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4巻
4-2
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それから二日後、ロールベンツさんから新たな商会を立ち上げたという連絡があった。
私の手元に書類が届く。
名前はエトワ商会。アルミホイルの製造と販売をする会社らしい。
代表者、私。それ以外に、ロールベンツさん、クリュートくん、レメテンスさんが役員に名を連ねている。資本金は九百万リシス。こんな短期間でとか、資本金は誰が出したんだろうとか、いろいろ気になったけど、一番強く印象に残ったのは、公爵家の権力怖いだった。
日曜日、ついにロールベンツさんにアルミホイルの製造法を教えることになった。といっても、教えるのはクリュートくんなんだけど。お父さまのお願いもあってか、今回はクリュートくんもあっさり協力してくれる感じだ。
「なんで僕がこんなくだらないことに……はぁ……」
不満たらたらだけど。
ロールベンツさんと私たちでお家の庭を歩きながら、作り方について話す。
目標は、クリュートくんの助け無しで、アルミホイルを作れるようになることだ。アルミホイルを商品として販売していく以上、クリュートくん頼みではやっていけない。
私はざっとした作り方をロールベンツさんに話した。クリュートくんからの受け売りだけど、土系統の魔法で鉱物を探して、それを分離して、最後に成型してアルミホイルを作る。
「なるほど、今までまったく見たことが無いものだと思っていたら、魔法で作っていたんですね」
「はい。今のところ魔法でしか作れないんですけど、大丈夫ですか?」
ロールベンツさんとしては、もっと職人ちっくな製法を想像していたのかもしれない。でも、残念ながらそこまで本格的な製法の知識はないのだ。
魔法頼りのこの状況で、商品としてちゃんと販売していけるのだろうか。
だけど意外なことに、ロールベンツさんの反応は好感触だった。
「市井の魔法使いたちは魔石に魔力をこめるなどの製造業に就いている者が意外と多いのですよ。彼らを雇えば大丈夫でしょう。特に土系統の魔力をもつ者は平民に多いですから。多すぎて仕事からあぶれる者が出てきて、ちょっとした社会問題になってるぐらいです。安定した仕事があると聞けば、喜んで集まってくるでしょう」
ロールベンツさんはさすが商人というか、そういう情報に詳しかった。
でも、アルミホイルって工場で一気に作られるイメージだったけど、この世界だとミシンで洋服を作る工場みたいに、ひとつひとつ手作りになっていくのか。ちょっと不思議な感じがする。
作る方法が魔法でも大丈夫そうなので、早速、クリュートくんに実演してもらう。
「クリュートくん、お願い~」
「はいはい」
クリュートくんは慣れた様子で探知の魔法を発動させ、まずアルミニウムの原料になる赤い土を探し当てる。それから魔法で土を集め、私たちの前に浮かせた。
ロールベンツさんが興味津々といった感じで、その土を触る。
「こ、これがあの銀色の金属になるのですか? 意外とどこにでもある土のようですが」
実際、アルミニウムは意外とどこにでもある金属らしい。アルミニウムを含んでいる鉱石といえばボーキサイトが有名だけど、他の鉱石にもよく含まれているらしい。ただいろんなものと混ざりやすいから、金属の状態で取り出すのが難しいというだけだ。
この世界が地球と同じなら、その埋蔵量は鉄よりも多いということになる。
「まあ見ててください」
クリュートくんは少し得意げな顔で、次の魔法を発動させる。作らされるのを嫌がってたわりには、やってみせる段階になると誇らしげになるのがクリュートくんらしい。
クリュートくんが目を瞑り集中すると、土が光を放ち銀色の金属と残りに分かれる。
「おおっ……」
ロールベンツさんが感嘆の声をあげる。
その反応をクリュートくんは満足げな表情でちらっと見たあと、ちょいちょいっと指を動かして、分離した金属を引き伸ばし丸めてアルミホイルを作ってみせた。
「終わりです」
最後は安定のどや顔だ。
一方、ロールベンツさんはアルミホイルを製造する魔法に圧倒された表情で、完成品を手に取りまじまじと見つめる。それからクリュートくんに質問した。
「あっさりと分離していましたが、コツなどはありますか?」
「うーん、分離したこれをアルミニウムって言うんですが、最初はそのアルミニウムをよく見てイメージしましたね。使ってる魔法は砂鉄を集めて槍を生み出す魔法と同じで、対象を変えてもっと細かく内部へって感じで発動させてます」
「なるほど、あの魔法ですね。私も何度か見たことがあります。それでは実際に何人か魔法使いを募集して、試しに作らせてみようと思います。アルミホイルが製造できたらまた連絡します」
「よろしくお願いします」
私はぺこりと頭をさげて、その背中を見送った。
しかし、後日来たのは、アルミホイルの製造の成功を伝える連絡ではなかった。
シルフィール家の別邸にやってきたロールベンツさんはかなり苦悩した様子だった。
「どうもかなり難しいらしく、平民の魔法使いでは何度やっても成功しませんでした……」
やっぱりクリュートくんは天才だったみたいだ。
平民の出の魔法使いでは、赤い土からアルミニウムを分離できなかったらしい。半月の間、雇った魔法使いの人に、クリュートくんから聞いたやり方を話して挑戦してもらったけど、一度も成功しなかったんだそうな。ロールベンツさんは落ち込んだ様子で、事の経過を報告してくれた。
「無理でしたかぁー」
「申し訳ありません……」
クリュートくん、無意識にすごいことをしていたらしい。ロールベンツさんもこの半月かなり苦心したようで、その顔は少しやつれていた。
しかし、どうしたものか。アルミニウムが作れないことには、アルミホイルも作れない。事業の目的を失い、立ち上げたエトワ商会は早速終了である、ほぼ何もせずに。
「このままではクロスウェルさまになんて報告したらいいか……」
