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EXTRA 短編集

EXTRA ちっちゃくなった2人  ~~飴の恐怖~~

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 今日は買い物で遅くなった。ってことにしたい。
 今日、私はどうしてもアレクサンドリアに行かないといけない用があり、お昼の仕事をそららとアリシアに任せて王都へ向かった。

 その用事。それは先日フランから聞いた当たると評判の占いだった。
 そんなくだらない!って思うかもしれないけど、女の子って気になるモノなのよ!
 なんでも、自分のやり直したい過去をぴたりと言い当てて、占いが終わった頃には気分スッキリ!実際に過去をやり直せたようなスッキリ感があるらしい。

 私は正直、そんなの無理でしょ。やり直したい事があるなら、私の場合とりあえずどっからやり直せばいいのよ。なんてモヤモヤしてた気持ちのままとりあえず占いの場所へ行くことにした。

 こうゆうのは、真相を調べないとモヤモヤしてなんか嫌なのよね。しかもこの占い、けっこう評判いいみたいだし。それはそれで占ってもらって当たればラッキー!と、気になるのが乙女心なのよね。

 でも、私が見た現実はそこまで甘くはなかった。のんびりお昼過ぎに出かけた私は『前のり』していた方々。つまり昨日から並んでいるような方々に洗礼をくらってしまった。

「どこの世界も、こういうのは人気なのね・・・」

 私の視線の先には長蛇も長蛇。終わりなき列が並んでいた。
 せっかく来たのだけれど、私はしばらく様子を見ただけで帰ることにした。
 占いのために、すごい待つし、早く帰らないとあの2人だけじゃ心配だし・・・。

 私はとりあえず2人にはフランへ話があった。と適当に言ってお土産に買ったブドウで誤魔化そうかと馬車を急がせた。
 せっかく来たのに、なんかどっと疲れただけだったわ。


「ただいまぁ」

 私が屋敷の玄関を開けると、そこは静かなものだった、
 すでに夕方。
 屋敷の中にも灯りがついていて2人がいることはわかるんだけど、私の声に返事はなかった。

(あれ?おかしいな・・・。どこにいるんだろ)

 私はとりあえず食堂を覗いてみる。
 大体、あの二人は食堂でなにか食べながら話していることが多いからだ。
 扉を開けても静かなもので、そこには人の気配も、誰かがいた様子もなかった。
 仕事、してるのだろうか・・・。

「ん?」

 私はテーブルの上にあるモノに気が付いた。

(なにかしら・・・)

 私はテーブルに置かれている小さなメモ紙を拾い上げてみる。すると、そこには文字が何か書いてある。
 あいにく、私には読めない。
 すぐそばに、靴が落ちていた。

「これ、そらとアリシアの?」

 靴を拾い上げると、他に何か落ちてないか見渡してみるも、もうなにもなさそうだ。
 靴だけ残して、どこへいったのかしら。
 私は食堂の扉を閉めると、エントランスに戻って、ベンチに腰掛けた。
 うーん。いつもなら帰ってくれば喧嘩してもめてるか、なにか美味しそうな物を作って二人で食べているかどっちかなんだけど。今日はどこにもいないわね・・・。

「そらー!アリシアー!でてきてよー!」

 私の声は虚しく屋敷の中に響き渡る・・・。

 パタパタ・・・

 2階で人の歩く音が聞こえた。
 もしかしたら、2階で隠れて驚かそうとしているのかもしれない。
 私はぶどうをその場に置いて2階へとあがった。


 どこの部屋かしら・・・。2階、と言っても部屋がたくさんある。
 どの部屋に隠れているのか見当もつかない。

(まぁ、自分の部屋にいることはないと思うけど。)

