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第2章 黄昏の悪魔
8-1 決意と想いと目標と
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「きら、結局こなそうだね」
アリシアがそららに昏く染まる海を見ながら話しかけた。
浜辺には夕方ということもあり、地元の漁師が船を桟橋につなぎとめていたり、日々の散歩をしているであろう人以外はその姿を確認することはできなかった。
空にはうっすらとまるい月が浮かび始めていた。
「今日は、満月だったよね。」
そららが片手を天に伸ばす。
「ねぇね、本当に行くの?」
「当たり前じゃん!うち、後悔したくない。この剣で、救える魂があるなら私は手を差し伸べたい」
「アリスは、ねぇねときらが喧嘩してほしくなかった。」
「け、けんかなんてしてないよ!お姉ちゃんが強情で、泣き虫なんだよ!お姉ちゃんだって、私が持ってないモノ、たくさんもってるのに、気づかないだけだよ。」
少し悲しそうな顔をみせるそらら。
やっぱり、喧嘩して、そのまま出てきたことを少し後悔しているようだった。
「アリス、フレイアいないし、あまり大きな魔法は使えないよ?」
「えぇ!!?期待してたのに!」
「だって、精霊と契約しているかどうかで消費される魔力もかわるもん。」
「邪竜王の時みたく、いざとなったらあの青い獣で・・・」
「あ、むり。そんな何回も使えない。」
「うそ」
「だから、ねぇねの剣が頼り!」
頑張れ!ってポーズで応援するアリシア。
そららの方は肩をガックリと落としていた。
「ま、まぁ敵が海賊程度ならどうにかなるでしょ」
「アリス、泳げないからやめようかな・・・」
「はぁ!?ここまで来て裏切るの!?」
「裏切るって、アリスはもともと来たくてきたわけじゃないし。」
「ちょ、ちょっと。どこ行くのよ!」
そららを置いて、立ち上がるアリシア。
「やっぱり、もどろう。きらも気になるし」
「い、いやだ!戻りたくない!!」
ふん!っと胡坐をかいてその場に座り込むそらら。
「・・・。意地っ張り」
「ふんっ!」
アリシアは大きなため息をつくと、月を指差しそららに語りかける。
「ねぇね、魔法って。不思議じゃない?」
「不思議?」
「目に見えない力で、目に見えない何かに祈って、目に見えない誰かの力を借りるの。もちろん、きっとフレイアは私のそばにいる。そう思ってる。」
アリシアは自分の頭にフレイアがいるかのようによしよし、と撫でている。
「でも、それは触れないし、話すこともできないし、とても薄くて、壊れやすくて、儚い絆なんだと思う。だから、魔法って使える人と使えない人、加護が受けられる人、受けられない人、契約できる人、契約できない人がいるんだと思う。」
砂浜の砂に、エルドロールが使役していたシルウィアを指で描いてみるアリシア。
「でもね、今夜は特別な夜なの」
「特別な夜?」
「そう、今日は精霊祭。ヘルムの村で6年に1回行われる精霊祭の予定日。」
「今日が、予定日?」
「そう、この青い月の日。この世界と他の世界の扉が開きやすくなる。精霊界との扉を開き、6大精霊を召喚し、讃える祭り。それが今日。」
「え?どういうこと?」
「今日は、異世界との扉が開きやすい。ここは、暗い思念が多すぎる。だから、危ない。」
「あ、危ないって・・・。そんなおどかさないでよ」
「アリスは、きらやねぇねに危ないことをしてほしくない。これからも、ずっと一緒にいたい。だから、ねぇねが危ないことをするのをとめたい」
アリシアは話しながら書いていたシルウィアとフレイアの絵を消すと、再び立ち上がる。
「あっ。」
「な、なによ?いきなり。うちは、いまさら戻らないんだから」
「きらがきた」
アリシアが見つけたのは、漁師町で明らかに浮く服装のきららだった。
「ねぇね。アリスたちのお姉ちゃんがきたよ?」
「し、知らないわよ!」
「・・・つよがり」
ため息を落とすと、アリシアはきららの元へ歩み寄っていく。宵闇の中、青白い月が少しづつその光を強くしていた。
「アリシア!」
私は海へ向かって走った。遠くに、銀色頭の女の子が立っている。
私は息を切らしながら、二人の元へ急ぐ。
「きら、やっぱり来たんだ」
アリシアが砂浜の入り口まで迎えに来てくれた。
「そ、そららは!?」
一人足りない強情娘の姿に焦る私。もしかして、一人で行っちゃったとか?