ロールベンツさんが頭を抱える。その様子はかなり追い詰められているようだった。
さすがに私も、最初にロールベンツさんが悪いことを企んでいたことはもうわかっている。
個人的なアルミホイルへの想いは置いといて、子供を騙して権利を巻き上げようとしたことはかなりひどいと思うけど、今は心を入れ替えがんばろうとしてるのに、これで公爵家からの心証がわるくなるのはかなりかわいそうである。公爵家に嫌われてる奴って噂だけで、商売人としては破滅しかねない。
どうにかしてあげたい。
「クリュートくん、なんかコツはないのかい?」
私たちの話にまったく興味なさげにして、ソファで本を読んでいるクリュートくんに尋ねる。
すると、クリュートくんは肩をすくめて言った。
「コツは以前伝えた通りですよ。むしろ僕にはなんでできないのかわかりませんね。使う魔力はそこまで大きいわけでもないですし、腕がわるいんじゃないですか? 腕が」
むー、クリュートくんだって初めてやってって頼んだときは結構戸惑ってたくせに……
まあ、その初めてで成功させたんだけどね。でもおかげで魔力そのものの不足でないことは理解できた。どちらかというと技術力の問題なのだろう。
ようやく本を置いたクリュートくんが私たちの方を見て話す。
「どうせお金をケチって、ろくでもない魔法使いを雇ったんでしょう。ちゃんと平民でも名の通った魔法使いを使えば、結果は違うんじゃないですか? ろくな教育も受けてない魔法使い崩れじゃなくて、爵位を継げない貴族の血縁者や高名な魔法学校を卒業した人間を使うべきですよ」
「しかし、それでは人件費が嵩みますし、どうしてもコストが……」
販売する以上、コストは重要な問題だ。
人件費が嵩めば、その分、販売時の値段も高くなってしまう。
数万リシスもする調理用の便利グッズは誰も買わない。
生産数を絞って希少価値を前面に押し出せば、ものめずらしさで買ってくれる好事家もいるかもしれない。けど、それに何の意味があろうか。
台座の上で飾り物になったアルミホイルなんて何の意味もない。ご家庭で使われてこそ、アルミホイルさんは真価を発揮できるのだ。私個人の野望としては、どうせなら異世界の奥さまみんなにアルミホイルをお届けしたい。そのためには簡単に雇えるレベルの魔法使いで、なんとか生産する方法を見つけなければならない。そうでなければ需要が増えても増産できないからだ。
「ロールベンツさんの言うとおりだねぇ……」
私がそう言うと、クリュートくんがむっとした顔をした。
「じゃあ、知りませんよ。勝手にやってください」
しまった、機嫌を損ねてしまった。意見を否定したのが、プライドに障ってしまったらしい。
「とりあえずエトワさまとクリュートさまも現場を見にきていただけないでしょうか。クリュートさまには直接ご指導いただければもしかしたら……」
「そ、そうだね! クリュートくん!」
「僕はしばらくパーティーなどがあって忙しいです」
クリュートくんは明らかにやる気をなくした様子で言った。
ソファに寝そべって本を読むさまは、まったく忙しそうでない。
「じゃあ私が行きます!」
ソファの裏からソフィアちゃんがぴょんっと飛び出してきて立候補した。
私たちの会話の邪魔にならないよう、ずっとソファの陰に隠れて、静かにそばにいてくれたのだ。いや隠れる意味はわからないのだけど。
「いやいや、気持ちはありがたいけど、ソフィアちゃん土系統の魔法使えないでしょ」
「むぅー……」
ソフィアちゃんはその場でしゃがみこみ、地面に手を向けて、そよ風を起こしたり、風の渦巻きを作ったりしはじめた。どうやら土系統の魔法を練習しているらしい。
いや、さすがのソフィアちゃんでも、もってない系統の魔法を使えるわけもなし。
……ちょっとできそうで怖いけど。
クリュートくんはてこでも動きそうにない。
「とりあえず私だけでも行ってみます」
「はい……」
ロールベンツさんは心細そうだった。私もそう思う。
私とロールベンツさんだけでアルミホイル製造の実験をしている場所に行くことになった。
ロールベンツさんの商会が所有している廃屋でやってるらしい。ルヴェントの端にあり、土地と建物がセットで売られていて値段が安く、何かに使えると買っておいたのだが、今まで使い道は見つからなかったそうだ。
行ってみると廃屋という割にはしっかりとした建物だった。もとはレストランか何かをやってたらしい。中のテーブルや椅子はとりのぞかれていて広々としていた。ただちょっと埃臭い。
建物の中には大人の人が五人ぐらいいた。たぶん雇った魔法使いの人たちだろう。
私の姿を見ると、きょとんとした表情で「子供?」と呟いた。
「こちらが我らがエトワ商会の代表を務めるエトワさまだ。シルフィール公爵家のご息女でもある。失礼のないように」
ロールベンツさんが紹介してくれた。
「いえいえ、失格者で爵位を継げるわけではないので、お気軽に話しかけてください」
「よ、よろしくお願いします……」
気軽に話しかけてね、と言ったけどあんまり効果なかった。
それは置いておいて、早速実践してもらう。
すでに実験場所にはボーキサイトがドサッと置いてあった。赤い土とは違うコロコロした石の塊。土地によって取れるものが違うのかもしれないけど、探知の魔法は成功したらしい。
「それではいきます」
緊張した表情で魔法使いの人が、呪文の詠唱をはじめる。
結構時間がかかる。クリュートくんは難易度は低いと言っていたけど、民間の魔法使いにとってはそれなりの難易度の魔法なんだと思う。
呪文の詠唱が終わり、発動すると、ボーキサイトが動き出した。
震えながら集まって、三十センチぐらいの小さな槍を形成する。
確かに魔法は成功している。でもアルミニウムの槍ではなく、ボーキサイトのままの槍だ。
しかも、魔法使いの人が魔法を解くと、ばらばらになった。
「うーん……だめみたいですね」
「すみません……」
魔法使いの人もうなだれる。やっぱり失敗してしまうみたいだ。
「いえいえ、成功させるために実験するわけですから! 失敗なんて気にしないでください!」
失敗は成功のもとって言うしね!
