公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

文字の大きさ
121 / 151
連載

244.

しおりを挟む
 長期休暇の一日目、私たちは家の門の前に集まっていた。
 これから、飛行船を使ってそれぞれのお家に帰るんだけど、庭に5台もの飛行船が集まっていたら、貴族用の住宅地であっても注目を浴びてしまう。

 そもそもルヴェンドの街の上空を飛行船が飛ぶだけで、ニュースになってしまうぐらい、本来は貴重なものなのだ。
 そんなことになるのは、ソフィアちゃんたちも望まないので、一旦郊外にでて、そこから乗り込む予定だ。

「そろそろ、行きましょう」

 スリゼルくんの声かけで、みんな歩き出した。
 私は雑談がてら、みんなに質問しておきたいことがあった。

「みんな、エリデ男爵って知ってる?」

 私より、社交界に詳しいソフィアちゃんたちなら、エリデ男爵について何か知ってるのではないかと思ったのだ。
 ソフィアちゃんの首が可愛らしく傾く。

「私もほとんどの家名は把握しているつもりなのですが、まったく聞いたことがなくて……」

「僕も社交界で会ったことはないですね」

 珍しくクリュートくんも答えてくれた。

「調べてみたけど、一応、本当に存在はするみたいだ。王国の貴族名簿には名前が載っていた」
「リンクスくん、わざわざ調べてくれたんだ!? ありがとう!」
「別にお前のためならこれぐらい……」

 お礼を言うと、照れた表情でリンクスくんが顔を逸らす。
 ミントくんがいつもの無表情で、顎に親指を当てながら言った。

「俺も会ったことはないが……風の派閥と深い関わりを持つ者なのは間違いないはずだ……」
「ええ、そうなの!?」
「そうですね」

 驚く私とは違い、ソフィアちゃんをはじめ、他の子たちはそうだろうなという表情で頷いている。

「なんでわかるの?」

 聞いたことがない会ったこともない人物について、どうしてそんな確信がもてるのだろう。しかも、一人だけではない、みんながそれを確信しているようだった。

「エリデ男爵の所領がある場所は、完全根絶地域なんです」
「か、かんぜんこんぜつちいき……?」

 なんかいきなり難しそうな単語がでてきた。
 リンクスくんが教えてくれる。

「風の派閥による活動により、魔物や魔族たちの脅威がほぼ完全に取り除かれた地域のことだ。その土地にいる魔物や魔族を倒すだけじゃなく、魔物が伝播してくる森林の伐採をはじめとする地形の改造、さらに周辺地域にも大規模な魔物除けを行うことにより、魔物や魔族の被害が30年以上起こっていない場所がそう呼ばれてる。実際のところ、そう呼ばれる場所ではもう500年以上、魔物の被害がでてない」

 う~ん、なんかいろんな意味ですごいことだなあ。私が元いた世界で同じことをしたら、大問題になりそうな気がする。でも、野生動物よりさらに恐ろしい魔物や魔族の脅威があるこの世界では、適応される倫理も違うものになるのかもしれない。

「さすがに風の派閥でも、この規模の活動は負担が大きく、現在王国に完全根絶地域とされる場所は20もありません。特にエリデ男爵の所領がある地域は、私たち風の一族がはじめて完全根絶をなしたとされる場所で、シルフィール家にとっても特別な場所とされています。だから、その土地に住んでるのは風の派閥に縁のある者たちが多いんです」

 なるほど、そういうことだったのか。
 風の派閥にとって重要な土地に住んでるから、風の派閥の関係者。説明されてみると、わかりやすい。

「ありがとう。みんなのおかげでエリデ男爵について少しだけわかったよ」

 何も情報が掴めないと思っていたエリデ男爵だけど、会う前から少しその背景を知ることができた。あとは直接会ってみればいいかもしれない。
 一体、どんな人なんだろう。

 それから街を歩いて、買い食いなんかもしちゃって、郊外までやってきた。そこに飛行船がもう待機している。そしてソフィアちゃんたちの努力も虚しく、野次馬が飛行船の周りまで来ていた。

