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第3章 光闇の宿命を背負ふ者
第23話 紙一重
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エジプト拠点 アンラダクシア 謁見の間
『私の願いに応えてくれるのなら、私は貴女が死の直前まで欲していたモノを与える』
正面の『何も存在していない空間』を静かに見つめていたオラルセプタは、創造の世界で少女から告げられた言葉を思い出していた。
『私の与えるモノで〝気付いて〟』
(心が、揺らいでおる。彼の者の言葉が真であった事を知り、妾は……妾の諦めていたモノを、妾の望む全てを知る事が出来ると、期待しておるのか?)
瞬きをした刹那、瞼の裏に涙を流し微笑む少女を見た。
『貴女は、私とは違う〝運命〟を歩んでいける』
「違う運命……か」
(彼の者は、あの若さで妾と同じ……いや、恐らく妾以上に苦艱しておる)
小さく息を吐いたオラルセプタは、両手で握っていた羊飼いの杖から右手を離した。
(悲しみを押し殺し笑う彼の者を、妾は一人に出来ぬ)
強い意志を秘めた瞳を正面に向けたオラルセプタは、羊飼いの杖の持ち手を前に突き出した。
その瞬間、周囲に存在した動物達が〝音の無い咆哮〟を上げながら動き始めた。
「わぁ♡可愛いけど危ない子達が来るよ~⭐︎」
キラキラと目を輝かせながら、ルアは迫り来る動物達を見つめていた。
「ヒナ、俺達は二人で行動する。次は、絶対に外さねぇ……必ず決めてやる」
「分かりました。二人が攻め込む隙は、私が作って見せます」
会話を終えた二人は、展開される恋は盲目の裏側で同時に頷いた。
「ヒナも、無理しないでね⭐︎」
「はいっ!」
精一杯の気持ちを込めた返事をしたヒナは、地面を強く蹴り恋は盲目から飛び出た。
「人生最後の密談は済んだか?」
直後、ヒナの元へ二匹の青い大型犬が接近した。
「ならば、存分に命費やすと良い」
大型犬が大きく口を開くと、口内から青い閃光が発せられた。
ブシャァァァア
ヒナは閃光を目視すると同時に、空の弓から、青い糸が右方向に一本射出された。
そしてヒナが高速移動で姿を眩ませた直後、大型犬の口から水流が放たれた。
ズガァァァァン
ヒナの背後に存在した壁を轟音と共に破壊した水流は、直撃と共に大量の水滴を周囲に飛散させた。
(……あれは?)
爆風と共に広がる土埃の中に、青く光る物体を視認したヒナは、空の弓からの水属性の噴射を利用し、糸を伝いながら身体を縦方向に回転させ始めた。
そして、回転によって上方向に飛散させた水滴と空の弓繋いだヒナは、その場から勢い良く上昇した。
直後、土埃の中から複数の水流が放たれ、先程までヒナが存在した空間を貫いた。
「やっぱり」
(さっきの鳥さんと違って、ワンちゃんの水流は飛び散った水滴から、蒼い球体を作っているんですね)
弓柄付近から噴出させた水属性で衝撃を軽減しながら天井に右手を突いたヒナは、即座に下方向に存在する水滴に糸を繋いで降下した。
その瞬間、天井にヒナの身長を優に超る五本の大きな爪痕が刻まれた。
「ぎ、ぎりぎりセーフです」
(忘れちゃいけませんね。相手は、歴史に名を残した……水属性の頂と呼ばれた人だって事を)
視線を向けた先には、一匹の青い猫が天井付近の空中に存在した。
(あれだけ大きな爪痕を、あの猫ちゃんが?)