とはいっても、このままの状態を続けても成功しそうにないのも事実だ。
一応、中のアルミニウムは引き付けられてるんだけどなぁ。ボーキサイトから分離することができていない。パワーが問題なんだろうか。
「何人かで力を合わせてやってみるのはだめでしょうか?」
ソフィアちゃんたちも複数人で同じ魔法を唱えて、規模を大きくしたりなんてたまにやる。
そう聞くと、落ち込んだ表情のロールベンツさんから答えが返ってきた。
「すでに試してもらってるんですが……」
実際にやってもらったけど、六十センチぐらいのボーキサイトの槍ができただけだった。魔法使いさんたちが五人いたのもその実験のためだったらしい。パワーをあげていってもボーキサイトの槍が大きくなっていくだけ。ボーキサイトからアルミニウムへの分離は起きない。
それを起こすには何か取っ掛かりがいるのだと思う。
天才のクリュートくんならなんとなくでできてしまうのだけど、私たちが雇えるレベルの人たちにそれを望むのは求めすぎだろう。
話を聞くと、どうやらこの人たちは土の魔法使いの供給過多により仕事にあぶれ、冒険者になるか、魔法と関係ない仕事につくかといった状況で、今回の求人に飛びついてきたらしい。
安定した職を求めてやってきたこの人たちのためにも成功させたいけど。
「う~ん、これは手詰まりですね」
ぶっちゃけ何も思いつかない!
これ以上、何か方策を見つけるには、もっとアルミニウムに対する知識が必要っぽい。
「私たちはクビでしょうか……」
落ち込んだ表情で魔法使いの人たちが言う。
「いえいえ、まだ諦めるつもりはありません! アルミホイルの製造ができれば土の魔法使いの人たちにもいい職場になるはずです! 主婦の人たちも大助かり! みんなが幸せです! なんとかみんなで知恵を絞ってがんばりましょう! 七人揃えば超文殊の知恵!」
「エトワさまの仰るとおりです。私の命のために……ごほんっ、みんなの幸せのためにもう少しがんばってみましょう」
「はい」
それを聞いて、ロールベンツさんの雇った魔法使いの人たちはほっとした表情をした。
とりあえずやることがなくなった彼らに言う。
「とりあえず今日はみなさん」
「何か思いついたのですか! エトワさま!?」
ロールベンツさんに、私は建物の端に立てかけてあった箒を手に取り言った。
「ここの掃除をしましょう~」
食品に関係する商品を扱う場所が汚いのはちょっとね。まあこの世界ではボーキサイトから扱わなきゃいけないから、そんなことも言ってられないんだけど。
その日は、魔法使いの人たちとロールベンツさんと私で廃屋の掃除を一日かけてやった。
アルミホイルさん、アルミホイルさん。
あなたのことがもっと知りたいな~。
なんて言ってみても、アルミホイルさんはぎんぎらと光るだけで、何も教えてくれない。
掃除を終え、今日は解散と帰ってきた私の部屋。
ベッドの縁に座って私は頭を悩ませる。
みんなで考えてみようと言ったけど、正直言って、アルミニウムというものについて多少でも知識があるのは私だけだ。だから私がなんとかしなければならないだろう。
でも、そのためには知識が足りない。もっとアルミニウムに関する知識が欲しい!
ただそれを得るにはこの世界ではなく、もとの世界にもどらなければならない。この世界ではアルミニウムなんてまったく認知されていない金属なのだから。見つかっているのは、地球でもごくわずかに発見される単体のアルミニウムの状態のもの。それも偽物の銀と勘違いされている。
そんな状態でアルミニウムの抽出法にたどり着く知識を得るなんて絶望的すぎる。
あああ、せめてもっと授業をまじめに聞いていれば……もしくは私が雑学博士だったなら。
なんとかないのかな、アルミニウムに関する知識を得る方法は。
『あるではないか』
すると私の頭の中から声が聞こえてきた。私が神様に貰った力を封印する剣。その剣に宿って私をいろいろサポートしてくれる人格、それが天輝さんだ。ちなみに男性っぽい。
「えっ?」
あ、あるの……?
そう尋ねると、天輝さんは呆れたようにため息を吐いた。
『可能性だけだが。知り合いにかつてお前のいた世界「異界」に詳しい者たちがいるだろうが』
「あっ……」
ハナコー!