 貴族への恐れからか、2メートルとかそんな付近には近づいていないけど、50メートルぐらいの遠巻きから、飛行船を眺めている。お昼頃なのでシートを引いて、お弁当を食べている家族もいる。
 そしてそんなに離れていても、ソフィアちゃんたちのオーラはわかるらしい。5人の姿に野次馬の人たちがざわついた。すぐに飛行船の持ち主だと悟られてしまったのだろう。

「これはゆっくりしてる暇はなさそうだねえ」

 もともと騒ぎを避けてきたのに、これでは意味がない。

「そうですね。慣れて近づいてきたら厄介です。事故などが起こらないように早く飛び立ちましょう」

 スリゼルくんがちょっとひどいけど、もっともなことを言う。

「私たちの船はこちらです、エトワさま!」

 ソフィアちゃんがニコッと笑顔で私の手をひく。私が最初に訪れるのは、ソフィアちゃんのご実家だ。

「エトワさま、俺の家にも絶対こいよな!」

 別れ際にリンクスくんがそう言う。

「うんうん、絶対行くよ~」

 むしろ行かない理由があったら教えてほしい。

「待っているぞ……」

 ミントくんもそう言って去っていった。一応、歓迎してくれているみたいだ。クリュートくんとスリゼルくんは、特に何もなし。
 まあ、あの子たちは複雑なんだろう。でも、こちらから断るのも変だし、寄らせてもらおう。特にスリゼルくんはこれがきっかけで親交が深まるかもしれないし。

「それじゃあ、行きましょう!」
「は~い、お邪魔しま~す」

 ソフィアちゃんの掛け声で、私も船に乗り込んだ。
 こうして私たちはそれぞれのお家へと旅立つことになった。

 それから数時間、ソフィアちゃんと私の載った船は地上へと降り立った。お付きの人に導かれて船を降りると、草原が広がっていた。草原はずっと遠くまで続いていて、遮るような丘や建物はない。とてもきれいな景色だった。

 その草原に1組の男女がいた。
 男性も女性もとても美しい容姿で、特徴的な銀色の髪をしている。それはソフィアちゃんの髪と同じ色。すぐにわかった。ソフィアちゃんのご両親だ。
 ちょっと意外だったのは、お二人とも銀髪だったことだろうか。

 だってこんなに美しい髪の人が、二人といるとは思えず、どちらかの親御さんからの遺伝だと思い込んでいたのだ。でも、旦那さんも奥さんも、どちらも銀髪だった。
 そのせいで、下手したら兄妹にも見える。

 いや、もしかしたらそうなのかも? どちらかがソフィアちゃんの親御さんで、もう片方はそのご兄妹?

 頭が混乱してきたけど、答えはすぐわかった。

「お父様、お母様!」

 ソフィアちゃんが笑顔で二人に駆け寄ったからだ。私はなんとなく最初の直感が外れてなかったことにほっとした。
 ソフィアちゃんのご両親は、抱きつくソフィアちゃんの頭を撫でてあげると、私の方へ歩いてきた。

「はじめましてエトワさま。ソフィアからあなたのことはたくさん聞いていたので、ひと目見てわかりました。私が現フィン侯爵家当主のレイルスです」
「妻のルフィアです。噂通りの素晴らしい方ですね」

 レイルスさんはかっこいい、若々しくてソフィアちゃんのお兄さんみたいに見える。ルフィアさんは銀色の髪をポニーテイルにしていて、運動をしているときのソフィアちゃんを思い起こさせた。きっと大人になったら、ソフィアちゃんもこんな風に綺麗になるんだと思う。
 でも噂ってなんだろう。ソフィアちゃんからどんな風に伝わってるのか気になるぞ。ソフィアちゃんのことだから悪くは言われてないと思うけど、それはそれでプレッシャー。

「よ、よろしくお願いします。エトワです。一週間ほどお世話になります」

 私はちょっと緊張しながら深々と頭を下げた。

「ははは、そこまで畏まらないでください。ルヴェンドではソフィアのことを妹のように大切にしてくださっているのだと聞いております。私たちのことも、どうか家族のように思ってください」