空中を移動していたヒナは、左右に存在する水滴に糸を繋ぎ、その場で再び縦方向に回転した。
次の瞬間、天井に刻まれた爪痕から大量の小さな蒼い球体が生み出され、ヒナに向かって水流が放たれた。
身体を微かに揺らしながら縦回転をしていたヒナは、腹部と背中を掠る位置で降り注ぐ水流を回避してみせた。
「ほう」
(先程と比べ、回転速度が落ちているように見えたのは、水流が自身に降下するまでの時間と速度を考慮しての事か)
思いも寄らない芸当を目にしたオラルセプタは、ヒナの常人離れした身の熟しに、関心するような声を発した。
「次は、こちらの番です」
ブシャァァァア
回転した状態で空の弓から、再び青い糸が左右に二本射出された。
そして、弓柄付近から同時に噴出された水属性によって高速移動を開始した。
「……先程も言った筈じゃ」
そう口にしたオラルセプタは、両手で羊飼いの杖を握り正面の地面を突いた。
「貴様の姿は——」
すると再び円形の青い光が、オラルセプタを煌々と照らした。
「見えておると」
『神々の望むままに』
直後、青い光の中から水属性で構築されたトキが十数羽出現した。
(さっきまで、オラルセプタは私の動きを観察していた。あの鳥さん達の攻撃を、きっと私は避けられない……それなら!)
高速でオラルセプタの周囲を移動していたヒナは、最終的にオラルセプタの正面に移動するように糸を伝いながら矢を構えた。
次の瞬間、出現したトキがヒナを見ると、正面の空間を同時に嘴で突いた。
すると嘴の形状をした水の棘が、過去最高の速度でヒナの元へと接近した。
「正面か——」
既に射撃体勢に移っていたヒナは、トキが自身を見た瞬間には矢に属性を纏わせていた。
『誓いの水』
ヒナが射った矢は、先端から螺旋状の青と碧の二色が混合した水属性を発したまま、水の棘に接近した。
「良い策じゃ」
接近する十数本の棘の中で、最も中央に存在する物に矢が接触した瞬間、圧倒的な属性力の差によって一瞬で砕け散った矢は、周囲の棘に水のマイナス属性を付着させた。
しかし、あまりに大きな属性力の差は水の棘を多少揺らめかせる程度に終わり、ヒナの身体には十数箇所の風穴が開けられた。
「ッ!!!」
片目、左腕、腹部、両脚、両肩等を損傷したヒナを見ていたオラルセプタは、羊飼いの杖を正面に動かし、周囲のトキをヒナの元へと向かわせた。
(避けられぬ事を悟った奴は、最も攻撃の軌道を読み易い正面へと移動した。そして、属性力では妾に敵わぬと考え、自身の属性で的確な位置から差異を与え、軌道を逸らした)
直後、負傷箇所から溢れ出た水のマイナス属性が傷を治癒し始めた。
(奴の行為は、急所への被弾を避ける為だけでは無い。自身の治癒属性を付着させておく事で、被弾箇所の即時認識と治癒を行なう事が出来る)
応急処置を終えたヒナの元に接近したトキ達は、同時にヒナは向けて飛び蹴りを行なった。
ブシャァァァア
同時に、空の弓から青い糸と水属性を噴出したヒナは、素早くトキ達の飛び蹴りを回避し、一羽のトキに付着させた水滴を糸で繋いだ。
(一瞬の迷いが生死を分ける前線で戦う為に、ユカリに頼み込んだ結晶弾での猛特訓が、私の身体を動かしてくれている)
そして、周囲をグルリと一周する事でトキ達を糸で囲うと同時に水属性を噴出し距離を取り、締まった水の輪によってトキは一箇所に固められた。
「さっきの——」
糸がピンと張った状態から一瞬だけ前方へと加速したヒナは、即座に水属性の噴出を中断し右腕を後方へと向けて再び水属性を噴出した。
「お返しですっ!!」
締め付けられていたトキは、一瞬の加速による勢いで前方へと放り投げられた。
そしてヒナは、逆方向に加速した事によって自身よりも前にトキ達が飛ばされる位置に移動していた。
パァァァァン
すると、前方から密かに接近していたハヤブサにトキ達が直撃し、互いに大量の水滴となって辺りに飛び散った。
「この位置なら——」
オラルセプタを正面に見据えたヒナは、空の弓の弦を右手で引いた。
「外さない!」
その瞬間、持ち手からプラスの水属性が溢れ出した。
属性は螺子を巻き、絡み合った複数の水流は一本の矢を形作った。
「避けるつもりなど——」
両手で羊飼いの杖を握ったオラルセプタは、正面の地面を突いた。
「毛頭ない」
