創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第1章 光の導き手

第41話 Love like snow

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 自室に戻ったユウトはベットに横たわると、ゆっくりと瞳を閉じた。

―*―*―*―*―

 ※心の中では「」と()の意味が逆転しています。
 「」 心の声  () 会話

 心の中

 (ここは……どこだ?……いつもの場所なのか?)

 辺り一面に〝真っ白な雪〟が降り積もっていた筈の世界は、息が詰まりそうな程の負の感情を帯びた〝黒い雪〟が降り積もっていた。

 (やっと……来たんだね)

 視界の先に現れたのは、身体中に刀傷を負ったユウト(女)だった。

 (なっ……お、おいっ!どうしたんだその傷!)

 (僕よりも気にする事が他にあるだろっ!!)

 駆け寄ったユウトに対して、ユウト(女)は激しい剣幕で叫ぶと、おもむろに自身の背後を指差した。

 (ケジメをつけて来なよ。君が、信じる者の為に)

 (何を言って——)

 パキィィィィン

 ユウトの声は、突如黒い空間に響き渡った甲高い音に掻き消された。

 (っ!)

 咄嗟に耳を塞ごうとしたユウトは、自身に迫り来る無数の衝撃波に気付いた。

 (音だけじゃ無いのか!)

 響き渡る轟音と共に迫り来る衝撃波を、結晶の障壁で防いだ。

 (くっ!次から次へと、なんなんだ一体!)

 ユウトは周囲を見渡し、音の発生源を探し始めた。

「あれ?……あいつ、どこに行ったんだ?」

 音の発生源を確認する為に周囲を見回した時には、既にユウト(女)の姿は影も形も無かった。

「あいつ、何を伝えたかったんだ?」

 頭に浮んだ疑問を振り払うように首を横に振ったユウトが視線を戻すと、黒い景色の中に佇む微かな人影に気が付いた。

 (あれは、ユキ……なのか?)



 そこに立っていた少女は雪を彷彿とさせる白い服とは真逆の黒衣を身に纏い、鋭く向けられた冷たい眼光は小紫色に染められていた。

 ((……ユウト))

 ユキ?は冷たい眼差しをユウトに向けたまま、掠れた声で呟いた。

「なんだ?声が二重に聞こえる」

 (お前……ユキなのか?一体どうしたって言うんだよ!あいつも、お前も……この世界も)

 (ははは……全部お前のせいだぜ?ユウト)

 視線の先に佇んでいたユキは不適な笑みを浮かべ、別人の様な口調で話し始めた。

 (お前さ……姿が変わって自分が強くなったんだと勘違いしてないか?お前が強くなったのは、〝俺〟が力を貸してやってるからだぜ?)

 (俺?……っ!まさかお前、闇のドームにいた人型か!)

 (正解……と言いてぇが、ここにいるのは俺〝一人〟じゃないぜ?)

 そう言うとユキ?は、右手に雪月花せつげっかを創り出した。

 (……私自身の意志でもあるの。あんたを、殺す事が)

 ユキ?からは先程までの笑みが消え、聞き覚えのある口調で話し始めた。

「口調が変わった?」

 (……ユキなのか?)

 問い掛けられたユキは表情を一切変える事無く、静かに頷いた。

 (俺を殺す事が、お前の意思だって言ったのか?俺……お前に怨まれる様な事をした覚えは無いぞ?)

 ((してんだよっ!!))

 ユウトの言葉を聞いた瞬間、無表情だったユキは突如鬼の様な形相で怒号を発した。

「っ!また声が二重に聞こえた!くそっ!……この声のせいでユキの意思なのか判断しづらい!」

 (俺が一体何をしたって言うんだよ!)

 ユウトの投げ掛けた問いに対しての答えは、急接近したユキ?から振われた斬撃となって返ってきた。

 (くっ!)

 ユウトは咄嗟に創り出した結晶刀クリスタリアで、ユキの払った雪月花を受け止めた。

 (お前の仕業か!人型野郎!)

 ユウトの言葉に反応したユキは、再び不適に笑い始めた。

 (俺の意思じゃねぇよ……お前がこいつの〝想い人〟を取ったんだろ?)

 (は?何を言って……)

 そこまで口にしたユウトの脳裏には、レンの顔が浮かんだ。

 (まさかレンの事か?……ユキ!もしお前がそう思っているのなら、それはお前の勘違いだ!)

 (っ!ふざけんなっ!!)

 再び怒りに満ちた表情を浮かべだユキは雪月花に冷気を纏わせると、均衡していた刃を力任せに押し返しユウトを吹き飛ばした。

「くっなんだこの馬鹿力!これが今まで発揮しなかったユキの本気なのか?」

 吹き飛ばされながらも、ユウトは追撃に備えて身構えた。

 ユウトの予想は的中し、ユキは無数の氷柱をユウトに向けて放った。

 (そんな攻撃っ!)

 背中に白い翼を創り出したユウトは、その翼で身体の前面を覆う事で迫り来る氷柱を全て防いだ。

 (この氷柱はお返しするぜ!)

 翼を勢いよく広げると同時に、刺さっていた氷柱はユキに向けて放たれた。

 (……自分の攻撃に当たる訳ないでしょ?)

 冷静さを取り戻したユキは、無表情のまま迫り来る氷柱を微かな動きのみで避けて見せた。

 (ユウト……あんたはレンの事、どう思っているの?)

 (そんなの、親友に決まってるだろ)

 (それは〝男のユウト〟でしょ?……私は、あんたに聞いてるの)

 (俺は男だ。レンに対しては何も——)

 (嘘。今のあんたには、女性としての感情がある筈……私の中にいる人型から聞いた)

 ユウトは心の中にある戸惑いを隠しつつ、ユキとの会話を続けた。

 (人型から?あいつが俺の何を知ってるって言うんだ?)

 (男の姿の時は男性としての感情を……女の姿の時は女性としての感情を……それぞれ持っているって)

 (そんな訳が……)

 (あるでしょ?……現に、あんたがレンの事を意識しているんだから)

 (っ!)

 ユキの言う通り、女の姿である今のユウトの脳裏には常にレンの姿があった。

 (俺が……レンを?馬鹿馬鹿しい……俺はレンの事なんか——)

 (それをレンに言える?)

 ユキは困惑している状態のユウトが絞り出した言葉を遮り、冷たい眼差しを向けながら問い掛けた。

 (それは……)

 (この場所からずっと見てた……そして気付いたの、レンの意思に)

 (レンの意識?)

 ユキは感情を隠していたが、雪月花の刀身は負の感情によって小刻みに震えていた。

 (あんたには……絶対教えない。私が感じる事が出来た……最後のレンの意識だから)

 雪月花の切先をユウトに向けたユキの瞳は、負の感情によって光を失っていた。

 (あんたを殺して、私がユウトになり変わる。レンの事が一番……一番好きなのは、私なんだからっ!)

 (……俺だって)

 ユウの言葉を聞いたユウトは、右手に携えた結晶刀を強く握りしめた。

「ここに来た時にあいつの言っていた言葉の意味が、ようやく解った……これがつけなきゃいけないケジメが」

 ( 俺の心の中で起きていた全てに……俺自身がケジメをつける!)

 ユウト(女)の言葉を理解し決意を固めたユウトの瞳は、荒々しく燃え上がる炎の様に紅く燃えたぎっていた。
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