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2巻
2-3
そうだったのか……
貴族たちの爵位の継承は知っての通り、その子の魔法の資質にかなり左右される。
私なんかはその極端な例だ。
他の貴族にはシルフィール家のような、魔力がない子に印をつけて追放する制度はないけど、第二子や第三子に傑出して魔力の強い子が生まれたら、跡継ぎに指名するなんて話は聞く。
ルイシェン先輩とパイシェン先輩の兄妹も、ルイシェン先輩のほうが魔力が高かったらしい。
パイシェン先輩も十分に跡を継げるぐらいの魔力があったから、継承権は移ってしまったけど。
魔力、血筋、当主としての資質、醜聞、名声、いろんなバランスで貴族の後継者たちは選ばれる。しかし、それは常にその家を継げるだけの最低限の魔力があることが前提とされている。
逆にシルフィール家以外でも魔力がない子は稀に生まれているはずだった。他の家では、それがなかなか表に出てこないのは……――なんて怖い噂もあったりする。
「少なくともここまで王家が続く間に、五回ほど魔力の途絶があったと言われています。王族の方々もなるべく魔力の高い女性を妃に迎えて力を安定させようと試みてるらしいのですが、あまりうまくはいってません……。だから十三騎士という制度で、この国の安定を得ようとしています」
ソフィアちゃんの話では、今の国王陛下は子爵位の人と同じ程度の魔力らしい。
第一王子もそれと同じ程度。
第二王子は一番才能があり、伯爵位ぐらいの素養があるという。
第三王子のアルセルさまは、ちょっと弱めで男爵位クラス。貴族としてはぎりぎりの魔力だそうだ。
あとお姫さまもいるんだけど、あんまり魔力はないんだとか。
ソフィアちゃんはいつもと違う、ちょっと大人びた表情をして言う。
「そんな王家の在り方に疑問を抱く者もいます。でも私は今の王家の方々を支持します。貴族が己が力を重視し、権益を確保するこの国で、王家の方までもが力をその地位の基準にしてしまったら、すべてが力に支配される国になってしまいます。力ではなくその資質によって国を治める。そんな王家があるからこそ、この国は安定していられるんです。それを守るために十三騎士だけじゃなく、私たち風の一族がいます」
それはたぶん、ソフィアちゃんのシルウェストレと呼ばれる側面なのだろうと思う。シルフィール公爵家を頂点として、『王家の盾』と呼ばれる六つの家の人間たち。
ソフィアちゃんはそこまで話して、はっとしたように私を見る。
「すみません、エトワさまにはご不快な話でしたよね……」
たぶんきっと、額の印のことを言ってるのだろう。
私はいやいやと首を振る。
「ソフィアちゃんや、あのユーゼルさまが治めてくれる国なら、私も安心して暮らせるよ」
うんうん、平民になっても安心だ。
ソフィアちゃんはそれを聞くと、少し寂しそうな顔をした。
十五歳になったら、ソフィアちゃんと私は別の道を歩まなければならない。
「十五歳を過ぎても、ずっと友達でいてね? いろいろ忙しいかもしれないけど、たまには遊ぼうね」
でも私の言葉でソフィアちゃんはすぐに笑顔を取り戻した。
「は、はい! 私のほうこそ。絶対、絶対ですよ!」
第二章 生徒会選挙
エントランス・パーティーから一ヶ月ぐらいが経った。
桜貴会の人とも結構仲良くなれた感じの今日このごろだ。
そんなある日のお昼休み、桜貴会の館に行くと、パイシェン先輩がなんか書類をひたすら書いてた。
「なんですか? それ」
私がたずねると、パイシェン先輩が顔を上げる。
「生徒会長の立候補のための申請書よ」
「先輩が、せいとかいちょー!?」
パイシェン先輩がすっと立ち上がり、私の頬をつまみ上げる。
「しぇ、しぇんぱい……まだ何も言ってません……」
無実だ。変なこと言うつもりなんてなかったよ。本当だよ。
「普段の言動よ」
パイシェン先輩は私の頬を放すと、ちょっと疲れたように自分の肩を叩く。
「お兄さまがいなくなって、生徒会長の席が空席になっていたのよ。今は副会長が代理をしてくれているけど、そろそろ次を決めないとって話になってね」
「でもパイシェン先輩って三年生ですよね」
普通、生徒会長って最上級生がやるものではないだろうか。
「私はニンフィーユ侯爵家の娘よ。現状、小等部では侯爵家が最上位の家格。その中で一番の年長者は私。だから私が生徒をまとめていかないといけないの」
なるほど~。貴族の学校では年齢だけでなく、身分も考慮して生徒会長を決めるらしい。私の学年だとソフィアちゃんたちの誰かが生徒会長をやるのかもしれない。
身分社会の極致だと言えるかもしれないけど、パイシェン先輩を見ると、やるほうもやるほうで大変そうだ。
私も先輩を応援することにする。
「私も先輩に一票入れますよ! あと、手伝えることがあるならなんでも言ってください!」
ぐっと力こぶを作ってみせる。ぺらぺらの腕が、棒のまま折れ曲がっただけだけど。
「ありがと。でも別に心配することはないわ。どうせ立候補するのは私だけだもの。だから、この書類を仕上げれば、この件は終わりよ」