 ソフィアちゃんパパ、レイルスさんが爽やかな光を放つ笑顔でそう言った。
 いえ、それは無理です。二人の容姿が神々しすぎて、家族どころか、自分と一緒の生き物のカテゴリーとすら思えない。
 ソフィアちゃんは幼なじみ補正で妹だと思えるけど、お二人は無理。

「レイルスさま、エトワさまも長旅でお疲れでしょうから、まず家に案内してさしあげるのがよろしいかと」

 もう少しソフィアちゃんのご両親との会話が続きそうな時に、そう言ってくれたのは、私を飛行船で送ってくれたお付きの人だった。
 馬車が移動手段のこの世界で、6時間という移動は長旅とは言わないかもしれないけど、やっぱり移動は疲労が溜まるもので、確かにちょっと疲れてるかもしれない。

「ああ、そういえばそうだな、ゴルデス! 申し訳ありません、エトワさま。どうにも私は気が利かないたちのようで、ゴルデスに注意されないとこういうことに気づけないのですよ。すぐに家に案内します」

 お付きの人はゴルデスさんというらしい。
 執事っぽい格好をした優しそうなおじいさんだ。

「いえいえ、こちらこそごめんなさい。それで、その……お家はどちらに……?」

 最初に言った通り、この辺りは草原しか見えないのだ。もちろん、最初に言った通り、それを遮る丘も建物もない。
 まさか侯爵家の家が地下にある……なんてことはないはずだ。

「私たちの家は、ここから10キロ離れた山の上にありますわ」

 そう言ってソフィアちゃんママ、ルフィアさんが指差した先には確かに草原の向こうに山が見えた。
 えっ、10キロ……? じゃあ、なんでここに降りたの?

 ああ、そっか。なんらかの理由で飛行船はお屋敷に停められないから、ここからは馬車で……。
 そう考えながら、なぜか私の心はだんだんと嫌な予感に囚われはじめていた。

「じゅ、10キロ向こうにあるんですかあ……」
「はい、手頃な距離に綺麗な草原があったので、そこでエトワさまをお迎えしたいと思い、二人で走ってきました」

 そうかあ、10キロを走ってきたんですか~。
 うん、ここに着いたとき、二人の姿だけで馬車は見えなかったもんねえ……。

「それではお家にいく手段というのは……?」

 また飛行船に乗って移動したりするのかなー?
 私の恐る恐るの質問に、答えは爽やかな笑顔で返ってきた。

「帰りはエトワさまも一緒に走りましょう」
「草原を走るのは風がきもちいいですよ」

 片道10キロを走ってきたとは思えない一欠片の曇りもない笑顔で、ソフィアちゃんパパとママはそう言った。
 ちょ、ちょっとまって、冒険者を志しているとはいえ、私の根っこは前世の頃からインドア派。外に出る必要ないときは、家でだらだら本を読んで過ごしている。そんな私に10キロのランニングはやばい。避けたい。
 ソフィアちゃん、助け……。

「お父様とお母様とのランニング、久しぶりなので楽しみです」

 元気っ子のソフィアちゃんは、笑顔でそれに応じる。ソフィアちゃん、ルヴェンドにいたときも、ちょくちょくランニングしてたもんねえ。
 ん、これ逃げ場なくない?

 私は一縷の望みをかけて、お付きの人、ゴルデスさんの方を見た。

「フィン家をおとずれて、いきなり走って足を痛める客人が多くございます。ここは入念にストレッチされるのがよいかと」

 そう小声で私にアドバイスをくれながら、ゴルデスさんはアキレス腱をのばす運動をしていた。
 あっ、ゴルデスさんも走るんですね……。

 逃げ場ないじゃん……。

「さあ行きましょう、エトワさま!」
「私たちの家まで競争ですよ!」

 こうして私のソフィアちゃんの家での生活がスタートした。まだ家にたどり着いてすらいないけれど……。


※更新と告知おそくなってすみません。5月31日まで小説の2巻まで無料開放されてるみたいです。読んでくださっていつもありがとうございます。
しおりを挟む
感想 1,687

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。