すると地面から、巨大な蒼い球体が発生しオラルセプタの全身を包み込んだ。
『全てを洗い流す』
ヒナの射った矢は、螺子巻く水流を纏った状態でオラルセプタへと迫った。
『女王の慈悲』
直後、オラルセプタを包み込んでいた蒼い球体は、正面に向けて巨大な水流を放った。
パァァァァァン
水同士の衝突により周囲の空間を揺らす程の衝撃波が放たれ、謁見の間に存在する支柱を軋ませた。
「無駄な事を……属性力では、妾に勝てぬと——」
「誰も、真っ向勝負するなんて言ってません!」
ヒナの声と共に、オラルセプタの背後から数メートル離れた位置に、両手で握る大鎌を大きく振り被ったルアが突如として姿を現した。
『恋は盲目』
その時、微かに〝ルアの身体が揺らめ〟いた。
そしてルアが大鎌を払った瞬間、刃の部分が霧のように消滅した。
『愛』
合わせ鏡のように現れた複数の大鎌の刃は、オラルセプタの首を囲む様に円状に出現すると、首を刎ねるように引かれた。
「妾が気付かぬとでも?」
オラルセプタは、背後のルアと目を合わせる事なく言葉を発すると、自身を包み込んでいた蒼い球体の中から、勢い良く一匹の青い大型犬が飛び出した。
「ウソッ!?」
一秒にも及ばない時の中で、ルアの間近まで接近し口を開いた大型犬は、ルアの顔目掛けて水流を放った。
「っ!!」
頭部を失ったルアの身体は、大量の血飛沫を周囲に撒き散らした。
身体を左右に揺らしながら数歩前進したルアは、握っていた大鎌を手放し、自身の頭部を探すように両手を頭の存在した場所へと動かした。
そしてオラルセプタの首を斬る寸前だった大鎌の刃は、属性の所有者が致命傷を受けた事により形状の維持が不可能となり、首元へと到達する前に消滅してしまった。
「残念じゃったな」
(……?なんじゃ……この違和感は?)
力無く倒れ込んだルアの身体は、地面と接触すると同時に水飛沫を上げながら弾けた。
「なんじゃとっ!?」
背後で起きた不可思議な出来事に動揺したオラルセプタは、一瞬正面に向けている属性から意識を逸らした。
微かに属性が不安定になった瞬間を見逃さなかったヒナは、全てを洗い流すに全神経を集中させ、女王の慈悲に〝人一人分〟が通れる穴を開けた。
「っ!?」
意識を正面に戻したオラルセプタは、間近に突如として現れた一人の男性の姿を視認した。
男性は左手を後方へと向け、装備された小手から放出された紅蓮の炎によって加速し、女王の慈悲に開いた穴を抜けていた。
そして男性を視認すると同時に、オラルセプタは視界の端で回転しながら飛んで来た大鎌を、右手で捕えるルアの姿も確認していた。
「私の恋は盲目は、別に隠れるだけじゃないんだよね~⭐︎」
女王の慈悲に隠れる位置で属性を使用していたルアは、玉座付近に残された自身の属性を再利用し、オラルセプタの背後に自身の姿を投影する事で意識を逸らした。
(自分自身の姿を属性に映し、偽物を——)
そしてヒナが開けた穴をエムが通過する一瞬の為に、ルアは大鎌に属性を纏わせた状態で回転させながら投げ、オラルセプタの視界内からエムの姿を隠していた。
「終わりだ」
オラルセプタの意識を強引に引き戻すように発せられた言葉と共に、エムは右拳を突き出した。
(この世で一番ムカつく野郎の、一番記憶に残ってやがる最高最悪の一撃で……)
「沈みやがれっ!!!」
『加速する炎熱拳』
燃え盛る炎の拳を、オラルセプタが顔面に受けた瞬間、周囲に残留していた水属性は一瞬で蒸発し、激しい白煙を放った。
ズガァァァァン
そして後方に存在した石造りの玉座にオラルセプタが激突し、爆音と共に周囲に土煙を広げた。
「どうだ?……俺の、好敵手の一撃は……」
息を切らしながら言い放ったエムは、親指を立てながら右拳を前に突き出した。
「腹立つぐれぇ、痛ぇだろ?」
歯を見せるように笑みを浮かべたエムは、上に向けていた親指を下に向けた。
『私の願いに応えてくれるのなら、私は貴女が死の直前まで欲していたモノを与える』
正面の『何も存在していない空間』を静かに見つめていたオラルセプタは、創造の世界で少女から告げられた言葉を思い出していた。
『私の与えるモノで〝気付いて〟』
(心が、揺らいでおる。彼の者の言葉が真であった事を知り、妾は……妾の諦めていたモノを、妾の望む全てを知る事が出来ると、期待しておるのか?)