「なるほど~」
貴族社会は空気の読み合いだ。
パイシェン先輩が出る以上、それより身分の低い子たちは立候補しないのだろう。先輩は、水の派閥のナンバー2といわれる家の次期当主なのだ。わざわざ波風立てたいと思う貴族のほうが珍しいのかも。
* * *
そして生徒会長選挙、立候補者の公示日。
掲示板には二つの名前が並んでいた。
パイシェン・ニンフィーユ。プラチナクラス三年。
クレノ・ルスタ。ゴールドクラス五年。
貼り出された紙を見て、生徒たちが騒ぎ出す。
「まさかパイシェンさまを相手に立候補する者がいるなんて……」
「クレノ・ルスタ、いったい誰なんだ? 聞いたことがないぞ?」
「侯爵家の方が出るのに立候補するということは、それなりの身分の方?」
「私、知ってるわ。平民出身の男子生徒よ!」
「へ、平民が生徒会長に立候補!?」
そこにパイシェン先輩がやってくる。
高貴な者が纏うオーラとかがあるのか、その姿を見ると誰もが道を譲った。
掲示板の前にやってきたパイシェン先輩は、二つの名前が書かれた紙をじっと見つめる。そんな彼女を生徒たちが固唾を呑んで見守る。かく言う私もそこにまじっていた。
パイシェン先輩は紙を二十秒ほど眺めると、私に向かって言う。
「行くわよ。エトワ」
「は~い、せんぱーい」
ここは逆らわないほうがよさそうだ……
空気を読んだ私は、しずか~に、しずか~についていく。しずしず。
他の人たちはついてこなかった。顔に冷や汗を浮かべて見送っている。
人気のない場所まで来ると、急に先輩は俯いたまま笑い出した。くっくっく、とちょっと悪役じみた笑いだった。怖い……
顔を上げたパイシェン先輩の目は完全に据わってた。
「ニンフィーユ家の娘である私に勝負を挑んでくるとは、いい度胸じゃない。生徒会長への立候補は自由だものね。こうじゃなきゃ面白くないわ」
やっぱりなんというか、こういうところはルイシェン先輩の妹なんだな~って感じがする。
いや、良い意味でね、良い意味でだよ。
ソフィアちゃんみたいに貴族なのに気さくなタイプの子も魅力があるけど、パイシェン先輩みたいに貴族の令嬢としてプライドもってやってるタイプもかっこいいと思うのだ。
パイシェン先輩の場合、なんだかんだ私みたいなのも困っていたら助けてくれるしね。
たまに意地悪スイッチが入っちゃうこともあるけど~。
「先輩、私も微力ながら応援しますし手伝いもしますよ~」
「そうね、私が勝つのは当然の話だけど、逆に言えば万に一つでも負けるわけにはいかないわ。投票日までの二週間、全力でいくわよ。エトワ、あんたの力も借りるわ」
「あいあいさー!」
そんなわけで、名門貴族のパイシェン先輩対、謎の刺客クレノ先輩の選挙戦が始まったのです。
* * *
次の日の昼休み、桜貴会のお茶会が終わったあと、私は部屋に残る。
生徒会長選挙の作戦会議のためだ。
ちなみにソフィアちゃんたちは教室に戻っていた。残っているのは、私ともともとのメンバーの人たちだけだ。
私も今日はポムチョム小学校に行かなきゃならないんだけど、パイシェン先輩に「足の速い馬車を用意している」と言われた。そんなわけで参加者である。
いわゆる選挙対策委員会。
全員が集合したところで、パイシェン先輩が確認するように言う。
「みんな、選挙で重要なことはわかっているわね」
「はい! 名前と顔を覚えてもらって、たくさんの人に候補者の考えを伝えることです!」
私は自信満々に、パイシェン先輩の似顔絵を一生懸命に描いた手書きポスターを見せた。
パイシェン先輩がそれをバシッと取って、くしゃっとする。
「ああっ、午前の授業中に一生懸命書いたのに!」
「貴族の選挙に勝つ方法は、より多くの派閥を押さえることよ。あと、授業はまじめに受けなさい」
「あい……」
パイシェン先輩に軽く頭をペシッと叩かれた。
派閥とな……
「それってシルフィール公爵家と風の一族や、ウンディーネ公爵家と水の一族みたいなのですか?」
「そうね、基本的に貴族は派閥ごとに投票するわ。一番大きな区分としては、エトワが言ったように四公爵家を頂点とする風、水、火、土の派閥よ。でも、そこをまとめる人間がいなければ、侯爵家や伯爵家などをリーダーとして、より小さな単位に分かれていくわ」
おお……なるほど……
日本の学校の選挙のように、みんな自由気ままに投票先を決めるわけじゃないんだ。
私は元の世界でやっていた、ある意味、適当でやる気の欠けた生徒会選挙を思い出す。
「でもそれなら、パイシェン先輩の楽勝じゃないですか?」
ニンフィーユ侯爵家といえば、水の派閥でもナンバー2の存在。ナンバー1であるウンディーネ家のシーシェさまは中等部なので、水の派閥の貴族たちはニンフィーユ家に従うはずだ。
つまり最も大きな派閥の一つ――四分の一の票をパイシェン先輩はすでに押さえてることになる。
この時点で、選挙では圧倒的に有利だ。
なのにパイシェン先輩の口から出てきたのは、大きなため息だった。
「どうかしらね……。プルーナ、対立候補であるクレノ・ルスタのデータを読み上げて。私はもう目を通したけど、みんなにも知ってもらう必要があるわ」
