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【14年前から行方不明だった女子中学生、同級生の自宅地下で白骨遺体となって発見!】
【女子中学生を拉致監禁した容疑で、当時の同級生だった男(29)を逮捕】
【死亡した女子高生の兄、1カ月ほど前に交通事故で死亡】
ここ数日は報道番組がセンセーショナルな見出しを用いて、三宅紗里の失踪事件を全国的に報じている。
同級生だった男子生徒の一方的な恋心、つまりストーカーから派生した誘拐事件ということもあり、猟奇的なこの事件はメディアの格好の餌食となった。まだあどけなさの残る三宅紗里の顔は瞬く間に全国に知れ渡った。
それに伴い、彼女を拉致監禁した加害者である椿風雅の人となりも事細かに調べられた。
一般的には理解の及ばない<お祓い屋>という奇妙な職業も注目を集め、マスコミたちは必死になって彼と関わりのあった人物を探し出し、次々とメディアの前に登場させた。
『彼がそんな人間だとは思いもよりませんでした。彼がいたからこそ行方不明だった妻と娘に会えることができたんです。こんな言い方をするのは良くないと分かっていますが、私自身は椿さんに感謝しています』
『仏の声を聞き届ける立場として、自分の家族の問題にかかりっきりで彼の心の闇を救ってさしあげることができなかったことを悔やんでいます』
『俳優業の一環として椿さんの前で不幸な兄を演じましたが、物静かで冷静な方という印象を受けました。とてもそんな恐ろしいことを犯すような雰囲気の方ではありませんでしたよ』
椿風雅に関わった者たちが、皆一様に彼に好印象を抱いたこともあり、そんな男がなぜここまで異常な事件を引き起こしたのか、その落差に視聴者は釘づけになった。
私はリビングで新聞を読みながら、時折テレビに目を向け「あーでもないこーでもない」といい加減な憶測を口にするコメンテーターたちの話に耳を傾けていた。
そしてちょうど弁護士のコメントが終わったあたりで、いつの間にか母・佐和子が目の前のイスに座っていることに気がついた。
「ようやく気付いたのね。さっきから呼んでたのに、テレビに夢中になって私の事なんてどうでもいいのね」
60手前だというのに、いまだに少女のような瑞々しさを放つ彼女は、恨みがましそうな瞳で私を睨みつける。
「ああ、ごめんごめん。母さん、久しぶりだね」
佐和子は私の言葉を無視して、つけっぱなしのテレビに見入り始めた。
「今回の事件、あなたの名前は伏せてもらえたのね」
「ああ、探偵なんて胡散臭い職業が絡んでるなんて警察にとっては迷惑な話だろ。海外じゃあ捜査権が認められることもあるようだけど、日本ではそうはいかないよ」
「本当にそのとおりね」
佐和子は大きくため息をつき、再び憂鬱そうに画面に目を向ける。
「この事件のせいで霊媒師たちの立場が悪くなるわ。胡散臭いだの、詐欺師だの、本当に迷惑ね」
「仕方ないさ、見えないやつには理解できない世界なんだから。本当に必要としている人の助けになれば、それでいいんじゃないか」
その言葉を聞いて、佐和子はおもしろそうに微笑んだ。
「あら、随分大人びたこと言うようになったじゃない」
「いつまで子供扱いしてるんだ。もう34だぞ」
「何言ってんの、まだまだ子供よ。あなたには探偵じゃなく、霊媒師の家業をついでほしいっておばあちゃんもそう言ってるのよ。もう高齢でいつお迎えがきてもおかしくないんだからって」
「またそれか。死んだ後も霊になって説教してきそうだな」
「なんてひどいこというのよ」
佐和子は頬を膨らませたが、本気で怒っている訳ではない。
「それはそうと、あなたいつから椿って子に霊が見えないって気づいたの?」
「本を読んだ時点では判断できなかったさ。久しぶりに本物に会えるかもしれないっていう期待を持ってたんだけど、ものの数分で偽物だって分かったよ」
「どうして?」
「……彼は言ったんだ、ここに紗里はいない、って」
三宅紗里の行方を尋ねた時、椿は「紗里はここにはいない、ここ最近も会っていない」そう断言した。
