創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第3章 光闇の宿命を背負ふ者

第1話 闇の神

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 アメリカ中央拠点クレイドル 支援部隊本部

 過去の戦闘による被害と情報の収集が終わり、クレイドルの隊員達が被害地域の復旧に取り掛かり始めていた頃。

「……フェイトは?」

 実際に確認した現場状況を書類にまとめていたファイスは、本部内を歩き回っていたフェイトの姿が見えない事に疑問を抱き、周囲で作業を続けている隊員達に質問した。

「あれ?そう言えばいないな……さっきまでは、部屋の中に居たと思うんだけど」

「うーん……フェイトは、まだ子どもですから。この部屋に飽きて、クレイドル内を散策しているんじゃ無いですか?」

 資料を確認していた男性隊員と女性隊員の言葉を聞いたファイスは、依然として残る違和感の正体を探る為に顎に手を当てて思考を巡らせ始めた。

 (飽きたから散策?本部の隊員達を観察したり、私の背後を飽きもせずついて回っていたフェイトが?)

 記憶に残っているフェイトの様子を思い出したが、興味津々に本部を見回っていたフェイトが単身で別の場所に移動する事は考え難かった。

 (ついさっきまで部屋にいたのは間違いない……クライフは日本へ、ケフィは戦闘に備えて自室で準備中、大半の隊員達は復旧の為に現場へ向かった……本部の人数が減った時期に、行方知れずになった事が偶然?)

 そこまで考えたファイスは、以前アンリエッタにフェイトを任せた際に、現在と同じ様にフェイトの行方を把握出来なくなった事を思い出した。

「……全員、クレイドル内にある監視カメラを全て使ってフェイトを探して」

 顎から手を離したファイスは、離した右掌を本部に残っていた隊員達に向け、フェイトを捜索する様に指示を出した。

「え?そこまでして探すんですか?」

「必要が無ければ、最初からこんな事……作業中の貴方達に頼まない」

 指示を聞き首を傾げる隊員達の様子を見たファイスは、予想通りの反応に対してゆっくりと右手を下げながら言葉を返した。

「少し前に、クレイドルを熟知してる者が敵だと判明したでしょ?」

 その一言からアンリエッタの事だと察した隊員達は、緩めていた表情を一変させ真剣な表情でファイスの次の言葉を待った。

「そう、アンリエッタが知る中で最も安全であり、最も回収しやすい場所であり、並行して情報の収集も出来る場所……クレイドルでひと暴れしたアンリエッタなら、人手が復旧に回される事も予想済みの筈。時期を合わせてフェイトを連れ去った可能性は十二分にある」

「でも、なんでアンリエッタがフェイトを?」

「ハッキリとした事は分からない。だけど、アンリエッタとフェイトに何らかの繋がりがあると仮定した場合……私達は、一刻も早く敵の強襲に備える必要がある」

 闇の人間に情報が流出した場合、戦力が激減しているクレイドルの現状をアンリエッタが見逃す筈が無い事は、共にクレイドルで戦って来た隊員達が一番良く知っていた。

「フェイトの所在確認は、この国の存亡に関わる事だと私は考えてる……もし的外れだったら、私の事を幾らでもバッシングして良いから、全員でフェイトを探して欲しい」

 真剣な眼差しで隊員達を見つめていたファイスに対して、一人の男性隊員がゆっくりと立ち上がり、胸部に右手を当てた。

「そうだな……的外れだった場合は、この場にいる全員で笑われよう」

 その言葉を聞いたファイスは、予想外の返答に対して少しだけ目を見開いた。

「そうだね。忙しさにかまけて、大事な所を見逃していたのは私達だし」

「逆に、気付かなかった俺達の方が、バッシングされる側だな」

「ははは、だな」

 最初に声を上げた男性の言葉に触発された隊員達は、思い思いの言葉を発し始めた。

「……ありがとう」

 ファイスの言葉に力強く頷いた隊員達は、クレイドル内に存在する全ての監視カメラを操作してフェイトの捜索を開始した。

 (隊員達だけじゃない。私自身も、もっと前から警戒しておくべき事をしなかった……でも、後悔した所で過去に戻れる訳じゃない)

