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バラバラの絆
14話:冷え切った家族
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「フン、なにが『彼の熱心なプロポーズに根負けして22歳で結婚』だよ。脚色して話しやがって。お前から結婚してくれ、って泣きついてきたんだろうが」
「なんですって!」
元樹の言葉を受けて、栄子が勢いよくイスから立ち上がる。と同時に、食卓のお茶がゆらゆら揺れる。
「それを言うならあなただって『昔から愛妻家で有名』ってとこは間違ってるじゃない? あなたが浮気をしない瞬間が1日でもあって?」
「ないな」
ボソッと呟いた長男の勇治に「あんたは黙ってなさい!」と栄子の一括が飛ぶ。
「俺は家族の為に毎日仕事してるんだ。浮気のことでイチイチ言われたくないんだよ」
鬱陶しそうに元樹が耳を塞ぐ。
我慢の限界に達した栄子が、手元の湯飲みを元樹めがけてフルスウィング。間一髪避ける事に成功した元樹だが、床で眠りこけていたあんこがギャンと鳴いた。
当たったのだろうか、と誠が心配そうに机の下を覗く。
ケンジとタキは会話には参加せず、ソファーで呑気にお茶を飲みながら、TV番組に見入っていた。
美園は先輩との未来が脈なしと分かって数日経つが、いまだに脱力感が続いて口を開く気にもならない。
日曜日の楽しい団欒タイムはどこへやら、リビングには陰湿なムードが漂い始めていた。
このタイミングでTVからモデルファミリーのCMが流れはじめ、全員が一斉に大きなため息をついた。
「幸せそうねぇ、あたしたち」
栄子がポツリと漏らす。
確かにその通りだ。映像だけを見れば、どこの代表ファミリーにも負けていない。
「これが見せかけじゃなければ、最高なのにね」
美園の言葉に全員がピクリと反応する。
そう、これはまがい物の家族。モデルファミリーを目指す世良田一家の絆はもはや崩壊寸前。こんな制度がなければ、すぐに離散していたはずだ。
せっかく「家族」になったのだから、離婚する前にモデルファミリーになって7億円をいただいちゃいましょうよ。そんな栄子の一言がキッカケとなって、7年近く前から理想の家族を演じてきた。その努力が報われ、今年ようやく代表権を獲得できたのだ。
「ねぇ、7億円をもらったら、ママ達は離婚するわけ?」
美園の問いかけに、当然といった表情で栄子が頷く。
「規約があって、モデルファミリーになったら3年は離婚できないことになってるの。だけど、あたしは外国に行く予定だから、別居ってことになるかしら」
「外国ってどこへ?」
呆れたように元樹が聞く。
「イタリアにね。友人のツテで輸入会社で働かせてもらう予定なの。イタリア語は得意だし」
栄子は瞳を輝かせて微笑む。
「実は外資系企業の受付嬢をしてた時代に引き抜きがあってね。本当はファッション雑誌の編集部で働くことが決まってたの。だけど、このバカ男と出会ったばっかりに、その夢を諦めて家庭に入ったわけ」
栄子は汚いものを見るような目つきで元樹を睨み、大きくため息をつく。
この年になっても夢が諦めきれなかった栄子は、数年前から少しづつ友人の会社を手伝い始めていた。
「あの頃の元樹さんはエリート街道まっしぐらだったんだけど、今はその会社を首になって三流通販会社勤務。はぁ、うだつがあがらなさすぎて泣けてくるわ」
「三流なわけないだろ、俺が働いてる会社の傘下がミオン紅茶なんだぞ。その縁でCMも決まって、数千万単位の援助があるんだ。贅沢言ってんじゃないぞ」
「三流よ、三流!今度は家族そろって通販番組に出なきゃなんないし。一流芸能人なら絶対やらない仕事よ、通販番組で商品売るなんて! あ~あ、とんでもない男と出会っちゃったわ」
「それはこっちのセリフだ。こっちこそとんでもない貧乏神引き当てた気分だよ」
