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Ep.1
第15話 亀と乙姫の内緒の話
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今となってはすっかり住み慣れた、城の二階の使用人用の部屋。照度を落とした照明が夜の薄暗い室内をぼんやりと照らす。
凪沙はベッドに腰掛けて、窓の方を見つめていた。
「私、これからどうなっちゃうんだろう……」
多くの貴族らが集まる宴の場でオセアーノの特徴である銀髪と碧眼を曝け出してしまい、集団リンチに遭いかけた凪沙。フロリダのおかげで今回は助かったけれど、事はこれで終わりじゃない。オトが言っていた。
海族が城に匿われているという話はあっという間に国民に広まる。そうなれば国民の敵意が一斉に私に向けられると。
きっとこの先どれだけ批判や糾弾をされようと、オトもアーシムも私を見捨てたりはしないだろう。身を挺して守ってくれるだろう。
でもそれでは、私はただ周囲に迷惑をかけ続けるだけの役立たず。存在価値の無いダメ人間になってしまう。
じゃあどうする。戦う? 武器を持ち、自分の身は自分で守る?
無理だ。何千何万の群衆を相手に、喧嘩すらしたことのない凪沙一人の力で対抗出来るはずがない。
だから私は、この国から出て行くことが最善だと思った。
けれどそれはオトが認めてくれなかった。
私はこのまま、この部屋の中で朽ちていくだけなの……?
窓の外の星空が滲む。
「私、帰りたいよ。お父さん、お母さん、お姉ちゃん、たまて。みんなに会いたい……」
凪沙は無意識に、そんな言葉を呟いていた。もう戻りたくないと思っていた元の世界に帰りたいと、気付けば願っていた。
世間から浴びせられるであろう期待外れだったという批判も、残念だったねという同情も、海族に向けられる憎悪に比べたら何という事はない。そんな程度のもの、今となっては大した苦痛じゃない。
むしろ自分が精一杯努力してきたあの世界で、もう一度やり直せるのなら。大好きな家族や親友のいるあの世界で、人生を続けられるのなら。それはこの世界で何も出来ずにただ守ってもらって、ひたすら無意味に過ごし続けるよりも、とても幸せだと思う。
コンコン。
不意に部屋の扉がノックされて、凪沙は慌てて目頭を拭う。
「はい、どうぞ?」
誰だろう? デルフィーノさんかな?
こんな時間にどうしたのだろうかと首を傾げつつ、入室を許可する。
「失礼するわね」
すると、扉を開けて部屋に入ってきたのはオトだった。
彼女が着ているのはいつものドレスではなく、淡い水色をしたシルクのネグリジェ。大きく開いた首元から覗く美しい鎖骨と、膝上丈の裾から伸びる透き通るように白くてすらりと長い脚に少しドキリとしてしまう。
「急に押しかけてごめんなさい。驚かせちゃったかしら?」
落ち着いた静謐な声音で問われ、凪沙は首を横に振る。
「いえ、大丈夫です。それよりオトさん、こんな時間にどうしたんですか? わざわざ部屋に来るなんて、何か緊急事態とかですか?」
まさか既に私の話が広まって、王城に武器を持った人達が詰めかけてきたのでは。
嫌な想像が脳裏を過ぎって、不安になる凪沙。
しかしすぐにオトは微笑みを浮かべて口を開いた。
「そうネガティブになりなさんな。王都は至って平和よ」
「じゃあどうして……?」
何も無いのなら、ますます女王様自らが私のもとを訪ねてくる意味が分からない。
オトは凪沙の隣に腰掛けると、急に耳元に顔を近づけて囁くように言った。
「私だって、誰かに甘えたい時はあるわ」
「ふぇっ!?」
突然の萌え声ASMRに驚きのあまりベッドから転げ落ちそうになる。焦りからなのか照れからなのか、自分でもよく分からないが顔がものすごく熱い。
凪沙の真っ赤な顔を見て、それからオトはいたずらっぽく笑った。
「私に惚れちゃった? なーんて、冗談よ。からかって悪かったわね」
「もう、何なんですか」
頬を膨らませて抗議すると、彼女は胸の前で両手を合わせて可愛く謝ってみせる。
そんな子供っぽい一面を覗かせたオトだが、次の言葉を発する直前。ふと顔から表情が消えた。窓の外から差し込む月明かりで、彼女の色の無い純白の瞳が淡く光る。
「……ごめんなさいナギサ。やっぱり日本に帰りたいわよね」
訊かれて凪沙は、耳を疑った。
今、〈日本〉って言った?