「はい」
パイシェン先輩と同い年のプルーナさんが、クレノ・ルスタのデータをみんなに聞かせる。
「クレノ・ルスタ、皆さんも噂で聞いたと思いますが、平民出身の生徒です。学年は五学年、ゴールドクラスに所属しています」
そこまではみんなも知ってる通りのことだった。
「学業の成績はきわめて優秀、素行もまったく問題がなく、貴族からの覚えも良い生徒です。特に魔法の才能は傑出しています。ゴールドクラスなのはあくまで平民出身という理由からで、魔力そのものはルイシェンさまにも並ぶだろうと言われています」
「お兄さまに並ぶ、ね……」
うおぉぉ……、なんか結構すごいプロフィールだった気がする。
「すでに王族や多数の貴族から注目を浴び、王族からは騎士団へのスカウトが、風水土火の各派閥からも重臣や私兵としてのスカウトがきています」
絶大な魔法の力でこの国の特権階級にいる貴族たちは、その立場にあぐらをかいている者ばかりじゃない。平民でも才能がある者を見つければ、自分たちの仲間に引き入れようとする。
平民が力を持つのが嫌なら、その平民を仲間にしてしまえばいい。そんな考えなのだ。
それでも平民に対する警戒心は強く、その手続きは周到で、幼少期から貴族と一緒の学校に入れ、援助して恩を売ってから、叛心がないことを確認し、ようやく仲間に引き入れる。
ルーヴ・ロゼという学校自体が、そのための場所になっていた。
「特に今一番親しくしているのが、グノーム公爵家のスカウトの者です」
ざわっと、桜貴会のメンバーの顔色が変わる。
グノーム公爵家。土の一族の頂点である公爵家の名だ。しかし、そんなに問題があるのだろうか。
貴族についてはちょっと知識の劣る私がついていけずにいると、パイシェン先輩が私のほうを見て、気づいてフォローしてくれた。
「つまりクレノ・ルスタの後ろには、グノーム公爵家とその派閥がついている可能性があるのよ」
な、なんですとー!
それって最大の派閥のうちの一つが、あちらの味方になっているということだよね……
「な、なんでそんなことを……」
グノーム公爵家もニンフィーユ侯爵家も、同じ貴族同士ではないか。
なぜ、わざわざそんな波風立てるような真似を?
「さあね、あの家の考えることはよくわからないわ。でも、彼らは四つの公爵家の中で最も平民との強い繋がりを持っているの。こういうことをしてきてもおかしくないわ。彼らの家訓は、この大地の平和と調和を守ること。グノーム家の考えでは、貴族も平民も同じ大地の子と呼ばれ、保護する対象とされている」
「それってすごくいい人たちじゃないですか!?」
かなりいいことを言ってる感じがする。平民のことも考えてくれる貴族って、私みたいな一般人の視点からすると、かなりいい感じだ。
でも、それにパイシェン先輩は皮肉げな笑いを返した。
「建前だけ聞けばね。ただ、主義主張は綺麗でも、それに行動が伴うとは限らないわ。この大地の平和と調和を守る――それって裏を返してしまえば、この国を守ろうとは考えていない、自分たちの考えに反するなら王家にだって剣を向ける、ってことよ。実際、グノーム公爵家は過去五回も王家に対して反乱を起こしているの。信用できたもんじゃない」
その言葉にレニーレ先輩が俯いた。パーティーで最初に私に話しかけてくれた五年生の先輩だ。
パイシェン先輩もすぐにそれに気づいて謝る。
「ごめんなさい、レニーレ、言いすぎたわ」
「いえ、事実です……」
「あなたのアジオ伯爵家は、土の派閥だったわね。グノーム家から連絡があるかはわからないけど、もしあったらグノーム家の方針に従いなさい。桜貴会は所詮、学生時代だけの付き合いよ。自分たちの家が所属する派閥の意思より優先することはないわ」
「いえ、私はパイシェンさまを応援します! 家命が下ったとしてもです!」
レニーレ先輩は真剣な表情で、パイシェン先輩に言った。
それにパイシェン先輩はふっと笑って、「ありがとう」とお礼を言う。
「そういうわけで、今回の相手は決して油断できるような相手ではないみたいよ。慢心していれば、足もとを掬われることになりかねないわ」
その言葉に私たちは気を引き締める。
「シャルティ、情勢の分析を聞かせて」
「はい、パイシェンさま」
いつもお茶を淹れてくれるシャルティ先輩が、ノートを見ながら今の情勢を述べる。
「ルーヴ・ロゼの小等部の生徒数は、全学年合わせて892名です。その中で侯爵家が5名、伯爵家が98名、子爵家が221名、男爵家が528名、それから平民が39名です。あ、あとエトワさんが1名です」
ルーヴ・ロゼは各学年が三つの大きなクラスに分かれていて、ブロンズクラスが各30名、ゴールドクラス、プラチナクラスがそれぞれ20名で構成される。子供の数は年によって変わるので、その分はブロンズクラスの数で調整する感じだ。
私たち一年生はブロンズだけで五クラスある。
「この中で、風の派閥に属するのが166名、水の派閥に属するのが199名、火の派閥に属するのが161名、土の派閥に属するのが316名、それと10名が所属する派閥をもたない貴族です」
土の派閥、多っ!?
