ブラッドリング

サノサトマ

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豪腕の長

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 夜の森の中。
 人工的な明かり一つないこの場所で、完全武装した者達が潜んでいた。
 彼らはフェイズ1の人狼ライカンであり、外見はほぼ変化がない。
 そんな彼らの頭部にはナイトスコープが装備されており、夜でも十分に視界が確保出来ていた。
 道路を挟んだ反対側にも、同様の装備をしている仲間が複数待機している。
 しかも両側とも中央の道路に向かって緩やかな下り坂となっている高所のため、これからその道路にやってくる敵に対して高い位置からの攻撃が出来る。
 集団の中に一人、ロケットランチャーを構えている者が獲物が通るのを待っていた。
 作戦としては、吸血鬼が乗る車の集団がここを通る際に先頭車と最後尾の車を破壊。
 残った敵を場所的優位を確保しながら銃で蜂の巣にする、という手筈だ。
 そうして待っていると、遠くから暗闇の中を照らす車のライトが見えた。
「よし、来やがったなコウモリ野郎共、お前らいいか、あの集団の中に局長がいやがる、絶対仕留めろ、いいな」
 無線で仲間全員に指示を出すと、ロケットランチャーを持った者が狙いを定める。
 どの車に目標である局長が乗っているか分からない。
 運が良ければ先頭と最後尾の車を吹っ飛ばした際に仕留められるが、五台もあれば正解がどれかは不明。
 なので最初の足止め用の攻撃こそ何より重要だった。
 そして、一列に並んだワゴン車の集団が通りすぎようとしたその時、一発目を発射。
 先頭車に命中し、爆破炎上。
 後続の車が止まる中、予定通り最後尾の車も破壊。
 前後を塞がれたワゴン車集団から護衛の吸血鬼達が飛び出すと、すかさず撃ち返してきた。
 堪らずロケットランチャーを持った者は隠れる。
 人間とは違い夜目が効く吸血鬼はすぐに見つけてくるため、悠長に狙いを定められない。
 仕方がなく、ライフル等の銃に持ち替え、木を盾にしながら乱射していく。
 森での銃撃戦は、互いに一歩も譲らない。
 そんな中、後ろから二番目のワゴン車から小さい者が降りてくるのが見えた。
 白い頭巾に白のワンピース。
 手にはナイフ一本のみ。
 なぜ子供が?
 撃ち合いの中、疑問に思いながらも対して驚異になるとは思わなかった。
 だが、それが彼ら人狼達にとっての判断ミスだった。



 護衛の吸血鬼達が森に潜む敵に向かって銃を撃っていく中、白い頭巾の少女メイジーは短距離走の選手の如く走り出した。
 仲間は勿論、敵の人狼達も少女の突発的な行動に一瞬撃つのを止める。
 敵は直ぐ様狙いをメイジーに変えると容赦なく乱射した。
 しかし、吸血鬼特有の身体能力からなる走破力と小柄な身体故に当たらない。
 少女自身は素早く動くと弾に当たりにくいという知識はあまりない。
 むしろ本能的に避けているだけ。
 それも己の命の安全のためではない。
 弾を当てられれば動きにくくなって楽しみにしている狩りが出来なくなるから。
 十代の少女の外見からは想像出来ないような、まるで獲物に迫る豹のような走り。
 顔に受ける風と風切り音を聞きながら十分に距離を詰めると、今度は撃ってくる敵に対して横へ走る。
 いくらメイジーでもただ真っ直ぐ接近すれば当てられやすくなるのは身体で分かっていた。
 なので最初に目に付けた敵に対し、円を描くように近づいていく。
「くそっ、くそが!!」
 中々弾を当てられないことに敵が苛立つが、そんなことなど心底どうでも良かった。
 相手が闇雲に連射したせいで弾切れとなった瞬間、メイジーは軌道を変え突っ込む。
 すれ違いざまに敵の右腕を切ると、その勢いのまま走る。
(あれ、外しちゃった)
 本当は首を切るつもりだったが、飛び掛かりながらの行為だったので外れてしまった。
 しかし、立ち止まっていると他の敵に撃たれるため足を止めることはしない。
 今度は別の敵に狙いを変え、そちらに向かう。
 手順は同じ。
 回りながら、蛇行しながら。
 時には木々を盾にしながら近づき、弾切れとなった瞬間すれ違いざまに切っていく。
 敵からすれば撃ち尽くした瞬間に突っ込んで切ってくる少女は恐怖でしかない。
 そんな状況の中でもメイジーは笑っていた。
 表情だけ見れば鬼ごっこを楽しむ子供だが、行為は非道かつ効率的。
 数的優位を保つ敵集団に対し、少しずつ傷を与えていく姿は狡猾なハンターそのものだった。