 私はそんな気がしながらそららの部屋のドアを開けた。
 そこには、見たことない女の子がいた。

「だ、だれよ!あなた!?」

 私の問いかけに『ヤバいっ!』って顔した女の子はそのままクローゼットの中へ姿を隠した。

「ちょ、ちょっと待って!!」

 私が追いかけるとその子はそそくさとクローゼットの中に隠れてドアを閉めてしまう。

「あなた、誰なの?」

「・・・」

 返事は帰ってこない。

「怒らないから、出てきてくれない?・・・。あっ。下に美味しいぶどうを買ってきたの。一緒に食べない?」

「ぶどー?」

 中から聞こえたのは女の子の声だった。

「そう、ぶどう。アレクサンドリアで買ってきたのよ。妹たちはいないし、一緒に食べない?」

「・・・たべちゃい」

「じゃあ、出てきましょ?そこじゃ食べられないわ。」

「だって、お姉ちゃん怖い人かもちれないから・・・」

「私が?」

「うん。怒ったり、ぶったりちない?」

「しないわ。約束する」

 そういうと、ゆっくりとクローゼットの扉が開いて中から小さな女の子が出てきた。
 顔の丸い、優しい顔をした紫色の長い髪の女の子。
 ん?紫・・・。

 女の子はダボダボのそららの洋服を来ていた。
 7歳くらいだろうか。
 女の子は怯えた顔でゆっくりと私を見た。

「こ、こんばんわ・・・」

「うん、こんばんわ!お名前、なんていうの?」

「な、名前・・・。」

 彼女は名前を聞かれると困った顔をしながらモジモジとしていた。

「う・・私、ソアラって言うの!」

 ソアラ、と名乗った少女はまあるい紫の瞳で私を見る。

「そっか、ソアラちゃんか。よろしくね。私はきららよ。」

 私はソアラの頭をなでてあげる。
 小さいその身体はお人形のように可愛かった。

「ねぇソアラちゃん?ここに私くらい大きなお姉ちゃんいなかったかな?」

「い、いなかったと思う。」

「銀色の髪の女の子、いなかった?」

「み、見てないよ。」

「そう、それじゃあ、一緒に探しに行こうか。とにかく、着替えて下へ行きましょう。」

 私はそららの部屋にあるモノを適当に見繕ってソアラちゃんに着せると1階に降りることにした。


「あれ、なに?」

 私の前には銀色の毛をしたほぼ裸体の幼女が葡萄をハムハムと食べている姿があった。

「・・・」

 ソアラはその姿を見て口を半開きにしていた。

「あ、あの。あなたは、だれ?」

 銀色の頭の女の子は3歳くらいだろうか。
 私の姿を見るとニコッと笑って葡萄を右手に、左手は頬っぺたに添えて

「っちー!」

 と言っている。
 ちー?
 そのまま葡萄を食べ続ける女の子。

「お、おいしい?それ」

「っちー!」

 繰り返されるポーズ。どうやら、美味しいと言っているようだ。

「あ、アリシア―?」

 私の声に顔を上げる女の子。やはり、アリシアなのだろうか・・・。

「おいで、アリシア」

 私がしゃがんで呼びかけると、その女の子はヨチヨチと歩いてこっちに向かってきた。
 か、かわいい!
 赤ちゃんって、こんなかわいいのかしら。私は銀色の毛の少女を抱き上げる。
 その女の子はアリシアが着ていた肌着をシャツのように着ていた。

「こんな小さくなっちゃって。アリシア、どうしたの」

 当然、彼女は私の問いかけには応えそうもない。

「そららは、どこへ行ったのかしら。・・・ねぇ?ソアラちゃん。」

「さ、さぁ・・・」

 私の問いかけにソアラは視線を外して応える。

「ま、まー」

「ん?アリシア、おなか減ったの?」

「うんっ!」

 この子は、アリシアでいいらしい。状況的にもアリシアだろう。
 そしてあの紫頭はきっとそらら。
 なにか事情があって隠してるんだろうけど、バレバレなのよね。

「とりあえず、何か作ろうか?」

 私はぶどうを2人に持たせて、食堂に向かった。

「なによこれー!?」

 食堂はそれはもうきったなかった。
 何を作ったのか知らないけどギトギトのベタベタ。あちらこちらにいろいろな材料がこぼれている。
 そららがいたら、あの潔癖症の性格上こんな汚さないはずなのに・・・。
 アリシアは床の上に座りながら葡萄を変わらず食べている。小さくなっても食いしん坊なようだ。
 ソアラは調理場にある小さな椅子に座って、調理器具に埋まっていた一冊の本を見つけ出した。

「しょれはだめー!!」

 ソアラが私が本に触れる前に作業台を駆け上り大事そうに抱きしめる。

「それ、ソアラの?」

「う、うん。これは見ちゃダメ!」

 そこにある薄汚れた茶色の本はそららが先日アレクサンドリアの市で見つけたものに良く似ていた。
 まぁ、文字が読めない私には関係ないけど、、、
 そこまで隠すのはなんか怪しい。

「ちょっと、見せてごらん?それ」

「やだーー!」

 私が手を伸ばすと作業台から飛び降りてそのまま逃げていくソアラ。

「こらっ!待てそら!!」

 ソアラはそのままペタペタと足音を立てながら食堂の方に消えていった。


「おかちぃなぁ」

 うちはお姉ちゃんに取り上げられそうだったマジックアイテム入門の本を応接室のテーブルの下に隠れながら読んでいた。
 予定では、うちたちが小さくなるはずはない。
 材料は間違えてなかったとはずなんだけどなぁ・・・。

 うちとアリシアはきららがいなくなったあとに二人でイタズラを思いついた。
 こないだアレクサンドリアへ定期報告へ行った帰り、
 フランに『南門の方で外国の市が開かれているから見に行ってみれば?』
 と言われたことがきっかけだった。いや、ここまでお姉ちゃんを巻き込んでいる以上、うちが全責任を取るのは余りにもリスキーな気がする・・ここはフランにも責任をなすりつけないと・・・。

 この本、魔道士なら誰でも簡単!マジックアイテム入門なんて書いてあるくせに、ちっとも簡単じゃなかった。もっとも、我が家には【魔道士】なんていない。いるのは
 ・魔道士見習いの卵
 ・ちょっと魔法をかじったうち
 の2人だけ。

 それでも、2人いればどうにかなるかと思ったけど、それが甘かったみたいね・・・。
 今回作ろうとしていたのは【催眠の飴】だった。

 一時的に相手を催眠状態にさせることができる。効果は3時間程度とさすがにショボ子さんだけどね。手作りお菓子でイタズラには面白いかなぁって思ったんだけど。

 うちたちが実際に作ったのは【時戻りの飴】だったみたい。
 10年程度若返らせることができる、って書いてあったけど。
 うちはいいけど、アリシアが手に負えない。育児ってつらいわ。
 あれはまずい。自制が効かないし、言葉が通じない。
 お姉ちゃんの馬車が見えた時に思わず置いて2階へ隠れちゃったけど・・・。
 まさか葡萄に釣られて出てくるなんて思わなかったからびっくりした。
 食欲は、小さい時から変わらないんだなって改めて思ったし。

「あぁ!!」


 ゴンッ!っとテーブルに頭をぶつけてその場にゴロゴロと悶える。

「っくぅ~・・・」

 ぶつけた頭をさすりながら、うちは本を読んでいて決定的な違いを見つけた。
 時戻りの飴・・・ゼンマイ草
 催眠の飴・・・忘却草
 これだ、庭に群生していた草の中に紛れていたものを運悪く摘んできたんだ。アリシアが・・・。

「あのバカ!あれほどトゲトゲのにゃい葉っぱっておちえたのに・・・」

 ゼンマイ草も忘却草もすごくしている。
 花の色も、形も同じ。でも、唯一違うのが葉の形。
 丸みのある葉が忘却草。
 トゲトゲがゼンマイ草。

(原因はアリシアね・・・。えぇと。解毒解毒・・・)

 うちは夢中でページをめくった。
 効果を打ち消す方法が必ずどっかに書いてある。でも、小さい体は思い通りに動かない。

 きぃぃ・・・

 うちの本をめくる手が止まる。

「ねぇねはどこいったんだろうねぇ?」

 扉のむこうから巨人のようなきららが入ってくる。その腕には無邪気に笑うアリシア。

「あうー。あー」

 意味不明な言語発しながらアリシアが床の上を歩く・・・。アリシアの胸のあたりまでが私の視界に入っている。

(ダメ、あっち行って・・・こないでー!!)

 近づいてくるアリシアの下半身を見ながら心の中で絶叫する。 
 このままだと、見つかる・・・。

「あいつ、ソアラとか誤魔化してたけど絶対そららだわ、どうせまたしょうもないイタズラを考えてたんだわ!」

 ドキっと胸が高鳴る・・・。
 ば、バレてる。証拠はないはずなのに。
 短い沈黙。
 うちに、ど、どうしろと?出て来いとか言うプレッシャーかしら。

「アリチア~、カワイイでちゅねぇ、こんなちっちゃくなっちゃってぇ」

「キャハハッ!!やーや、やー!」

 よちよち歩くアリシアがうちのテーブルの目の前まで来ると、その体をきららが軽く持ち上げる。
 頬ずりするその姿はもはや親ばかね・・・。でも、

(あ、あぶなかった・・・)

 うちは高鳴る心臓と呼吸に気をつけながら、空いている扉の向こうに見える植木鉢を見つけた。
 -このままここにいると、絶対に見つかる。
 私は植木鉢に目標を定め指先で小さく円を描く。

「か、かじぇよ」

 小さく呟くうちの声で風が植木鉢の方に進むも、魔力も少なくなっているせいか威力が弱く、途中で風の塊は散ってしまう。

 きぃぃ・・・

 扉が風で揺れた。

「あ、そら!そこに隠れているの!?」

(げっ!!)

 うちはテーブルの下で硬直してしまった。
 まずい。終わった。

「行くよ!アリシア!」

 きららはアリシアを抱いたまま、扉の方に向かって歩いて行く。
 た、助かった。扉の方にうちがいると思っているみたい。
 きらが扉の方に歩いていく姿を確認すると、うちは反対側の扉に向かおうと、そっと動き出した。


「おかしいわねぇ」

 私はエントランスにそららがいると思っていたのに、その姿はどこにもなかった。
 アリシアも変わらず幼児のまま。
 いつになったら元に戻るのか、このまま元に戻らないのかそららを捕まえないと見当がつかない。

(いっそ、宮廷薬剤師のところに行った方が早いかも・・・)

 頭にトロイアの顔が浮かぶ。
 でも、なんかあいつに頭を下げに行くのも気に入らないわね。
 やっぱここは、そらを捕まえるしかないようだわ。
 ため息片手に私は広い屋敷をアリシアと一緒に彷徨うことになった。
 紫頭のちんちくりんを探すために。


「あ、あった!」

 応接室から出たうちは、階段の陰に隠れながら本を読み続け解毒のページを見つけた。

(花の・・・花の・・・)

 もう!じれったい!なんでここが汚れて読めないのよ!!
 うちはとにかく庭に咲くゼンマイ草と忘却草の元へ向かうことにした。
 広いエントランスの向こうではきらとアリシアが何か言っていた声が聞こえた。

 今出るのは危険。
 でも、ゼンマイ草が生えている庭は屋敷の正面側。裏口から出ても遠くなるし、見つかるリスクが高くなる。ここは、様子を見ているに限る。

 エントランスにいたアリシアはぐずり出していた。
 お腹が減ったようだ。
 きららはあやしながら食堂の方へ消えていく。

(ちゃ~んす!)

