創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第3章 光闇の宿命を背負ふ者

第23話 紙一重

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 エジプト拠点 アンラダクシア 謁見の間

『私の願いにこたえてくれるのなら、私は貴女が死の直前まで欲していたモノを与える』

 正面の『何も存在していない空間』を静かに見つめていたオラルセプタは、創造の世界で少女から告げられた言葉を思い出していた。

『私の与えるモノで〝気付いて〟』

 (心が、揺らいでおる。の者の言葉が真であった事を知り、わらわは……妾の諦めていたモノを、妾の望む全てを知る事が出来ると、期待しておるのか?)

 まばたきをした刹那せつなまぶたの裏に涙を流し微笑ほほえむ少女を見た。

貴女あなたは、私とは違う〝運命〟を歩んでいける』

「違う運命……か」

 (の者は、あの若さで妾と同じ……いや、恐らく妾以上に苦艱くかんしておる)

 小さく息を吐いたオラルセプタは、両手で握っていた羊飼いの杖から右手を離した。

 (悲しみを押し殺し笑うの者を、妾は一人に出来ぬ)

 強い意志を秘めた瞳を正面に向けたオラルセプタは、羊飼いの杖の持ち手を前に突き出した。

 その瞬間、周囲に存在した動物達が〝音の無い咆哮ほうこう〟を上げながら動き始めた。

「わぁ♡可愛いけど危ない子達が来るよ~⭐︎」

 キラキラと目を輝かせながら、ルアはせまり来る動物達を見つめていた。

「ヒナ、俺達は二人で行動する。次は、絶対に外さねぇ……必ず決めてやる」

「分かりました。二人が攻め込むすきは、私が作って見せます」

 会話を終えた二人は、展開される恋は盲目ラブ・イズ・ブラインドの裏側で同時にうなずいた。

「ヒナも、無理しないでね⭐︎」

「はいっ!」

 精一杯の気持ちを込めた返事をしたヒナは、地面を強く恋は盲目ラブ・イズ・ブラインドから飛び出た。

「人生最後の密談は済んだか?」

 直後、ヒナの元へ二匹の青い大型犬が接近した。

「ならば、存分に命費いのちついやすと良い」

 大型犬が大きく口を開くと、口内から青い閃光せんこうが発せられた。

 ブシャァァァア

 ヒナは閃光を目視もくしすると同時に、空の弓ランクアンシエルから、青い糸が右方向に一本射出された。

 そしてヒナが高速移動で姿をくらませた直後、大型犬の口から水流が放たれた。

 ズガァァァァン

 ヒナの背後に存在した壁を轟音ごうおんと共に破壊した水流は、直撃と共に大量の水滴すいてきを周囲に飛散させた。

 (……あれは?)

 爆風と共に広がる土埃つちぼこりの中に、青く光る物体を視認したヒナは、空の弓ランクアンシエルからの水属性の噴射を利用し、糸を伝いながら身体を縦方向に回転させ始めた。

 そして、回転によって上方向に飛散させた水滴と空の弓ランクアンシエル繋いだヒナは、その場からいきおい良く上昇した。

 直後、土埃の中から複数の水流が放たれ、先程までヒナが存在した空間をつらぬいた。

「やっぱり」

 (さっきの鳥さんと違って、ワンちゃんの水流は飛び散った水滴から、蒼い球体を作っているんですね)

 弓柄ゆづか付近から噴出ふんしゅつさせた水属性で衝撃を軽減しながら天井に右手を突いたヒナは、即座に下方向に存在する水滴に糸を繋いで降下した。

 その瞬間、天井にヒナの身長を優にこえる五本の大きな爪痕つめあときざまれた。

「ぎ、ぎりぎりセーフです」

 (忘れちゃいけませんね。相手は、歴史に名を残した……水属性のいただきと呼ばれた人だって事を)

 視線を向けた先には、一匹の青い猫が天井付近の空中に存在した。

 (あれだけ大きな爪痕を、あの猫ちゃんが?)

