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城島先輩
35話:背中
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「……刺青があるって?」
これは傑作だ、と涙を見せながら笑う城島。彼の前で真っ赤になって俯いている美園。この瞬間、彼女の脳裏で進藤つかさ抹殺指令が発令されていた。
「進藤君はすごいね。どこでそんな情報仕入れてきたんだろ」
「いや、あいつの言うことは話半分に聞いとかないと。今回のでそれがよぉく分かりました」
「いやいや、そんなことないよ。彼はかなり真面目に取り組んでるよ。確か中学生時代には、スーパーの偽装牛肉問題に取り組んで、市の報道大賞みたいなものももらってるし。彼の父親はゴシップ専門だけど、進藤君は報道記者を目指してるんじゃないかな」
「まぁ、確かにそんなことは言ってましたけど。ただ、口で言うだけなら誰だってできますからね」
なんだか納得いかない口調で美園は答え、もう一度城島に頭を下げた。
「とにかく、本当に失礼なこと聞いてすいませんでした」
「いやいや、いいよそんなの。誰だって気になるよね、生徒会長がヤクザかもしれないなんて」
「いや、そんな事……」
思ってました……。
思ってしまったから、確認せずにはいられない。聞いてしまったからには気になる。謎を謎のままにしておくのがダメな性格の美園は、放課後、生徒会室に直行して、やんわりと聞いてみたのだ。
先輩って、もしかしてその筋の人ですか、と。
やんわりどころかド直球だ、と気づいたのは発言してからであったが。
穴があったら入りたい心境だ。こんなに優しくて紳士的な人がヤクザだなんて、ありえるはずがないのだ。
普通に考えればすぐにガセだと分かるはずが、つかさの情報収集力の高さを見せ付けられていただけに、ついつい信じてしまった。どう考えたって、信ずるべきはつかさではなく、城島先輩なのだ。
ただミステリアスすぎる彼の私生活に、もしかしたら有力政治家が愛人に産ませた子供かもしれないと想像を働かせたことはある。
表に出てこれない存在だから、両親のことを公表できない。親からたんまりお金をもらい、世間から隠れるようにひっそり生活している。
これはあくまで美園の想像上の設定ではあるが、そういう図式に違和感がないほど城島の私生活には謎が多かった
ひとしきり笑った後、城島は腕を組んでイスに座り直し、何かを考えている。
美園に探るような視線を向けた後、問いかけた。
「ってことは、当然僕の目のことも知ってるよね?」
「目? ああ、はい。それは偶然今日小耳に」
「今日? 君って庄司さんとも仲いいよね。彼女から聞かなかったの? 彼女に目を見られてしまったのって、去年のことだけどなぁ」
「はい。でも夏美さんは人にいいふらすようなことじゃないって、今まで黙ってました。今日話してくれたのだって、進藤のカスが……じゃなくて、進藤君がその情報を知ってたからです。夏美さんからは直接は聞いてません」
ふ~ん、と城島は意外そうな顔を見せた。
「結構派手で噂好きなタイプに見えたんだけど、人って見かけによらないんだね」
確かに。
夏美はああ見えて友情に厚く、情に脆いタイプだ。
「別に隠してたわけじゃないんだけど、って言ったら言い訳になるか」
そう言って、城島は手元にコンタクトケースを引き寄せた。
しばらく俯いて目を触っていた城島が再び顔を上げた時、その瞳の色は確かにいつも見慣れたものとは違っていた。
海の底の深い青。
見るものを不安にさせるほど冷たいその色は、無駄なものを何一つ映さないという強い意志を宿していた。
「綺麗・・・」
美園は思わず呟いた。
フッ、と城島は声を漏らす。
惚けたよう美園の顔を見て、思わず笑いがこみあげたらしい。
「ほんとに?」
「はい。なんかハリウッドスターみたいです。そっちの方が素敵」
でもダメ、そう言って美園はコンタクトケースを城島の手に再び乗せる。
「早くつけてください。これ以上モテてライバルが増えたら困る」
この発言に、城島は再び笑い声をあげる。
「おもしろいな、美園君は。小さい頃は宇宙人だの、気持ち悪いだの、いろいろと言われたから、僕は綺麗だなんて思ったことなかったけど」
「子供は残酷ですからね」
「そうだね。でも残酷なのは子供だけじゃないよ」
そう言った城島の瞳に、ほんの一瞬翳りがさした。
「先輩?」
