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244.
長期休暇の一日目、私たちは家の門の前に集まっていた。
これから、飛行船を使ってそれぞれのお家に帰るんだけど、庭に5台もの飛行船が集まっていたら、貴族用の住宅地であっても注目を浴びてしまう。
そもそもルヴェンドの街の上空を飛行船が飛ぶだけで、ニュースになってしまうぐらい、本来は貴重なものなのだ。
そんなことになるのは、ソフィアちゃんたちも望まないので、一旦郊外にでて、そこから乗り込む予定だ。
「そろそろ、行きましょう」
スリゼルくんの声かけで、みんな歩き出した。
私は雑談がてら、みんなに質問しておきたいことがあった。
「みんな、エリデ男爵って知ってる?」
私より、社交界に詳しいソフィアちゃんたちなら、エリデ男爵について何か知ってるのではないかと思ったのだ。
ソフィアちゃんの首が可愛らしく傾く。
「私もほとんどの家名は把握しているつもりなのですが、まったく聞いたことがなくて……」
「僕も社交界で会ったことはないですね」
珍しくクリュートくんも答えてくれた。
「調べてみたけど、一応、本当に存在はするみたいだ。王国の貴族名簿には名前が載っていた」
「リンクスくん、わざわざ調べてくれたんだ!? ありがとう!」
「別にお前のためならこれぐらい……」
お礼を言うと、照れた表情でリンクスくんが顔を逸らす。
ミントくんがいつもの無表情で、顎に親指を当てながら言った。
「俺も会ったことはないが……風の派閥と深い関わりを持つ者なのは間違いないはずだ……」
「ええ、そうなの!?」
「そうですね」
驚く私とは違い、ソフィアちゃんをはじめ、他の子たちはそうだろうなという表情で頷いている。
「なんでわかるの?」
聞いたことがない会ったこともない人物について、どうしてそんな確信がもてるのだろう。しかも、一人だけではない、みんながそれを確信しているようだった。
「エリデ男爵の所領がある場所は、完全根絶地域なんです」
「か、かんぜんこんぜつちいき……?」
なんかいきなり難しそうな単語がでてきた。
リンクスくんが教えてくれる。
「風の派閥による活動により、魔物や魔族たちの脅威がほぼ完全に取り除かれた地域のことだ。その土地にいる魔物や魔族を倒すだけじゃなく、魔物が伝播してくる森林の伐採をはじめとする地形の改造、さらに周辺地域にも大規模な魔物除けを行うことにより、魔物や魔族の被害が30年以上起こっていない場所がそう呼ばれてる。実際のところ、そう呼ばれる場所ではもう500年以上、魔物の被害がでてない」
う~ん、なんかいろんな意味ですごいことだなあ。私が元いた世界で同じことをしたら、大問題になりそうな気がする。でも、野生動物よりさらに恐ろしい魔物や魔族の脅威があるこの世界では、適応される倫理も違うものになるのかもしれない。
「さすがに風の派閥でも、この規模の活動は負担が大きく、現在王国に完全根絶地域とされる場所は20もありません。特にエリデ男爵の所領がある地域は、私たち風の一族がはじめて完全根絶をなしたとされる場所で、シルフィール家にとっても特別な場所とされています。だから、その土地に住んでるのは風の派閥に縁のある者たちが多いんです」
なるほど、そういうことだったのか。
風の派閥にとって重要な土地に住んでるから、風の派閥の関係者。説明されてみると、わかりやすい。
「ありがとう。みんなのおかげでエリデ男爵について少しだけわかったよ」
