創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第1章 光の導き手

第23話 恋雪

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 体力の回復を終え、フィリアと医務室で別れたユウトは、カイ達三人が向かった修練場へと向かっていた。

 修練場には、カイ達三人以外にも多くの人が鍛錬に励んでいた。

「はぁ……はぁ……ねぇ、なんで僕が竹刀の素振りさせられてるの?僕の専門は、射撃なんだけど?」

「一緒に鍛錬したいって言ったのはお前だろ?無駄口叩いてるとエムに叱られるぞ?」

 エムの指導の元、カイとシュウは竹刀の素振りをしていた。

 シュウに関しては体力が無いのか、ヘロヘロと竹刀をゆっくりとした動作で振っていた。

「やぁユウト!身体はもう大丈夫なのかい?」

 声と共に肩を叩かれたユウトが後ろを振り返ると、少し遅れて修練場へと訪れたレンが立っていた。

「レン!ああ、傷も体力も完全回復したぞ!」

 左手に日本刀を持っていたレンは、ユウトの言葉を聞くと安堵の表情を浮かべた。

「良かった。君とフィリアが同じ階層で倒れていた時は驚いたよ……君よりも先に目を覚ましたフィリアから全て聞いた。君は以前僕と手合わせした時よりも遥かに強くなっているんだね」

「レン……お前が一階で敵を食い止めてくれていたお陰だよ。俺達が二階で待っていたあいつと、全力で戦えたのは」

 ユウトは鍛錬を続けているシュウを指差すと、丁度エムのお説教を受けていた。

 鍛錬で疲れ果てていたのか、鼻ちょうちんを作りながら眠っていた。

「ユウト……もう一度手合わせをしてくれないかい?僕は光の主力として、もっと強くならないといけないからね!」

「勿論、構わないぞ!俺も鍛錬をする為に、ここに来たんだからな!」

 (あの少女に勝つには、俺はまだまだ強くならないと……もし、今の状態のまま戦う事があったら確実に殺される)

 ユウトはルクスで見た蒼い髪の少女を思い出し、強くなる意志を高めていった。

「よし!そうと決まれば、前回と同じように拳のぶつかり合いといこうか!」

「いや、今回の手合わせはこれを使ってやろう」

 そう言うとレンは、左手に携えていた刀を抜いた。

「へぇ~レンは刀も使うのか?」

「メインは拳なんだけどね。拳だけでどうにもならない相手も中にはいるだろうからね、普段ならユカリに手合わせの相手を頼んでいるんだけど……ユカリはまだ目を覚さないし」

 (ユカリ……一体何時になったら目を覚ますんだ)

 ユカリは力の低下が重なっていた影響からか、時間が経った現在も目を覚ましてはいなかった。

「だから今回の手合わせは、刀を使いたいんだけど良いかな?」

「そういう事なら、俺は構わないよ……そうだ!しっかり鍛錬出来るように刀の師匠と替わろう」

「師匠?」

 首を傾げているレンから少し離れたユウトは、身体全体を結晶で包み込んだ。

「えっ!なんだいそれ!僕は防御していた方が良いのかい?」

 初めて見る行動に動揺したレンは、念の為に防御の構えをとった。

 ユウトを覆った単結晶が砕け散ると、雪の様に綺麗な白髪を揺らしながら女の姿をしたユウトが現れた。

「ふぁ……うゅ……何?もう朝?」

 少し浮遊した状態だった単結晶からゆっくりと着地した少女は、目を擦りながらレンに視線を向けた。

「…………ユウトなのかい?君?」

「ん?……あんた誰?……あぁ、ユウトと最初に戦った相手か……ふぁ——」

 先程まで眠っていたのか欠伸を繰り返し、レンをジッと観察していた。

「こんな綺麗な女の子がユウト……」

「——ぁぁぁはぁっ!」

 ユウトは、思いがけない言葉を欠伸の途中にかけられ、思わず大きな叫びを上げた。

「なっ!いきなり何言ってんの!」

「思った事を口に出しただけだよ?」

「っ!馬っ鹿じゃないの!」

 顔を真っ赤にしたユウトは、頭から蒸気を出しながらそっぽを向いた。

 (……こんな調子で手合わせ出来るのかい?)

