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執着心 前編
2話
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キャンバスに椿の花を描こうとして、あまりにも生々しい赤色の絵の具に吐き気をもよおしてしまう。
俺が絵を描かなくなって10年以上経つが、急に思い立って筆をとったのは単純に気分が良かったからだ。珍しく寝起きの良い朝で、窓の外を見れば清々しいほどの快晴、なんとなく気分も良くて、心なしか体も軽い。そんな日は今まで考えもしなかったことに挑戦してみたくなるものだ。
俺は改めてパレットに絞り出した赤い絵の具に目を落とし、大きく身震いする。
今日はすこぶる体調が良いと思っていたのは思い込みだったようだ。
絵の具の色で体調が悪くなるようでは、絵を描くどころの話ではない。この色は、死の色だ、俺には扱えない。
早く安定剤を飲まなければ、どうにかなってしまいそうだ。
画家だった父の背中を追いかけて、自分も絵描きになるものとばかり思っていたが、事務所に飾ってある紗里の肖像画を最後に筆を折ってしまった。
その原因ははっきりしている。
高校生の頃に両親が交通事故で亡くなり、天涯孤独になった衝撃が大きかったのだ。あの事故以来、しばらく学校にも戻れず廃人のような生活を送っていた。
なんとか高校は卒業したものの、両親の思い出が色濃く残る家で生活するのは辛すぎるため、地方の大学に進学した。
卒業後は、色々と心境の変化もあり、結果的に実家に舞い戻ってお祓い屋という謎の商売を始めた。家族と住んでいた家は自宅兼事務所として活用している。
家にお祓い屋の看板を掲げている訳ではないため、近所の人から見れば勝手気ままなプータロー生活と映っているだろう。
だが俺の主戦場は主にインターネットの中にある。
「お祓い屋・椿 風雅」と題したHPを開設し、そこにのこのこひっかかった依頼者から僅かばかりのお金を頂戴するのだ。
今のところ、これでなんとか生活ができている。売れない絵を描いて小銭を稼ぐより、よっぽど実入りの良い仕事だ。
俺は絵に向き合うのを諦めて、新しい依頼がないかとインターネットを立ち上げた。
ビンゴ、さっそく新しいカモが舞い込んでいた。
「どれどれ、どんな依頼なんだ。え~っと……動物の霊を供養してほしい……なるほど、こりゃ簡単そうだな」
亡くなったペットのことが忘れられない飼い主からの依頼だろう。適当に供養したふりをして「あなたのペットは幸せそうな瞳をしていましたよ」と言えば終わる内容だ。
悪霊の類ではないので、1度のお祓いで終える案件だ。そのため実入りは少ないが、依頼者の住所が温泉地で有名なAだったことから、観光がてら訪問するのもいいだろうと目論んだ。
俺は改めて依頼者の住所と名前を確認し「おや」と首を傾げる。
冷やかしなのか、本気なのか、相手の意図が理解できない。
俺が絵を描かなくなって10年以上経つが、急に思い立って筆をとったのは単純に気分が良かったからだ。珍しく寝起きの良い朝で、窓の外を見れば清々しいほどの快晴、なんとなく気分も良くて、心なしか体も軽い。そんな日は今まで考えもしなかったことに挑戦してみたくなるものだ。
俺は改めてパレットに絞り出した赤い絵の具に目を落とし、大きく身震いする。
今日はすこぶる体調が良いと思っていたのは思い込みだったようだ。
絵の具の色で体調が悪くなるようでは、絵を描くどころの話ではない。この色は、死の色だ、俺には扱えない。
早く安定剤を飲まなければ、どうにかなってしまいそうだ。
画家だった父の背中を追いかけて、自分も絵描きになるものとばかり思っていたが、事務所に飾ってある紗里の肖像画を最後に筆を折ってしまった。
その原因ははっきりしている。
高校生の頃に両親が交通事故で亡くなり、天涯孤独になった衝撃が大きかったのだ。あの事故以来、しばらく学校にも戻れず廃人のような生活を送っていた。
なんとか高校は卒業したものの、両親の思い出が色濃く残る家で生活するのは辛すぎるため、地方の大学に進学した。
卒業後は、色々と心境の変化もあり、結果的に実家に舞い戻ってお祓い屋という謎の商売を始めた。家族と住んでいた家は自宅兼事務所として活用している。
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今のところ、これでなんとか生活ができている。売れない絵を描いて小銭を稼ぐより、よっぽど実入りの良い仕事だ。
俺は絵に向き合うのを諦めて、新しい依頼がないかとインターネットを立ち上げた。
ビンゴ、さっそく新しいカモが舞い込んでいた。
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