トラワレビト ~お祓い屋・椿風雅の事件簿~

MARU助

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綴じた本・2

10:天堂家の事件

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「最後の事件に関しては、依頼者本人の天堂さんと犯人だと疑われた都筑さんの両方に会いました」

 ここでようやく椿がピクリと肩を動かし反応を見せた。

「お2人はあなたが出版した本の存在を知っていましたよ。2人ともその本の内容に困惑しておられました。なぜだか分かりますか?」
「……さぁ、自分たちの事件が勝手に本に書かれていたからじゃないか」
「ええ、そうです。全くのデタラメとして書かれていたことに驚いてらっしゃいました。あなたには意味が理解できますよね?」

 椿は無言で私の目を見た。
 どこか挑発的なその瞳に立ち向かうように、私はゆっくりと言葉を継いだ。

「あの事件の犯人は依頼者の天堂さんではありません、都筑さんの方です。庭から人間のものらしき頭蓋骨が発見されています。あなたも一緒にその現場を目撃していたでしょう」
「……………」
「どうして天堂さんが庭を掘り返して人骨を見つけたと正直に書かなかったんです。どうして兄が妹を監禁していたなんてありもしない作り話を書き足したんです?」
「…………」

 椿は何も答えない。仕方がないので、こちらから仕掛けることにした。
 私は意を決して、物語の確信をつく。

「なぜなら、最後の事件の境遇があまりにも紗里さんの事件と似ていたからです。だからあなたは都筑さんを犯人として描きたくなかったんです。妹を監禁したのはあくまで兄、都筑さんと妹は愛しあっていた。そう思い込みたかったんです」
「何を言ってるんだか」

 椿は小さく舌打ちして、乱暴にソファーに背中をもたせ掛けた。

 足を小刻みに揺らしているのは薬の副作用なのか、動揺の表れなのか現時点では判断できない。

 しかし、少なからず相手はこの状況に焦りを感じているようで、瞬きが増えてきていた。

「あの事件、本当は都筑さんが罪を告白し、庭から骨の一部が見つかったところで終わったんです。なのになぜ無関係の兄を犯人に仕立てあげたんでしょう。実際に犯人だった都筑さんのことを善人として描き、妹を奪われた哀れな兄に対し、あそこまで執拗な憎悪をみせたのでしょう」
「面白くするためだ」
「だとしても、付け加えられた結末にはあなたの偏った思考が反映されているように見受けられます」

 幼い妹を奪った男に対しては同情的であり、実の兄に対しては妹を軟禁した異常な兄という扱い。
 あまりにも差がありすぎる。

「あなたは天堂家の事件に関わるうち、紗里さんのことを思い出したんじゃないですか。行方不明の妹、そして妹を探す兄、妹を捕まえたかもしれない男。まるで紗里さんとお兄さん、そしてあなたを思い浮かべますよね」
「俺は他人を家に軟禁するような危ない奴じゃない」
「ええ、もちろんそう信じたいです。ですが、最後の物語には実はからくりがありまして」

 私は椿の目を見つめたまま、物語の核に迫った。

「天堂家の事件ですが……実は三宅さんが組み立てた作り話なんです。だから天堂さんも、都筑さんも、そして里佳子さんも存在しません」

 当然ながら庭から見つかった人骨も偽物だ。

 椿は私の言葉に少なからず驚きを覚えたのだろう、瞳をゆらつかせながら顔を上げた。
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