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近づく二人の距離
98話:城島と誠
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オペラハウスの奥の奥、周りを石壁に囲まれた倉庫のような場所で誠はパソコンを操作していた。
ワンルームほどの部屋を照らす光源は、天井につるされた小さなランタンのみ。
薄暗くジメジメしたこの場所にいると、とても陰鬱な気分になるがそれを紛らわせてくれる存在がパソコンから流れてくる映像だった。
『結婚して子供3人も作っておいて、今更20代の巨乳女にハマってんじゃねぇよ。いっとくけどな、俺とち~たんとの関係はプラトニックなんだ。俺は未来永劫ち~たんだけを愛し続ける。親父みたく浮気なんて絶対しないね!』
『なんだとこのヤロォ』
『皆さん、これをどうお考えでしょうか。これが嘘偽りのないモデルファミリーの姿なのです。理想の家族像? 憧れの一家? 世良田一家を見て本当にそう思いますか?』
お互いの胸倉を掴み合って大騒ぎしている元樹と勇治、呆れたようにそれを眺める栄子と美園、離れた位置でのんびりその様子を観察しているケンジとタキ、我関せずと尻尾を振るあんこ。
誠は世界中に配信されたネットニュースを見て、思わず笑みを漏らす。
「みんなは相変わらずだなぁ」
ほんの数日会っていないだけなのに、今日ほど家族の顔を見たいと思ったことはなかった。
「ホームシックか?」
部屋の空気を凜と揺らす涼し気な声が響く。
「いえ、違います……と言いたいところだけど、どうだろ。やっぱり寂しいかな」
誠は正直に頷く。
城島は優しく微笑んで、誠の隣に腰を降ろす。
今この石壁の倉庫には、城島と誠しかいなかった。
キロッスの他のメンバーたちは情報収集やら、オペラハウスの下調べやらでせわしなく動きまわっている。
少し前まで城島も外にいる仲間たちと連絡を取っていたが、今は少し休憩して煙草を吸っている最中だ。
「さっき、つかさ兄ちゃんから連絡が来ました」
「なんて?」
「<世良田一家完全復活! あいつらお前を取り戻すために7億も捨てる覚悟だぞ>って」
「へぇ」
城島はおもしろそうに目を細めて煙草をくゆらす。
そうして何事かを考えながらゆっくり肺の中に煙を取り込んでいたが、ふと思い立って誠に視線を移す。
「家族に自分は無事だって知らせなくていいのか?」
「大丈夫です。つかさ兄ちゃんとだけはこうやってネットで繋がってるから。それに美園姉ちゃんに城島さんのこと言うとパニックになると思いますよ」
「確かに」
城島を慕っていた美園の姿が思い浮かぶ。
「敵をあざむくにはまず味方から。うちの家族ってバカ正直なところがあるから、僕がキロッスに協力してるって分かったら、うまく立ち回れないと思いますよ」
「そうだろうな」
何度となく流れていた世良田一家の映像を思い起こし、城島は同意した。
誠の言うように嘘で塗り固められた偽装家族だったわけだが、あの家族の形は悪くないと感じた。
「おもしろい家族だな。美園くんがあれだけ健やかに育ったわけも分かった気がするよ」
「それ、本人に言ってあげてください。失神するくらい喜びますよ」
「ハハハ」
2人は顔を近づけて笑い合う。
しばらくして、城島は何かを決心したように煙草を足元の石畳でもみ消すと、懐からmicroSDを取り出し、誠に手渡した。
「……これ、もしものために君が持っててくれないか。俺が失敗した時、これを世間に公表してほしい」
「これは何です?」
「オペラハウスにどんな闇が潜んでいるのか。海難事故だと思われていたユグドリアの王子と王妃が実は暗殺されていたこと。一人の王族が生き残って最期まで戦い抜いたこと。そういった記録だ」
誠は手渡されたmicroSDを落とさないように胸ポケットにしまい込んだが、急に言い知れぬ不安に襲われ始めた。
<俺が失敗した時><最期まで戦い抜いた>
城島の言葉からは最悪の事態を覚悟しているように感じられる。おそらく、自分の命と引き換えにトワを救い出そうと考えているのだろう。
トワ、君にはこんな素敵なお兄さんがいるんだね。
誠は直接トワに届けたい言葉を胸にしまい込み、城島の目を真っすぐ見て断言する。
「城島さんには僕たちがついてるから大丈夫ですよ。僕たちは無敵なんです。だって今、座敷童子が帰ってきてるんですから」
「――座敷童子?」
「はい、座敷童子は僕たち家族にとって幸せの象徴です。それが僕たちの味方についてるんです。だから絶対に大丈夫です」
誠はそう言って城島の手を強く握った。
誠が言わんとしていることが理解できなかった城島だが、絶対に大丈夫、という純粋な言葉が心の励みになった。