 うちはゆっくりとエントランスの方へ歩み、2人の気配がないこと確認するとそっと屋敷を出た。
 外は真っ暗。
 夜って、こんなに怖かったのかな。
 いつもよりも視界が低く、いろいろなモノが大きく見える。
 屋敷を見てみると1階の窓にきららの姿が見えた。

「やばっ!!」

 うちはしゃがみ込んで、四つん這いになりながらゼンマイ草の元へ向かう。
 ゼンマイ草は入り口の門の横に生えている。
 雑草だから特に手入れもしてなかったし、生え放題って感じ。

 ブルゥヒィヒ・・・

 馬車馬の鳴き声らしきものが響き渡った。
 うちは驚いて身体が大きくぶるっと震えて馬に『静かに!!』とジェスチャーを送ってみるも、馬相手に通じるわけがない。

 うちは、ため息をつきそのままゆっくりと振り返ると、そこにはきららの姿はなかった。

(よち、ばれてない。早くいかなくちゃ・・・)

 うちは立ち上がり、門まで走ることにした。
 それにしても、子供の足で門まで行くのってこんなに大変なのね・・・。


 門の前には月明かりに照らされた黄色い花が咲き誇っていた。
 すごい、花の匂いがする。
 花粉の匂いなのか、花の香なのかなんとも言えない匂い。
 うちはゼンマイ草の花を1つ摘んでみる。

「この花、どうすればいいのかちら?」

 うちは手の平にのせたゼンマイ草の黄色い花を見ていた。
 匂いを嗅ぐ!
 クンクン、と嗅いでみるも変化なし。
 スリスリしてみる!
 花を頬ずりしてみても変化はない。
 この花、どう使えばいいのか見当もつかない。

「そ・ら・ら・ちゃ~ん」

 うちは聞きなれたその声に身震いをしてしまった。
 やはり、さっきの馬の鳴き声でバレていたか。あの駄馬め!!

「あれぇ?お姉ちゃん、うちはソアラだよ?いやだなぁ」

 精一杯の笑顔で誤魔化すも、きらには通用していないようだった。
 クビや胸元にパンとミルクをダラダラにこぼし、満足そうに寝ているアリシアを抱っこしながら引きつった笑いのお姉ちゃん。
 いやぁ、怖い。今日はほんとに悪魔に見えるわ。身長差があるとこんなに怖いのね・・・。

「そう、ソアラちゃん、私、妹探してるんだけど見なかったかなぁ?」

「し、しらないよぉ」

「そっかぁ。でも、ソアラちゃん、今自分の事『うち』って言ってたわよねぇ・・・。おっかしいなぁ。最初は、『私』って言ってたわよねぇ?」

 げっ!そんなこと言ってたっけ?つい癖でうちって言っちゃったじゃない!
 うちにゆっくり近づくきらら。
 やばい・・やばい、やばい!このままだと捕まっちゃう!絶対に怒られるぅ!!

「まって!お姉ちゃん!」

「なによ今さら、観念しなさいそらら!」

「この花、うちたちが元に戻るためにひちゅような花なの」

 うちは手に乗せた花をきらに見せた。
 それは、ここに咲いている花と何も変わらない花。

「そんなの、裏にたくさん生えてるじゃない!嘘ばっかり言わないであきらめなさい!!」

 やっぱ、そう思うよね。
 でも、

(かぜよ)

 うちが心の中で風を呼ぶと、手に乗せた花がクルクルと回転し始めた。

「このはなはとくべちゅよ。この花があれば元にもどれりゅわ」

「・・・そ、そうなの?」

 正直、花が関係しているのはわかるけど、まだはっきりわかったわけじゃない。
 ここは、きららを言い負かして打破するしかない!!