何も情報が掴めないと思っていたエリデ男爵だけど、会う前から少しその背景を知ることができた。あとは直接会ってみればいいかもしれない。
一体、どんな人なんだろう。
それから街を歩いて、買い食いなんかもしちゃって、郊外までやってきた。そこに飛行船がもう待機している。そしてソフィアちゃんたちの努力も虚しく、野次馬が飛行船の周りまで来ていた。
貴族への恐れからか、2メートルとかそんな付近には近づいていないけど、50メートルぐらいの遠巻きから、飛行船を眺めている。お昼頃なのでシートを引いて、お弁当を食べている家族もいる。
そしてそんなに離れていても、ソフィアちゃんたちのオーラはわかるらしい。5人の姿に野次馬の人たちがざわついた。すぐに飛行船の持ち主だと悟られてしまったのだろう。
「これはゆっくりしてる暇はなさそうだねえ」
もともと騒ぎを避けてきたのに、これでは意味がない。
「そうですね。慣れて近づいてきたら厄介です。事故などが起こらないように早く飛び立ちましょう」
スリゼルくんがちょっとひどいけど、もっともなことを言う。
「私たちの船はこちらです、エトワさま!」
ソフィアちゃんがニコッと笑顔で私の手をひく。私が最初に訪れるのは、ソフィアちゃんのご実家だ。
「エトワさま、俺の家にも絶対こいよな!」
別れ際にリンクスくんがそう言う。
「うんうん、絶対行くよ~」
むしろ行かない理由があったら教えてほしい。
「待っているぞ……」
ミントくんもそう言って去っていった。一応、歓迎してくれているみたいだ。クリュートくんとスリゼルくんは、特に何もなし。
まあ、あの子たちは複雑なんだろう。でも、こちらから断るのも変だし、寄らせてもらおう。特にスリゼルくんはこれがきっかけで親交が深まるかもしれないし。
「それじゃあ、行きましょう!」
「は~い、お邪魔しま~す」
ソフィアちゃんの掛け声で、私も船に乗り込んだ。
こうして私たちはそれぞれのお家へと旅立つことになった。
それから数時間、ソフィアちゃんと私の載った船は地上へと降り立った。お付きの人に導かれて船を降りると、草原が広がっていた。草原はずっと遠くまで続いていて、遮るような丘や建物はない。とてもきれいな景色だった。
その草原に1組の男女がいた。
男性も女性もとても美しい容姿で、特徴的な銀色の髪をしている。それはソフィアちゃんの髪と同じ色。すぐにわかった。ソフィアちゃんのご両親だ。
ちょっと意外だったのは、お二人とも銀髪だったことだろうか。
だってこんなに美しい髪の人が、二人といるとは思えず、どちらかの親御さんからの遺伝だと思い込んでいたのだ。でも、旦那さんも奥さんも、どちらも銀髪だった。
そのせいで、下手したら兄妹にも見える。
いや、もしかしたらそうなのかも? どちらかがソフィアちゃんの親御さんで、もう片方はそのご兄妹?
頭が混乱してきたけど、答えはすぐわかった。
「お父様、お母様!」
ソフィアちゃんが笑顔で二人に駆け寄ったからだ。私はなんとなく最初の直感が外れてなかったことにほっとした。
ソフィアちゃんのご両親は、抱きつくソフィアちゃんの頭を撫でてあげると、私の方へ歩いてきた。
「はじめましてエトワさま。ソフィアからあなたのことはたくさん聞いていたので、ひと目見てわかりました。私が現フィン侯爵家当主のレイルスです」
「妻のルフィアです。噂通りの素晴らしい方ですね」
レイルスさんはかっこいい、若々しくてソフィアちゃんのお兄さんみたいに見える。ルフィアさんは銀色の髪をポニーテイルにしていて、運動をしているときのソフィアちゃんを思い起こさせた。きっと大人になったら、ソフィアちゃんもこんな風に綺麗になるんだと思う。