私には魔族の知り合いがいる。自称魔王の娘ハナコだ。実はこの自称が自称じゃなくて、本物の魔王さまともお知り合いになってしまった。ハナコとはだいたい月二回ぐらいの頻度で会っている。
最近はアンデューラで忙しくてご無沙汰だったけど。
連絡係はハチというハナコの護衛の魔族がやってくれている。ハチは言葉足らずでなにかとトラブルを巻き起こすとんでもないやつで、人間の街、しかも魔族と天敵同士の貴族がいる街にも、ひょいひょい気軽に侵入してくれていた。
そんなハチを捕まえて三日後に会う約束を取り付けてもらった。
街から離れた人気のない野原がハナコとの待ち合わせ場所だ。ソフィアちゃんも付いてきた。
「ハナコと会うのも久しぶりですね」
「そうだね~」
ソフィアちゃんはハナコと会えるのが嬉しそうだった。妹みたいな存在だと思ってるしね。
約束の野原までやってくると、紫色の髪に金色の瞳、頭に角が生えた少女がいた。ハナコだ。人気がない場所とはいえ無防備だなぁっと、私はちょっと呆れた。
「ハナコー!」
ハナコを見て、ソフィアちゃんが手を振りながら駆け寄っていく。
「おお、ソフィアか、久しぶりだな!」
「うん、元気にしてました?」
「もちろん、元気だぞ!」
ハナコはソフィアちゃんと仲むつまじく挨拶を交わしたあと、きょろきょろとあたりを見回して、それから私の方を見て尋ねてきた。
「アルセルさまはいないのかー?」
私への挨拶はなしかい。
王族であるアルセルさまに敬称をつけてくれるようになった分、成長してるんだろうけど。アルセルさまと会ったのは一年以上も前だけど、まだハナコはアルセルさまに懸想していた。
「アルセルさまは忙しいの。私たちみたいな下々の人間に会いにくる時間なんてそうそうないんだから」
「オレは魔族だぞー! なんだよー、せっかくお洒落してきたのに」
そういえばハナコは、人間の女の子のようなワンピース姿だった。容姿はソフィアちゃんにも負けず劣らずの美少女なハナコだから、そういう姿をしていると普通にかわいい。
「確かに。その服どうしたの?」
魔族の国にも、人間と同じような洋服を売っている店があるのだろうか。
あらためて考えて見ると、体格が同じだからあってもおかしくない。でも、流行とか、文化の違いで、少しは違うものにならないだろうか。ヨーロッパとアジアみたいに。
ハナコの服は、私が普段暮らすルヴェントでも、よく見かけるようなドレスだった。
「ハチに買ってもらった!」
しゃらーんと、見せびらかすように腕を広げハナコが言う。
あの魔族、たびたびルヴェントに侵入するだけじゃなく、買い物までしていたのか……。どれだけ潜伏スキルが高いのか……。それとも無謀なだけだろうか……
野原でソフィアちゃんとハナコが遊ぶのを見学したあと――私は見学していたのだ――もってきたお弁当を食べながら、私はハナコに今日の用件を話す。
「ハナコ、お父さまに異界の資料を見せてもらえるようにお願いできないかなぁ」
「ん、なんだー? エトワは異界に興味があるのか?」
「エトワさま、そうだったんですか!?」
異界というか、私がもといた世界なんだけどね。
でも私がもってるアルミニウムの知識がまんま異界の知識だということを話すわけにもいかない。別に隠す理由はないけど、下手したら心の病院に連れてかれそうだし。
「いやぁー、今考えてるアルミニウムの作り方の、少しでもヒントがないかなぁっとね」
「なるほど、私からもお願いします! ハナコ!」
ソフィアちゃんはすぐに納得してくれた。
素直な子は好きだよ、ソフィアちゃん。
ハナコは私たちのお願いに「う~ん」と何か考える仕草をしたあと言った。
「別にいいけど……」
了承が取れてほっとしていると、ハナコが続ける。
「アルセルさまとのデートを取り持ってくれるなら」
恋をすると女の子は少しだけ悪どくなる。
「……デートじゃなくて、会う約束だけなら。その交渉だけなら」
さすがにデート確約は、アルセルさまを利用するみたいで不敬である。いや、交渉する時点でかなり不敬なんだけど……。これなら私が自分を誤魔化せるぎりぎりのラインだ。
「それでいいぞ!」
ハナコは嬉しそうに返事した。
ハナコへの頼み事の返事はすぐに返ってきた。遊んだ次の日、一人で歩いていると、ハチが文字通り地面から生えてきて、私に告げていった。
「赤目の騎士よ。くだんの要請、魔王さまから許可が出た。魔王城に来てくれてもいいし、そちらに欲しい物を転送してもいいということだ」
「さすがに送ってもらうだけなのは失礼だし、こちらから伺うことにするよ」
「そうか、伝えておく」
ハチはでてくるときは地面から生えてきたのに、去るときはスタスタと歩いていった。
私は漫画の忍者みたいなことができるわけではないんだと、少し残念に思った。
その週の土日、私は魔王城にお伺いすることになった。
周りの人には心配かけないように、リリーシィちゃんの家に泊まりに行くことにしておく。
魔王城はこの国を出てずっと北に行ったとこにあるらしい。
早朝、野原でハチたちと合流する。ハナコはいなかったけど、三人ほど見知らぬ魔族が来ていた。みんな仮面とフードつきローブの格好だから、会ったことがあってもわからないんだけどね。
「天輝く金烏の剣」
徒歩で行く予定なので、力を解放しておく。
「おお、それがハチさまを倒したお力……」
「相対するだけで凄まじいプレッシャーを感じるわ……」
どうやら初対面だったのは二人だけらしい。しきりと感動した様子で私を見てくる。
というか、ハチさまって結構偉いのか、こいつ……
鳥の面をつけた、不本意ながらそれなりの付き合いになってしまった魔族を見て思う。
「それじゃあ行ってくるねー」
「はい! お気をつけて!」
ここまで付いてきてくれたソフィアちゃんに手を振る。
私が早速走り出すと、後ろから焦った声がした。
「待ってくれ! その速度では我らが付いていけない!」
後ろを振り返ると、ハチ以外の魔族がかなり離れた位置にいた。
どうやら飛ばしすぎてしまったらしい。
「ごめんなさい」
スピードを落として、魔族の人たちと合流する。
よく考えると道もわからないしね。適当に北へ走ってしまっていた。
それから八時間ほどかかって魔王城に着いた。