びっくりした私に、犬歯が特徴のカサツグくんがこっそり教えてくれる。
「土のやつらはもともと子だくさんで分家が多いんだよ。よく平民とも結婚したりするし」
へぇー、なるほど~。
シャルティ先輩が咳払いして話を続ける。
「こほんっ、パイシェンさまの家は水の派閥をほぼ傘下に収めていらっしゃいますので199票は確実に入ります。それから私たち桜貴会のメンバーも今朝、パイシェンさまへの支持を表明したので、パイシェンさまと同じ水の派閥に属するカサツグ、ユウフィを除いた私たちの傘下の票が50票ほど。合わせて243票です」
えっと、土の派閥が300名超えてるんだよね……
結構厳しい!?
私は思いっきり動揺したけど、パイシェン先輩はにやりと余裕の笑みを見せた。
「つまりグノーム公爵家の出方次第って感じね」
「は、はい。その通りです。グノーム家が直接命令を出すのか、それとも配下の者たちを通して命令を出すのかで、傘下の貴族たちの動きも変わります。土の派閥316名に平民たち39名を合わせると355名でこちらの数を上回っていますが、あくまで内密の命令となるので全員が従うわけではないと思います。ですが仮にグノーム公爵家の名で命令が下されれば、過去のデータから90%は従うと思います。その場合、あちらには320票の固定票があることになります……」
や、やっぱり固定票では負けてるってことかぁ。
シャルティ先輩はそこまでは厳しい表情だったけど、そこからは表情を和らげた。
「ただ浮動票である残りの貴族たちの票はパイシェンさまに入ると思います。簡単な聞き取り調査をしたところ、パイシェンさまへの支持が圧倒的でした。派閥は違えどみんな貴族ですし、パイシェンさまに憧れている者は多いです。そもそも平民が生徒会長になるなど前例のないことですから。そこまで考えると、勝てる選挙かと思います」
その分析に、私もほっとする。良かった、そんなに厳しくはないみたいだ。
桜貴会の人たちにも安心した空気が流れる。
しかし、パイシェン先輩はその空気を破るように、ばんと机を叩いた。
「それじゃあ、確実に勝てるとは言えないわ!」
さ、さいですね……
「こうなると他の派閥にも私への支持を表明してもらう必要があるわね。他の派閥の様子はどう?」
「はい、まず火の派閥ですが、小等部にいるのは伯爵家以下の人間ばかりで、派閥をまとめる者が不在です。プルーナとエッセル、コリットの傘下を合わせて35票。あとは伯爵家のもとで小規模の派閥を作ってる家が三つほど。そこからまとまって取れるのは30票ほどでしょうか」
「そもそもあそこの家訓は『自らの意思を貫く』ですしね……。当主がそうである以上、大きな組織票は期待できないわ。ほとんど浮動票と考えたほうがよさそうね。そうなると……」
パイシェン先輩が私を見る。桜貴会の人たちの目も私に向く。
わ、私ですか!?
ていうか、水は制圧済み、土は敵、火はバラバラとなると、確かにあとは風しかない。
戸惑う私にシャルティ先輩が補足してくれる。
「風の派閥は、以前までは伯爵家の子たちが小さな派閥をまとめていましたが、シルウェストレの君たちの入学により、五つの大きな派閥にまとまりました。スカーレット家のリンクスさま、レオナルド家のクリュートさま、オルトール家のミントさま、アリエル家のスリゼルさま、フィン家のソフィアさま。一人でも説得できれば30票以上がこちらに入ることになります」
パイシェン先輩たちから期待されてることはわかる。
でも、私はちょっと困った顔になる。引き受けるのは別にいいのだけど。
「えっと、命令とかはできないですよ。仮の主の権力であの子たちの意志を曲げるのとかはちょっと」
パイシェン先輩が真剣な顔で頷く。
「それで構わないわ。そもそも彼らとは同じ侯爵家同士。あなたの特殊な状況を利用するのは恥ずべきことよ。あくまであなたには私を彼らに売り込んでほしいの。生徒会長にふさわしい人間として」
「なるほど、パイプ役ですね」
私はほっとする。
今回の作戦会議に呼ばなかったのも、彼らを対等な相手として見てるからだろう。
私は最初からパイシェン先輩の味方になるって言ってたしね。味方に入れてもらえて嬉しい。
まあちょっとした誤魔化しや建前は含んでると思う。
けど、パイシェン先輩も悩んでちゃんと一線を引いてから、こんな形で頼んでくれてることはわかった。だから私のできる範囲で協力してみようと思う。
「わかりました。パイシェン先輩の親善大使として、ソフィアちゃんたちを勧誘してみますね」
貴族たちの爵位の継承は知っての通り、その子の魔法の資質にかなり左右される。
私なんかはその極端な例だ。
他の貴族にはシルフィール家のような、魔力がない子に印をつけて追放する制度はないけど、第二子や第三子に傑出して魔力の強い子が生まれたら、跡継ぎに指名するなんて話は聞く。
ルイシェン先輩とパイシェン先輩の兄妹も、ルイシェン先輩のほうが魔力が高かったらしい。