でも噂ってなんだろう。ソフィアちゃんからどんな風に伝わってるのか気になるぞ。ソフィアちゃんのことだから悪くは言われてないと思うけど、それはそれでプレッシャー。
「よ、よろしくお願いします。エトワです。一週間ほどお世話になります」
私はちょっと緊張しながら深々と頭を下げた。
「ははは、そこまで畏まらないでください。ルヴェンドではソフィアのことを妹のように大切にしてくださっているのだと聞いております。私たちのことも、どうか家族のように思ってください」
ソフィアちゃんパパ、レイルスさんが爽やかな光を放つ笑顔でそう言った。
いえ、それは無理です。二人の容姿が神々しすぎて、家族どころか、自分と一緒の生き物のカテゴリーとすら思えない。
ソフィアちゃんは幼なじみ補正で妹だと思えるけど、お二人は無理。
「レイルスさま、エトワさまも長旅でお疲れでしょうから、まず家に案内してさしあげるのがよろしいかと」
もう少しソフィアちゃんのご両親との会話が続きそうな時に、そう言ってくれたのは、私を飛行船で送ってくれたお付きの人だった。
馬車が移動手段のこの世界で、6時間という移動は長旅とは言わないかもしれないけど、やっぱり移動は疲労が溜まるもので、確かにちょっと疲れてるかもしれない。
「ああ、そういえばそうだな、ゴルデス! 申し訳ありません、エトワさま。どうにも私は気が利かないたちのようで、ゴルデスに注意されないとこういうことに気づけないのですよ。すぐに家に案内します」
お付きの人はゴルデスさんというらしい。
執事っぽい格好をした優しそうなおじいさんだ。
「いえいえ、こちらこそごめんなさい。それで、その……お家はどちらに……?」
最初に言った通り、この辺りは草原しか見えないのだ。もちろん、最初に言った通り、それを遮る丘も建物もない。
まさか侯爵家の家が地下にある……なんてことはないはずだ。
「私たちの家は、ここから10キロ離れた山の上にありますわ」
そう言ってソフィアちゃんママ、ルフィアさんが指差した先には確かに草原の向こうに山が見えた。
えっ、10キロ……? じゃあ、なんでここに降りたの?
ああ、そっか。なんらかの理由で飛行船はお屋敷に停められないから、ここからは馬車で……。
そう考えながら、なぜか私の心はだんだんと嫌な予感に囚われはじめていた。
「じゅ、10キロ向こうにあるんですかあ……」
「はい、手頃な距離に綺麗な草原があったので、そこでエトワさまをお迎えしたいと思い、二人で走ってきました」
そうかあ、10キロを走ってきたんですか~。
うん、ここに着いたとき、二人の姿だけで馬車は見えなかったもんねえ……。
「それではお家にいく手段というのは……?」
また飛行船に乗って移動したりするのかなー?
私の恐る恐るの質問に、答えは爽やかな笑顔で返ってきた。
「帰りはエトワさまも一緒に走りましょう」
「草原を走るのは風がきもちいいですよ」
片道10キロを走ってきたとは思えない一欠片の曇りもない笑顔で、ソフィアちゃんパパとママはそう言った。
ちょ、ちょっとまって、冒険者を志しているとはいえ、私の根っこは前世の頃からインドア派。外に出る必要ないときは、家でだらだら本を読んで過ごしている。そんな私に10キロのランニングはやばい。避けたい。
ソフィアちゃん、助け……。
「お父様とお母様とのランニング、久しぶりなので楽しみです」
元気っ子のソフィアちゃんは、笑顔でそれに応じる。ソフィアちゃん、ルヴェンドにいたときも、ちょくちょくランニングしてたもんねえ。
ん、これ逃げ場なくない?