「ん」
アリシアが指差す方向には、そっぽを向いて座っている紫頭が見える。
「そ、そらぁ」
私は二人の姿を見て脱力し、その場に座り込んでしまう。
「だ、大丈夫?きら」
「うん、ちょっと走ったから疲れた。・・・飲む?」
私はさっきもらったジュースをアリシアに渡す。
「あ、ありがと」
「そらにもあげてね。それ、好きみたいだから」
私は呼吸を整えると、そららの方に歩み寄る。
砂浜の上に胡坐をかいて、魔剣をギュッと掴みその場で動こうとしないそらら。
「ねぇね、これ、きらから」
「ありがと」
そらはアリシアが差し出すジュースチラッとを見て受け取った。
「そら、」
「いやよ!戻らないから」
「うん、わかってる」
えっ!?って顔でそららがこっちを見る。
アリシアも驚いているようだった。
「ちょっと・・ね」
私は少し笑いながらカバンから神弓エルフィンを取り出す。
「私に、この弓使えると思う?」
正直、使えるのかどうかもわからない。
だって、まだ使ったことないし。
「神の武器でしょ?それ」
「まぁね。」
「でも、フレイアは別れ際に使えるって言ってた」
そう、アリシアの言う通り、私にも使えるってあの羊は言っていた。
私でもこの弓を扱えると。
ただ、あの羊が嘘を言っているとも思えない。
「私、みつけたかも」
「なにを?」
「あんたに負けないくらいの目標よ!」
私はそららに『ベーっ』と舌を出しさっきまでのモヤモヤを心から追い出すように、二人に続けて謝った。
「今朝は、ごめん。私にも、目標が見つかりそうなの。でも、そのためには2人が必要なの。」
「お姉ちゃんの目標って?」
「ごめん、まだうまく説明できない!でも、必ず後で言う!」
「後で・・・、ねぇ」
アリシアが遠くに見える船を見ながら呟く。
今日が3度目の対面。沖の方からゆっくりとその大きな船体を入り江に近づけて来る。
今までと違うのは、その大きな船体がまだ陽の光にうっすらと照らされている事。
いままで見えなかったその姿が私たちの前に現れる。
「私も、強くなりたい。戦うわ。二人と一緒に」
「お姉ちゃん。」
「だから、私をみんなといさせてほしいの。戦力にならないかもしれないけど、私にできることは精いっぱい頑張るわ。」
「アリスは、別にいいけどぉ」
チラッとそららの方を覗くアリシア。
その視線に気付いたのか、急に照れたように顔をそむけてしまうそらら。
「り、リーダーはうちだから!」
アリシアは『はぁ?』って顔をしていたけど、そらなりに許してくれたんだと思う。
「そうね、我が家の聖騎士さんだもんね。大丈夫。我が家には聖騎士と史上最年少の王宮魔導士様がいるんだから。」
ま、今現在のところ予定だけど。
「まぁね!うちに任せときなさいよ!」
「アリスも、頑張るよ」
そららは一人桟橋に向かって歩いていく。
アリシアと私は顔を見合わせながら、失笑してしまう。
「こんな時でも笑えるって、なんかすごいね」
「アリスは、きらやねぇねのこと、すごいって思ってるよ。」
大きな船から、小さな手漕ぎボートで人影が2人、近づいてくる。
私たち3人は、桟橋を歩きそのボートの元へ向かった。
ボートは不気味な音をきしませながら、ゆっくりと私たちのところへ近づいてきた。
アリシアがそららに昏く染まる海を見ながら話しかけた。
浜辺には夕方ということもあり、地元の漁師が船を桟橋につなぎとめていたり、日々の散歩をしているであろう人以外はその姿を確認することはできなかった。
空にはうっすらとまるい月が浮かび始めていた。
「今日は、満月だったよね。」
そららが片手を天に伸ばす。
「ねぇね、本当に行くの?」
