125 / 146
野望は絶対阻止!
123話:勇治と美園
しおりを挟む
トワと誠を先頭に歩かせ、その後ろから勇治、美園、つかさが続いた。
目的地の場所は明確ではないが、地下と言うくらいだから下へ向かえばいいだろうと階段を探す。
建物内は広々としていて一見シンプルに見えるが、間取りが複雑であちこちで行き止まりになる構造だった。
「こりゃ、観光客に親切な造りじゃねぇな。入ったものを迷わそうとしてるみたいだし。いよいよ要塞っぽくなってきたな」
勇治がしたり顔で喉を鳴らす。
「僕たち、一度あの奥の方まで走ってみてきますよ」
若さと元気さにかけては勇治たちに引けをとらないトワと誠がそう言って、遠くの方にある階段を指さす。
あそこまで歩いて通行止めだった日には、精神力的に相当のダメージを負うだろう。
日頃から勉強一筋の勇治は体力の限界に近づいていた。できることなら、無駄な動きは避けたいところだ。
「よし、行ってこい」
勇治が犬に命令するように奥を指さすと、トワと誠は元気に走り出していった。
「おいおい、子供だけで危ないだろ」
つかさが慌てて後を追う。
その様子を美園と勇治は「元気だねぇ」と呟いて見送る。実は美園の方の体力もかなりきつい状態だったのだ。
小さくなっていく誠たちの後姿を見守りながら、勇治が美園に声をかける。
「つかさがあさこちゃんだなんて、驚いたね、全く」
「ほんと、でもお兄ちゃんが気付かなかったなんて意外だな」
「どういう意味だ」
「だってめちゃくちゃ気に入ってたじゃん、あさこちゃんのこと。妹のあたしより可愛がってたし」
「バカ言え」
勇治は鼻で笑う。
「バカじゃないし、あたし根にもってんだから。あさこちゃんが来るまではあたしたち仲良しだったのに、あの子が来てから急に冷たくなって、一緒に遊んでくれなくなった」
「ああ、それか。それは……あれだよ」
「あれ?」
「そう、あれ」
言い出しにくそうにまごついていた勇治だが、観念したように話し出す。
「あれだよあれ、恥ずかしかったんだよ」
「何が」
「神社にお菓子もらいに行った日、幽霊に怯えてお前と夏美を置き去りにした挙句、ション便漏らして震えてたなんて、兄としてのプライドがズタボロだったんだよ」
「そんなことあたしは気にしてないのに」
「こっちは気にすんだよ。お前は俺のことヒーローみたいだって友達に自慢してて。なのに肝心な時にお前を置いて逃げたんだから。もう兄貴面なんてできねぇだろ」
「何それ、あたしのこと嫌いになったのかと思ってたけど」
「んなわけねぇだろ、お前は俺にとってたった一人の大事な妹だ」
「お兄ちゃん……」
思いがけない勇治の言葉に、美園の胸はいっぱいになった。こんな出来事がなければ一生聞く機会のなかった勇治の思いに、美園の瞳は潤み始めた。
目的地の場所は明確ではないが、地下と言うくらいだから下へ向かえばいいだろうと階段を探す。
建物内は広々としていて一見シンプルに見えるが、間取りが複雑であちこちで行き止まりになる構造だった。
「こりゃ、観光客に親切な造りじゃねぇな。入ったものを迷わそうとしてるみたいだし。いよいよ要塞っぽくなってきたな」
勇治がしたり顔で喉を鳴らす。
「僕たち、一度あの奥の方まで走ってみてきますよ」
若さと元気さにかけては勇治たちに引けをとらないトワと誠がそう言って、遠くの方にある階段を指さす。
あそこまで歩いて通行止めだった日には、精神力的に相当のダメージを負うだろう。
日頃から勉強一筋の勇治は体力の限界に近づいていた。できることなら、無駄な動きは避けたいところだ。
「よし、行ってこい」
勇治が犬に命令するように奥を指さすと、トワと誠は元気に走り出していった。
「おいおい、子供だけで危ないだろ」
つかさが慌てて後を追う。
その様子を美園と勇治は「元気だねぇ」と呟いて見送る。実は美園の方の体力もかなりきつい状態だったのだ。
小さくなっていく誠たちの後姿を見守りながら、勇治が美園に声をかける。
「つかさがあさこちゃんだなんて、驚いたね、全く」
「ほんと、でもお兄ちゃんが気付かなかったなんて意外だな」
「どういう意味だ」
「だってめちゃくちゃ気に入ってたじゃん、あさこちゃんのこと。妹のあたしより可愛がってたし」
「バカ言え」
勇治は鼻で笑う。
「バカじゃないし、あたし根にもってんだから。あさこちゃんが来るまではあたしたち仲良しだったのに、あの子が来てから急に冷たくなって、一緒に遊んでくれなくなった」
「ああ、それか。それは……あれだよ」
「あれ?」
「そう、あれ」
言い出しにくそうにまごついていた勇治だが、観念したように話し出す。
「あれだよあれ、恥ずかしかったんだよ」
「何が」
「神社にお菓子もらいに行った日、幽霊に怯えてお前と夏美を置き去りにした挙句、ション便漏らして震えてたなんて、兄としてのプライドがズタボロだったんだよ」
「そんなことあたしは気にしてないのに」
「こっちは気にすんだよ。お前は俺のことヒーローみたいだって友達に自慢してて。なのに肝心な時にお前を置いて逃げたんだから。もう兄貴面なんてできねぇだろ」
「何それ、あたしのこと嫌いになったのかと思ってたけど」
「んなわけねぇだろ、お前は俺にとってたった一人の大事な妹だ」
「お兄ちゃん……」
思いがけない勇治の言葉に、美園の胸はいっぱいになった。こんな出来事がなければ一生聞く機会のなかった勇治の思いに、美園の瞳は潤み始めた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる