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ユグドリアの王子
33話:キロッス
しおりを挟む夏美はニュース番組のコメンテーターのように、蓄えているユグドリアの情報を美園に伝える。
「今回の来日目的は日本とユグドリア、両国の友好関係の再確認ってのもあるけど《キロッス》の討伐に向けて連携するって話らしいわ」
「きろっす?」
その単語の意味する事を理解できていない美園を前に、夏美から話を引き継いだつかさが説明する。
「2.3年程前からユグドリアに無差別テロを仕掛けてる《キロッス》って組織があるんだ。死人こそ出ていないが、元々平和な国なだけに、住民も怯えてる」
「それで?」
「その《キロッス》のリーダーが日本人らしいってさ」
「日本人?」
統計的にみてそんなたいそれた犯罪を犯す人種じゃないのにね、あたしたちは、と夏美が嘆く。勇治は日本人だってやるときゃやる、と意味不明な返答。
「奴らが日本に潜伏してるって情報があるんだ。恐らくその辺のところで両国での密談があるんだろう」
俺には知ったこっちゃない、というなげやりな口調のつかさを見て、美園は言う。
「それにしてもあんたの情報網って半端ないわね。そんな政治的なことから、あたしたちの個人情報まで。一体どうやって探ってるわけ? やっぱお父さん?」
さらりとつかさの情報源に探りを入れようとする美園。
勇治と夏美も無関心を装いつつも、その実最大限の興味を示している。
「ユグドリアに関してはテレビや新聞を見てれば分かることだ。深夜の討論番組なんかじゃ結構深いところまで議論されてるしな。それにお前らのことに関しては、親父は一切ノータッチ。情報源は親父じゃない」
「じゃあ誰」
つかさは鼻で笑う。
「おいおい、記者がそんな簡単に情報元を明かすと思うのか? 相手との信頼関係があってこその……」
バキッ。
つかさが言い終わらないうちに、夏美の裏拳が彼の後頭部を直撃する。
さすが柔道5段の父親を持つ娘。つかさは直立したまま綺麗にぶっ倒れた。一瞬何が起きたか分からない、という顔をしている。記憶が飛びかけたらしい。
「もう一回殴るわよ」
夏美がすごむと、ようやく事の顛末を理解したつかさは、慌てて後ずさりする。
「ちょ、ちょい待ち。下手したら死ぬぞ。それになんで庄司先輩が殴るんだよ」
「あたしは、世良田一家にお金が入ったら、分け前をもらえる約束をしてるの。欲しいものがたくさんあるんだから。あんたのせいでそれがポカになってみなさいな」
こんな裏拳じゃすまわいわよ、と目が語っていた。
蛇ににらまれた蛙状態のつかさは、ここにきて交換条件を持ってきた。
「じゃあ、別の裏情報でどうだ」
「別の裏情報だと、ほざけ」
問答無用と一蹴する勇治をよそに、つかさは美園に向けて言った。
「謎多き城島九音の極秘情報でどうだ?」
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