「当たり前じゃん!うち、後悔したくない。この剣で、救える魂があるなら私は手を差し伸べたい」
「アリスは、ねぇねときらが喧嘩してほしくなかった。」
「け、けんかなんてしてないよ!お姉ちゃんが強情で、泣き虫なんだよ!お姉ちゃんだって、私が持ってないモノ、たくさんもってるのに、気づかないだけだよ。」
少し悲しそうな顔をみせるそらら。
やっぱり、喧嘩して、そのまま出てきたことを少し後悔しているようだった。
「アリス、フレイアいないし、あまり大きな魔法は使えないよ?」
「えぇ!!?期待してたのに!」
「だって、精霊と契約しているかどうかで消費される魔力もかわるもん。」
「邪竜王の時みたく、いざとなったらあの青い獣で・・・」
「あ、むり。そんな何回も使えない。」
「うそ」
「だから、ねぇねの剣が頼り!」
頑張れ!ってポーズで応援するアリシア。
そららの方は肩をガックリと落としていた。
「ま、まぁ敵が海賊程度ならどうにかなるでしょ」
「アリス、泳げないからやめようかな・・・」
「はぁ!?ここまで来て裏切るの!?」
「裏切るって、アリスはもともと来たくてきたわけじゃないし。」
「ちょ、ちょっと。どこ行くのよ!」
そららを置いて、立ち上がるアリシア。
「やっぱり、もどろう。きらも気になるし」
「い、いやだ!戻りたくない!!」
ふん!っと胡坐をかいてその場に座り込むそらら。
「・・・。意地っ張り」
「ふんっ!」
アリシアは大きなため息をつくと、月を指差しそららに語りかける。
「ねぇね、魔法って。不思議じゃない?」
「不思議?」
「目に見えない力で、目に見えない何かに祈って、目に見えない誰かの力を借りるの。もちろん、きっとフレイアは私のそばにいる。そう思ってる。」
アリシアは自分の頭にフレイアがいるかのようによしよし、と撫でている。
「でも、それは触れないし、話すこともできないし、とても薄くて、壊れやすくて、儚い絆なんだと思う。だから、魔法って使える人と使えない人、加護が受けられる人、受けられない人、契約できる人、契約できない人がいるんだと思う。」
砂浜の砂に、エルドロールが使役していたシルウィアを指で描いてみるアリシア。
「でもね、今夜は特別な夜なの」
「特別な夜?」
「そう、今日は精霊祭。ヘルムの村で6年に1回行われる精霊祭の予定日。」
「今日が、予定日?」
「そう、この青い月の日。この世界と他の世界の扉が開きやすくなる。精霊界との扉を開き、6大精霊を召喚し、讃える祭り。それが今日。」
「え?どういうこと?」
「今日は、異世界との扉が開きやすい。ここは、暗い思念が多すぎる。だから、危ない。」
「あ、危ないって・・・。そんなおどかさないでよ」
「アリスは、きらやねぇねに危ないことをしてほしくない。これからも、ずっと一緒にいたい。だから、ねぇねが危ないことをするのをとめたい」
アリシアは話しながら書いていたシルウィアとフレイアの絵を消すと、再び立ち上がる。
「あっ。」
「な、なによ?いきなり。うちは、いまさら戻らないんだから」
「きらがきた」
アリシアが見つけたのは、漁師町で明らかに浮く服装のきららだった。
「ねぇね。アリスたちのお姉ちゃんがきたよ?」
「し、知らないわよ!」
「・・・つよがり」
ため息を落とすと、アリシアはきららの元へ歩み寄っていく。宵闇の中、青白い月が少しづつその光を強くしていた。
「アリシア!」
私は海へ向かって走った。遠くに、銀色頭の女の子が立っている。
私は息を切らしながら、二人の元へ急ぐ。
「きら、やっぱり来たんだ」
アリシアが砂浜の入り口まで迎えに来てくれた。
「そ、そららは!?」
一人足りない強情娘の姿に焦る私。もしかして、一人で行っちゃったとか?