 空中を移動していたヒナは、左右に存在する水滴に糸を繋ぎ、その場で再び縦方向に回転した。

 次の瞬間、天井に刻まれた爪痕から大量の小さな蒼い球体が生み出され、ヒナに向かって水流が放たれた。

 身体をかすかに揺らしながら縦回転をしていたヒナは、腹部と背中をかする位置で降り注ぐ水流を回避してみせた。

「ほう」

 (先程と比べ、回転速度が落ちているように見えたのは、水流が自身に降下するまでの時間と速度を考慮こうりょしての事か)

 思いも寄らない芸当を目にしたオラルセプタは、ヒナの常人離れした身のこなしに、関心するような声を発した。

「次は、こちらの番です」

 ブシャァァァア

 回転した状態で空の弓ランクアンシエルから、再び青い糸が左右に二本射出された。

 そして、弓柄ゆづか付近から同時に噴出された水属性によって高速移動を開始した。

「……先程も言った筈じゃ」

 そう口にしたオラルセプタは、両手で羊飼いの杖を握り正面の地面を突いた。

「貴様の姿は——」

 すると再び円形の青い光が、オラルセプタを煌々こうこうと照らした。

「見えておると」

神々の望むままにインシャーラー

 直後、青い光の中から水属性で構築こうちくされたトキが十数羽じゅうすうわ出現した。

 (さっきまで、オラルセプタは私の動きを観察していた。あの鳥さん達の攻撃を、きっと私はけられない……それなら!)

 高速でオラルセプタの周囲を移動していたヒナは、最終的にオラルセプタの正面に移動するように糸をつたいながら矢を構えた。

 次の瞬間、出現したトキがヒナを見ると、正面の空間を同時にくちばしで突いた。

 すると嘴の形状をした水のとげが、過去最高の速度でヒナの元へと接近した。

「正面か——」

 既に射撃体勢に移っていたヒナは、トキが自身を見た瞬間には矢に属性をまとわせていた。

誓いの水オース・アクア

 ヒナがった矢は、先端から螺旋状らせんじょうの青とみどりの二色が混合した水属性を発したまま、水の棘に接近した。

さくじゃ」

 接近する十数本の棘の中で、最も中央に存在する物に矢が接触した瞬間、圧倒的な属性力の差によって一瞬でくだけ散った矢は、周囲の棘に水のマイナス属性を付着させた。

 しかし、あまりに大きな属性力の差は水の棘を多少らめかせる程度に終わり、ヒナの身体には十数箇所かしょ風穴かざあなが開けられた。

「ッ!!!」

 片目、左腕、腹部、両脚、両肩等を損傷そんしょうしたヒナを見ていたオラルセプタは、羊飼いの杖を正面に動かし、周囲のトキをヒナの元へと向かわせた。

 (避けられぬ事をさとった奴は、最も攻撃の軌道きどうを読みやすい正面へと移動した。そして、属性力では妾にかなわぬと考え、自身の属性で的確な位置から差異さいを与え、軌道をらした)

 直後、負傷箇所ふしょうかしょからあふれ出た水のマイナス属性が傷を治癒し始めた。

 (奴の行為は、急所への被弾を避ける為だけでは無い。自身の治癒属性を付着させておく事で、被弾箇所の即時認識と治癒を行なう事が出来る)

 応急処置を終えたヒナの元に接近したトキ達は、同時にヒナは向けて飛び蹴りを行なった。

 ブシャァァァア

 同時に、空の弓ランクアンシエルから青い糸と水属性を噴出したヒナは、素早くトキ達の飛び蹴りを回避し、一羽のトキに付着させた水滴を糸で繋いだ。

 (一瞬の迷いが生死を分ける前線で戦う為に、ユカリに頼み込んだ結晶弾での猛特訓が、私の身体を動かしてくれている)