瞬きをした刹那、瞼の裏に涙を流し微笑む少女を見た。
『貴女は、私とは違う〝運命〟を歩んでいける』
「違う運命……か」
(彼の者は、あの若さで妾と同じ……いや、恐らく妾以上に苦艱しておる)
小さく息を吐いたオラルセプタは、両手で握っていた羊飼いの杖から右手を離した。
(悲しみを押し殺し笑う彼の者を、妾は一人に出来ぬ)
強い意志を秘めた瞳を正面に向けたオラルセプタは、羊飼いの杖の持ち手を前に突き出した。
その瞬間、周囲に存在した動物達が〝音の無い咆哮〟を上げながら動き始めた。
「わぁ♡可愛いけど危ない子達が来るよ~⭐︎」
キラキラと目を輝かせながら、ルアは迫り来る動物達を見つめていた。
「ヒナ、俺達は二人で行動する。次は、絶対に外さねぇ……必ず決めてやる」
「分かりました。二人が攻め込む隙は、私が作って見せます」
会話を終えた二人は、展開される恋は盲目の裏側で同時に頷いた。
「ヒナも、無理しないでね⭐︎」
「はいっ!」
精一杯の気持ちを込めた返事をしたヒナは、地面を強く蹴り恋は盲目から飛び出た。
「人生最後の密談は済んだか?」
直後、ヒナの元へ二匹の青い大型犬が接近した。
「ならば、存分に命費やすと良い」
大型犬が大きく口を開くと、口内から青い閃光が発せられた。
ブシャァァァア
ヒナは閃光を目視すると同時に、空の弓から、青い糸が右方向に一本射出された。
そしてヒナが高速移動で姿を眩ませた直後、大型犬の口から水流が放たれた。
ズガァァァァン
ヒナの背後に存在した壁を轟音と共に破壊した水流は、直撃と共に大量の水滴を周囲に飛散させた。
(……あれは?)
爆風と共に広がる土埃の中に、青く光る物体を視認したヒナは、空の弓からの水属性の噴射を利用し、糸を伝いながら身体を縦方向に回転させ始めた。
そして、回転によって上方向に飛散させた水滴と空の弓繋いだヒナは、その場から勢い良く上昇した。
直後、土埃の中から複数の水流が放たれ、先程までヒナが存在した空間を貫いた。
「やっぱり」
(さっきの鳥さんと違って、ワンちゃんの水流は飛び散った水滴から、蒼い球体を作っているんですね)
弓柄付近から噴出させた水属性で衝撃を軽減しながら天井に右手を突いたヒナは、即座に下方向に存在する水滴に糸を繋いで降下した。
その瞬間、天井にヒナの身長を優に超る五本の大きな爪痕が刻まれた。
「ぎ、ぎりぎりセーフです」
(忘れちゃいけませんね。相手は、歴史に名を残した……水属性の頂と呼ばれた人だって事を)
視線を向けた先には、一匹の青い猫が天井付近の空中に存在した。
(あれだけ大きな爪痕を、あの猫ちゃんが?)