魔王城は白い雪に包まれた大地にあった。ずっと向こうまで雪原が続き、針葉樹がまばらに生えるだけの寒々しい土地。その中心のくぼんだ場所に、城壁に囲まれた街がある。
街の真ん中には背の低い城が見えた。そこが魔王城って感じだけど、魔族たちは街全体を魔王城と呼んでるらしい。なんでもすべて魔王さまの所有物だからだそうだ。
私が城門まで近づくと、人狼の姿をした二人の魔族が警戒心をあらわに槍を突きつけてきた。
「何だ、お前は!」
「見たことのない魔族だな。城内に住みたいなら魔王さまの許可がいる。そこの小屋でしばらく過ごし沙汰を待て」
「暴れるなら容赦しないぞ!」
私の手元に書類が届く。
名前はエトワ商会。アルミホイルの製造と販売をする会社らしい。
代表者、私。それ以外に、ロールベンツさん、クリュートくん、レメテンスさんが役員に名を連ねている。資本金は九百万リシス。こんな短期間でとか、資本金は誰が出したんだろうとか、いろいろ気になったけど、一番強く印象に残ったのは、公爵家の権力怖いだった。
日曜日、ついにロールベンツさんにアルミホイルの製造法を教えることになった。といっても、教えるのはクリュートくんなんだけど。お父さまのお願いもあってか、今回はクリュートくんもあっさり協力してくれる感じだ。
「なんで僕がこんなくだらないことに……はぁ……」
不満たらたらだけど。
ロールベンツさんと私たちでお家の庭を歩きながら、作り方について話す。
目標は、クリュートくんの助け無しで、アルミホイルを作れるようになることだ。アルミホイルを商品として販売していく以上、クリュートくん頼みではやっていけない。
私はざっとした作り方をロールベンツさんに話した。クリュートくんからの受け売りだけど、土系統の魔法で鉱物を探して、それを分離して、最後に成型してアルミホイルを作る。
「なるほど、今までまったく見たことが無いものだと思っていたら、魔法で作っていたんですね」
「はい。今のところ魔法でしか作れないんですけど、大丈夫ですか?」
ロールベンツさんとしては、もっと職人ちっくな製法を想像していたのかもしれない。でも、残念ながらそこまで本格的な製法の知識はないのだ。
魔法頼りのこの状況で、商品としてちゃんと販売していけるのだろうか。
だけど意外なことに、ロールベンツさんの反応は好感触だった。
「市井の魔法使いたちは魔石に魔力をこめるなどの製造業に就いている者が意外と多いのですよ。彼らを雇えば大丈夫でしょう。特に土系統の魔力をもつ者は平民に多いですから。多すぎて仕事からあぶれる者が出てきて、ちょっとした社会問題になってるぐらいです。安定した仕事があると聞けば、喜んで集まってくるでしょう」
ロールベンツさんはさすが商人というか、そういう情報に詳しかった。
でも、アルミホイルって工場で一気に作られるイメージだったけど、この世界だとミシンで洋服を作る工場みたいに、ひとつひとつ手作りになっていくのか。ちょっと不思議な感じがする。
作る方法が魔法でも大丈夫そうなので、早速、クリュートくんに実演してもらう。
「クリュートくん、お願い~」
「はいはい」
クリュートくんは慣れた様子で探知の魔法を発動させ、まずアルミニウムの原料になる赤い土を探し当てる。それから魔法で土を集め、私たちの前に浮かせた。
ロールベンツさんが興味津々といった感じで、その土を触る。
「こ、これがあの銀色の金属になるのですか? 意外とどこにでもある土のようですが」
実際、アルミニウムは意外とどこにでもある金属らしい。アルミニウムを含んでいる鉱石といえばボーキサイトが有名だけど、他の鉱石にもよく含まれているらしい。ただいろんなものと混ざりやすいから、金属の状態で取り出すのが難しいというだけだ。
この世界が地球と同じなら、その埋蔵量は鉄よりも多いということになる。
「まあ見ててください」
クリュートくんは少し得意げな顔で、次の魔法を発動させる。作らされるのを嫌がってたわりには、やってみせる段階になると誇らしげになるのがクリュートくんらしい。
クリュートくんが目を瞑り集中すると、土が光を放ち銀色の金属と残りに分かれる。
「おおっ……」
ロールベンツさんが感嘆の声をあげる。
その反応をクリュートくんは満足げな表情でちらっと見たあと、ちょいちょいっと指を動かして、分離した金属を引き伸ばし丸めてアルミホイルを作ってみせた。
「終わりです」
最後は安定のどや顔だ。
一方、ロールベンツさんはアルミホイルを製造する魔法に圧倒された表情で、完成品を手に取りまじまじと見つめる。それからクリュートくんに質問した。
「あっさりと分離していましたが、コツなどはありますか?」
「うーん、分離したこれをアルミニウムって言うんですが、最初はそのアルミニウムをよく見てイメージしましたね。使ってる魔法は砂鉄を集めて槍を生み出す魔法と同じで、対象を変えてもっと細かく内部へって感じで発動させてます」
「なるほど、あの魔法ですね。私も何度か見たことがあります。それでは実際に何人か魔法使いを募集して、試しに作らせてみようと思います。アルミホイルが製造できたらまた連絡します」
「よろしくお願いします」
私はぺこりと頭をさげて、その背中を見送った。
しかし、後日来たのは、アルミホイルの製造の成功を伝える連絡ではなかった。
シルフィール家の別邸にやってきたロールベンツさんはかなり苦悩した様子だった。
「どうもかなり難しいらしく、平民の魔法使いでは何度やっても成功しませんでした……」
やっぱりクリュートくんは天才だったみたいだ。
平民の出の魔法使いでは、赤い土からアルミニウムを分離できなかったらしい。半月の間、雇った魔法使いの人に、クリュートくんから聞いたやり方を話して挑戦してもらったけど、一度も成功しなかったんだそうな。ロールベンツさんは落ち込んだ様子で、事の経過を報告してくれた。
「無理でしたかぁー」
「申し訳ありません……」
クリュートくん、無意識にすごいことをしていたらしい。ロールベンツさんもこの半月かなり苦心したようで、その顔は少しやつれていた。
しかし、どうしたものか。アルミニウムが作れないことには、アルミホイルも作れない。事業の目的を失い、立ち上げたエトワ商会は早速終了である、ほぼ何もせずに。
