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一章 学園のヘタレ

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 そんな事を不意に思い出していると、不意にレイトが起き上がる。どうやら外が気になったらしい。窓を開けてしばらく外を眺めている。


「どうかされましたか?」


「いや、少し気分が良くなったからさ」


 十七歳の少年の黒い髪の毛が風で揺れている。少し癖がある彼の髪の毛だが、触ってみると実は指通り自体は良い。そして時々その十七歳という年齢にそぐわない大人びた表情を見せる時があった。そんな表情に心臓が高鳴る。


「雨、降るかもな」


「雨……ですか?」


 おかしな事を言う、そうルーナは思った。外は快晴とまではいかないが青空が広がっており、雨が降り出しそうな雰囲気など微塵も感じない。


「匂いがさ」


「匂い?」


「雨の匂いがするんだ。多分、分からないだろうけど」


 そこから十分も経たない内に、本当に雨が降り出した。


「本当でしたね」


「な? 俺の予想も当たるだろ?」


 少し得意げな表情を浮かべるレイトに、ルーナは笑顔を見せた。普段どちらかというと大人っぽくありたい彼が、こういう時は年相応の表情を覗かせる。


「もう着きますよ」


 馬の手綱を持つ御者が、レイト達に聞こえるようにそう言った。レイトが車窓から身を乗り出すとコザックと書かれた大きな門が見えた。


「レイト様、あまり身を乗り出すと危ないですよ!」


「大丈夫だよこれくらい」


 身を乗り出す彼に、ルーナは少し慌てた様子を見せるが言うことを聞きそうにもない。


「確かにが何個かあるな」


「ドラゴン……ですか?」


「どうだろうな。でも、あの町の中からだ」


 コザックの門は見えたが、まだ数百メートルはある。しかし、魔力感知能力が桁外れのレイトはかなり距離が離れていても感じ取る事が可能だ。


「町の中にドラゴンが!?」


「慌てんな。町の中にドラゴンがいたとすりゃ、もう焼け野原になっててもおかしくない。多分、ドラゴンを一時的にでも退けた奴がいるんだろ」


 彼が冷静でいるという事は、町自体は特に問題はないという事なのだろう。しかし、ドラゴンを退けるだけの力を持つ何者かがいるらしい。


「ドラゴンを退けるなんて、普通の人間じゃ出来ませんよね……?」


「俺以外はな。まぁ、町に行ってみりゃすぐに分かるさ」


 コザックの町の門の前まで馬車に乗ってやって来た二人。馬車から降りると、二人を出迎えるように男女二人が足早に向かって来た。


「あなたは、レイトルバーンのルーナさんですよね?」


「え、ええ。そうですが……」


「私はエレメントシャードに所属しているエクシア。彼は私の上司に当たるダンテと申します」


「あなたのお噂は予々……。確かに美しい方だ」


 実はルーナ、他のギルドから一目置かれた存在である。理由には美しさもあるかも知れないが、彼女自身もかなり剣の腕は立つ。レイトと比べてしまうと大した事はないが、他の団員や他のギルドの団員より強い。


「俺は無視か」


 完全に相手はルーナしか眼中になく、レイトは完全に無視されている状態であったために、ここでレイト本人が不機嫌そうに口を開いた。




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