空中を移動していたヒナは、左右に存在する水滴に糸を繋ぎ、その場で再び縦方向に回転した。
次の瞬間、天井に刻まれた爪痕から大量の小さな蒼い球体が生み出され、ヒナに向かって水流が放たれた。
身体を微かに揺らしながら縦回転をしていたヒナは、腹部と背中を掠る位置で降り注ぐ水流を回避してみせた。
「ほう」
(先程と比べ、回転速度が落ちているように見えたのは、水流が自身に降下するまでの時間と速度を考慮しての事か)
思いも寄らない芸当を目にしたオラルセプタは、ヒナの常人離れした身の熟しに、関心するような声を発した。
「次は、こちらの番です」
ブシャァァァア
回転した状態で空の弓から、再び青い糸が左右に二本射出された。
そして、弓柄付近から同時に噴出された水属性によって高速移動を開始した。
「……先程も言った筈じゃ」
そう口にしたオラルセプタは、両手で羊飼いの杖を握り正面の地面を突いた。
「貴様の姿は——」
すると再び円形の青い光が、オラルセプタを煌々と照らした。
「見えておると」
『神々の望むままに』
直後、青い光の中から水属性で構築されたトキが十数羽出現した。
(さっきまで、オラルセプタは私の動きを観察していた。あの鳥さん達の攻撃を、きっと私は避けられない……それなら!)
高速でオラルセプタの周囲を移動していたヒナは、最終的にオラルセプタの正面に移動するように糸を伝いながら矢を構えた。
次の瞬間、出現したトキがヒナを見ると、正面の空間を同時に嘴で突いた。
すると嘴の形状をした水の棘が、過去最高の速度でヒナの元へと接近した。
「正面か——」
既に射撃体勢に移っていたヒナは、トキが自身を見た瞬間には矢に属性を纏わせていた。
『誓いの水』
ヒナが射った矢は、先端から螺旋状の青と碧の二色が混合した水属性を発したまま、水の棘に接近した。
「良い策じゃ」
接近する十数本の棘の中で、最も中央に存在する物に矢が接触した瞬間、圧倒的な属性力の差によって一瞬で砕け散った矢は、周囲の棘に水のマイナス属性を付着させた。
しかし、あまりに大きな属性力の差は水の棘を多少揺らめかせる程度に終わり、ヒナの身体には十数箇所の風穴が開けられた。
「ッ!!!」
片目、左腕、腹部、両脚、両肩等を損傷したヒナを見ていたオラルセプタは、羊飼いの杖を正面に動かし、周囲のトキをヒナの元へと向かわせた。
(避けられぬ事を悟った奴は、最も攻撃の軌道を読み易い正面へと移動した。そして、属性力では妾に敵わぬと考え、自身の属性で的確な位置から差異を与え、軌道を逸らした)
直後、負傷箇所から溢れ出た水のマイナス属性が傷を治癒し始めた。
(奴の行為は、急所への被弾を避ける為だけでは無い。自身の治癒属性を付着させておく事で、被弾箇所の即時認識と治癒を行なう事が出来る)
応急処置を終えたヒナの元に接近したトキ達は、同時にヒナは向けて飛び蹴りを行なった。
ブシャァァァア
同時に、空の弓から青い糸と水属性を噴出したヒナは、素早くトキ達の飛び蹴りを回避し、一羽のトキに付着させた水滴を糸で繋いだ。
(一瞬の迷いが生死を分ける前線で戦う為に、ユカリに頼み込んだ結晶弾での猛特訓が、私の身体を動かしてくれている)
そして、周囲をグルリと一周する事でトキ達を糸で囲うと同時に水属性を噴出し距離を取り、締まった水の輪によってトキは一箇所に固められた。
「さっきの——」
糸がピンと張った状態から一瞬だけ前方へと加速したヒナは、即座に水属性の噴出を中断し右腕を後方へと向けて再び水属性を噴出した。
「お返しですっ!!」
締め付けられていたトキは、一瞬の加速による勢いで前方へと放り投げられた。
そしてヒナは、逆方向に加速した事によって自身よりも前にトキ達が飛ばされる位置に移動していた。
パァァァァン
すると、前方から密かに接近していたハヤブサにトキ達が直撃し、互いに大量の水滴となって辺りに飛び散った。
「この位置なら——」
オラルセプタを正面に見据えたヒナは、空の弓の弦を右手で引いた。
「外さない!」
その瞬間、持ち手からプラスの水属性が溢れ出した。
属性は螺子を巻き、絡み合った複数の水流は一本の矢を形作った。
「避けるつもりなど——」
両手で羊飼いの杖を握ったオラルセプタは、正面の地面を突いた。
「毛頭ない」
すると地面から、巨大な蒼い球体が発生しオラルセプタの全身を包み込んだ。
『全てを洗い流す』
ヒナの射った矢は、螺子巻く水流を纏った状態でオラルセプタへと迫った。
『女王の慈悲』