 先程までの落ち着きが嘘の様に、再び機械の操作音が忙しなく聞こえ始めた室内で、フェイトは左手を隊服のポケットに入れ、中にある一組のグローブを握り締めた。

 (隊員達は、こんな私の言葉を信じて行動してくれた。その思いに報いる為なら、私は……これから先、どんな脅威がこの国に降り注ごうと、必ず私が守り抜く……この国に生きる者として。この国の、世界最強として)

 自身の頼みに応えてくれた隊員達を前に、再び誓いを立てたファイスは、自身のやるべき事をなす為にケフィの自室へと向かった。

―*―*―*―*―

 マリオット島

 ユカリの氷柱によって研究所が倒壊した事で、島の中央部はくり抜かれた様な大穴が形成されていた。

 そして、施設の倒壊によって生じた土煙と、ユカリの氷柱から発生した冷気と雪の結晶が舞う大穴の底では、二人の少年が互いの視線を交えていた。

「神は揃った?何言ってんだ……お前」

「そのままの意味だ。テメェの後ろにもいんだろ?光で神と称された奴がヨ」

 琥珀色こはくいろの瞳から向けられた鋭い眼差しに、唐紅からくれないの右眼と朱色しゅいろの左眼を向けていたティオーは、顎先を使ってユカリが自身の言う神の一人である事を告げた。

「そう呼んでいる人達がいるだけだ。そんな別称を鵜呑うのみにして、ユカリが本当の神様だと思っているのか?」

「ハッ!別称ねェ……違うな。ユカリとアイツは、神になると定められ生まれた存在だ」

「何をふざけた事を」

「人間の常識を軽々と覆す存在を、人は神と呼んで来た。ユカリの属性も、アイツの属性も属性概念を覆すモンだっただろ?」

「世界最強と呼ばれるファイスも、ソーンも、属性の枠を超える力を持っていた。お前が知らないだけだ」

「チッ、馬鹿が。アイツらを知らないのはテメェの方だ……不死身の本質は治癒、加速の本質は雷…… 奴等の属性は、人間が有する事の出来る属性の限界だ」

「ん……んぅ……」

 二人の声で目を覚ましたフェイトは、重い瞼をゆっくりと上げ、最初に視界に映ったアンリエッタに視線を向けた。

「……アンリエッタ?」

 激しい問答を鋭い眼差しで睨み付けていたアンリエッタは、視線の下から発せられた掠れた声に反応すると同時に表情を綻ばせ、抱えているフェイトに視線を合わせた。

「もう少しで家に帰れるから、まだ少し眠っていて」

「うん……ありがとう」

 微かな微笑みと共に再び眠りについたフェイトを、アンリエッタは母親の様に優しげな眼差しで見つめていた。

「ティオー、それにユウト。大切な仲間の命を奪った者と奪われた者、互いに互いを理解する可能性が消えた今、会話をするだけ時間の無駄です」

 二人が会話する中、一人沈黙を貫いていたユカリだったが、互いの意見を言い合っている二人の様子を見て我慢の限界を迎えたユカリは、結晶刀クリスタリアを創造し、ティオーに切先を向ける様に構えた。

「ユカリ……そうだな。確かに、お前の言う通りだ」

「なんだァ?随分とご立腹じゃねェか、光の神とあろう者が?……ま、俺達もテメェ等と意見を合わせ様なんて気は、微塵もねェが」

「ティオー、最後に一つ。貴方は神が揃ったと言った……でも、アンリエッタが抱える少女は属性も開花していない筈。まさか闇の神は、アンリエッタだとでも言うつもりですか?」