私は一縷の望みをかけて、お付きの人、ゴルデスさんの方を見た。
「フィン家をおとずれて、いきなり走って足を痛める客人が多くございます。ここは入念にストレッチされるのがよいかと」
そう小声で私にアドバイスをくれながら、ゴルデスさんはアキレス腱をのばす運動をしていた。
あっ、ゴルデスさんも走るんですね……。
逃げ場ないじゃん……。
「さあ行きましょう、エトワさま!」
「私たちの家まで競争ですよ!」
こうして私のソフィアちゃんの家での生活がスタートした。まだ家にたどり着いてすらいないけれど……。
※更新と告知おそくなってすみません。5月31日まで小説の2巻まで無料開放されてるみたいです。読んでくださっていつもありがとうございます。
これから、飛行船を使ってそれぞれのお家に帰るんだけど、庭に5台もの飛行船が集まっていたら、貴族用の住宅地であっても注目を浴びてしまう。
そもそもルヴェンドの街の上空を飛行船が飛ぶだけで、ニュースになってしまうぐらい、本来は貴重なものなのだ。
そんなことになるのは、ソフィアちゃんたちも望まないので、一旦郊外にでて、そこから乗り込む予定だ。
「そろそろ、行きましょう」
スリゼルくんの声かけで、みんな歩き出した。
私は雑談がてら、みんなに質問しておきたいことがあった。
「みんな、エリデ男爵って知ってる?」
私より、社交界に詳しいソフィアちゃんたちなら、エリデ男爵について何か知ってるのではないかと思ったのだ。
ソフィアちゃんの首が可愛らしく傾く。
「私もほとんどの家名は把握しているつもりなのですが、まったく聞いたことがなくて……」
「僕も社交界で会ったことはないですね」
珍しくクリュートくんも答えてくれた。
「調べてみたけど、一応、本当に存在はするみたいだ。王国の貴族名簿には名前が載っていた」
「リンクスくん、わざわざ調べてくれたんだ!? ありがとう!」
「別にお前のためならこれぐらい……」
お礼を言うと、照れた表情でリンクスくんが顔を逸らす。
ミントくんがいつもの無表情で、顎に親指を当てながら言った。
「俺も会ったことはないが……風の派閥と深い関わりを持つ者なのは間違いないはずだ……」
「ええ、そうなの!?」
「そうですね」
驚く私とは違い、ソフィアちゃんをはじめ、他の子たちはそうだろうなという表情で頷いている。
「なんでわかるの?」
聞いたことがない会ったこともない人物について、どうしてそんな確信がもてるのだろう。しかも、一人だけではない、みんながそれを確信しているようだった。
「エリデ男爵の所領がある場所は、完全根絶地域なんです」
「か、かんぜんこんぜつちいき……?」
なんかいきなり難しそうな単語がでてきた。
リンクスくんが教えてくれる。
「風の派閥による活動により、魔物や魔族たちの脅威がほぼ完全に取り除かれた地域のことだ。その土地にいる魔物や魔族を倒すだけじゃなく、魔物が伝播してくる森林の伐採をはじめとする地形の改造、さらに周辺地域にも大規模な魔物除けを行うことにより、魔物や魔族の被害が30年以上起こっていない場所がそう呼ばれてる。実際のところ、そう呼ばれる場所ではもう500年以上、魔物の被害がでてない」
う~ん、なんかいろんな意味ですごいことだなあ。私が元いた世界で同じことをしたら、大問題になりそうな気がする。でも、野生動物よりさらに恐ろしい魔物や魔族の脅威があるこの世界では、適応される倫理も違うものになるのかもしれない。
「さすがに風の派閥でも、この規模の活動は負担が大きく、現在王国に完全根絶地域とされる場所は20もありません。特にエリデ男爵の所領がある地域は、私たち風の一族がはじめて完全根絶をなしたとされる場所で、シルフィール家にとっても特別な場所とされています。だから、その土地に住んでるのは風の派閥に縁のある者たちが多いんです」
なるほど、そういうことだったのか。
風の派閥にとって重要な土地に住んでるから、風の派閥の関係者。説明されてみると、わかりやすい。
「ありがとう。みんなのおかげでエリデ男爵について少しだけわかったよ」
