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いざ、ユグドリアへ
84話:元樹と進藤仁
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仁はとくに嫌そうな顔もせず、元樹の正面に立つ。
相変わらず人相が悪く、交友関係に絶対に入れたくないようなタイプの男だ。元樹は改めて進藤仁を値踏みした後、ため息を落とす。
「進藤さんにひとつ聞きたいことがあって」
「何ですかな?」
仁は様子のおかしい元樹を見て、マイクを下ろす。
「この前、S企業に勤めたころの部下に偶然再開して、いろいろ聞いたんです。山田っていうやつなんですけどね」
「ほぉ、いろいろ」
仁は興味深そうに片眉を上げる。
「あなたのこと誤解してたのかもしれません。私たち家族を奈落の底に突き落とした悪人だと思ってたんですけど、実はそうじゃないのかもって」
「どういう意味ですかな」
「あなた、私の命を救ってくれたんですね」
突然の言葉に仁は声を上げて笑い出す。
「ハハハ、突然何をおっしゃるんです」
「――パスポートを裁断機に掛けたのもわざとですね」
「いやいや、そんなこともありましたな。あれは本当に申し訳ない、せっかく海外に出張に行く予定だったのにだめになってしまって」
「ええ。そのお陰で命拾いしました」
「命拾い? なんだか物騒な話ですなぁ」
仁はわざとらしく顎をさする。
「あなたがパスポートを刻んだせいで海外に行けなくなりました。でも、もしあのまま海外に行っていれば私は不慮の事故に遭って死んでいたでしょう。会社に全ての罪を着せられて、真実は闇に葬られていた」
「なるほど、怖い話ですな」
元樹の話をのらりくらりと交わし続ける仁だが、これほどの話を聞いても動揺すらしないところを見ると、やはりあの事件のからくりは全て承知だったのだろう。
「あなたがクラブのママさんに渡りを付けてくれたおかげで、彼女が本当のことを証言してくれたんです。違いますか?」
「さぁ、どうだか。あのママさん綺麗だったからなぁ。この人が世間に叩かれるのは可哀そうだと思って、同情的な記事を書いてあげただけですよ。男の下心ってやつです」
「告発会見をセッティングしてくれたのもあなただし、通販会社に就職できるよう口利きをしてくれたのもあなただ。一体どういうことです?」
仁は面倒くさそうに頭を掻いて、
「こっちが聞きたいです。何を勘違いされてるのか知りませんが、あなたの就職はあなた自身の実力です。俺は友人に世良田元樹っていうおもしろい男が会見を開くからテレビを見てみろ、って伝えただけです」
「その友人が、たまたま通販会社の社長だったと」
「ええ、たまたまです。彼はあなたの誠実さに惹かれヘッドハンティングしたんでしょうな」
その言葉を聞いて、元樹は呆れたように笑い声を漏らす。
「あなたは変わった人だ。私みたいな人間を助けて何になるんです」
「なんにも。将来モデルファミリーになる世良田家を取材しようとした過程で、たまたま大きなネタを掴んだ。そこへ飛びついただけですよ」
「そうでしょうか。随分私に肩入れしてくれたように思いますけど」
「ハハハハ、ではこういうことにしませんか。進藤仁は世良田元樹に恋をしてしまったと」
「冗談はやめてください」
息つく暇も与えず元樹は拒絶した。
こんなヤクザみたいな風体の男に思いを寄せられるなんて、心の底からご免こうむりたい。
真顔になった元樹を見て、仁は腹を抱えて笑い出す。
「ハハハ、冗談に決まってるでしょ。俺は根っからの女好きです」
「そうですか。だったら安心しましたけど」
まだぎこちない表情の元樹を前に、ほんの一種生真面目な顔をした仁が照れくさそうに言う。
「あなたたち家族に恩があるんです。だからその恩を返しただけです」
「―――恩?」
元樹が聞き返そうすると、仁はマイクを突き出してそれを避ける。
「ですが、世良田さん。これまでのことで借りた恩は充分に返せたと思うんです。今からは敵同士、こっからは好き勝手に取材させてもらいますから」