「俺たちは大丈夫……そうだな、その通りだな」
そう呟いた城島は、トワの代わりに誠を力強く抱きしめた。
ワンルームほどの部屋を照らす光源は、天井につるされた小さなランタンのみ。
薄暗くジメジメしたこの場所にいると、とても陰鬱な気分になるがそれを紛らわせてくれる存在がパソコンから流れてくる映像だった。
『結婚して子供3人も作っておいて、今更20代の巨乳女にハマってんじゃねぇよ。いっとくけどな、俺とち~たんとの関係はプラトニックなんだ。俺は未来永劫ち~たんだけを愛し続ける。親父みたく浮気なんて絶対しないね!』
『なんだとこのヤロォ』
『皆さん、これをどうお考えでしょうか。これが嘘偽りのないモデルファミリーの姿なのです。理想の家族像? 憧れの一家? 世良田一家を見て本当にそう思いますか?』
お互いの胸倉を掴み合って大騒ぎしている元樹と勇治、呆れたようにそれを眺める栄子と美園、離れた位置でのんびりその様子を観察しているケンジとタキ、我関せずと尻尾を振るあんこ。
誠は世界中に配信されたネットニュースを見て、思わず笑みを漏らす。
「みんなは相変わらずだなぁ」
ほんの数日会っていないだけなのに、今日ほど家族の顔を見たいと思ったことはなかった。
「ホームシックか?」
部屋の空気を凜と揺らす涼し気な声が響く。
「いえ、違います……と言いたいところだけど、どうだろ。やっぱり寂しいかな」
誠は正直に頷く。
城島は優しく微笑んで、誠の隣に腰を降ろす。
今この石壁の倉庫には、城島と誠しかいなかった。
キロッスの他のメンバーたちは情報収集やら、オペラハウスの下調べやらでせわしなく動きまわっている。
少し前まで城島も外にいる仲間たちと連絡を取っていたが、今は少し休憩して煙草を吸っている最中だ。
「さっき、つかさ兄ちゃんから連絡が来ました」
「なんて?」
「<世良田一家完全復活! あいつらお前を取り戻すために7億も捨てる覚悟だぞ>って」
「へぇ」
城島はおもしろそうに目を細めて煙草をくゆらす。
そうして何事かを考えながらゆっくり肺の中に煙を取り込んでいたが、ふと思い立って誠に視線を移す。
「家族に自分は無事だって知らせなくていいのか?」
「大丈夫です。つかさ兄ちゃんとだけはこうやってネットで繋がってるから。それに美園姉ちゃんに城島さんのこと言うとパニックになると思いますよ」
「確かに」
城島を慕っていた美園の姿が思い浮かぶ。
「敵をあざむくにはまず味方から。うちの家族ってバカ正直なところがあるから、僕がキロッスに協力してるって分かったら、うまく立ち回れないと思いますよ」
「そうだろうな」
何度となく流れていた世良田一家の映像を思い起こし、城島は同意した。
誠の言うように嘘で塗り固められた偽装家族だったわけだが、あの家族の形は悪くないと感じた。
「おもしろい家族だな。美園くんがあれだけ健やかに育ったわけも分かった気がするよ」
「それ、本人に言ってあげてください。失神するくらい喜びますよ」
「ハハハ」
2人は顔を近づけて笑い合う。
しばらくして、城島は何かを決心したように煙草を足元の石畳でもみ消すと、懐からmicroSDを取り出し、誠に手渡した。
「……これ、もしものために君が持っててくれないか。俺が失敗した時、これを世間に公表してほしい」
「これは何です?」
「オペラハウスにどんな闇が潜んでいるのか。海難事故だと思われていたユグドリアの王子と王妃が実は暗殺されていたこと。一人の王族が生き残って最期まで戦い抜いたこと。そういった記録だ」
誠は手渡されたmicroSDを落とさないように胸ポケットにしまい込んだが、急に言い知れぬ不安に襲われ始めた。
<俺が失敗した時><最期まで戦い抜いた>
城島の言葉からは最悪の事態を覚悟しているように感じられる。おそらく、自分の命と引き換えにトワを救い出そうと考えているのだろう。
トワ、君にはこんな素敵なお兄さんがいるんだね。
誠は直接トワに届けたい言葉を胸にしまい込み、城島の目を真っすぐ見て断言する。
「城島さんには僕たちがついてるから大丈夫ですよ。僕たちは無敵なんです。だって今、座敷童子が帰ってきてるんですから」
「――座敷童子?」
「はい、座敷童子は僕たち家族にとって幸せの象徴です。それが僕たちの味方についてるんです。だから絶対に大丈夫です」
誠はそう言って城島の手を強く握った。
誠が言わんとしていることが理解できなかった城島だが、絶対に大丈夫、という純粋な言葉が心の励みになった。
「俺たちは大丈夫……そうだな、その通りだな」
そう呟いた城島は、トワの代わりに誠を力強く抱きしめた。
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