直後、オラルセプタを包み込んでいた蒼い球体は、正面に向けて巨大な水流を放った。
パァァァァァン
水同士の衝突により周囲の空間を揺らす程の衝撃波が放たれ、謁見の間に存在する支柱を軋ませた。
「無駄な事を……属性力では、妾に勝てぬと——」
「誰も、真っ向勝負するなんて言ってません!」
ヒナの声と共に、オラルセプタの背後から数メートル離れた位置に、両手で握る大鎌を大きく振り被ったルアが突如として姿を現した。
『恋は盲目』
その時、微かに〝ルアの身体が揺らめ〟いた。
そしてルアが大鎌を払った瞬間、刃の部分が霧のように消滅した。
『愛』
合わせ鏡のように現れた複数の大鎌の刃は、オラルセプタの首を囲む様に円状に出現すると、首を刎ねるように引かれた。
「妾が気付かぬとでも?」
オラルセプタは、背後のルアと目を合わせる事なく言葉を発すると、自身を包み込んでいた蒼い球体の中から、勢い良く一匹の青い大型犬が飛び出した。
「ウソッ!?」
一秒にも及ばない時の中で、ルアの間近まで接近し口を開いた大型犬は、ルアの顔目掛けて水流を放った。
「っ!!」
頭部を失ったルアの身体は、大量の血飛沫を周囲に撒き散らした。
身体を左右に揺らしながら数歩前進したルアは、握っていた大鎌を手放し、自身の頭部を探すように両手を頭の存在した場所へと動かした。
そしてオラルセプタの首を斬る寸前だった大鎌の刃は、属性の所有者が致命傷を受けた事により形状の維持が不可能となり、首元へと到達する前に消滅してしまった。
「残念じゃったな」
(……?なんじゃ……この違和感は?)
力無く倒れ込んだルアの身体は、地面と接触すると同時に水飛沫を上げながら弾けた。
「なんじゃとっ!?」
背後で起きた不可思議な出来事に動揺したオラルセプタは、一瞬正面に向けている属性から意識を逸らした。
微かに属性が不安定になった瞬間を見逃さなかったヒナは、全てを洗い流すに全神経を集中させ、女王の慈悲に〝人一人分〟が通れる穴を開けた。
「っ!?」
意識を正面に戻したオラルセプタは、間近に突如として現れた一人の男性の姿を視認した。
男性は左手を後方へと向け、装備された小手から放出された紅蓮の炎によって加速し、女王の慈悲に開いた穴を抜けていた。
そして男性を視認すると同時に、オラルセプタは視界の端で回転しながら飛んで来た大鎌を、右手で捕えるルアの姿も確認していた。
「私の恋は盲目は、別に隠れるだけじゃないんだよね~⭐︎」
女王の慈悲に隠れる位置で属性を使用していたルアは、玉座付近に残された自身の属性を再利用し、オラルセプタの背後に自身の姿を投影する事で意識を逸らした。
(自分自身の姿を属性に映し、偽物を——)
そしてヒナが開けた穴をエムが通過する一瞬の為に、ルアは大鎌に属性を纏わせた状態で回転させながら投げ、オラルセプタの視界内からエムの姿を隠していた。
「終わりだ」
オラルセプタの意識を強引に引き戻すように発せられた言葉と共に、エムは右拳を突き出した。
(この世で一番ムカつく野郎の、一番記憶に残ってやがる最高最悪の一撃で……)
「沈みやがれっ!!!」
『加速する炎熱拳』
燃え盛る炎の拳を、オラルセプタが顔面に受けた瞬間、周囲に残留していた水属性は一瞬で蒸発し、激しい白煙を放った。
ズガァァァァン
そして後方に存在した石造りの玉座にオラルセプタが激突し、爆音と共に周囲に土煙を広げた。
「どうだ?……俺の、好敵手の一撃は……」
息を切らしながら言い放ったエムは、親指を立てながら右拳を前に突き出した。
「腹立つぐれぇ、痛ぇだろ?」
歯を見せるように笑みを浮かべたエムは、上に向けていた親指を下に向けた。
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もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
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「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
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主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
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