「ん」
アリシアが指差す方向には、そっぽを向いて座っている紫頭が見える。
「そ、そらぁ」
私は二人の姿を見て脱力し、その場に座り込んでしまう。
「だ、大丈夫?きら」
「うん、ちょっと走ったから疲れた。・・・飲む?」
私はさっきもらったジュースをアリシアに渡す。
「あ、ありがと」
「そらにもあげてね。それ、好きみたいだから」
私は呼吸を整えると、そららの方に歩み寄る。
砂浜の上に胡坐をかいて、魔剣をギュッと掴みその場で動こうとしないそらら。
「ねぇね、これ、きらから」
「ありがと」
そらはアリシアが差し出すジュースチラッとを見て受け取った。
「そら、」
「いやよ!戻らないから」
「うん、わかってる」
えっ!?って顔でそららがこっちを見る。
アリシアも驚いているようだった。
「ちょっと・・ね」
私は少し笑いながらカバンから神弓エルフィンを取り出す。
「私に、この弓使えると思う?」
正直、使えるのかどうかもわからない。
だって、まだ使ったことないし。
「神の武器でしょ?それ」
「まぁね。」
「でも、フレイアは別れ際に使えるって言ってた」
そう、アリシアの言う通り、私にも使えるってあの羊は言っていた。
私でもこの弓を扱えると。
ただ、あの羊が嘘を言っているとも思えない。
「私、みつけたかも」
「なにを?」
「あんたに負けないくらいの目標よ!」
私はそららに『ベーっ』と舌を出しさっきまでのモヤモヤを心から追い出すように、二人に続けて謝った。
「今朝は、ごめん。私にも、目標が見つかりそうなの。でも、そのためには2人が必要なの。」
「お姉ちゃんの目標って?」
「ごめん、まだうまく説明できない!でも、必ず後で言う!」
「後で・・・、ねぇ」
アリシアが遠くに見える船を見ながら呟く。
今日が3度目の対面。沖の方からゆっくりとその大きな船体を入り江に近づけて来る。
今までと違うのは、その大きな船体がまだ陽の光にうっすらと照らされている事。
いままで見えなかったその姿が私たちの前に現れる。
「私も、強くなりたい。戦うわ。二人と一緒に」
「お姉ちゃん。」
「だから、私をみんなといさせてほしいの。戦力にならないかもしれないけど、私にできることは精いっぱい頑張るわ。」
「アリスは、別にいいけどぉ」
チラッとそららの方を覗くアリシア。
その視線に気付いたのか、急に照れたように顔をそむけてしまうそらら。
「り、リーダーはうちだから!」
アリシアは『はぁ?』って顔をしていたけど、そらなりに許してくれたんだと思う。
「そうね、我が家の聖騎士さんだもんね。大丈夫。我が家には聖騎士と史上最年少の王宮魔導士様がいるんだから。」
ま、今現在のところ予定だけど。
「まぁね!うちに任せときなさいよ!」
「アリスも、頑張るよ」
そららは一人桟橋に向かって歩いていく。
アリシアと私は顔を見合わせながら、失笑してしまう。
「こんな時でも笑えるって、なんかすごいね」
「アリスは、きらやねぇねのこと、すごいって思ってるよ。」
大きな船から、小さな手漕ぎボートで人影が2人、近づいてくる。
私たち3人は、桟橋を歩きそのボートの元へ向かった。
ボートは不気味な音をきしませながら、ゆっくりと私たちのところへ近づいてきた。
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