この世界の住人が知るはずのない国名を、女王は当たり前のように言った。しかもその日本から来た私に向かって。
「えっと……?」
困惑を隠せない凪沙に、オトは続ける。
「実は私には日本人の血が入っているの。かつてこの国を救った剣士、黒の英雄は日本人でね。私はその血筋を継いでいるのよ」
「つまり、オトさんはあの黒の英雄の子孫ってことですか?」
「ええ、その通りよ」
いつだったか、黒の広場で石像を見た時に感じたことは間違っていなかった。
あの英雄の像とオトの顔立ちや表情が似ているように思えたのは、凪沙の気のせいではなかった訳だ。
「ちなみに、この世界には日本人が深く関わったと言われている国があと二つあって。カイビトス公国とマリンピア民主国。私が貸した本にも記述があったわよね?」
「あっ、はい。確かカイビトスは魔法文明が栄えた国で、マリンピアは科学技術によって発展してきた国、ですよね?」
書物の内容を思い出しつつ答えた凪沙に、オトは小さく頷く。
「そのカイビトス公国の魔法もマリンピア民主国の科学も、日本人がいなければここまで進歩することはなかったと考えられているわ。もちろんここリューグ王国で使われる剣技、ソードスキルもね。だからこの世界において日本人は強い影響力をもった極めて重要な存在なのよ」
「そうなんですね」
この世界で日本人が成してきたこと。それについては分かった。
でも、だとしたら。
私は何のために、この世界に来たのだろうか?
何も持たぬ私が、この世界に呼ばれた理由は?
ずっと抱え続けてきた悩みが、いよいよ分からなくなる。
「あの、じゃあ私は……」
言いかけた凪沙の唇に、オトのしなやかな人差し指がそっと触れる。
彼女は感情も色も無い月白の瞳でじっとこちらを見つめて、それから優しくささめいた。
「あなたがこの世界に来たことにも、絶対に意味はある。少なくとも、私はあなたに出会えて良かったと思っているわ。それにアーシムにとっても、あなたの存在はきっと心の支えになっているはずよ」
そう言ってくれるのは嬉しい。
けれど、私が今欲しいのはそんな励ましの言葉じゃなくて。
納得のいかない凪沙に、オトはまるでその不満を見抜いたかのように付け加える。
「ナギサは最初から自分には何の力も無いと思っているのでしょう? 確かにあなたはスキルも魔法も使えないかもしれない。だけど、力ってそういうものだけを指すのかしら? 私は違うと思う。あなたは私やアーシム、その他大勢の人に色々なものを与えてくれた。ナギサと関わった人は、あなたから何かしら影響を受けている。それって結構大きな力だと思わない? 大丈夫、心配しなくてもあなたにはちゃんとこの世界に来た意味はあるわ」
頭脳明晰な彼女の巧みな話術のおかげか妙な説得力があるが、本当にそうだろうか?
