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ユグドリアに到着
91話:遠く離れたユグドリア
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四方を海に囲まれた小さな島国。
どこをとってもメルヘンチックで、まるで童話の中のお姫さまが住んでいそうな可愛らしい街。
それがユグドリアの第一印象だった。
大きな通りには土産物屋が並び、色とりどりの布や洋服が軒先に陳列されている。
おしゃれなカフェやレストラン、さらに屋台まで並んでおり、通り全体に漂う香ばしい匂いが観光客の鼻をくすぐる。
残念ながら、世良田一家はその景色を堪能する間もなく、空港を降り立ったと同時に厳戒態勢のなか、高級車に乗せられてユグドリア城に運ばれた。
ユグドリアでも王子誘拐未遂事件は大きく報道されており、マスコミや野次馬が大勢詰め掛け空港はパニック状態であった。
車は人垣を抜けるようにパトカーに先導され、ユグドリア城内に辿り着いた。
スモークガラスに加え、黒いカーテンのひかれた車内からは、外の景色を眺めることができない。
美園は観光客向けのパンフレットを眺め、大きくため息をひとつ。一歩外に出ればこの景色に手が届くというのに、それが叶わないのが悔しい。
一家は大人が100人ほど入れそうな大きな部屋に案内され、中央にある備え付けのソファーに腰かけて時間が過ぎるのを待っていた。
トワたちが止まっていたスウィートルームも豪華だったが、この部屋はそれとは格が違った。
高いところにある天井、キラキラのシャンデリア、高級感の漂う調度品、座り心地の良いソファー、そして大きな窓から望むリスベット海。
何もかもが贅沢で、誠のことさえなければ夢見心地の時間を味わえたはずだ。
残念なことに現在一家はギスギスした雰囲気の中で、ソファーに座って互いに目配せを送っていた。
その元凶は栄子だ。
手元のスマホから日本のニュース番組を見ているのだが、漏れ聞こえてくる音声がどれもこれも地獄ようなものだった。
みんな自分から口火を切るのが嫌なため、他の誰かが何か言うのを待っている。けれど、誰も声を発しないため、余計にスマホの音声だけがクリアに聞こえる状態で悪循環を生んでいる。
『元樹さんわぁ、とっても素敵な人なんですぅ』
間延びしたような甘い女の声が流れている。
『世良田さんはよく遊びに来るの?』
とレポーターらしき若い男。
『もちろん。元樹さんわぁリンリンのこと気に入ってくれてて、いっつも指名してくれますぅ』
『へぇ。2人の関係はお店だけ? 外で会うことはない?』
『やだぁ、ないですよぉ。あ、でもたまに同伴はしてくれますぅ』
『あのね、リンリンさん。はっきり確認したいんだけど、大人の関係はないってことだね』
『アハッ、もちろんですぅ。元樹さんわぁ、リンリンの大切なお客様ですぅ』
美園の脳裏に裏モデルファミリーに掲載されていた巨乳女の姿が浮かびあがってくる。おそらく胸の開いた服を着て、インタビューに答えているのだろう。
体の関係はない、と明言してくれたことが一家にとって何よりの救いであった。
しかし、そんな美園達の安堵感を知ってか知らずか、リンリンが素早くとどめを刺しにくる。
『あ、でもぉ元樹さんわぁ、すっごく甘えるのが上手なんですよぉ』
栄子の手元がピクリと動く。
『世良田さんはリンリンさんにどうやって甘えてくるの』
『ツンツンしてきますぅ』
『……ツンツン?』
『はい、こうやっておっぱいをツンツ~ンって。フフフ』
美園たちに映像が見えないのが幸いであった。
両手の人差し指を前に突き出してツンツンを実演しているリンリンの姿を想像するだけで寒気が襲ってくる。元樹のそんな姿を見たくはない。
残念なことに、栄子だけは瞬きもせずにその映像を眺めている。
そして元樹は栄子の横でつま先から氷りついたように微動だにせずに座っている。見開いた目は硬直しており、もはや虫の息状態であった。
できることなら美園と勇治も耳を塞ぎたいが、栄子が音量を大きくして部屋中に聞こえるようにしているため拒否できなかった。
