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綴じた本・3
17:結末
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「まず一つ目、さっきも言いましたが紗里さんをウサギに例え彼女がどういう末路を辿ったのかが暗示してありました。そして二つ目、寺の住職の満緒さんの事件を通じて、あなたの異様な心理状態を知ることができました。欲しいものは親を殺してでも手に入れるという満緒さんの内面に激しく共感していますからね」
「…………」
椿は否定も肯定もしないまま、黙ってカーペットに目を落としたままだ。
「そして3つ目、天堂家の事件を通じてあなたの犯行動機も理解できました」
――俺の勝手な想像かもしれないが、一刻も早く里佳子をこの卑劣な兄の側から切り離し、都筑の元へ向かわせる責任があると感じていた。
――実の兄に一方的な愛情を向けられ、自由に外へ飛び立つこともできない。本当に大好きな相手の側へ行くことができないのだ。
「兄と妹の禁断の恋、それがあなたには許せなかった。あなたは紗里さんを兄から救うという勝手なヒーロー願望によって彼女の人生をめちゃくちゃにしたのです」
膝の上に載せている椿の両手の指先が、白くなっているのが見えた。
顔は無表情だが、内心の不安や苛立ちが隠し切れなくなってきているようだ。
私はそのまま話を続けた。
「そして最後です。殺した人間を押入れに隠したばかりに犯罪の発覚を恐れ家を売ることもできず、執拗なまでにその家を監視し続けた一族の話。これはあなたによく似ていますね」
顔こそ挙げなかったが、椿の肩が小さく動いたように見えた。
「あなたは両親が死んだ後、一旦この家を離れたそうですがまた戻ってきていますね。あなたには、この家を守り続けなければならない理由があるんでしょうか。答えはひとつです、この家に紗里さんがいるからです」
椿の両親の死を知り、憔悴して亡くなった彼女はこの家に留まったままなのだ。
作品の締めくくりにも<このままここにいて、紗里は本当に幸せなのだろうか、自問自答を繰り返している>という表現があるように、彼女はこの家に捕らわれているのだ。
「その場所も見当が付きます。あなたご自身が物語の中で書いてますよね。人はやましいことがあると、無意識にそこに目を向けてしまうと」
椿ははっとして顔を上げる。
私と視線がかち合った瞬間、突然立ち上がって声を上げる。
「もう帰れ、約束の1時間はとうに過ぎた! 出ていけ!」
「いいえ、出ていきません。紗里さんとお兄さんを連れていくまでは出ていきません!」
私はそう言って、椿の横の空間に視線を向ける。
そして見えない誰かに対し大きく頷いてみせた後、何かの動きを辿るように染みの浮き出たカーベットの端を持ちあげた。
「やめろ!」
――長い間カーペットを取り換えていないため、だいぶ薄汚れている。
――新しいものに変えたい気もするのだが、長い間カーペットを捲っていないため、その下がどうなっているか想像するだけで怖気が走る。
椿が長い間カーペットを捲らなかった理由は明白だ。
カーペットの下を覗いてはいけない理由があったからだ。
椿の制止を無視して、私は毟り取るような勢いでカーペットを勢いよく剥いだ。
そこには、地下へと続く小さな扉があった。
「…………」
椿は否定も肯定もしないまま、黙ってカーペットに目を落としたままだ。
「そして3つ目、天堂家の事件を通じてあなたの犯行動機も理解できました」
――俺の勝手な想像かもしれないが、一刻も早く里佳子をこの卑劣な兄の側から切り離し、都筑の元へ向かわせる責任があると感じていた。
――実の兄に一方的な愛情を向けられ、自由に外へ飛び立つこともできない。本当に大好きな相手の側へ行くことができないのだ。
「兄と妹の禁断の恋、それがあなたには許せなかった。あなたは紗里さんを兄から救うという勝手なヒーロー願望によって彼女の人生をめちゃくちゃにしたのです」
膝の上に載せている椿の両手の指先が、白くなっているのが見えた。
顔は無表情だが、内心の不安や苛立ちが隠し切れなくなってきているようだ。
私はそのまま話を続けた。
「そして最後です。殺した人間を押入れに隠したばかりに犯罪の発覚を恐れ家を売ることもできず、執拗なまでにその家を監視し続けた一族の話。これはあなたによく似ていますね」
顔こそ挙げなかったが、椿の肩が小さく動いたように見えた。
「あなたは両親が死んだ後、一旦この家を離れたそうですがまた戻ってきていますね。あなたには、この家を守り続けなければならない理由があるんでしょうか。答えはひとつです、この家に紗里さんがいるからです」
椿の両親の死を知り、憔悴して亡くなった彼女はこの家に留まったままなのだ。
作品の締めくくりにも<このままここにいて、紗里は本当に幸せなのだろうか、自問自答を繰り返している>という表現があるように、彼女はこの家に捕らわれているのだ。
「その場所も見当が付きます。あなたご自身が物語の中で書いてますよね。人はやましいことがあると、無意識にそこに目を向けてしまうと」
椿ははっとして顔を上げる。
私と視線がかち合った瞬間、突然立ち上がって声を上げる。
「もう帰れ、約束の1時間はとうに過ぎた! 出ていけ!」
「いいえ、出ていきません。紗里さんとお兄さんを連れていくまでは出ていきません!」
私はそう言って、椿の横の空間に視線を向ける。
そして見えない誰かに対し大きく頷いてみせた後、何かの動きを辿るように染みの浮き出たカーベットの端を持ちあげた。
「やめろ!」
――長い間カーペットを取り換えていないため、だいぶ薄汚れている。
――新しいものに変えたい気もするのだが、長い間カーペットを捲っていないため、その下がどうなっているか想像するだけで怖気が走る。
椿が長い間カーペットを捲らなかった理由は明白だ。
カーペットの下を覗いてはいけない理由があったからだ。
椿の制止を無視して、私は毟り取るような勢いでカーペットを勢いよく剥いだ。
そこには、地下へと続く小さな扉があった。
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