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消えた妹 前編
1話
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お祓い屋として経験してきた事件をまとめて本にしよう、何気なく俺が言った言葉に紗里が大きく反応し、結果的にここまで書き綴ってきた。
俺みたいな奴に小説なんて書けるのかと不安だったが、自伝小説のようなものなので一から話を創作する必要がなく、書き始めてみると意外とスラスラ指が動いた。
語彙の少なさと文章力のなさが問題ではあるが、自費出版として出すレベルなのだから大丈夫だろう。読みたいやつだけ読んでくれればいいという気持ちだ。
せっかくだからと、自伝を書いていることを仕事上で付き合いのあった男に話してみたら、ぜひ協力しましょうと快い返事を貰えた。
しかし、男が言うには俺の書いているものは自伝というより、ただのミステリー、もしくはホラー小説だろうとのこと。
言われてみればそうかもしれない。この本に俺の人生を詰め込んでるわけでもなし、自伝というほど内容の深いものでもない。
俺の中ではノンフィクション小説なのだが、読む人のほとんどはこの物語をフィクションと捉えるだろう。まぁ、それも仕方のないこと。多くの人間が幽霊とは無縁の世界で生活しているのだから。
出版社の男のサポートもあり、軽い気持ちで綴ったこの物語もどうやら日の目を見ることになりそうだ。
本を出すにあたり事件が2つだけでは寂しいので、あとひとつだけエピソードを書き足そうと思う。
今から綴る物語が、自伝書……もといホラー小説最後の話となる。
とある兄と妹の物語だ。
◇ ◇ ◇
――今回の依頼はN県に住む若手実業家からだった。
行方不明になった妹を探してほしい、そんな内容だ。
届いたメールから推測するに、今回はただの家出案件のようだ。俺の出る幕ではないのだが、兄曰く、毎夜妹が泣きながら枕元に立っているのだそうだ。
妹を思うがゆえに現実の話が夢にまで影響を及ぼしているようだが、実際のところこれは霊現象でも何でもない。心労からくる兄の思い込みだろう。
しかし、金払いがいいこともあり俺は二つ返事でOKした。うまくすれば妹の家出先を見つけてやれるかもしれない。大方友達かSNSで知り合った男の家だろうと予想する。
そんなことを考えながら、俺は依頼者の家へ車を走らせた。
俺の住む地域は雪なんて滅多に降らないが、依頼者の住む辺りは毎年車が動かなくなるほど盛大に降り積もることがあるそうだ。
俺は安物の軽自動車にチェーンを装着し、依頼があった天堂家へと向かった。
目的地につく少し前、一旦道の端に車を停めて小さなダンボール箱を開ける。
家を出る前に届いた郵便物を、中身も確かめずにそのまま車に放り込んできた。俺はいそいそとガムテープを剥がし、中から錠剤を取り出した。
これがないと俺の仕事は成り立たない。俺にとっての命の源ともいうべきその薬、今まで何錠胃の中で溶かされてきたことか。
お祓い屋なんてやってるくせに、除霊なんてできない詐欺師。そのくせ、どういうわけか本物の霊が見えてしまう特異体質。そんな俺は日ごろから安定剤を服用し続けている。
高校生の時に両親を交通事故で失い、続けざまに大切に飼っていたウサギが死んだことも相まって精神的に不安定になり、少しの間入院していた時期があった。
その頃から薬が手放せなくなり、体調の良い時はほとんど服用せずとも問題ないのだが、仕事の前だとナーバスになるため飲んでいないと不安になる。
俺は手のひらに数個錠剤をのせ、水なしでそのまま喉に押し込んだ。よし、これで大丈夫。
こんな時に紗里が隣にいてくれたらどんな安定剤よりも効果てきめんなのだが、彼女は半年以上姿を見せていない。
心配になって時々家を訪ねるも、いつもカーテンは閉じられたままだ。チャイムと同時に顔を覗かせる紗里の母親の顔が、日に日にやつれていっている。
俺はそんな彼女の姿を見るのが億劫で、この頃は外から紗里の部屋を眺めるだけにしている。
紗里は俺の中学時代の同級生で、彼女が14歳・中学2年生の頃、誘拐事件に遭いしばらく行方不明だった時期がある。
家族や警察が総出で捜索したが見つからず、諦めにも似た空気が漂っていたが、2年後ひょっこりと道を歩いているところを同級生に発見された。
紗里は行方不明だった間の記憶をなくし、言葉も発せず、廃人のようにふらふらと彷徨っていた。
それから10年以上の時が経つが、紗里の心は回復することもなく家に閉じこもる日々を送っている。
俺がお祓い屋なんて怪しい仕事を始めたのをきっかけに、時折事務所に来てアドバイスをしてくれたりするが、やはり喋ることはない。
紗里の表情や手の動きでなんとなく言葉を理解しているつもりだが、彼女の気持ちにも波があり、元気な時は笑顔を見せるがそうでない時は無表情で壁をじっと見ているだけだ。
彼女に近づいたと思った瞬間、また遠くへ離れてしまう。俺と紗里はそんな微妙な距離感を保ちながら、ここまでやってきたのだ。