「確かにコイツは、力だけで神と称された〝偽りの神〟だ。俺がさっき言った二人目の神ってのは、そんな奴でさえ従わせる本当の神だ」

 そう告げたティオーは、アンリエッタが抱き抱えていたフェイトを強引に掴み上げようとしたが、その動作をいち早く察知したアンリエッタが自身の身体を間に入れ、ティオーの手からフェイトを庇った。

「「っ!?」」

 咄嗟にフェイトを庇ったアンリエッタの行動と、消滅の力を有しているティオーの躊躇の無い行動に、二人は驚きの表情を浮かべた。

「くっ!」

「ア?なんだテメェ、邪魔すんじゃねェよ」

 右肩から身体が〝ゆっくりと〟消滅し始めたアンリエッタは、身体の感覚が無くなって行く状況に苦悶の表情を浮かべていた。

「貴、様……己がどんな化物か忘れたか?貴様がこの子に触れれば、この子は跡形も残らず消滅するんだぞ」

 自身の身体が消滅する中、アンリエッタはフェイトを全身で守る様に、ティオーに背中を向けたまま怒りの声を発した。

「だから何だ?下らねェ理由で、俺の邪魔をすんじゃねェ。テメェから消すぞ」

「貴様……どちらの味方だ?」

「ハッ、私利私欲しか考えられねェ闇の人間に味方もクソもあるか?ムカつきゃ殺す、使えなきゃ切り捨てる、それが闇にとっちゃ普通だろ?」

 身勝手な発言を淡々とするティオーの態度に、強い憤りを感じていたユウト達だったが。

「この子にとっては、普通では無い!!」

 その直後に発せられたアンリエッタの言葉には、ユウト達の憤りを代弁するかの様な強い反発の感情が込められていた。

 アンリエッタが怒号を発した直後、消滅し続けていた身体はピタリと消滅を停止させ、何故か消滅する以前の状態へと戻り始めていた。

 (アイツ、俺の身体は戻さねェ癖に……コイツの身体は戻すのか)

「チッ……あぁ、そうかもな。俺はお前と違って、アイツに創造された時から一人だ。誰にも付いちゃいねェ……アイツにも、ソイツにもな」

 目を細め、ゆっくりとアンリエッタに向けた右手を下げたティオーの脳裏には、創造された当時の記憶が鮮明に再生されていた。

 真っ直ぐに少女を見つめる少年と、光を失った瞳で少年を見つめる少女の姿を。

「ティオー」

 その直後、視線の下から発せられた声を聞いたアンリエッタは目を見開き身体を強張らせ、ティオーは視線をゆっくりと下に向けた。

「『早く帰っておいで』と言っても、貴方が前にしている二人が黙って見送りはしない……だから、帰る前に教えてあげて?光と闇に、どれ程の差が存在するのかを」

 アンリエッタの身体に隠され、声の主を直視する事が出来無いティオーだったが、その視線はアンリエッタに抱えられた状態で安らかに眠るフェイトに向けられていた。

「……お前に言われるまでもねェ」

 声の主にそれだけ告げると、視線を再びユウト達に戻した。

「テメェ等の仲間を殺して、フェイトをさらって『ハイ終わり』な訳がねェだろ。そんな小物クセェ真似、誰がするか」

「こっちだって、望む所だ!」

「絶対に、逃しません」

 不敵な笑みを浮かべるティオーに対してユウト達は、握り締めた結晶刀クリスタリアの切先を向けて感情の込められた言葉を発した。

「ユウト……数えられる程度の戦いを超えて、どんな相手だろうと必ず勝てると過信してやがるテメェに教えてやるよ」

 身体が完全に元の状態に戻ったアンリエッタは、周囲の空気の変化を感じ取り、ティオーから距離を取る様に穴の外へ向けて蹴り飛んだ。

「この世に存在する物、概念すらも破壊しちまう……創造の果てに生まれた失敗作の力って奴をヨ」

 〝何処かへ消え去った左腕〟を他所に、ティオーが残された右腕を構えると、周囲に存在する空間に大きな亀裂が走った。
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