パイシェン先輩も十分に跡を継げるぐらいの魔力があったから、継承権は移ってしまったけど。
魔力、血筋、当主としての資質、醜聞、名声、いろんなバランスで貴族の後継者たちは選ばれる。しかし、それは常にその家を継げるだけの最低限の魔力があることが前提とされている。
逆にシルフィール家以外でも魔力がない子は稀に生まれているはずだった。他の家では、それがなかなか表に出てこないのは……――なんて怖い噂もあったりする。
「少なくともここまで王家が続く間に、五回ほど魔力の途絶があったと言われています。王族の方々もなるべく魔力の高い女性を妃に迎えて力を安定させようと試みてるらしいのですが、あまりうまくはいってません……。だから十三騎士という制度で、この国の安定を得ようとしています」
ソフィアちゃんの話では、今の国王陛下は子爵位の人と同じ程度の魔力らしい。
第一王子もそれと同じ程度。
第二王子は一番才能があり、伯爵位ぐらいの素養があるという。
第三王子のアルセルさまは、ちょっと弱めで男爵位クラス。貴族としてはぎりぎりの魔力だそうだ。
あとお姫さまもいるんだけど、あんまり魔力はないんだとか。
ソフィアちゃんはいつもと違う、ちょっと大人びた表情をして言う。
「そんな王家の在り方に疑問を抱く者もいます。でも私は今の王家の方々を支持します。貴族が己が力を重視し、権益を確保するこの国で、王家の方までもが力をその地位の基準にしてしまったら、すべてが力に支配される国になってしまいます。力ではなくその資質によって国を治める。そんな王家があるからこそ、この国は安定していられるんです。それを守るために十三騎士だけじゃなく、私たち風の一族がいます」
それはたぶん、ソフィアちゃんのシルウェストレと呼ばれる側面なのだろうと思う。シルフィール公爵家を頂点として、『王家の盾』と呼ばれる六つの家の人間たち。
ソフィアちゃんはそこまで話して、はっとしたように私を見る。
「すみません、エトワさまにはご不快な話でしたよね……」
たぶんきっと、額の印のことを言ってるのだろう。
私はいやいやと首を振る。
「ソフィアちゃんや、あのユーゼルさまが治めてくれる国なら、私も安心して暮らせるよ」
うんうん、平民になっても安心だ。
ソフィアちゃんはそれを聞くと、少し寂しそうな顔をした。
十五歳になったら、ソフィアちゃんと私は別の道を歩まなければならない。
「十五歳を過ぎても、ずっと友達でいてね? いろいろ忙しいかもしれないけど、たまには遊ぼうね」
でも私の言葉でソフィアちゃんはすぐに笑顔を取り戻した。
「は、はい! 私のほうこそ。絶対、絶対ですよ!」
第二章 生徒会選挙
エントランス・パーティーから一ヶ月ぐらいが経った。
桜貴会の人とも結構仲良くなれた感じの今日このごろだ。
そんなある日のお昼休み、桜貴会の館に行くと、パイシェン先輩がなんか書類をひたすら書いてた。
「なんですか? それ」
私がたずねると、パイシェン先輩が顔を上げる。
「生徒会長の立候補のための申請書よ」
「先輩が、せいとかいちょー!?」
パイシェン先輩がすっと立ち上がり、私の頬をつまみ上げる。
「しぇ、しぇんぱい……まだ何も言ってません……」
無実だ。変なこと言うつもりなんてなかったよ。本当だよ。
「普段の言動よ」
パイシェン先輩は私の頬を放すと、ちょっと疲れたように自分の肩を叩く。
「お兄さまがいなくなって、生徒会長の席が空席になっていたのよ。今は副会長が代理をしてくれているけど、そろそろ次を決めないとって話になってね」
「でもパイシェン先輩って三年生ですよね」
普通、生徒会長って最上級生がやるものではないだろうか。
「私はニンフィーユ侯爵家の娘よ。現状、小等部では侯爵家が最上位の家格。その中で一番の年長者は私。だから私が生徒をまとめていかないといけないの」
なるほど~。貴族の学校では年齢だけでなく、身分も考慮して生徒会長を決めるらしい。私の学年だとソフィアちゃんたちの誰かが生徒会長をやるのかもしれない。
身分社会の極致だと言えるかもしれないけど、パイシェン先輩を見ると、やるほうもやるほうで大変そうだ。
私も先輩を応援することにする。
「私も先輩に一票入れますよ! あと、手伝えることがあるならなんでも言ってください!」
ぐっと力こぶを作ってみせる。ぺらぺらの腕が、棒のまま折れ曲がっただけだけど。
「ありがと。でも別に心配することはないわ。どうせ立候補するのは私だけだもの。だから、この書類を仕上げれば、この件は終わりよ」
「なるほど~」
貴族社会は空気の読み合いだ。
パイシェン先輩が出る以上、それより身分の低い子たちは立候補しないのだろう。先輩は、水の派閥のナンバー2といわれる家の次期当主なのだ。わざわざ波風立てたいと思う貴族のほうが珍しいのかも。
* * *
そして生徒会長選挙、立候補者の公示日。
掲示板には二つの名前が並んでいた。