「このままではクロスウェルさまになんて報告したらいいか……」
ロールベンツさんが頭を抱える。その様子はかなり追い詰められているようだった。
さすがに私も、最初にロールベンツさんが悪いことを企んでいたことはもうわかっている。
個人的なアルミホイルへの想いは置いといて、子供を騙して権利を巻き上げようとしたことはかなりひどいと思うけど、今は心を入れ替えがんばろうとしてるのに、これで公爵家からの心証がわるくなるのはかなりかわいそうである。公爵家に嫌われてる奴って噂だけで、商売人としては破滅しかねない。
どうにかしてあげたい。
「クリュートくん、なんかコツはないのかい?」
私たちの話にまったく興味なさげにして、ソファで本を読んでいるクリュートくんに尋ねる。
すると、クリュートくんは肩をすくめて言った。
「コツは以前伝えた通りですよ。むしろ僕にはなんでできないのかわかりませんね。使う魔力はそこまで大きいわけでもないですし、腕がわるいんじゃないですか? 腕が」
むー、クリュートくんだって初めてやってって頼んだときは結構戸惑ってたくせに……
まあ、その初めてで成功させたんだけどね。でもおかげで魔力そのものの不足でないことは理解できた。どちらかというと技術力の問題なのだろう。
ようやく本を置いたクリュートくんが私たちの方を見て話す。
「どうせお金をケチって、ろくでもない魔法使いを雇ったんでしょう。ちゃんと平民でも名の通った魔法使いを使えば、結果は違うんじゃないですか? ろくな教育も受けてない魔法使い崩れじゃなくて、爵位を継げない貴族の血縁者や高名な魔法学校を卒業した人間を使うべきですよ」
「しかし、それでは人件費が嵩みますし、どうしてもコストが……」
販売する以上、コストは重要な問題だ。
人件費が嵩めば、その分、販売時の値段も高くなってしまう。
数万リシスもする調理用の便利グッズは誰も買わない。
生産数を絞って希少価値を前面に押し出せば、ものめずらしさで買ってくれる好事家もいるかもしれない。けど、それに何の意味があろうか。
台座の上で飾り物になったアルミホイルなんて何の意味もない。ご家庭で使われてこそ、アルミホイルさんは真価を発揮できるのだ。私個人の野望としては、どうせなら異世界の奥さまみんなにアルミホイルをお届けしたい。そのためには簡単に雇えるレベルの魔法使いで、なんとか生産する方法を見つけなければならない。そうでなければ需要が増えても増産できないからだ。
「ロールベンツさんの言うとおりだねぇ……」
私がそう言うと、クリュートくんがむっとした顔をした。
「じゃあ、知りませんよ。勝手にやってください」
しまった、機嫌を損ねてしまった。意見を否定したのが、プライドに障ってしまったらしい。
「とりあえずエトワさまとクリュートさまも現場を見にきていただけないでしょうか。クリュートさまには直接ご指導いただければもしかしたら……」
「そ、そうだね! クリュートくん!」
「僕はしばらくパーティーなどがあって忙しいです」
クリュートくんは明らかにやる気をなくした様子で言った。
ソファに寝そべって本を読むさまは、まったく忙しそうでない。
「じゃあ私が行きます!」
ソファの裏からソフィアちゃんがぴょんっと飛び出してきて立候補した。
私たちの会話の邪魔にならないよう、ずっとソファの陰に隠れて、静かにそばにいてくれたのだ。いや隠れる意味はわからないのだけど。
「いやいや、気持ちはありがたいけど、ソフィアちゃん土系統の魔法使えないでしょ」
「むぅー……」
ソフィアちゃんはその場でしゃがみこみ、地面に手を向けて、そよ風を起こしたり、風の渦巻きを作ったりしはじめた。どうやら土系統の魔法を練習しているらしい。
いや、さすがのソフィアちゃんでも、もってない系統の魔法を使えるわけもなし。
……ちょっとできそうで怖いけど。
クリュートくんはてこでも動きそうにない。
「とりあえず私だけでも行ってみます」
「はい……」
ロールベンツさんは心細そうだった。私もそう思う。
私とロールベンツさんだけでアルミホイル製造の実験をしている場所に行くことになった。
ロールベンツさんの商会が所有している廃屋でやってるらしい。ルヴェントの端にあり、土地と建物がセットで売られていて値段が安く、何かに使えると買っておいたのだが、今まで使い道は見つからなかったそうだ。
行ってみると廃屋という割にはしっかりとした建物だった。もとはレストランか何かをやってたらしい。中のテーブルや椅子はとりのぞかれていて広々としていた。ただちょっと埃臭い。
建物の中には大人の人が五人ぐらいいた。たぶん雇った魔法使いの人たちだろう。
私の姿を見ると、きょとんとした表情で「子供?」と呟いた。
「こちらが我らがエトワ商会の代表を務めるエトワさまだ。シルフィール公爵家のご息女でもある。失礼のないように」
ロールベンツさんが紹介してくれた。
「いえいえ、失格者で爵位を継げるわけではないので、お気軽に話しかけてください」
「よ、よろしくお願いします……」
気軽に話しかけてね、と言ったけどあんまり効果なかった。
それは置いておいて、早速実践してもらう。
すでに実験場所にはボーキサイトがドサッと置いてあった。赤い土とは違うコロコロした石の塊。土地によって取れるものが違うのかもしれないけど、探知の魔法は成功したらしい。
「それではいきます」
緊張した表情で魔法使いの人が、呪文の詠唱をはじめる。
結構時間がかかる。クリュートくんは難易度は低いと言っていたけど、民間の魔法使いにとってはそれなりの難易度の魔法なんだと思う。
呪文の詠唱が終わり、発動すると、ボーキサイトが動き出した。
震えながら集まって、三十センチぐらいの小さな槍を形成する。
確かに魔法は成功している。でもアルミニウムの槍ではなく、ボーキサイトのままの槍だ。
しかも、魔法使いの人が魔法を解くと、ばらばらになった。
「うーん……だめみたいですね」
「すみません……」
魔法使いの人もうなだれる。やっぱり失敗してしまうみたいだ。
「いえいえ、成功させるために実験するわけですから! 失敗なんて気にしないでください!」
失敗は成功のもとって言うしね!