先ほどの話に出てきた日本人は、誰もがもっと明確な何かをこの世界に残していた。歴史に刻まれる偉業を成し遂げていた。果たしてそれと、凪沙が周囲に与えた影響が同等であると言えるのか。そんなはずはない。
「人は誰しも、生きていれば周りに影響を与えているはずです。だからそれをこの世界に来た意味だというのは無理があると思います。もし仮に、私にそういう特殊な何かがあったなら……。あの時、オセアーノへの差別を止めることだって出来たんじゃないですか?」
軽く言い返すだけのつもりが、少し強い口調になってしまった。
オトに怒っているわけじゃない。ただ自分の無力さに苛ついているだけ。知らない世界に放り出された不条理に憤っているだけ。
彼女はわざわざ私の部屋まで来て、元気付けてくれているのに。それをこんな風に。
八つ当たりなんて、最低だ。
「ごめんなさい……」
目を逸らし、謝罪を口にする。
正直今は一人にしてほしかった。
感情がぐちゃぐちゃで、何を言われても素直に受け止められる気がしない。
何でもお見通しのオトのことだ。露骨に態度で示せば、この気持ちも見抜いてくれる。
そう思っていたのに、オトは一向に部屋を出て行こうとはしなかった。
薄暗い部屋の中、気まずい沈黙の時間が流れる。
「…………」
耐えきれなくなって、ちらりと彼女の方を見る。
するとオトは、冷淡な眼差しをこちらに向けていた。
目が合ってからしばらくして、オトが口を開く。
「そんなにこの世界に来た意味を残したいのなら、一つ仕事をあげるわ。ああ、少なくともオセアーノ嫌いの国民に襲われることは無いから安心なさいな」
何を考えているのか分からない無表情な顔で、いきなりそんな話を持ち出した女王。
感情の無い、色の無い、真っ白な瞳。
凪沙は悟った。
ああ、愛想を尽かされたんだ。
守ってあげると、この世界に来た意味はあると、言っているのに。私がその手を何度も振り払ったから。
でもきっとこれで良かったんだと思う。
私には誰かに守ってもらう資格なんて、この世界に来た意味なんて。最初からありはしなかったのだ。
「仕事って、どんなです……?」
俯き加減で弱々しく問いかけた凪沙に、オトはいつも通りの素っ気ない声で答える。
「交渉官よ。多分だけどナギサに向いているんじゃないかしら。準備には少し時間が必要だから、とりあえず年明けまではゆっくりしているといいわ」
女王はベッドから立ち上がると、扉の方へと歩いていく。
そしてその去り際、廊下に出たところで彼女は背を向けたまま言った。
「ナギサ。あなたの存在価値を、証明してみなさい」
バタン、と扉が閉まる。
「私の存在価値を、証明……」
最後の言葉はどういう意味だろう。
オトは私を見限ったのではなかったのか。
暗い部屋に一人残された凪沙は、倒れ込むようにベッドに横になると布団を頭まで被った。
凪沙はベッドに腰掛けて、窓の方を見つめていた。
「私、これからどうなっちゃうんだろう……」
多くの貴族らが集まる宴の場でオセアーノの特徴である銀髪と碧眼を曝け出してしまい、集団リンチに遭いかけた凪沙。フロリダのおかげで今回は助かったけれど、事はこれで終わりじゃない。オトが言っていた。
海族が城に匿われているという話はあっという間に国民に広まる。そうなれば国民の敵意が一斉に私に向けられると。
きっとこの先どれだけ批判や糾弾をされようと、オトもアーシムも私を見捨てたりはしないだろう。身を挺して守ってくれるだろう。
でもそれでは、私はただ周囲に迷惑をかけ続けるだけの役立たず。存在価値の無いダメ人間になってしまう。
じゃあどうする。戦う? 武器を持ち、自分の身は自分で守る?
無理だ。何千何万の群衆を相手に、喧嘩すらしたことのない凪沙一人の力で対抗出来るはずがない。
だから私は、この国から出て行くことが最善だと思った。
けれどそれはオトが認めてくれなかった。
私はこのまま、この部屋の中で朽ちていくだけなの……?
