず楝の住む世界へと飛び込んだ。それを他人に言われて覆すほど簡単なことではない。
ふと、キッチンの入れかけのコーヒーを見た。まだ飲まれていなかった。
「珍しいね、コーヒー入れてたんだ」
「うん、早く今日が終わってほしくて一番時間のかかる飲み物いれようと思った」
「ふふ、確かに」
「待ってるの長くて、待ってられなくて美日下君に電話した…」
「そうだったんだ。ごめん、冷めちゃったね」
「いいよ、やっぱり俺はコーヒーいれるの苦手かも。面倒臭い」
「うん、俺の好きなもの強制しちゃったね。ごめん」
「うん」
「明日くるの死ぬほど嫌なときあるよね」
「うん」
「俺も何度もあったけどきちゃうんだよね」
「うん」
「何でこんなんなんだろうね世の中って…」
「うん」
「理不尽だと思った」
「うん」
「別にそのままでもいいとは思うんだ。好きなんだし、利用されてボロボロになっても」
「うん」
「だけど、何で来たかっていうとやっぱりシオン君が大切だからなんだけど。そうなって欲しくなくて、本音はね。でも選ぶのはシオン君だから」
「俺が足洗うのと関係あるの?」
「多分、辞めるとシオン君にいろいろ迷惑かかると思う。加成さん怒るだろうし。一緒にこっちにきてくれたほうが安全だと思う。シオン君傷つけそうだし…もう一つは楝さんに協力して欲しくて頼みに来た。自分達のために堅気になるんだけどここまで来たの大変の一言じゃいい表せないから。それと、楝さんのことはできるだけ…話さないで欲しいから…」
「うん」
「シオン君を巻き込みたくなくても巻き込まれちゃう、勝手に理不尽に。俺達がシオン君の暮らしを脅かす存在にしてしまってごめん。だからこれが最善だと思ってたけどシオン君にはそうじゃないかもしれなかったから…それも話したかった。本当に、残るんだね」
「うん」
「わかった。電話、俺にかけてくれてすごく嬉しかった。シオン君は一番の親友で大好きな人、これからも大好きなシオン君だから…また落ち着いたら一緒にどっか行こうね」
「……。」
「そしたら行くね、シオン君、大好きだよ。ありがとう」
寂しそうに笑い美日下が出ていこうとした時だった。背中にシオンのぬくもりを感じ抱きつかれているのに気がついた。
「シオン君…?」
「俺も…そう言ってもらいたかった…ずっと、加成さんに…好きだってそう言ってもらいたかった…」
美日下はシオンの気持ちが痛いほど伝わってきた。
「…でも、…無理だった…ダメだった。ずっと言ってもらいたかった…な…好きだって…」
「ぅん…」
シオンの言葉に胸が張り裂けそうだった。
カチャ
「シオンは?」
首を振った。そして美日下が出ると鍵を閉められてしまった。楝は仕方ないとタクシーに乗った。美日下とシオンが何を話したかまではわからなかったが涙目だったのがわかった。
「はぁ…取り合えず俺らはこのまま進む。シオンの方は万が一のために進めておくけど…本人がいないんじゃ意味がいないからな」
「はい…」
複雑な気持ちが自分の中に渦巻いていた。また一緒にどこかへ…思わずそんな言葉を口にしてしまった。窓の外を見ながらシオンの選んだ答えがシオンの望むもので未来あるものだといいと願った。
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