パイシェン・ニンフィーユ。プラチナクラス三年。
クレノ・ルスタ。ゴールドクラス五年。
貼り出された紙を見て、生徒たちが騒ぎ出す。
「まさかパイシェンさまを相手に立候補する者がいるなんて……」
「クレノ・ルスタ、いったい誰なんだ? 聞いたことがないぞ?」
「侯爵家の方が出るのに立候補するということは、それなりの身分の方?」
「私、知ってるわ。平民出身の男子生徒よ!」
「へ、平民が生徒会長に立候補!?」
そこにパイシェン先輩がやってくる。
高貴な者が纏うオーラとかがあるのか、その姿を見ると誰もが道を譲った。
掲示板の前にやってきたパイシェン先輩は、二つの名前が書かれた紙をじっと見つめる。そんな彼女を生徒たちが固唾を呑んで見守る。かく言う私もそこにまじっていた。
パイシェン先輩は紙を二十秒ほど眺めると、私に向かって言う。
「行くわよ。エトワ」
「は~い、せんぱーい」
ここは逆らわないほうがよさそうだ……
空気を読んだ私は、しずか~に、しずか~についていく。しずしず。
他の人たちはついてこなかった。顔に冷や汗を浮かべて見送っている。
人気のない場所まで来ると、急に先輩は俯いたまま笑い出した。くっくっく、とちょっと悪役じみた笑いだった。怖い……
顔を上げたパイシェン先輩の目は完全に据わってた。
「ニンフィーユ家の娘である私に勝負を挑んでくるとは、いい度胸じゃない。生徒会長への立候補は自由だものね。こうじゃなきゃ面白くないわ」
やっぱりなんというか、こういうところはルイシェン先輩の妹なんだな~って感じがする。
いや、良い意味でね、良い意味でだよ。
ソフィアちゃんみたいに貴族なのに気さくなタイプの子も魅力があるけど、パイシェン先輩みたいに貴族の令嬢としてプライドもってやってるタイプもかっこいいと思うのだ。
パイシェン先輩の場合、なんだかんだ私みたいなのも困っていたら助けてくれるしね。
たまに意地悪スイッチが入っちゃうこともあるけど~。
「先輩、私も微力ながら応援しますし手伝いもしますよ~」
「そうね、私が勝つのは当然の話だけど、逆に言えば万に一つでも負けるわけにはいかないわ。投票日までの二週間、全力でいくわよ。エトワ、あんたの力も借りるわ」
「あいあいさー!」
そんなわけで、名門貴族のパイシェン先輩対、謎の刺客クレノ先輩の選挙戦が始まったのです。
* * *
次の日の昼休み、桜貴会のお茶会が終わったあと、私は部屋に残る。
生徒会長選挙の作戦会議のためだ。
ちなみにソフィアちゃんたちは教室に戻っていた。残っているのは、私ともともとのメンバーの人たちだけだ。
私も今日はポムチョム小学校に行かなきゃならないんだけど、パイシェン先輩に「足の速い馬車を用意している」と言われた。そんなわけで参加者である。
いわゆる選挙対策委員会。
全員が集合したところで、パイシェン先輩が確認するように言う。
「みんな、選挙で重要なことはわかっているわね」
「はい! 名前と顔を覚えてもらって、たくさんの人に候補者の考えを伝えることです!」
私は自信満々に、パイシェン先輩の似顔絵を一生懸命に描いた手書きポスターを見せた。
パイシェン先輩がそれをバシッと取って、くしゃっとする。
「ああっ、午前の授業中に一生懸命書いたのに!」
「貴族の選挙に勝つ方法は、より多くの派閥を押さえることよ。あと、授業はまじめに受けなさい」
「あい……」
パイシェン先輩に軽く頭をペシッと叩かれた。
派閥とな……
「それってシルフィール公爵家と風の一族や、ウンディーネ公爵家と水の一族みたいなのですか?」
「そうね、基本的に貴族は派閥ごとに投票するわ。一番大きな区分としては、エトワが言ったように四公爵家を頂点とする風、水、火、土の派閥よ。でも、そこをまとめる人間がいなければ、侯爵家や伯爵家などをリーダーとして、より小さな単位に分かれていくわ」
おお……なるほど……
日本の学校の選挙のように、みんな自由気ままに投票先を決めるわけじゃないんだ。
私は元の世界でやっていた、ある意味、適当でやる気の欠けた生徒会選挙を思い出す。
「でもそれなら、パイシェン先輩の楽勝じゃないですか?」
ニンフィーユ侯爵家といえば、水の派閥でもナンバー2の存在。ナンバー1であるウンディーネ家のシーシェさまは中等部なので、水の派閥の貴族たちはニンフィーユ家に従うはずだ。
つまり最も大きな派閥の一つ――四分の一の票をパイシェン先輩はすでに押さえてることになる。
この時点で、選挙では圧倒的に有利だ。
なのにパイシェン先輩の口から出てきたのは、大きなため息だった。
「どうかしらね……。プルーナ、対立候補であるクレノ・ルスタのデータを読み上げて。私はもう目を通したけど、みんなにも知ってもらう必要があるわ」
「はい」
パイシェン先輩と同い年のプルーナさんが、クレノ・ルスタのデータをみんなに聞かせる。