今回俺が天堂一志の依頼を受けたのは金払いの良さだけではなく、ふと紗里のことを思い浮かべたからなのだ。
行方不明になった依頼者の妹の年齢は14歳。ちょうど紗里が行方不明になった年齢と同じだった。兄としてはさぞかし胸を痛めていることだろう。
俺みたいな奴に小説なんて書けるのかと不安だったが、自伝小説のようなものなので一から話を創作する必要がなく、書き始めてみると意外とスラスラ指が動いた。
語彙の少なさと文章力のなさが問題ではあるが、自費出版として出すレベルなのだから大丈夫だろう。読みたいやつだけ読んでくれればいいという気持ちだ。
せっかくだからと、自伝を書いていることを仕事上で付き合いのあった男に話してみたら、ぜひ協力しましょうと快い返事を貰えた。
しかし、男が言うには俺の書いているものは自伝というより、ただのミステリー、もしくはホラー小説だろうとのこと。
言われてみればそうかもしれない。この本に俺の人生を詰め込んでるわけでもなし、自伝というほど内容の深いものでもない。
俺の中ではノンフィクション小説なのだが、読む人のほとんどはこの物語をフィクションと捉えるだろう。まぁ、それも仕方のないこと。多くの人間が幽霊とは無縁の世界で生活しているのだから。
出版社の男のサポートもあり、軽い気持ちで綴ったこの物語もどうやら日の目を見ることになりそうだ。
本を出すにあたり事件が2つだけでは寂しいので、あとひとつだけエピソードを書き足そうと思う。
今から綴る物語が、自伝書……もといホラー小説最後の話となる。
とある兄と妹の物語だ。
◇ ◇ ◇
――今回の依頼はN県に住む若手実業家からだった。
行方不明になった妹を探してほしい、そんな内容だ。
届いたメールから推測するに、今回はただの家出案件のようだ。俺の出る幕ではないのだが、兄曰く、毎夜妹が泣きながら枕元に立っているのだそうだ。
妹を思うがゆえに現実の話が夢にまで影響を及ぼしているようだが、実際のところこれは霊現象でも何でもない。心労からくる兄の思い込みだろう。
しかし、金払いがいいこともあり俺は二つ返事でOKした。うまくすれば妹の家出先を見つけてやれるかもしれない。大方友達かSNSで知り合った男の家だろうと予想する。
そんなことを考えながら、俺は依頼者の家へ車を走らせた。
俺の住む地域は雪なんて滅多に降らないが、依頼者の住む辺りは毎年車が動かなくなるほど盛大に降り積もることがあるそうだ。
俺は安物の軽自動車にチェーンを装着し、依頼があった天堂家へと向かった。
目的地につく少し前、一旦道の端に車を停めて小さなダンボール箱を開ける。
家を出る前に届いた郵便物を、中身も確かめずにそのまま車に放り込んできた。俺はいそいそとガムテープを剥がし、中から錠剤を取り出した。
これがないと俺の仕事は成り立たない。俺にとっての命の源ともいうべきその薬、今まで何錠胃の中で溶かされてきたことか。
お祓い屋なんてやってるくせに、除霊なんてできない詐欺師。そのくせ、どういうわけか本物の霊が見えてしまう特異体質。そんな俺は日ごろから安定剤を服用し続けている。
高校生の時に両親を交通事故で失い、続けざまに大切に飼っていたウサギが死んだことも相まって精神的に不安定になり、少しの間入院していた時期があった。
その頃から薬が手放せなくなり、体調の良い時はほとんど服用せずとも問題ないのだが、仕事の前だとナーバスになるため飲んでいないと不安になる。
俺は手のひらに数個錠剤をのせ、水なしでそのまま喉に押し込んだ。よし、これで大丈夫。
こんな時に紗里が隣にいてくれたらどんな安定剤よりも効果てきめんなのだが、彼女は半年以上姿を見せていない。
心配になって時々家を訪ねるも、いつもカーテンは閉じられたままだ。チャイムと同時に顔を覗かせる紗里の母親の顔が、日に日にやつれていっている。
俺はそんな彼女の姿を見るのが億劫で、この頃は外から紗里の部屋を眺めるだけにしている。
紗里は俺の中学時代の同級生で、彼女が14歳・中学2年生の頃、誘拐事件に遭いしばらく行方不明だった時期がある。
家族や警察が総出で捜索したが見つからず、諦めにも似た空気が漂っていたが、2年後ひょっこりと道を歩いているところを同級生に発見された。
紗里は行方不明だった間の記憶をなくし、言葉も発せず、廃人のようにふらふらと彷徨っていた。
それから10年以上の時が経つが、紗里の心は回復することもなく家に閉じこもる日々を送っている。
俺がお祓い屋なんて怪しい仕事を始めたのをきっかけに、時折事務所に来てアドバイスをしてくれたりするが、やはり喋ることはない。
紗里の表情や手の動きでなんとなく言葉を理解しているつもりだが、彼女の気持ちにも波があり、元気な時は笑顔を見せるがそうでない時は無表情で壁をじっと見ているだけだ。
彼女に近づいたと思った瞬間、また遠くへ離れてしまう。俺と紗里はそんな微妙な距離感を保ちながら、ここまでやってきたのだ。
今回俺が天堂一志の依頼を受けたのは金払いの良さだけではなく、ふと紗里のことを思い浮かべたからなのだ。
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