「そ、そうよ!この月明かりの特別な花を・・・花を・・・」

「あ、アリシア!!どうしたの!?」

 説明&いいわけを考えながらしゃべるうちの目の前で、アリシアの身体がドンドン巨大化していく。
 巨大化、と言うよりも、元に戻っていく感じ。
 うちはしゃべるのも忘れ、口半開きでその光景を見ていた。
 きららも重たくなったアリシアを腕から下ろすと、彼女はいつも通りの、元の大きさに戻っていた。

「あ、アリシア?大丈夫なの?」

 きららの声にアリシアは満足そうに寝ていた。
 よだれを出しながら寝ている彼女。どこか変わったところはなさそうだ。
 元に、戻った。勝手に。

(あっ、効力が切れたんだ!)

 一通り自分の中で答えが出たうちは1人で納得しながらアリシアを見ていると、それは突然にやってきた。

「・・・で?その花が何だって??」

 振り返るきららの顔はいつものトロ臭い・・・いや、優しいきらではなかった。

「ひいぃ!!」

 うちは恐怖に尻餅をつき、そのままゼンマイ草が群生している場所に座り込んでしまう。

「元に、戻るには?」

「こ、こここっこ、この花が」

「必要なのよね?」

 言葉にならないうちは首を縦に振るばかり。
 きららはうちの前に立ち止まると、涙を浮かべて許しを請うこんな可愛い、いたいけな少女に対し思いっきり頭を叩く。

「さっさと元に戻して片付けなさぁぁい!!」

 静かな森にきららの怒号がこだました。


「まったく、ろくなことしないんだからっ!」

 私はそららとアリシアに屋敷の片づけ、掃除、調理場の片づけを命じると食堂で紅茶を飲んでいた。
 結局、あのあと泣き喚くそららも勝手に元の大きさに戻って着替えると、涙を浮かべながら片付けに勤しんでいる。アリシアはお昼寝が終わるとあまり記憶にないらしく、最後に飴を舐めたことしか記憶にないようだ。

 そららの持っていたマジックアイテム入門の本は私が没収!これはイタズラに使うとまたひどい目に合うから私が預かることにした。
 まぁ、私が今日出かけたのも自分の用事だったし、今後この2人を残して出かけるとこうなることが分かったから注意しないと・・・。
 今日はあまり怒らないで許してあげないとね。

「終わったよぉ」

 アリシアがぐったりした顔で戻ってきた。

「あれ?そらは?」

「このまま晩御飯作るって言ってたぁ・・」

 部屋の端にあるベンチに倒れ込む彼女。
 幼児化してだいぶ走り回ったし、疲れたんだと思う。
 でも、小さいアリシア。かわいかったなぁ。
 思い出すだけでもまだにやけちゃう。

「でも、この本危険ねぇ。そらみたいな素人でもあんな薬が作れちゃうなんて・・・」

 私は本を眺めながらパラパラとページをめくってみる。
 何が書いてあるのかさっぱりわからない。

「アリスも、もうこんなのはこりごりだよぉ。起きたらいきなり怒られるし・・・」

「あんたのお場合はそらの悪巧みをとめないからいけないのよ!」

「だって、まさか飴玉であんな風になるとは思わなかったんだもん!」

「飴玉・・・ねぇ」

 私は本のイラストになっている丸い球を見る。

(どんな味がするのかな。)

 不本意ながらも、味が気になってしまう。

 ガチャ・・・

「おまたせー。今日は、きららの好きなハンバーグでーす」

 元気のないそららがワゴンを押しながら食堂に入ってくる。

「やったー!ごはんだぁ!」

 アリシアが嬉しそうにベンチからテーブルに戻ってくる。
 犬か?この子は。

「今日はうちのせいでご迷惑かけましたぁ」

 納得いかなそうなそららはテーブルにご飯を並べて歩く。

「もういいのよ。私も、怒って悪かったかな。今度は、みんなで出かけようね」

 そららと一瞬視線が合うも、そのまま無言でうなずく彼女。

 私たちは晩御飯を済ますと、食堂、調理場を片付けてお風呂までの時間を応接室で潰していた。
 そこには、私の知らないグラスが置かれていた。

 色とりどりのきれいな飴が入った、小さなグラスが置かれていた―
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