ボソリと呟いたつもりだろうが、元樹の声はしっかり家族全員の耳に届いていた。
針のような栄子の視線が、容赦なく元樹を突き刺し始めた。
「なんですって!」
元樹の言葉を受けて、栄子が勢いよくイスから立ち上がる。と同時に、食卓のお茶がゆらゆら揺れる。
「それを言うならあなただって『昔から愛妻家で有名』ってとこは間違ってるじゃない? あなたが浮気をしない瞬間が1日でもあって?」
「ないな」
ボソッと呟いた長男の勇治に「あんたは黙ってなさい!」と栄子の一括が飛ぶ。
「俺は家族の為に毎日仕事してるんだ。浮気のことでイチイチ言われたくないんだよ」
鬱陶しそうに元樹が耳を塞ぐ。
我慢の限界に達した栄子が、手元の湯飲みを元樹めがけてフルスウィング。間一髪避ける事に成功した元樹だが、床で眠りこけていたあんこがギャンと鳴いた。
当たったのだろうか、と誠が心配そうに机の下を覗く。
ケンジとタキは会話には参加せず、ソファーで呑気にお茶を飲みながら、TV番組に見入っていた。
美園は先輩との未来が脈なしと分かって数日経つが、いまだに脱力感が続いて口を開く気にもならない。
日曜日の楽しい団欒タイムはどこへやら、リビングには陰湿なムードが漂い始めていた。
このタイミングでTVからモデルファミリーのCMが流れはじめ、全員が一斉に大きなため息をついた。
「幸せそうねぇ、あたしたち」
栄子がポツリと漏らす。
確かにその通りだ。映像だけを見れば、どこの代表ファミリーにも負けていない。
「これが見せかけじゃなければ、最高なのにね」
美園の言葉に全員がピクリと反応する。
そう、これはまがい物の家族。モデルファミリーを目指す世良田一家の絆はもはや崩壊寸前。こんな制度がなければ、すぐに離散していたはずだ。
せっかく「家族」になったのだから、離婚する前にモデルファミリーになって7億円をいただいちゃいましょうよ。そんな栄子の一言がキッカケとなって、7年近く前から理想の家族を演じてきた。その努力が報われ、今年ようやく代表権を獲得できたのだ。
「ねぇ、7億円をもらったら、ママ達は離婚するわけ?」
美園の問いかけに、当然といった表情で栄子が頷く。
「規約があって、モデルファミリーになったら3年は離婚できないことになってるの。だけど、あたしは外国に行く予定だから、別居ってことになるかしら」
「外国ってどこへ?」
呆れたように元樹が聞く。
「イタリアにね。友人のツテで輸入会社で働かせてもらう予定なの。イタリア語は得意だし」
栄子は瞳を輝かせて微笑む。
「実は外資系企業の受付嬢をしてた時代に引き抜きがあってね。本当はファッション雑誌の編集部で働くことが決まってたの。だけど、このバカ男と出会ったばっかりに、その夢を諦めて家庭に入ったわけ」
栄子は汚いものを見るような目つきで元樹を睨み、大きくため息をつく。
この年になっても夢が諦めきれなかった栄子は、数年前から少しづつ友人の会社を手伝い始めていた。
「あの頃の元樹さんはエリート街道まっしぐらだったんだけど、今はその会社を首になって三流通販会社勤務。はぁ、うだつがあがらなさすぎて泣けてくるわ」
「三流なわけないだろ、俺が働いてる会社の傘下がミオン紅茶なんだぞ。その縁でCMも決まって、数千万単位の援助があるんだ。贅沢言ってんじゃないぞ」
「三流よ、三流!今度は家族そろって通販番組に出なきゃなんないし。一流芸能人なら絶対やらない仕事よ、通販番組で商品売るなんて! あ~あ、とんでもない男と出会っちゃったわ」
「それはこっちのセリフだ。こっちこそとんでもない貧乏神引き当てた気分だよ」
ボソリと呟いたつもりだろうが、元樹の声はしっかり家族全員の耳に届いていた。
針のような栄子の視線が、容赦なく元樹を突き刺し始めた。
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