唯一、今回の騒動と無関係のつかさだけが、困ったように頭を掻いてそっぽを向いている。
どこをとってもメルヘンチックで、まるで童話の中のお姫さまが住んでいそうな可愛らしい街。
それがユグドリアの第一印象だった。
大きな通りには土産物屋が並び、色とりどりの布や洋服が軒先に陳列されている。
おしゃれなカフェやレストラン、さらに屋台まで並んでおり、通り全体に漂う香ばしい匂いが観光客の鼻をくすぐる。
残念ながら、世良田一家はその景色を堪能する間もなく、空港を降り立ったと同時に厳戒態勢のなか、高級車に乗せられてユグドリア城に運ばれた。
ユグドリアでも王子誘拐未遂事件は大きく報道されており、マスコミや野次馬が大勢詰め掛け空港はパニック状態であった。
車は人垣を抜けるようにパトカーに先導され、ユグドリア城内に辿り着いた。
スモークガラスに加え、黒いカーテンのひかれた車内からは、外の景色を眺めることができない。
美園は観光客向けのパンフレットを眺め、大きくため息をひとつ。一歩外に出ればこの景色に手が届くというのに、それが叶わないのが悔しい。
一家は大人が100人ほど入れそうな大きな部屋に案内され、中央にある備え付けのソファーに腰かけて時間が過ぎるのを待っていた。
トワたちが止まっていたスウィートルームも豪華だったが、この部屋はそれとは格が違った。
高いところにある天井、キラキラのシャンデリア、高級感の漂う調度品、座り心地の良いソファー、そして大きな窓から望むリスベット海。
何もかもが贅沢で、誠のことさえなければ夢見心地の時間を味わえたはずだ。
残念なことに現在一家はギスギスした雰囲気の中で、ソファーに座って互いに目配せを送っていた。
その元凶は栄子だ。
手元のスマホから日本のニュース番組を見ているのだが、漏れ聞こえてくる音声がどれもこれも地獄ようなものだった。
みんな自分から口火を切るのが嫌なため、他の誰かが何か言うのを待っている。けれど、誰も声を発しないため、余計にスマホの音声だけがクリアに聞こえる状態で悪循環を生んでいる。
『元樹さんわぁ、とっても素敵な人なんですぅ』
間延びしたような甘い女の声が流れている。
『世良田さんはよく遊びに来るの?』
とレポーターらしき若い男。
『もちろん。元樹さんわぁリンリンのこと気に入ってくれてて、いっつも指名してくれますぅ』
『へぇ。2人の関係はお店だけ? 外で会うことはない?』
『やだぁ、ないですよぉ。あ、でもたまに同伴はしてくれますぅ』
『あのね、リンリンさん。はっきり確認したいんだけど、大人の関係はないってことだね』
『アハッ、もちろんですぅ。元樹さんわぁ、リンリンの大切なお客様ですぅ』
美園の脳裏に裏モデルファミリーに掲載されていた巨乳女の姿が浮かびあがってくる。おそらく胸の開いた服を着て、インタビューに答えているのだろう。
体の関係はない、と明言してくれたことが一家にとって何よりの救いであった。
しかし、そんな美園達の安堵感を知ってか知らずか、リンリンが素早くとどめを刺しにくる。
『あ、でもぉ元樹さんわぁ、すっごく甘えるのが上手なんですよぉ』
栄子の手元がピクリと動く。
『世良田さんはリンリンさんにどうやって甘えてくるの』
『ツンツンしてきますぅ』
『……ツンツン?』
『はい、こうやっておっぱいをツンツ~ンって。フフフ』
美園たちに映像が見えないのが幸いであった。
両手の人差し指を前に突き出してツンツンを実演しているリンリンの姿を想像するだけで寒気が襲ってくる。元樹のそんな姿を見たくはない。
残念なことに、栄子だけは瞬きもせずにその映像を眺めている。
そして元樹は栄子の横でつま先から氷りついたように微動だにせずに座っている。見開いた目は硬直しており、もはや虫の息状態であった。
できることなら美園と勇治も耳を塞ぎたいが、栄子が音量を大きくして部屋中に聞こえるようにしているため拒否できなかった。
唯一、今回の騒動と無関係のつかさだけが、困ったように頭を掻いてそっぽを向いている。
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