 そして、周囲をグルリと一周する事でトキ達を糸で囲うと同時に水属性を噴出し距離を取り、まった水の輪によってトキは一箇所に固められた。

「さっきの——」

 糸がピンと張った状態から一瞬だけ前方へと加速したヒナは、即座に水属性の噴出を中断し右腕を後方へと向けて再び水属性を噴出した。

「お返しですっ!!」

 締め付けられていたトキは、一瞬の加速による勢いで前方へとほおり投げられた。

 そしてヒナは、逆方向に加速した事によって自身よりも前にトキ達が飛ばされる位置に移動していた。

 パァァァァン

 すると、前方から密かに接近していたハヤブサにトキ達が直撃ちょくげきし、たがいに大量の水滴となって辺りに飛び散った。

「この位置なら——」

 オラルセプタを正面に見据みすえたヒナは、空の弓ランクアンシエルつるを右手で引いた。

「外さない!」

 その瞬間、持ち手からプラスの水属性が溢れ出した。

 属性は螺子ねじき、からみ合った複数の水流は一本の矢を形作った。

けるつもりなど——」

 両手で羊飼いの杖を握ったオラルセプタは、正面の地面を突いた。

毛頭もうとうない」

 すると地面から、巨大な蒼い球体が発生しオラルセプタの全身を包み込んだ。

全てを洗い流すセピーネテ・タ・パーダ

 ヒナの射った矢は、螺子巻ねじまく水流をまとった状態でオラルセプタへとせまった。

女王の慈悲ラハマト・アルマリカ

 直後、オラルセプタを包み込んでいた蒼い球体は、正面に向けて巨大な水流を放った。

 パァァァァァン

 水同士の衝突により周囲の空間を揺らす程の衝撃波が放たれ、謁見の間に存在する支柱をきしませた。

「無駄な事を……属性力では、妾に勝てぬと——」

「誰も、真っ向勝負するなんて言ってません!」

 ヒナの声と共に、オラルセプタの背後から数メートル離れた位置に、両手で握る大鎌を大きく振り被ったルアが突如とつじょとして姿を現した。

恋は盲目ラブ・イズ・ブラインド

 その時、かすかに〝ルアの身体が揺らめ〟いた。

 そしてルアが大鎌をはらった瞬間、刃の部分が霧のように消滅した。

ルア

 合わせ鏡のように現れた複数の大鎌の刃は、オラルセプタの首を囲む様に円状に出現すると、首をねるように引かれた。

「妾が気付かぬとでも?」

 オラルセプタは、背後のルアと目を合わせる事なく言葉を発すると、自身を包み込んでいた蒼い球体の中から、勢い良く一匹の青い大型犬が飛び出した。

「ウソッ!?」

 一秒にもおよばない時の中で、ルアの間近まで接近し口を開いた大型犬は、ルアの顔目掛けて水流を放った。

「っ!!」

 頭部を失ったルアの身体は、大量の血飛沫ちしぶきを周囲に撒き散らした。

 身体を左右に揺らしながら数歩前進したルアは、握っていた大鎌を手放し、自身の頭部を探すように両手を頭の存在した場所へと動かした。

 そしてオラルセプタの首を斬る寸前だった大鎌の刃は、属性の所有者が致命傷を受けた事により形状の維持が不可能となり、首元へと到達する前に消滅してしまった。

「残念じゃったな」

 (……?なんじゃ……この違和感は?)

 力無く倒れ込んだルアの身体は、地面と接触すると同時に水飛沫を上げながら弾けた。

「なんじゃとっ!?」

 背後で起きた不可思議ふかしぎな出来事に動揺どうようしたオラルセプタは、一瞬正面に向けている属性から意識を逸らした。

 微かに属性が不安定になった瞬間を見逃さなかったヒナは、全てを洗い流すセピーネテ・タ・パーダに全神経を集中させ、女王の慈悲ラハマト・アルマリカに〝人一人分〟が通れる穴を開けた。

「っ!?」

 意識を正面に戻したオラルセプタは、間近に突如として現れた一人の男性の姿を視認した。

 男性は左手を後方へと向け、装備された小手から放出された紅蓮ぐれんの炎によって加速し、女王の慈悲ラハマト・アルマリカに開いた穴を抜けていた。

 そして男性を視認すると同時に、オラルセプタは視界のはしで回転しながら飛んで来た大鎌を、右手でとらえるルアの姿も確認していた。

「私の恋は盲目ラブ・イズ・ブラインドは、別に隠れるだけじゃないんだよね~⭐︎」

 女王の慈悲ラハマト・アルマリカに隠れる位置で属性を使用していたルアは、玉座付近に残された自身の属性を再利用し、オラルセプタの背後に自身の姿を投影する事で意識を逸らした。

 (自分自身の姿を属性にうつし、偽物を——)

 そしてヒナが開けた穴をエムが通過する一瞬の為に、ルアは大鎌に属性を纏わせた状態で回転させながら投げ、オラルセプタの視界内からエムの姿を隠していた。

「終わりだ」

 オラルセプタの意識を強引に引き戻すように発せられた言葉と共に、エムは右拳を突き出した。

 (この世で一番ムカつく野郎の、一番記憶に残ってやがる最高最悪の一撃で……)

しずみやがれっ!!!」

加速する炎熱拳アクセラレーション・バーニングフィスト

 燃えさかる炎のこぶしを、オラルセプタが顔面に受けた瞬間、周囲に残留ざんりゅうしていた水属性は一瞬で蒸発し、激しい白煙を放った。

 ズガァァァァン

 そして後方に存在した石造りの玉座にオラルセプタが激突し、爆音と共に周囲に土煙を広げた。

「どうだ?……俺の、好敵手ライバルの一撃は……」

 息を切らしながら言い放ったエムは、親指を立てながら右拳を前に突き出した。

「腹立つぐれぇ、いてぇだろ?」

 歯を見せるように笑みを浮かべたエムは、上に向けていた親指を下に向けた。
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