とはいっても、このままの状態を続けても成功しそうにないのも事実だ。
一応、中のアルミニウムは引き付けられてるんだけどなぁ。ボーキサイトから分離することができていない。パワーが問題なんだろうか。
「何人かで力を合わせてやってみるのはだめでしょうか?」
ソフィアちゃんたちも複数人で同じ魔法を唱えて、規模を大きくしたりなんてたまにやる。
そう聞くと、落ち込んだ表情のロールベンツさんから答えが返ってきた。
「すでに試してもらってるんですが……」
実際にやってもらったけど、六十センチぐらいのボーキサイトの槍ができただけだった。魔法使いさんたちが五人いたのもその実験のためだったらしい。パワーをあげていってもボーキサイトの槍が大きくなっていくだけ。ボーキサイトからアルミニウムへの分離は起きない。
それを起こすには何か取っ掛かりがいるのだと思う。
天才のクリュートくんならなんとなくでできてしまうのだけど、私たちが雇えるレベルの人たちにそれを望むのは求めすぎだろう。
話を聞くと、どうやらこの人たちは土の魔法使いの供給過多により仕事にあぶれ、冒険者になるか、魔法と関係ない仕事につくかといった状況で、今回の求人に飛びついてきたらしい。
安定した職を求めてやってきたこの人たちのためにも成功させたいけど。
「う~ん、これは手詰まりですね」
ぶっちゃけ何も思いつかない!
これ以上、何か方策を見つけるには、もっとアルミニウムに対する知識が必要っぽい。
「私たちはクビでしょうか……」
落ち込んだ表情で魔法使いの人たちが言う。
「いえいえ、まだ諦めるつもりはありません! アルミホイルの製造ができれば土の魔法使いの人たちにもいい職場になるはずです! 主婦の人たちも大助かり! みんなが幸せです! なんとかみんなで知恵を絞ってがんばりましょう! 七人揃えば超文殊の知恵!」
「エトワさまの仰るとおりです。私の命のために……ごほんっ、みんなの幸せのためにもう少しがんばってみましょう」
「はい」
それを聞いて、ロールベンツさんの雇った魔法使いの人たちはほっとした表情をした。
とりあえずやることがなくなった彼らに言う。
「とりあえず今日はみなさん」
「何か思いついたのですか! エトワさま!?」
ロールベンツさんに、私は建物の端に立てかけてあった箒を手に取り言った。
「ここの掃除をしましょう~」
食品に関係する商品を扱う場所が汚いのはちょっとね。まあこの世界ではボーキサイトから扱わなきゃいけないから、そんなことも言ってられないんだけど。
その日は、魔法使いの人たちとロールベンツさんと私で廃屋の掃除を一日かけてやった。
アルミホイルさん、アルミホイルさん。
あなたのことがもっと知りたいな~。
なんて言ってみても、アルミホイルさんはぎんぎらと光るだけで、何も教えてくれない。
掃除を終え、今日は解散と帰ってきた私の部屋。
ベッドの縁に座って私は頭を悩ませる。
みんなで考えてみようと言ったけど、正直言って、アルミニウムというものについて多少でも知識があるのは私だけだ。だから私がなんとかしなければならないだろう。
でも、そのためには知識が足りない。もっとアルミニウムに関する知識が欲しい!
ただそれを得るにはこの世界ではなく、もとの世界にもどらなければならない。この世界ではアルミニウムなんてまったく認知されていない金属なのだから。見つかっているのは、地球でもごくわずかに発見される単体のアルミニウムの状態のもの。それも偽物の銀と勘違いされている。
そんな状態でアルミニウムの抽出法にたどり着く知識を得るなんて絶望的すぎる。
あああ、せめてもっと授業をまじめに聞いていれば……もしくは私が雑学博士だったなら。
なんとかないのかな、アルミニウムに関する知識を得る方法は。
『あるではないか』
すると私の頭の中から声が聞こえてきた。私が神様に貰った力を封印する剣。その剣に宿って私をいろいろサポートしてくれる人格、それが天輝さんだ。ちなみに男性っぽい。
「えっ?」
あ、あるの……?
そう尋ねると、天輝さんは呆れたようにため息を吐いた。
『可能性だけだが。知り合いにかつてお前のいた世界「異界」に詳しい者たちがいるだろうが』
「あっ……」
ハナコー!