―*―*―*―*―

 ※心の中では「」と()の意味が逆転しています。
 「」 心の声  () 会話

 心の中

 (何やってんだ?あいつ)

 (乙女だねぇ)

 一面雪景色の世界でユウトとユウト(女)は、空に映された外の状況を観ながら、お互いの心境を漏らしていた。

 (乙女って……)

 (あの子は、歴とした女の子だよ?まぁ僕は男だけど!)

 (お前、いつまでその設定引っ張るんだよ。あんまり言ってるとうんざりされるぞ?)

 (そんな事よりユウト。君は、〝あれ〟をどうするか考えておいた方が良いよ)

 (あれって?)

 ユウト(女)が指差した先には、白い雪景色とは違う黒いドーム状の何かが建っていた。

 (あれを……俺が?)

 ユウトは自分自身を指差してながら問うと、ユウト(女)は何度も頷いていた。

 (何とかって……あんなのどうやって消すんだよ。俺達が三人で挑んでも無理なんじゃないのか?)

 ドームから伝わってくる威圧感は、蒼髪の少女以上の強さを物語る程に重く感じられた。

 (まぁ、いずれは何とかしないといけないんだから……心の準備ぐらいはしておきなよ?)

 (マジかよ)

 黒いドームの中からは、鋭く冷たい視線がユウト達をジッと睨みつけていた。

―*―*―*―*―

「……で?あんたの手合わせの相手を私がすれば良いの?」

 冷静さを取り戻したユウトは、腕を組みながらレンを睨み付けていた。

「そういう事だね。手合わせだからって手加減する必要は無いからね!」

「ふんっ!私の実力、甘く見てると後悔するわよ?」

 ユウトはそう言うと、レンに背を向けて距離を離し始めた。

「甘くなんて見てないよ」

 (ユウトが師匠と呼んだこの子は、ユウトよりも上の実力を持っている筈……全力でいかないと怪我をするのは僕の方だね)

「手加減なんてしないから!覚悟しなさいよ!」

 距離を取り再びレンに向き直ったユウトは、右手に雪月花が創り出した。

「創り出す武器も綺麗なんだね」

「ばっ!……良いからあんたも構えなさいよ」

 馬鹿と言いかけた事を誤魔化したユウトは、レンの前で雪月花をくるくると回し始めた。

「そう言えば君の名前は何て言うんだい?」

 レンは、刀を抜きながらユウトに問いかけた。

「私の名前はユウト……当たり前でしょ?私はユカリの心から創られた、ユウトの中で生まれた存在なんだから。元々名前なんて無いわよ」

「でもユウトが二人いると紛らわしいし……」

 レンはそう言うと、ユウトから目線を逸らして悩み始めた。

「別にどうでも良いでしょ?そんな事」

「どうでも良くは無いよ。女の子なんだから、名前は大切にしたいとね」

「……はぁ」

 戦う為に現れたユウトは、小さく溜息を吐きながらもレンが考え終わるまで静かに待っていた。

「…………決めた!」

「何を?」

 レンは、ゆっくりとユウトを指差した。

「人を指差すんじゃないわよ!」

「君の名前は〝ユキ〟だ!」

「はぁっ?何その安直な名前……どうせ私の髪が雪みたいだからとかでしょ?」

「確かにそうだけど、それだけじゃないよ?君にピッタリの名前だと思ったんだ……しょうがないよね」

 納得する様に何度も頷くレンに対して、ユキは怒りによって両腕を震わせていた。

「人の名前を勝手に決めてんじゃないっ!!」

 怒りが爆発したユキの怒号が、修練場内に響き渡った。

 指導しながらその光景を見ていたエムは、『どっかで見たやり取りだな』と思うのであった。
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