窓の外の星空が滲む。
「私、帰りたいよ。お父さん、お母さん、お姉ちゃん、たまて。みんなに会いたい……」
凪沙は無意識に、そんな言葉を呟いていた。もう戻りたくないと思っていた元の世界に帰りたいと、気付けば願っていた。
世間から浴びせられるであろう期待外れだったという批判も、残念だったねという同情も、海族に向けられる憎悪に比べたら何という事はない。そんな程度のもの、今となっては大した苦痛じゃない。
むしろ自分が精一杯努力してきたあの世界で、もう一度やり直せるのなら。大好きな家族や親友のいるあの世界で、人生を続けられるのなら。それはこの世界で何も出来ずにただ守ってもらって、ひたすら無意味に過ごし続けるよりも、とても幸せだと思う。
コンコン。
不意に部屋の扉がノックされて、凪沙は慌てて目頭を拭う。
「はい、どうぞ?」
誰だろう? デルフィーノさんかな?
こんな時間にどうしたのだろうかと首を傾げつつ、入室を許可する。
「失礼するわね」
すると、扉を開けて部屋に入ってきたのはオトだった。
彼女が着ているのはいつものドレスではなく、淡い水色をしたシルクのネグリジェ。大きく開いた首元から覗く美しい鎖骨と、膝上丈の裾から伸びる透き通るように白くてすらりと長い脚に少しドキリとしてしまう。
「急に押しかけてごめんなさい。驚かせちゃったかしら?」
落ち着いた静謐な声音で問われ、凪沙は首を横に振る。
「いえ、大丈夫です。それよりオトさん、こんな時間にどうしたんですか? わざわざ部屋に来るなんて、何か緊急事態とかですか?」
まさか既に私の話が広まって、王城に武器を持った人達が詰めかけてきたのでは。
嫌な想像が脳裏を過ぎって、不安になる凪沙。
しかしすぐにオトは微笑みを浮かべて口を開いた。
「そうネガティブになりなさんな。王都は至って平和よ」
「じゃあどうして……?」
何も無いのなら、ますます女王様自らが私のもとを訪ねてくる意味が分からない。
オトは凪沙の隣に腰掛けると、急に耳元に顔を近づけて囁くように言った。
「私だって、誰かに甘えたい時はあるわ」
「ふぇっ!?」
突然の萌え声ASMRに驚きのあまりベッドから転げ落ちそうになる。焦りからなのか照れからなのか、自分でもよく分からないが顔がものすごく熱い。
凪沙の真っ赤な顔を見て、それからオトはいたずらっぽく笑った。
「私に惚れちゃった? なーんて、冗談よ。からかって悪かったわね」
「もう、何なんですか」
頬を膨らませて抗議すると、彼女は胸の前で両手を合わせて可愛く謝ってみせる。
そんな子供っぽい一面を覗かせたオトだが、次の言葉を発する直前。ふと顔から表情が消えた。窓の外から差し込む月明かりで、彼女の色の無い純白の瞳が淡く光る。
「……ごめんなさいナギサ。やっぱり日本に帰りたいわよね」
訊かれて凪沙は、耳を疑った。
今、〈日本〉って言った?
この世界の住人が知るはずのない国名を、女王は当たり前のように言った。しかもその日本から来た私に向かって。
「えっと……?」
困惑を隠せない凪沙に、オトは続ける。
「実は私には日本人の血が入っているの。かつてこの国を救った剣士、黒の英雄は日本人でね。私はその血筋を継いでいるのよ」
「つまり、オトさんはあの黒の英雄の子孫ってことですか?」
「ええ、その通りよ」
いつだったか、黒の広場で石像を見た時に感じたことは間違っていなかった。
あの英雄の像とオトの顔立ちや表情が似ているように思えたのは、凪沙の気のせいではなかった訳だ。
「ちなみに、この世界には日本人が深く関わったと言われている国があと二つあって。カイビトス公国とマリンピア民主国。私が貸した本にも記述があったわよね?」
「あっ、はい。確かカイビトスは魔法文明が栄えた国で、マリンピアは科学技術によって発展してきた国、ですよね?」
書物の内容を思い出しつつ答えた凪沙に、オトは小さく頷く。
「そのカイビトス公国の魔法もマリンピア民主国の科学も、日本人がいなければここまで進歩することはなかったと考えられているわ。もちろんここリューグ王国で使われる剣技、ソードスキルもね。だからこの世界において日本人は強い影響力をもった極めて重要な存在なのよ」
「そうなんですね」
この世界で日本人が成してきたこと。それについては分かった。
でも、だとしたら。
私は何のために、この世界に来たのだろうか?