「クレノ・ルスタ、皆さんも噂で聞いたと思いますが、平民出身の生徒です。学年は五学年、ゴールドクラスに所属しています」
そこまではみんなも知ってる通りのことだった。
「学業の成績はきわめて優秀、素行もまったく問題がなく、貴族からの覚えも良い生徒です。特に魔法の才能は傑出しています。ゴールドクラスなのはあくまで平民出身という理由からで、魔力そのものはルイシェンさまにも並ぶだろうと言われています」
「お兄さまに並ぶ、ね……」
うおぉぉ……、なんか結構すごいプロフィールだった気がする。
「すでに王族や多数の貴族から注目を浴び、王族からは騎士団へのスカウトが、風水土火の各派閥からも重臣や私兵としてのスカウトがきています」
絶大な魔法の力でこの国の特権階級にいる貴族たちは、その立場にあぐらをかいている者ばかりじゃない。平民でも才能がある者を見つければ、自分たちの仲間に引き入れようとする。
平民が力を持つのが嫌なら、その平民を仲間にしてしまえばいい。そんな考えなのだ。
それでも平民に対する警戒心は強く、その手続きは周到で、幼少期から貴族と一緒の学校に入れ、援助して恩を売ってから、叛心がないことを確認し、ようやく仲間に引き入れる。
ルーヴ・ロゼという学校自体が、そのための場所になっていた。
「特に今一番親しくしているのが、グノーム公爵家のスカウトの者です」
ざわっと、桜貴会のメンバーの顔色が変わる。
グノーム公爵家。土の一族の頂点である公爵家の名だ。しかし、そんなに問題があるのだろうか。
貴族についてはちょっと知識の劣る私がついていけずにいると、パイシェン先輩が私のほうを見て、気づいてフォローしてくれた。
「つまりクレノ・ルスタの後ろには、グノーム公爵家とその派閥がついている可能性があるのよ」
な、なんですとー!
それって最大の派閥のうちの一つが、あちらの味方になっているということだよね……
「な、なんでそんなことを……」
グノーム公爵家もニンフィーユ侯爵家も、同じ貴族同士ではないか。
なぜ、わざわざそんな波風立てるような真似を?
「さあね、あの家の考えることはよくわからないわ。でも、彼らは四つの公爵家の中で最も平民との強い繋がりを持っているの。こういうことをしてきてもおかしくないわ。彼らの家訓は、この大地の平和と調和を守ること。グノーム家の考えでは、貴族も平民も同じ大地の子と呼ばれ、保護する対象とされている」
「それってすごくいい人たちじゃないですか!?」
かなりいいことを言ってる感じがする。平民のことも考えてくれる貴族って、私みたいな一般人の視点からすると、かなりいい感じだ。
でも、それにパイシェン先輩は皮肉げな笑いを返した。
「建前だけ聞けばね。ただ、主義主張は綺麗でも、それに行動が伴うとは限らないわ。この大地の平和と調和を守る――それって裏を返してしまえば、この国を守ろうとは考えていない、自分たちの考えに反するなら王家にだって剣を向ける、ってことよ。実際、グノーム公爵家は過去五回も王家に対して反乱を起こしているの。信用できたもんじゃない」
その言葉にレニーレ先輩が俯いた。パーティーで最初に私に話しかけてくれた五年生の先輩だ。
パイシェン先輩もすぐにそれに気づいて謝る。
「ごめんなさい、レニーレ、言いすぎたわ」
「いえ、事実です……」
「あなたのアジオ伯爵家は、土の派閥だったわね。グノーム家から連絡があるかはわからないけど、もしあったらグノーム家の方針に従いなさい。桜貴会は所詮、学生時代だけの付き合いよ。自分たちの家が所属する派閥の意思より優先することはないわ」
「いえ、私はパイシェンさまを応援します! 家命が下ったとしてもです!」
レニーレ先輩は真剣な表情で、パイシェン先輩に言った。
それにパイシェン先輩はふっと笑って、「ありがとう」とお礼を言う。
「そういうわけで、今回の相手は決して油断できるような相手ではないみたいよ。慢心していれば、足もとを掬われることになりかねないわ」
その言葉に私たちは気を引き締める。
「シャルティ、情勢の分析を聞かせて」
「はい、パイシェンさま」
いつもお茶を淹れてくれるシャルティ先輩が、ノートを見ながら今の情勢を述べる。
「ルーヴ・ロゼの小等部の生徒数は、全学年合わせて892名です。その中で侯爵家が5名、伯爵家が98名、子爵家が221名、男爵家が528名、それから平民が39名です。あ、あとエトワさんが1名です」
ルーヴ・ロゼは各学年が三つの大きなクラスに分かれていて、ブロンズクラスが各30名、ゴールドクラス、プラチナクラスがそれぞれ20名で構成される。子供の数は年によって変わるので、その分はブロンズクラスの数で調整する感じだ。
私たち一年生はブロンズだけで五クラスある。
「この中で、風の派閥に属するのが166名、水の派閥に属するのが199名、火の派閥に属するのが161名、土の派閥に属するのが316名、それと10名が所属する派閥をもたない貴族です」
土の派閥、多っ!?
