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執着心 中編
12話
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満緒が手渡してきたのは配達伝票のコピーだった。
「これは何だい?」
「あの女が海外から取り寄せているサプリです。親父の体調が悪くなったのは半年前くらいで、その頃からあいつは親父の体を心配して海外からいろんな健康食品を取り寄せだしたんです。親父は女の言うままにそれを口にしてたけど、正直怖くないですか? そんな得体の知れないもん口にいれるの」
「まぁ、確かに。俺も病院で実物は見たよ」
国内の有名企業が発売しているものなら不安はないのだが、海外製品だとさすがに怖い。成分表も読めなければ、販売元が本当に「本物」を送り付けてきたのかも確認できないからだ。
海外製の健康食品で偽物が出回って、健康被害を受けたという報告は今に始まった話ではない。
俺は満緒から手渡された、伝票を確認してみる。
「あの女が部屋を空けた隙にスマホで伝票を撮影しておきました。本物を持ち出すとバレるから」
「やり方としては間違いないね」
そのスマホの画像をわざわざ印刷して、いつでも俺に手渡せるよう準備していたということか。
俺は送り主や商品名を確かめ、大きくため息をついた。
「なんか分かりましたか? 俺、勉強とかからっきしだめで、英語とか読めないんで。海外からの荷物だってのは分かるんですけど」
「そうだね、アメリカの輸入販売業者の名前が書いてあるようだけど……俺も英語は苦手だからな。でも、これならなんとか読めそうだけど、商品名がちょっとな……」
歯切れの悪い俺の返事に、満緒が敏感に反応した。
「椿さん、なんか分かったんなら教えてください」
満緒は期待するような目で俺を見てくる。
彼はどんな答えを望んでいるのだろうか、俺は仕方なしにありのままを伝えた。
「アメリカの有名な会社の商品を輸入してるようだけど、問題は商品名だな。これはサプリの類ではなく違法薬物に分類されるものだ」
「違法薬物……なんでそんなもん」
満緒は言いかけて、はっと顔を顰める。
「まさか、親父が飲んでる中身はサプリじゃなくて、これと入れ替わってたとか……」
その可能性はある。
胃腸炎というわりには、顔色の悪さ、手の震え、幻覚を見ているかのような夢見心地な表情など、住職には少し不自然な挙動が見受けられた。
「まさかあの女、本当に遺産狙いで親父を殺ろうってのか」
「…………」
俺はなんとも答えようがなく、黙って満緒を見つめた。
満緒は瞳をぎらぎらさせ宙を睨んでいたが、やがて意を決したように俺の腕を取る。
「椿さん、ありがとうございます。なんとなくあの女の手口が見えてきました。俺、何がなんでも親父を守ってみせます」
「そうだね……ご住職は君の大切な父親だ。死なせてはだめだよ」
「もちろんです!」
満緒の決心は固まったようだ。
断固たる意志を覗かせるその顔を見て、俺はもう一度念を押した。
「俺は高校生時代に両親を交通事故で亡くしてるんだ。親のいない悲しみは誰よりも分かるよ、いなくなってから後悔しても遅いからね」
「本当にその通りです。親父には苦労ばかりかけてきました。こんな時くらい俺にできる精一杯の親孝行をやらないと」
「…………」
満緒は力強く頷いた。
その瞳に一点の曇りもなく、彼が本気で父親を守り抜こうと決意したように感じた。
「椿さん、俺、絶対に親父を死なせません」
「……そうだね」
どうかそうであってほしいと、心から願った。
俺は2日分の報酬を受け取り、ポン吉の除霊をすることなく寺を去った。
本来ならここで仕事は終了なのだが、2日分の料金を受け取った割に、時刻はまだ昼過ぎだ。このまま帰宅するよりも、残り半日分の仕事をこなした方が罰も当たらないのではないか、という気になっていた。