私には魔族の知り合いがいる。自称魔王の娘ハナコだ。実はこの自称が自称じゃなくて、本物の魔王さまともお知り合いになってしまった。ハナコとはだいたい月二回ぐらいの頻度で会っている。
最近はアンデューラで忙しくてご無沙汰だったけど。
連絡係はハチというハナコの護衛の魔族がやってくれている。ハチは言葉足らずでなにかとトラブルを巻き起こすとんでもないやつで、人間の街、しかも魔族と天敵同士の貴族がいる街にも、ひょいひょい気軽に侵入してくれていた。
そんなハチを捕まえて三日後に会う約束を取り付けてもらった。
街から離れた人気のない野原がハナコとの待ち合わせ場所だ。ソフィアちゃんも付いてきた。
「ハナコと会うのも久しぶりですね」
「そうだね~」
ソフィアちゃんはハナコと会えるのが嬉しそうだった。妹みたいな存在だと思ってるしね。
約束の野原までやってくると、紫色の髪に金色の瞳、頭に角が生えた少女がいた。ハナコだ。人気がない場所とはいえ無防備だなぁっと、私はちょっと呆れた。
「ハナコー!」
ハナコを見て、ソフィアちゃんが手を振りながら駆け寄っていく。
「おお、ソフィアか、久しぶりだな!」
「うん、元気にしてました?」
「もちろん、元気だぞ!」
ハナコはソフィアちゃんと仲むつまじく挨拶を交わしたあと、きょろきょろとあたりを見回して、それから私の方を見て尋ねてきた。
「アルセルさまはいないのかー?」
私への挨拶はなしかい。
王族であるアルセルさまに敬称をつけてくれるようになった分、成長してるんだろうけど。アルセルさまと会ったのは一年以上も前だけど、まだハナコはアルセルさまに懸想していた。
「アルセルさまは忙しいの。私たちみたいな下々の人間に会いにくる時間なんてそうそうないんだから」
「オレは魔族だぞー! なんだよー、せっかくお洒落してきたのに」
そういえばハナコは、人間の女の子のようなワンピース姿だった。容姿はソフィアちゃんにも負けず劣らずの美少女なハナコだから、そういう姿をしていると普通にかわいい。
「確かに。その服どうしたの?」
魔族の国にも、人間と同じような洋服を売っている店があるのだろうか。
あらためて考えて見ると、体格が同じだからあってもおかしくない。でも、流行とか、文化の違いで、少しは違うものにならないだろうか。ヨーロッパとアジアみたいに。
ハナコの服は、私が普段暮らすルヴェントでも、よく見かけるようなドレスだった。
「ハチに買ってもらった!」
しゃらーんと、見せびらかすように腕を広げハナコが言う。
あの魔族、たびたびルヴェントに侵入するだけじゃなく、買い物までしていたのか……。どれだけ潜伏スキルが高いのか……。それとも無謀なだけだろうか……
野原でソフィアちゃんとハナコが遊ぶのを見学したあと――私は見学していたのだ――もってきたお弁当を食べながら、私はハナコに今日の用件を話す。
「ハナコ、お父さまに異界の資料を見せてもらえるようにお願いできないかなぁ」
「ん、なんだー? エトワは異界に興味があるのか?」
「エトワさま、そうだったんですか!?」
異界というか、私がもといた世界なんだけどね。
でも私がもってるアルミニウムの知識がまんま異界の知識だということを話すわけにもいかない。別に隠す理由はないけど、下手したら心の病院に連れてかれそうだし。
「いやぁー、今考えてるアルミニウムの作り方の、少しでもヒントがないかなぁっとね」
「なるほど、私からもお願いします! ハナコ!」
ソフィアちゃんはすぐに納得してくれた。
素直な子は好きだよ、ソフィアちゃん。
ハナコは私たちのお願いに「う~ん」と何か考える仕草をしたあと言った。
「別にいいけど……」
了承が取れてほっとしていると、ハナコが続ける。
「アルセルさまとのデートを取り持ってくれるなら」
恋をすると女の子は少しだけ悪どくなる。
「……デートじゃなくて、会う約束だけなら。その交渉だけなら」
さすがにデート確約は、アルセルさまを利用するみたいで不敬である。いや、交渉する時点でかなり不敬なんだけど……。これなら私が自分を誤魔化せるぎりぎりのラインだ。
「それでいいぞ!」
ハナコは嬉しそうに返事した。
ハナコへの頼み事の返事はすぐに返ってきた。遊んだ次の日、一人で歩いていると、ハチが文字通り地面から生えてきて、私に告げていった。
「赤目の騎士よ。くだんの要請、魔王さまから許可が出た。魔王城に来てくれてもいいし、そちらに欲しい物を転送してもいいということだ」
「さすがに送ってもらうだけなのは失礼だし、こちらから伺うことにするよ」
「そうか、伝えておく」
ハチはでてくるときは地面から生えてきたのに、去るときはスタスタと歩いていった。
私は漫画の忍者みたいなことができるわけではないんだと、少し残念に思った。
その週の土日、私は魔王城にお伺いすることになった。
周りの人には心配かけないように、リリーシィちゃんの家に泊まりに行くことにしておく。
魔王城はこの国を出てずっと北に行ったとこにあるらしい。
早朝、野原でハチたちと合流する。ハナコはいなかったけど、三人ほど見知らぬ魔族が来ていた。みんな仮面とフードつきローブの格好だから、会ったことがあってもわからないんだけどね。
「天輝く金烏の剣」
徒歩で行く予定なので、力を解放しておく。
「おお、それがハチさまを倒したお力……」
「相対するだけで凄まじいプレッシャーを感じるわ……」
どうやら初対面だったのは二人だけらしい。しきりと感動した様子で私を見てくる。
というか、ハチさまって結構偉いのか、こいつ……
鳥の面をつけた、不本意ながらそれなりの付き合いになってしまった魔族を見て思う。
「それじゃあ行ってくるねー」
「はい! お気をつけて!」
ここまで付いてきてくれたソフィアちゃんに手を振る。
私が早速走り出すと、後ろから焦った声がした。
「待ってくれ! その速度では我らが付いていけない!」
後ろを振り返ると、ハチ以外の魔族がかなり離れた位置にいた。
どうやら飛ばしすぎてしまったらしい。
「ごめんなさい」
スピードを落として、魔族の人たちと合流する。
よく考えると道もわからないしね。適当に北へ走ってしまっていた。
それから八時間ほどかかって魔王城に着いた。
魔王城は白い雪に包まれた大地にあった。ずっと向こうまで雪原が続き、針葉樹がまばらに生えるだけの寒々しい土地。その中心のくぼんだ場所に、城壁に囲まれた街がある。
街の真ん中には背の低い城が見えた。そこが魔王城って感じだけど、魔族たちは街全体を魔王城と呼んでるらしい。なんでもすべて魔王さまの所有物だからだそうだ。
私が城門まで近づくと、人狼の姿をした二人の魔族が警戒心をあらわに槍を突きつけてきた。
「何だ、お前は!」
「見たことのない魔族だな。城内に住みたいなら魔王さまの許可がいる。そこの小屋でしばらく過ごし沙汰を待て」
「暴れるなら容赦しないぞ!」
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