何も持たぬ私が、この世界に呼ばれた理由は?
ずっと抱え続けてきた悩みが、いよいよ分からなくなる。
「あの、じゃあ私は……」
言いかけた凪沙の唇に、オトのしなやかな人差し指がそっと触れる。
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そう言ってくれるのは嬉しい。
けれど、私が今欲しいのはそんな励ましの言葉じゃなくて。
納得のいかない凪沙に、オトはまるでその不満を見抜いたかのように付け加える。
「ナギサは最初から自分には何の力も無いと思っているのでしょう? 確かにあなたはスキルも魔法も使えないかもしれない。だけど、力ってそういうものだけを指すのかしら? 私は違うと思う。あなたは私やアーシム、その他大勢の人に色々なものを与えてくれた。ナギサと関わった人は、あなたから何かしら影響を受けている。それって結構大きな力だと思わない? 大丈夫、心配しなくてもあなたにはちゃんとこの世界に来た意味はあるわ」
頭脳明晰な彼女の巧みな話術のおかげか妙な説得力があるが、本当にそうだろうか?
先ほどの話に出てきた日本人は、誰もがもっと明確な何かをこの世界に残していた。歴史に刻まれる偉業を成し遂げていた。果たしてそれと、凪沙が周囲に与えた影響が同等であると言えるのか。そんなはずはない。
「人は誰しも、生きていれば周りに影響を与えているはずです。だからそれをこの世界に来た意味だというのは無理があると思います。もし仮に、私にそういう特殊な何かがあったなら……。あの時、オセアーノへの差別を止めることだって出来たんじゃないですか?」
軽く言い返すだけのつもりが、少し強い口調になってしまった。
オトに怒っているわけじゃない。ただ自分の無力さに苛ついているだけ。知らない世界に放り出された不条理に憤っているだけ。
彼女はわざわざ私の部屋まで来て、元気付けてくれているのに。それをこんな風に。
八つ当たりなんて、最低だ。
「ごめんなさい……」
目を逸らし、謝罪を口にする。
正直今は一人にしてほしかった。
感情がぐちゃぐちゃで、何を言われても素直に受け止められる気がしない。
何でもお見通しのオトのことだ。露骨に態度で示せば、この気持ちも見抜いてくれる。
そう思っていたのに、オトは一向に部屋を出て行こうとはしなかった。
薄暗い部屋の中、気まずい沈黙の時間が流れる。
「…………」
耐えきれなくなって、ちらりと彼女の方を見る。
するとオトは、冷淡な眼差しをこちらに向けていた。
目が合ってからしばらくして、オトが口を開く。
「そんなにこの世界に来た意味を残したいのなら、一つ仕事をあげるわ。ああ、少なくともオセアーノ嫌いの国民に襲われることは無いから安心なさいな」
何を考えているのか分からない無表情な顔で、いきなりそんな話を持ち出した女王。
感情の無い、色の無い、真っ白な瞳。
凪沙は悟った。
ああ、愛想を尽かされたんだ。
守ってあげると、この世界に来た意味はあると、言っているのに。私がその手を何度も振り払ったから。
でもきっとこれで良かったんだと思う。
私には誰かに守ってもらう資格なんて、この世界に来た意味なんて。最初からありはしなかったのだ。
「仕事って、どんなです……?」
俯き加減で弱々しく問いかけた凪沙に、オトはいつも通りの素っ気ない声で答える。
「交渉官よ。多分だけどナギサに向いているんじゃないかしら。準備には少し時間が必要だから、とりあえず年明けまではゆっくりしているといいわ」
女王はベッドから立ち上がると、扉の方へと歩いていく。
そしてその去り際、廊下に出たところで彼女は背を向けたまま言った。
「ナギサ。あなたの存在価値を、証明してみなさい」
バタン、と扉が閉まる。
「私の存在価値を、証明……」
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