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最終決戦
136話:赤い糸
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部屋が崩れはじめ、天井や壁から瓦礫が落ちてくる。
「がはっ!」
背後で誰かが苦悶の声をあげた。
見ると壁の一部が落下して、マツムラの下半身を押し潰していた。
マツムラは苦しそうに歯を食いしばり、瓦礫の下から抜け出そうとしている。
それにいち早く飛びついたのは城島だった。
立っているだけでも精一杯の体を必死に動かし、マツムラの元に辿り着くと力を込めて壁を押し退けはじめた。
「貴様……何を」
マツムラは信じられないものを見るような目で、城島を見た。
「つかさ君、美園君、手伝ってくれ」
「え……」
2人は一瞬躊躇したものの、すぐに城島に力を貸した。
「一体何のつもりなんだ」
再びマツムラは問う。
それに対し、城島は強い瞳で言い放った。
「こんな所で死なせてたまるか。生きて、生きてしっかり罪を償うんだ。お前にはその義務がある!」
「…………」
城島の言葉を聞いて、トワも瓦礫に手をかける。
「トワ王子……」
マツムラは驚きを隠せなかった。
「お兄様の言うとおりだ。あなたは生きて罪を償うべきだ」
目に涙を浮かべて必死に瓦礫と向き合う幼い王子を前に、マツムラの邪心は一気に失われていった。
「マツムラには聞きたいことがいっぱいあるんだ。どうして、僕の両親を奪ったのか。どうして核兵器なんか……」
「―――」
トワは必死に涙を堪え、瓦礫と向き合っている。
幼い王子の手が傷だらけになっていく様を見ながら、マツムラはポツリと言葉を落とした。
「――強くなるためだ」
「強くなるためでもしていいことと悪いことがある」
「理想だけじゃ生きていけないんだ、トワ王子。大人になればそれが分かる。いくらユグドリアが平和を望んでも、野心はいつもこの国を狙っている。平和を手に入れるためには、己を守る力が必要だ」
「そんな力……僕はいらないよ」
「お前はアンドレと同じことを言っておる。奴は理想を追い求めた。そして私はその理想を叶えるために裏で手を汚す。それだけのことだ」
マツムラはそう言って、無言で手を動かしている城島を静かに見つめた。
彼もその視線に気づいているが、あえて目をあわせようとはしなかった。
ガガガガ。
また一段と揺れが激しくなる。
マツムラの上に更に瓦礫が降ってくる。
「マツムラ!」
トワは叫ぶ。
「ダメだ。もう無理だ。このままじゃ俺たちまで……。行くぞ」
つかさが城島の肩を叩き、美園の手を引く。
「……でも」
「美園。よく聞け。これ以上ここにいたら、俺たちまで危険なんだ。いいな? 俺はお前の親父にお前のことを託されてるんだ。絶対死なせない」
そう言って、再び美園の手を強く握りしめる。
その時、ふとした違和感を感じ、美園はつかさの手を見る。握られた手の隙間から、赤い血が流れ落ちていた。
それはつかさの指先をポタポタと伝い落ちている。
「つかさ!」
「大丈夫。さっきの傷だ」
「でもすごい血……」
心なしかつかさの顔が青白いように思える。
美園はここにきて初めて恐怖を感じた。
唇を震わせはじめた美園の不安を感じとり、つかさは優しく手を握り直す。
「大丈夫。これは血じゃない。赤い糸だ。見ろ、俺とお前の指同士が糸で繋がってるみたいじゃないか。信じてなかったけど、本当にあったんだな、赤い糸」
「何それ」
「覚えてないか? 学校の中庭で言ってただろ『あたしには、赤い糸で繋がった運命の相手がいる』って」
つかさはわざと美園の口調を真似して、緊張をほぐそうとする。
「覚えてるわよ。それでつかさが言ったよね、俺と誰かの指が繋がってるなんて寒気がするって」
「ああ、言った言った」
そう言って笑うが、つかさの手からは生暖かい血が流れ続けている。
「あたしと繋がってて、寒気がする?」
