創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第3章 光闇の宿命を背負ふ者

第9話 闇夜を照らす月

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 アメリカ中央拠点クレイドル 南部

 ズガァァァァン

 互いの刃が接触した瞬間、近場にいるクライフ達が二人を見失う程の場所まで吹き飛ばす強烈な衝撃波と、南部一帯の建造物を揺らす轟音と共に、二人はヨハネの大刀を包んでいた二色の炎が形成した炎の渦の中へと姿を消した。

「大切な存在を護る為ならば、私は拒み続けていた力を信じ、全てを受け入れ……英雄ジークフリート、お前を討つ!!」

 二人の周囲に存在した地面には稲妻の様な亀裂が走り、ジークフリートの両脚に伝えられた強大な力を受け、二人を中心に次々と周辺の地面が隆起していた。

「その瞳、ようやく自身の身に宿る……君自身が有する本来の力を受け入れた様だな」

 二種の炎を身体に浴びながらヨハネと視線を合わせたジークフリートは、全身を通う属性に自身の意識を同調させたヨハネの瞳が、以前よりも鮮明な浅緑へと色を変化させている事を認知し、嬉しそうに口元をほころばせた。

「やはり私の信じる運命に、狂いは無かった」

 後退する事なくヨハネの斬撃を受け止め続けていたジークフリートは、両手に握るバルムンクの柄を更に強く握り締めた。

「確かに、全てを受け入れ、更なる高みへと到達した君の力は凄まじいモノだ」

 その瞬間、ジークフリートの両脚から全身を包み込む様に真紅の炎が燃え上がった。

「この私に、属性を使わせる程度には」

「っ!」

 ジークフリートが解放した炎は、先に存在した二種の炎さえも焼き尽くされてしまうとヨハネに錯覚してしまう程の高温を発していた。

 (……この場に現れ、刃を交えた時から、薄々気が付いていたが……やはり、手加減していたのか)

「ふざけた真似を」

 相手との力の差を改めて痛感したヨハネは、ジークフリートが次に行なうであろう行動を推測し、大刀に集中させていた属性を両拳に向けた。

 (炎の頂と呼ばれた者が、意図的に使用していなかった属性を解放した……私との戦いは、属性の差で勝敗は決していたと言わんばかりに)

「私の属性を、甘く見るなっ!!」

「君の実力を軽んじてはいないさ。世界最強と称されるだけの力は、十分にある。敗因はただ一つ、相手が私だった……ただ、それだけの話だ」

 互いに互いの力を見せて尚、一切臆する事無く柄を両手で握り、互いに属性によって強化された力を最大限まで発揮していた。

「さて、終幕の時だ」

 その瞬間、ジークフリートを包み込んでいた真紅の炎は、両腕から柄を伝いバルムンクの刀身へと流れ込んだ。

「君に敬意を表して、最後は……私の人生で最も好敵手と呼べる者の力で、終わらせるとしよう」

 刀身に纏われた炎は、まるで心臓の鼓動の様に数回拍動した直後、荒々しく燃えていた炎はバルムンクの刀身を視認不可にする程強く発光した。

龍の息吹アトム・デス・ファーヴニル

 ヨハネの視界を閃光が支配した瞬間、大刀を握る両手に激痛が走り、大刀が纏っていた二色の炎が真紅の炎に焼き消された。

「まだ、だ……まだ、私はっ!!」

 ピシッ

 ヨハネが纏わせた属性による守護を失った大刀は、創造主であるユウキの属性力を上回る脅威的な属性力によって遂に限界を迎え、刀身全体に大きな亀裂が走った。

 (砕ける……姫に創造された、私の大刀が)

『お前が償う為なら…… 俺の全てを賭けてヨハネ……お前の力になろう』

「っ!」

 記憶に色濃く残されたユウキの言葉と共に、自身の命よりも大切な者達の顔が脳裏を過ったヨハネは、何かを決意する様に歯を強く噛み締めた。

 パキィィィィン

 大刀が砕け散った直後、ヨハネを呑み込む様に巨大な真紅の斬撃が放たれ、周囲に隆起した大地を全て灰燼と化す程の高温の熱波が広がり、ジークフリートの半径数キロ圏内の世界は〝一部を除き〟、過去の面影を一切感じさせない焦土へと成り果てた。

 龍の息吹アトム・デス・ファーヴニル範囲内に存在した南部防衛拠点は、炎と衝撃波によって跡形も無く焼失していた。

 しかし、拠点で現場の状況をクレイドルに報告していた隊員達からの現状を鑑みて、ケフィが即座に避難指示を行なった事で、隊員達が命を失う事は無かった。

「……私と対峙した者は、定められた運命の通りに焼き消えた、か」

 そう言い小さく息を吐いたジークフリートは、紅蓮の光を発した状態のバルムンクを携えたまま、ゆっくりと反対方向へと身体を向けた。

 ヨハネと戦闘の最中、付近で戦闘を行なっているクリームヒルトの事を気に掛けていたジークフリートは、戦闘によるクリームヒルトへの被害を最小限に抑える為、ヨハネの斬撃をえて受ける事で最も被害が大きい危険地帯から、クリームヒルトを遠ざけた。

 更にクリームヒルトが飛ばされた方角が、自身の後方である事を認識していたジークフリートは、背後に龍の息吹アトム・デス・ファーヴニルが影響を及ぼさない様に属性を操作していた。

「っ!?」

 状況を確認するべく背後に身体を向けたジークフリートの視線には、蒼と紅に二分された円盤状の楯が作り出されていた。

『相手が姿を眩ませた時に、意識を向けるべきは背後だ』

 大刀が砕け散ると同時に自身を炎の属性で覆い、回避する一瞬の為の防御と、目眩しを行なったヨハネは、属性の影響を受けていない背後へと回り、右拳をジークフリートの背中へと向け、使用可能な属性を凝縮し前方へと解放していた。

双陽の楯スヴェル

 全ての属性を使用して双陽の楯スヴェルを作り出したヨハネだったが、仮に龍の息吹アトム・デス・ファーヴニルが直撃していれば、その双陽の楯スヴェルでさえ破壊されていたと思わせる程、ジークフリートが放った一撃は凄まじい破壊力を有していた。

 (もう二度と、こんな好機は訪れない)

 展開していた属性の楯の背後で、再び振り上げた右拳に双陽の楯スヴェルを形成した属性を引き戻した。

「……まさか」

 (あの一撃を避けるとは)

 属性を失い、徐々に消え行く双陽の楯スヴェルの向こう側から、二色の炎を荒々しく纏わせた拳を構えたヨハネと視線を交差させた。

「これが私の——」

 その決意を秘めた鋭い眼差しを目にしたジークフリートは、〝自身の想像を超えた〟ヨハネの行動と結果を喜ぶ様な笑みを浮かべた。

「覚悟だっ!!」

 ヨハネは渾身の力を右腕に込め、属性で形成された枠組みだけを残した双陽の楯スヴェルの中央を通す様に、豪炎を帯びた右拳を放った。

天の月マーニ

 放たれた右拳が向き合うジークフリートの心臓部を突いた瞬間、直線上に存在するモノを二種の炎が全て焼き、突き抜けた属性は背後に存在する空間を穿った。

「…………見事、だ」

「はぁ……はぁ。そんな状態でも、立っていられるのか?」

 内臓の七割程が焼失し、胸部に大穴が開いているにも関わらず、ジークフリートは決して倒れる事無くヨハネに視線を合わせていた。

「君が背負うモノへ抱く強い意志、属性を通じて私に流れ込んだ。誰もが世迷言だと嘲笑う様な綺麗事、それを冗談では無く本気で実現しようとする、君の底知れぬ執念も」

 その瞬間、突然ジークフリートの胸部に開いた大穴を塞ぐ様に黒い糸の様なモノが、ジークフリートの体内から無数に現れた。

「っ!!なんだっ!?」

 突如現れた黒い糸が開いた空間を繋ぎ合わせ、ヨハネの負わせた傷は、数秒で元の状態へと修復された。

「そんな……馬鹿な」

 属性を全て使い果たし、辛うじて立つ事が出来ていたヨハネは、目の当たりにした異様な光景に絶望の声を発していた。

「この私が、〝一度殺される〟とは」

 そう告げたジークフリートは、依然として身体の節々を焼いている二種の炎を意にも返さずに、携えていたバルムンクを振り被り、疲労の色を滲ませるヨハネと視線を交えた。

「だが私は、悪魔に魂を売ろうとも生きると決めた……もう〝二度〟と、約束を違えない為に」

「くっ!」

 その言葉を言い終わると同時に、ジークフリートは構えたバルムンクを横へと払い、正面に立つヨハネの頭部と胴体を二分させた。

 (姫……イシュト……)

「恥じる事も、悔いる事も無い。これは君の、変える事の出来ない……運命なのだから」

 ヨハネの絶命を見届けるべく、落ちゆく頭部に視線を向けていたジークフリートは、微かに肌を撫でた冷気に気付くと、嬉しそうに笑みを浮かべた。

ようやく、来たか」

 ジークフリートが声を発すると、見えていた景色全てが歪む大きな亀裂が走った。

 パキィィィィン

 甲高い音と共に砕け散った景色の向こう側には、創造された結晶の椅子に気絶したヨハネを座らせた後に、漆黒の髪と光拠点ルクナの隊服を風に靡かせ、此方を見つめる少年の姿があった。

「定められた運命を、覆す力を持つ者よ」

 口から白い冷気を吐き、白縹しろはなだの瞳を向ける少年の背後に見える景色は、氷面に映し出される世界の様に歪んでいた。
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