挑戦的な目つきで元樹にマイクを突き付ける仁を前に、元樹もニヤリと笑みを浮かべて、
「のぞむところです」
そう答えた。
相変わらず人相が悪く、交友関係に絶対に入れたくないようなタイプの男だ。元樹は改めて進藤仁を値踏みした後、ため息を落とす。
「進藤さんにひとつ聞きたいことがあって」
「何ですかな?」
仁は様子のおかしい元樹を見て、マイクを下ろす。
「この前、S企業に勤めたころの部下に偶然再開して、いろいろ聞いたんです。山田っていうやつなんですけどね」
「ほぉ、いろいろ」
仁は興味深そうに片眉を上げる。
「あなたのこと誤解してたのかもしれません。私たち家族を奈落の底に突き落とした悪人だと思ってたんですけど、実はそうじゃないのかもって」
「どういう意味ですかな」
「あなた、私の命を救ってくれたんですね」
突然の言葉に仁は声を上げて笑い出す。
「ハハハ、突然何をおっしゃるんです」
「――パスポートを裁断機に掛けたのもわざとですね」
「いやいや、そんなこともありましたな。あれは本当に申し訳ない、せっかく海外に出張に行く予定だったのにだめになってしまって」
「ええ。そのお陰で命拾いしました」
「命拾い? なんだか物騒な話ですなぁ」
仁はわざとらしく顎をさする。
「あなたがパスポートを刻んだせいで海外に行けなくなりました。でも、もしあのまま海外に行っていれば私は不慮の事故に遭って死んでいたでしょう。会社に全ての罪を着せられて、真実は闇に葬られていた」
「なるほど、怖い話ですな」
元樹の話をのらりくらりと交わし続ける仁だが、これほどの話を聞いても動揺すらしないところを見ると、やはりあの事件のからくりは全て承知だったのだろう。
「あなたがクラブのママさんに渡りを付けてくれたおかげで、彼女が本当のことを証言してくれたんです。違いますか?」
「さぁ、どうだか。あのママさん綺麗だったからなぁ。この人が世間に叩かれるのは可哀そうだと思って、同情的な記事を書いてあげただけですよ。男の下心ってやつです」
「告発会見をセッティングしてくれたのもあなただし、通販会社に就職できるよう口利きをしてくれたのもあなただ。一体どういうことです?」
仁は面倒くさそうに頭を掻いて、
「こっちが聞きたいです。何を勘違いされてるのか知りませんが、あなたの就職はあなた自身の実力です。俺は友人に世良田元樹っていうおもしろい男が会見を開くからテレビを見てみろ、って伝えただけです」
「その友人が、たまたま通販会社の社長だったと」
「ええ、たまたまです。彼はあなたの誠実さに惹かれヘッドハンティングしたんでしょうな」
その言葉を聞いて、元樹は呆れたように笑い声を漏らす。
「あなたは変わった人だ。私みたいな人間を助けて何になるんです」
「なんにも。将来モデルファミリーになる世良田家を取材しようとした過程で、たまたま大きなネタを掴んだ。そこへ飛びついただけですよ」
「そうでしょうか。随分私に肩入れしてくれたように思いますけど」
「ハハハハ、ではこういうことにしませんか。進藤仁は世良田元樹に恋をしてしまったと」
「冗談はやめてください」
息つく暇も与えず元樹は拒絶した。
こんなヤクザみたいな風体の男に思いを寄せられるなんて、心の底からご免こうむりたい。
真顔になった元樹を見て、仁は腹を抱えて笑い出す。
「ハハハ、冗談に決まってるでしょ。俺は根っからの女好きです」
「そうですか。だったら安心しましたけど」
まだぎこちない表情の元樹を前に、ほんの一種生真面目な顔をした仁が照れくさそうに言う。
「あなたたち家族に恩があるんです。だからその恩を返しただけです」
「―――恩?」
元樹が聞き返そうすると、仁はマイクを突き出してそれを避ける。
「ですが、世良田さん。これまでのことで借りた恩は充分に返せたと思うんです。今からは敵同士、こっからは好き勝手に取材させてもらいますから」
挑戦的な目つきで元樹にマイクを突き付ける仁を前に、元樹もニヤリと笑みを浮かべて、
「のぞむところです」
そう答えた。
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