びっくりした私に、犬歯が特徴のカサツグくんがこっそり教えてくれる。
「土のやつらはもともと子だくさんで分家が多いんだよ。よく平民とも結婚したりするし」
へぇー、なるほど~。
シャルティ先輩が咳払いして話を続ける。
「こほんっ、パイシェンさまの家は水の派閥をほぼ傘下に収めていらっしゃいますので199票は確実に入ります。それから私たち桜貴会のメンバーも今朝、パイシェンさまへの支持を表明したので、パイシェンさまと同じ水の派閥に属するカサツグ、ユウフィを除いた私たちの傘下の票が50票ほど。合わせて243票です」
えっと、土の派閥が300名超えてるんだよね……
結構厳しい!?
私は思いっきり動揺したけど、パイシェン先輩はにやりと余裕の笑みを見せた。
「つまりグノーム公爵家の出方次第って感じね」
「は、はい。その通りです。グノーム家が直接命令を出すのか、それとも配下の者たちを通して命令を出すのかで、傘下の貴族たちの動きも変わります。土の派閥316名に平民たち39名を合わせると355名でこちらの数を上回っていますが、あくまで内密の命令となるので全員が従うわけではないと思います。ですが仮にグノーム公爵家の名で命令が下されれば、過去のデータから90%は従うと思います。その場合、あちらには320票の固定票があることになります……」
や、やっぱり固定票では負けてるってことかぁ。
シャルティ先輩はそこまでは厳しい表情だったけど、そこからは表情を和らげた。
「ただ浮動票である残りの貴族たちの票はパイシェンさまに入ると思います。簡単な聞き取り調査をしたところ、パイシェンさまへの支持が圧倒的でした。派閥は違えどみんな貴族ですし、パイシェンさまに憧れている者は多いです。そもそも平民が生徒会長になるなど前例のないことですから。そこまで考えると、勝てる選挙かと思います」
その分析に、私もほっとする。良かった、そんなに厳しくはないみたいだ。
桜貴会の人たちにも安心した空気が流れる。
しかし、パイシェン先輩はその空気を破るように、ばんと机を叩いた。
「それじゃあ、確実に勝てるとは言えないわ!」
さ、さいですね……
「こうなると他の派閥にも私への支持を表明してもらう必要があるわね。他の派閥の様子はどう?」
「はい、まず火の派閥ですが、小等部にいるのは伯爵家以下の人間ばかりで、派閥をまとめる者が不在です。プルーナとエッセル、コリットの傘下を合わせて35票。あとは伯爵家のもとで小規模の派閥を作ってる家が三つほど。そこからまとまって取れるのは30票ほどでしょうか」
「そもそもあそこの家訓は『自らの意思を貫く』ですしね……。当主がそうである以上、大きな組織票は期待できないわ。ほとんど浮動票と考えたほうがよさそうね。そうなると……」
パイシェン先輩が私を見る。桜貴会の人たちの目も私に向く。
わ、私ですか!?
ていうか、水は制圧済み、土は敵、火はバラバラとなると、確かにあとは風しかない。
戸惑う私にシャルティ先輩が補足してくれる。
「風の派閥は、以前までは伯爵家の子たちが小さな派閥をまとめていましたが、シルウェストレの君たちの入学により、五つの大きな派閥にまとまりました。スカーレット家のリンクスさま、レオナルド家のクリュートさま、オルトール家のミントさま、アリエル家のスリゼルさま、フィン家のソフィアさま。一人でも説得できれば30票以上がこちらに入ることになります」
パイシェン先輩たちから期待されてることはわかる。
でも、私はちょっと困った顔になる。引き受けるのは別にいいのだけど。
「えっと、命令とかはできないですよ。仮の主の権力であの子たちの意志を曲げるのとかはちょっと」
パイシェン先輩が真剣な顔で頷く。
「それで構わないわ。そもそも彼らとは同じ侯爵家同士。あなたの特殊な状況を利用するのは恥ずべきことよ。あくまであなたには私を彼らに売り込んでほしいの。生徒会長にふさわしい人間として」
「なるほど、パイプ役ですね」
私はほっとする。
今回の作戦会議に呼ばなかったのも、彼らを対等な相手として見てるからだろう。
私は最初からパイシェン先輩の味方になるって言ってたしね。味方に入れてもらえて嬉しい。
まあちょっとした誤魔化しや建前は含んでると思う。
けど、パイシェン先輩も悩んでちゃんと一線を引いてから、こんな形で頼んでくれてることはわかった。だから私のできる範囲で協力してみようと思う。
「わかりました。パイシェン先輩の親善大使として、ソフィアちゃんたちを勧誘してみますね」
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