何も情報が掴めないと思っていたエリデ男爵だけど、会う前から少しその背景を知ることができた。あとは直接会ってみればいいかもしれない。
一体、どんな人なんだろう。
それから街を歩いて、買い食いなんかもしちゃって、郊外までやってきた。そこに飛行船がもう待機している。そしてソフィアちゃんたちの努力も虚しく、野次馬が飛行船の周りまで来ていた。
貴族への恐れからか、2メートルとかそんな付近には近づいていないけど、50メートルぐらいの遠巻きから、飛行船を眺めている。お昼頃なのでシートを引いて、お弁当を食べている家族もいる。
そしてそんなに離れていても、ソフィアちゃんたちのオーラはわかるらしい。5人の姿に野次馬の人たちがざわついた。すぐに飛行船の持ち主だと悟られてしまったのだろう。
「これはゆっくりしてる暇はなさそうだねえ」
もともと騒ぎを避けてきたのに、これでは意味がない。
「そうですね。慣れて近づいてきたら厄介です。事故などが起こらないように早く飛び立ちましょう」
スリゼルくんがちょっとひどいけど、もっともなことを言う。
「私たちの船はこちらです、エトワさま!」
ソフィアちゃんがニコッと笑顔で私の手をひく。私が最初に訪れるのは、ソフィアちゃんのご実家だ。
「エトワさま、俺の家にも絶対こいよな!」
別れ際にリンクスくんがそう言う。
「うんうん、絶対行くよ~」
むしろ行かない理由があったら教えてほしい。
「待っているぞ……」
ミントくんもそう言って去っていった。一応、歓迎してくれているみたいだ。クリュートくんとスリゼルくんは、特に何もなし。
まあ、あの子たちは複雑なんだろう。でも、こちらから断るのも変だし、寄らせてもらおう。特にスリゼルくんはこれがきっかけで親交が深まるかもしれないし。
「それじゃあ、行きましょう!」
「は~い、お邪魔しま~す」
ソフィアちゃんの掛け声で、私も船に乗り込んだ。
こうして私たちはそれぞれのお家へと旅立つことになった。
それから数時間、ソフィアちゃんと私の載った船は地上へと降り立った。お付きの人に導かれて船を降りると、草原が広がっていた。草原はずっと遠くまで続いていて、遮るような丘や建物はない。とてもきれいな景色だった。
その草原に1組の男女がいた。
男性も女性もとても美しい容姿で、特徴的な銀色の髪をしている。それはソフィアちゃんの髪と同じ色。すぐにわかった。ソフィアちゃんのご両親だ。
ちょっと意外だったのは、お二人とも銀髪だったことだろうか。
だってこんなに美しい髪の人が、二人といるとは思えず、どちらかの親御さんからの遺伝だと思い込んでいたのだ。でも、旦那さんも奥さんも、どちらも銀髪だった。
そのせいで、下手したら兄妹にも見える。
いや、もしかしたらそうなのかも? どちらかがソフィアちゃんの親御さんで、もう片方はそのご兄妹?
頭が混乱してきたけど、答えはすぐわかった。
「お父様、お母様!」
ソフィアちゃんが笑顔で二人に駆け寄ったからだ。私はなんとなく最初の直感が外れてなかったことにほっとした。
ソフィアちゃんのご両親は、抱きつくソフィアちゃんの頭を撫でてあげると、私の方へ歩いてきた。
「はじめましてエトワさま。ソフィアからあなたのことはたくさん聞いていたので、ひと目見てわかりました。私が現フィン侯爵家当主のレイルスです」
「妻のルフィアです。噂通りの素晴らしい方ですね」
レイルスさんはかっこいい、若々しくてソフィアちゃんのお兄さんみたいに見える。ルフィアさんは銀色の髪をポニーテイルにしていて、運動をしているときのソフィアちゃんを思い起こさせた。きっと大人になったら、ソフィアちゃんもこんな風に綺麗になるんだと思う。
でも噂ってなんだろう。ソフィアちゃんからどんな風に伝わってるのか気になるぞ。ソフィアちゃんのことだから悪くは言われてないと思うけど、それはそれでプレッシャー。
「よ、よろしくお願いします。エトワです。一週間ほどお世話になります」
私はちょっと緊張しながら深々と頭を下げた。