俺は帰りにもう一カ所立ち寄りたい場所があったため、そこへ訪問してから今後の方向性を決めようと考えた。
「これは何だい?」
「あの女が海外から取り寄せているサプリです。親父の体調が悪くなったのは半年前くらいで、その頃からあいつは親父の体を心配して海外からいろんな健康食品を取り寄せだしたんです。親父は女の言うままにそれを口にしてたけど、正直怖くないですか? そんな得体の知れないもん口にいれるの」
「まぁ、確かに。俺も病院で実物は見たよ」
国内の有名企業が発売しているものなら不安はないのだが、海外製品だとさすがに怖い。成分表も読めなければ、販売元が本当に「本物」を送り付けてきたのかも確認できないからだ。
海外製の健康食品で偽物が出回って、健康被害を受けたという報告は今に始まった話ではない。
俺は満緒から手渡された、伝票を確認してみる。
「あの女が部屋を空けた隙にスマホで伝票を撮影しておきました。本物を持ち出すとバレるから」
「やり方としては間違いないね」
そのスマホの画像をわざわざ印刷して、いつでも俺に手渡せるよう準備していたということか。
俺は送り主や商品名を確かめ、大きくため息をついた。
「なんか分かりましたか? 俺、勉強とかからっきしだめで、英語とか読めないんで。海外からの荷物だってのは分かるんですけど」
「そうだね、アメリカの輸入販売業者の名前が書いてあるようだけど……俺も英語は苦手だからな。でも、これならなんとか読めそうだけど、商品名がちょっとな……」
歯切れの悪い俺の返事に、満緒が敏感に反応した。
「椿さん、なんか分かったんなら教えてください」
満緒は期待するような目で俺を見てくる。
彼はどんな答えを望んでいるのだろうか、俺は仕方なしにありのままを伝えた。
「アメリカの有名な会社の商品を輸入してるようだけど、問題は商品名だな。これはサプリの類ではなく違法薬物に分類されるものだ」
「違法薬物……なんでそんなもん」
満緒は言いかけて、はっと顔を顰める。
「まさか、親父が飲んでる中身はサプリじゃなくて、これと入れ替わってたとか……」
その可能性はある。
胃腸炎というわりには、顔色の悪さ、手の震え、幻覚を見ているかのような夢見心地な表情など、住職には少し不自然な挙動が見受けられた。
「まさかあの女、本当に遺産狙いで親父を殺ろうってのか」
「…………」
俺はなんとも答えようがなく、黙って満緒を見つめた。
満緒は瞳をぎらぎらさせ宙を睨んでいたが、やがて意を決したように俺の腕を取る。
「椿さん、ありがとうございます。なんとなくあの女の手口が見えてきました。俺、何がなんでも親父を守ってみせます」
「そうだね……ご住職は君の大切な父親だ。死なせてはだめだよ」
「もちろんです!」
満緒の決心は固まったようだ。
断固たる意志を覗かせるその顔を見て、俺はもう一度念を押した。
「俺は高校生時代に両親を交通事故で亡くしてるんだ。親のいない悲しみは誰よりも分かるよ、いなくなってから後悔しても遅いからね」
「本当にその通りです。親父には苦労ばかりかけてきました。こんな時くらい俺にできる精一杯の親孝行をやらないと」
「…………」
満緒は力強く頷いた。
その瞳に一点の曇りもなく、彼が本気で父親を守り抜こうと決意したように感じた。
「椿さん、俺、絶対に親父を死なせません」
「……そうだね」
どうかそうであってほしいと、心から願った。
俺は2日分の報酬を受け取り、ポン吉の除霊をすることなく寺を去った。
本来ならここで仕事は終了なのだが、2日分の料金を受け取った割に、時刻はまだ昼過ぎだ。このまま帰宅するよりも、残り半日分の仕事をこなした方が罰も当たらないのではないか、という気になっていた。
俺は帰りにもう一カ所立ち寄りたい場所があったため、そこへ訪問してから今後の方向性を決めようと考えた。
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