 一方、未だ車内に残っていたグレゴリーは一人落胆していた。
(……やはり、こうなるか)
 外での銃撃戦の音など気にも止めていない。
 今、頭の中にある考えは自らの安全よりもメイジーのことだった。
 戦わせれば戦わせるほどあの娘はより戦果を上げてくる。
 血まみれになりながら笑顔で敵を殺したことを報告してくる。
 その度に彼は苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
 対する少女は疑問に思ったような顔をする。
 まるで学校で良いことがあったことを報告した子供が、なぜか親から誉められないのだろうといった表情。
 もしこれがテストでいい点数を取ってきた出来事なら誉めていただろう。
 しかし、やっていることは敵の存在の抹消。
 本来であれば子供やらせるようなことではない。
 虫を虐めるような子供ならではの無垢さと残虐さ、それに加えてメイジー自身の才能と性格が噛み合いより狩人としての腕を上げていく。
 今回もまた、あの娘は多数の敵を切り刻んでいくだろう。
 戦わせず過ごすことなど無理な話だったのか。
「局長! 無事ですか!?」
 敵との戦闘の中でも、部下が車内に残るグレゴリーの身を案じる。
「ああ……」
 ゆっくりと、車から降りると周囲の護衛が叫ぶ。
「局長を撃たせるな!!」
 部下達が弾幕を張るように連射していく。
 静寂とは正反対な状況の中、グレゴリーは前の車体の後部ドアを開けた。
 中にはジュラルミンケースが二つ。
 それぞれ開けると、中には白金色のガントレット。
 それは、通常の物より分厚く頑丈な作りの物だった。
 それ故に重量があるが、彼の筋力の前には問題はない。
 両腕に装着し、拳を握ることで感触を確認する。
「あ、局長!?」
 明らかに戦闘に参加しようとするグレゴリーに部下が驚いた。
「あちらにはメイジーが行っているな、私は反対側の奴らを狩る」
「し、しかし……!?」
「狼狽えるな、私に当てないよう援護しろ」
「は、はい」
 グレゴリーはまるで仁王の如く堂々と立ち、森の中に潜む敵集団を目視で確認。
 試合開始直前のラグビー選手のように姿勢を低くすると、誰からの合図も待たずに森に向かって走り出した。
 身軽なメイジーとは対称的に、一歩一歩力強く、まるで大きな鉄槌で地面を叩いているかのような音を立てながら向かっていく。
 森の中を強引に進む機関車のような存在に敵が気づかないはずがない。
「奴だ!! 撃ち殺せ!!」
 それまでワゴン車の集団に向かって撃っていた人狼達が、走ってくる巨漢に一斉射撃を開始。
 グレゴリーはすぐ両腕のガントレットを盾に銃弾を防ぐ。
 ライフル弾すら弾き、足を止めない彼の力強さに敵は恐怖を覚え、ただひたすら撃ち続ける。
 思考停止した敵など案山子同然であった。
 最初の敵まで手が届く距離まで接近すると、グレゴリーは飛び掛かる獅子の如く両腕を広げ右の拳で殴った。
 走ってきた勢いに加え、彼の体重、筋力からなる強烈な一撃に敵の頭が卵のように潰れる。
「ば、化け物!!」
 二人目が狂乱しながら撃ってくる。
 グレゴリーは左腕のみで胴体と頭部を保護。
 何発か足に当たるが巨体を止めるには足りない。
 一人目と同じように、二人目の敵に接近して頭部を拳の一撃で破壊。
 他の敵からの射撃を何度か受け、防弾性能を有する白いコートが破れてしまうが、彼自身の身体を破壊し動きを止める程ダメージには至らない。
 人間に対しては強力なライフル弾も、数発程度なら耐えられるのが彼の強みだった。
 他の敵の頭を振り下ろした拳で潰し、胴体を殴り胸部の骨を破壊していくただ一人の巨漢を誰も止められない。
 グレゴリーはついに一人で武装集団の片割れを壊滅させる。
「さて……」
 胴体を殴られ激痛に悶えている敵の一人に近づいていく。
 地面に落ちた空き缶でも拾うかのように、まだ対した変化が出来ない人狼の男の頭を掴み、持ち上げた。
「が、ああああああああああ!?」
「そうだ、苦しいだろう? これはお前達が嫌がるプラチナで出来ているからな」
 人狼が苦手とする白金プラチナ
 これに触れると彼らの細胞は壊死していく。
 頭部の細胞が壊死していくのに加えて、グレゴリーの怪力で頭が潰されそうになる激痛に男は叫ぶ。
「楽に死にたいなら話せ、誰が我々の情報を漏らした」
「しっ、知るか!? そんなこと言えるわけねえだろ!!」
「それではまだ苦痛は続くぞ?」
「ああああああああああ!?!?」
 グレゴリーはさらに力を込めていく。
 無論まだ殺す気はない。
 自分達局長クラスの人物の移動ルートの情報を、なぜ人狼達が分かっていたのかを探る必要があった。
 だが、離れた位置にいる生き残りに気がついていない。
 グレゴリーが乱暴に薙ぎ払うように振った拳で吹き飛ばされた一人が、ロケットランチャーに手を伸ばす。
「くた、ばれ……このクソ吸血鬼!!」
「!?」
 後ろからの罵声に気づいたグレゴリーは即座に掴んでいた敵を離し、横へ跳躍した。
 構わず発射されたロケット弾は今しがたグレゴリーが立っていた場所の近くの木に命中。
 至近距離からの爆風に巨体が吹き飛ばされた。
「ぐっ……」
 頑丈さが取り柄とはいえ、まともに当たれば四散は免れなかったロケット弾の爆風に意識が混濁した。
 それは、敵からすれば絶好の好機だった。
「よくも…やってくれたなぁ…」
「ぅ……」
 顎に拳を受けてダウンしたボクサーのように、グレゴリーはまだ立ち上がれない。
 そんな彼の頭部に銃口を向け、勝利を確信した次の瞬間。
 額に穴が開いたのは敵の方だった。
 撃ったのはグレゴリーの部下。
 他の敵がグレゴリーに集中している間に距離を詰めていた。
 幸い爆発の瞬間離れた場所で木を盾にしたため影響はほぼなく、局長の危機をすぐ様救うことが出来た。
「局長、お怪我は?」
「ああ、大したことはない……メイジーの方はどうなった?」
「あちらも終わったようです」
「そうか……」
 敵の生き残りがいなくなってしまったため、情報を聞き出せなくなったことと、メイジーに戦わせてしまった負い目から精神的なダメージの方が大きくなる。
「しかし……」
「ん?」
 部下がメイジーの方を向いて囁く。
「彼女の戦闘力は凄まじいですね、ほぼ援護なし、一人で狩ってしまったのですから」
「ああ……」
「そろそろグレイハウンドの称号を与えても宜しいのでは?」
「それは、私が判断することだ」
「は、申し訳ありません」
 グレゴリーは車へ戻り、残った部下達に指示を出していく。
 不運にも最初の攻撃により死亡した部下の遺体の回収。
 周囲の敵の死骸に関しては、武器のみ回収。
 本来なら回収班を呼ぶのだが、ここはどの局より遠くもうすぐ夜も明けるため呼べない。
 苦渋の選択として、死骸を車の近くに集めて火を付けることで最低限の証拠(死体が人狼であることが分からないようにする)の抹消。
 後に調べにくる警察に武装集団同士の抗争という調査結果を出して貰うことにする。
 現場検証を行う者は知らなくとも、上層部には話が通じる者がいるため、後はどうにでも出来る手筈であった。
 やがて、ほぼ全ての偽装工作が終わるとメイジーが戻ってきた。
「局長、やっぱりもういないみたい」
「そうか……」
 白い服が返り血で赤く染まっている少女に、グレゴリーは悲しそうな表情を見せる。
 それがどういった感情なのか、メイジーには分からなかった。
(いつもそう、なんでいっぱい敵を殺したのにそんな顔するんだろう?)
 なにも言わないまま、車に乗り込む局長と少女。
 激しい戦闘があった場所を後にする車の中で、二人は一切会話をしなかった。
 まるですれ違う親子のような、そんな静かな雰囲気のまま車は帰路につく。
 少女が局長の想いを理解するのには、まだ時間が掛かりそうだった。
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