城島は何かを決心したように、すくと立ち上がると、おもむろに制服のボタンを外しはじめた。
これは傑作だ、と涙を見せながら笑う城島。彼の前で真っ赤になって俯いている美園。この瞬間、彼女の脳裏で進藤つかさ抹殺指令が発令されていた。
「進藤君はすごいね。どこでそんな情報仕入れてきたんだろ」
「いや、あいつの言うことは話半分に聞いとかないと。今回のでそれがよぉく分かりました」
「いやいや、そんなことないよ。彼はかなり真面目に取り組んでるよ。確か中学生時代には、スーパーの偽装牛肉問題に取り組んで、市の報道大賞みたいなものももらってるし。彼の父親はゴシップ専門だけど、進藤君は報道記者を目指してるんじゃないかな」
「まぁ、確かにそんなことは言ってましたけど。ただ、口で言うだけなら誰だってできますからね」
なんだか納得いかない口調で美園は答え、もう一度城島に頭を下げた。
「とにかく、本当に失礼なこと聞いてすいませんでした」
「いやいや、いいよそんなの。誰だって気になるよね、生徒会長がヤクザかもしれないなんて」
「いや、そんな事……」
思ってました……。
思ってしまったから、確認せずにはいられない。聞いてしまったからには気になる。謎を謎のままにしておくのがダメな性格の美園は、放課後、生徒会室に直行して、やんわりと聞いてみたのだ。
先輩って、もしかしてその筋の人ですか、と。
やんわりどころかド直球だ、と気づいたのは発言してからであったが。
穴があったら入りたい心境だ。こんなに優しくて紳士的な人がヤクザだなんて、ありえるはずがないのだ。
普通に考えればすぐにガセだと分かるはずが、つかさの情報収集力の高さを見せ付けられていただけに、ついつい信じてしまった。どう考えたって、信ずるべきはつかさではなく、城島先輩なのだ。
ただミステリアスすぎる彼の私生活に、もしかしたら有力政治家が愛人に産ませた子供かもしれないと想像を働かせたことはある。
表に出てこれない存在だから、両親のことを公表できない。親からたんまりお金をもらい、世間から隠れるようにひっそり生活している。
これはあくまで美園の想像上の設定ではあるが、そういう図式に違和感がないほど城島の私生活には謎が多かった
ひとしきり笑った後、城島は腕を組んでイスに座り直し、何かを考えている。
美園に探るような視線を向けた後、問いかけた。
「ってことは、当然僕の目のことも知ってるよね?」
「目? ああ、はい。それは偶然今日小耳に」
「今日? 君って庄司さんとも仲いいよね。彼女から聞かなかったの? 彼女に目を見られてしまったのって、去年のことだけどなぁ」
「はい。でも夏美さんは人にいいふらすようなことじゃないって、今まで黙ってました。今日話してくれたのだって、進藤のカスが……じゃなくて、進藤君がその情報を知ってたからです。夏美さんからは直接は聞いてません」
ふ~ん、と城島は意外そうな顔を見せた。
「結構派手で噂好きなタイプに見えたんだけど、人って見かけによらないんだね」
確かに。
夏美はああ見えて友情に厚く、情に脆いタイプだ。
「別に隠してたわけじゃないんだけど、って言ったら言い訳になるか」
そう言って、城島は手元にコンタクトケースを引き寄せた。
しばらく俯いて目を触っていた城島が再び顔を上げた時、その瞳の色は確かにいつも見慣れたものとは違っていた。
海の底の深い青。
見るものを不安にさせるほど冷たいその色は、無駄なものを何一つ映さないという強い意志を宿していた。
「綺麗・・・」
美園は思わず呟いた。
フッ、と城島は声を漏らす。
惚けたよう美園の顔を見て、思わず笑いがこみあげたらしい。
「ほんとに?」
「はい。なんかハリウッドスターみたいです。そっちの方が素敵」
でもダメ、そう言って美園はコンタクトケースを城島の手に再び乗せる。
「早くつけてください。これ以上モテてライバルが増えたら困る」
この発言に、城島は再び笑い声をあげる。
「おもしろいな、美園君は。小さい頃は宇宙人だの、気持ち悪いだの、いろいろと言われたから、僕は綺麗だなんて思ったことなかったけど」
「子供は残酷ですからね」
「そうだね。でも残酷なのは子供だけじゃないよ」
そう言った城島の瞳に、ほんの一瞬翳りがさした。
「先輩?」
城島は何かを決心したように、すくと立ち上がると、おもむろに制服のボタンを外しはじめた。
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