「いや。むしろ暖ったかい」
「……」
美園は泣き出したい気持ちを必死に堪えた。
「がはっ!」
背後で誰かが苦悶の声をあげた。
見ると壁の一部が落下して、マツムラの下半身を押し潰していた。
マツムラは苦しそうに歯を食いしばり、瓦礫の下から抜け出そうとしている。
それにいち早く飛びついたのは城島だった。
立っているだけでも精一杯の体を必死に動かし、マツムラの元に辿り着くと力を込めて壁を押し退けはじめた。
「貴様……何を」
マツムラは信じられないものを見るような目で、城島を見た。
「つかさ君、美園君、手伝ってくれ」
「え……」
2人は一瞬躊躇したものの、すぐに城島に力を貸した。
「一体何のつもりなんだ」
再びマツムラは問う。
それに対し、城島は強い瞳で言い放った。
「こんな所で死なせてたまるか。生きて、生きてしっかり罪を償うんだ。お前にはその義務がある!」
「…………」
城島の言葉を聞いて、トワも瓦礫に手をかける。
「トワ王子……」
マツムラは驚きを隠せなかった。
「お兄様の言うとおりだ。あなたは生きて罪を償うべきだ」
目に涙を浮かべて必死に瓦礫と向き合う幼い王子を前に、マツムラの邪心は一気に失われていった。
「マツムラには聞きたいことがいっぱいあるんだ。どうして、僕の両親を奪ったのか。どうして核兵器なんか……」
「―――」
トワは必死に涙を堪え、瓦礫と向き合っている。
幼い王子の手が傷だらけになっていく様を見ながら、マツムラはポツリと言葉を落とした。
「――強くなるためだ」
「強くなるためでもしていいことと悪いことがある」
「理想だけじゃ生きていけないんだ、トワ王子。大人になればそれが分かる。いくらユグドリアが平和を望んでも、野心はいつもこの国を狙っている。平和を手に入れるためには、己を守る力が必要だ」
「そんな力……僕はいらないよ」
「お前はアンドレと同じことを言っておる。奴は理想を追い求めた。そして私はその理想を叶えるために裏で手を汚す。それだけのことだ」
マツムラはそう言って、無言で手を動かしている城島を静かに見つめた。
彼もその視線に気づいているが、あえて目をあわせようとはしなかった。
ガガガガ。
また一段と揺れが激しくなる。
マツムラの上に更に瓦礫が降ってくる。
「マツムラ!」
トワは叫ぶ。
「ダメだ。もう無理だ。このままじゃ俺たちまで……。行くぞ」
つかさが城島の肩を叩き、美園の手を引く。
「……でも」
「美園。よく聞け。これ以上ここにいたら、俺たちまで危険なんだ。いいな? 俺はお前の親父にお前のことを託されてるんだ。絶対死なせない」
そう言って、再び美園の手を強く握りしめる。
その時、ふとした違和感を感じ、美園はつかさの手を見る。握られた手の隙間から、赤い血が流れ落ちていた。
それはつかさの指先をポタポタと伝い落ちている。
「つかさ!」
「大丈夫。さっきの傷だ」
「でもすごい血……」
心なしかつかさの顔が青白いように思える。
美園はここにきて初めて恐怖を感じた。
唇を震わせはじめた美園の不安を感じとり、つかさは優しく手を握り直す。
「大丈夫。これは血じゃない。赤い糸だ。見ろ、俺とお前の指同士が糸で繋がってるみたいじゃないか。信じてなかったけど、本当にあったんだな、赤い糸」
「何それ」
「覚えてないか? 学校の中庭で言ってただろ『あたしには、赤い糸で繋がった運命の相手がいる』って」
つかさはわざと美園の口調を真似して、緊張をほぐそうとする。
「覚えてるわよ。それでつかさが言ったよね、俺と誰かの指が繋がってるなんて寒気がするって」
「ああ、言った言った」
そう言って笑うが、つかさの手からは生暖かい血が流れ続けている。
「あたしと繋がってて、寒気がする?」
「いや。むしろ暖ったかい」
「……」
美園は泣き出したい気持ちを必死に堪えた。
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