本人の表情を見るにつけ、嘘は言っていないようだった。
ここで私の期待は萎んでしまった。
椿には真横に立っている紗里の姿が見えなかったのだ。
【女子中学生を拉致監禁した容疑で、当時の同級生だった男(29)を逮捕】
【死亡した女子高生の兄、1カ月ほど前に交通事故で死亡】
ここ数日は報道番組がセンセーショナルな見出しを用いて、三宅紗里の失踪事件を全国的に報じている。
同級生だった男子生徒の一方的な恋心、つまりストーカーから派生した誘拐事件ということもあり、猟奇的なこの事件はメディアの格好の餌食となった。まだあどけなさの残る三宅紗里の顔は瞬く間に全国に知れ渡った。
それに伴い、彼女を拉致監禁した加害者である椿風雅の人となりも事細かに調べられた。
一般的には理解の及ばない<お祓い屋>という奇妙な職業も注目を集め、マスコミたちは必死になって彼と関わりのあった人物を探し出し、次々とメディアの前に登場させた。
『彼がそんな人間だとは思いもよりませんでした。彼がいたからこそ行方不明だった妻と娘に会えることができたんです。こんな言い方をするのは良くないと分かっていますが、私自身は椿さんに感謝しています』
『仏の声を聞き届ける立場として、自分の家族の問題にかかりっきりで彼の心の闇を救ってさしあげることができなかったことを悔やんでいます』
『俳優業の一環として椿さんの前で不幸な兄を演じましたが、物静かで冷静な方という印象を受けました。とてもそんな恐ろしいことを犯すような雰囲気の方ではありませんでしたよ』
椿風雅に関わった者たちが、皆一様に彼に好印象を抱いたこともあり、そんな男がなぜここまで異常な事件を引き起こしたのか、その落差に視聴者は釘づけになった。
私はリビングで新聞を読みながら、時折テレビに目を向け「あーでもないこーでもない」といい加減な憶測を口にするコメンテーターたちの話に耳を傾けていた。
そしてちょうど弁護士のコメントが終わったあたりで、いつの間にか母・佐和子が目の前のイスに座っていることに気がついた。
「ようやく気付いたのね。さっきから呼んでたのに、テレビに夢中になって私の事なんてどうでもいいのね」
60手前だというのに、いまだに少女のような瑞々しさを放つ彼女は、恨みがましそうな瞳で私を睨みつける。
「ああ、ごめんごめん。母さん、久しぶりだね」
佐和子は私の言葉を無視して、つけっぱなしのテレビに見入り始めた。
「今回の事件、あなたの名前は伏せてもらえたのね」
「ああ、探偵なんて胡散臭い職業が絡んでるなんて警察にとっては迷惑な話だろ。海外じゃあ捜査権が認められることもあるようだけど、日本ではそうはいかないよ」
「本当にそのとおりね」
佐和子は大きくため息をつき、再び憂鬱そうに画面に目を向ける。
「この事件のせいで霊媒師たちの立場が悪くなるわ。胡散臭いだの、詐欺師だの、本当に迷惑ね」
「仕方ないさ、見えないやつには理解できない世界なんだから。本当に必要としている人の助けになれば、それでいいんじゃないか」
その言葉を聞いて、佐和子はおもしろそうに微笑んだ。
「あら、随分大人びたこと言うようになったじゃない」
「いつまで子供扱いしてるんだ。もう34だぞ」
「何言ってんの、まだまだ子供よ。あなたには探偵じゃなく、霊媒師の家業をついでほしいっておばあちゃんもそう言ってるのよ。もう高齢でいつお迎えがきてもおかしくないんだからって」
「またそれか。死んだ後も霊になって説教してきそうだな」
「なんてひどいこというのよ」
佐和子は頬を膨らませたが、本気で怒っている訳ではない。
「それはそうと、あなたいつから椿って子に霊が見えないって気づいたの?」
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「どうして?」
「……彼は言ったんだ、ここに紗里はいない、って」
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