「ははは、そこまで畏まらないでください。ルヴェンドではソフィアのことを妹のように大切にしてくださっているのだと聞いております。私たちのことも、どうか家族のように思ってください」
ソフィアちゃんパパ、レイルスさんが爽やかな光を放つ笑顔でそう言った。
いえ、それは無理です。二人の容姿が神々しすぎて、家族どころか、自分と一緒の生き物のカテゴリーとすら思えない。
ソフィアちゃんは幼なじみ補正で妹だと思えるけど、お二人は無理。
「レイルスさま、エトワさまも長旅でお疲れでしょうから、まず家に案内してさしあげるのがよろしいかと」
もう少しソフィアちゃんのご両親との会話が続きそうな時に、そう言ってくれたのは、私を飛行船で送ってくれたお付きの人だった。
馬車が移動手段のこの世界で、6時間という移動は長旅とは言わないかもしれないけど、やっぱり移動は疲労が溜まるもので、確かにちょっと疲れてるかもしれない。
「ああ、そういえばそうだな、ゴルデス! 申し訳ありません、エトワさま。どうにも私は気が利かないたちのようで、ゴルデスに注意されないとこういうことに気づけないのですよ。すぐに家に案内します」
お付きの人はゴルデスさんというらしい。
執事っぽい格好をした優しそうなおじいさんだ。
「いえいえ、こちらこそごめんなさい。それで、その……お家はどちらに……?」
最初に言った通り、この辺りは草原しか見えないのだ。もちろん、最初に言った通り、それを遮る丘も建物もない。
まさか侯爵家の家が地下にある……なんてことはないはずだ。
「私たちの家は、ここから10キロ離れた山の上にありますわ」
そう言ってソフィアちゃんママ、ルフィアさんが指差した先には確かに草原の向こうに山が見えた。
えっ、10キロ……? じゃあ、なんでここに降りたの?
ああ、そっか。なんらかの理由で飛行船はお屋敷に停められないから、ここからは馬車で……。
そう考えながら、なぜか私の心はだんだんと嫌な予感に囚われはじめていた。
「じゅ、10キロ向こうにあるんですかあ……」
「はい、手頃な距離に綺麗な草原があったので、そこでエトワさまをお迎えしたいと思い、二人で走ってきました」
そうかあ、10キロを走ってきたんですか~。
うん、ここに着いたとき、二人の姿だけで馬車は見えなかったもんねえ……。
「それではお家にいく手段というのは……?」
また飛行船に乗って移動したりするのかなー?
私の恐る恐るの質問に、答えは爽やかな笑顔で返ってきた。
「帰りはエトワさまも一緒に走りましょう」
「草原を走るのは風がきもちいいですよ」
片道10キロを走ってきたとは思えない一欠片の曇りもない笑顔で、ソフィアちゃんパパとママはそう言った。
ちょ、ちょっとまって、冒険者を志しているとはいえ、私の根っこは前世の頃からインドア派。外に出る必要ないときは、家でだらだら本を読んで過ごしている。そんな私に10キロのランニングはやばい。避けたい。
ソフィアちゃん、助け……。
「お父様とお母様とのランニング、久しぶりなので楽しみです」
元気っ子のソフィアちゃんは、笑顔でそれに応じる。ソフィアちゃん、ルヴェンドにいたときも、ちょくちょくランニングしてたもんねえ。
ん、これ逃げ場なくない?
私は一縷の望みをかけて、お付きの人、ゴルデスさんの方を見た。
「フィン家をおとずれて、いきなり走って足を痛める客人が多くございます。ここは入念にストレッチされるのがよいかと」
そう小声で私にアドバイスをくれながら、ゴルデスさんはアキレス腱をのばす運動をしていた。
あっ、ゴルデスさんも走るんですね……。
逃げ場ないじゃん……。
「さあ行きましょう、エトワさま!」
「私たちの家まで競争ですよ!」
こうして私のソフィアちゃんの家での生活がスタートした。まだ家にたどり着いてすらいないけれど……。
※更新と告知おそくなってすみません。5月31日まで小説の2巻まで無料開放されてるみたいです。読んでくださっていつもありがとうございます。
感想 1,691
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