1 / 26
1
しおりを挟む
俺の人生はひどいものだった。
古びた屋敷…とはお世辞にも言えない廃屋の中、手元の灯りを頼りに俺はゆっくりと進んだ。
近日中に取り壊しも決まっているようで、家財道具もほとんど残っていない。ホコリっぽい臭いと、水で濡れたジメジメとしたかび臭い空気が体にまとわりつく。
運命の歯車がおかしくなったのはいつだったか。小さい頃は、毎日がそれなりに楽しかった。やりたいことや、将来の夢、なんていうのも人並みにあったんだ。
貴族の息子として産まれた俺。裕福な方ではなかったが、父が治める領地は活気があったし、大好きだった母は人望があり、領民から慕われていた。
それが、どこでどう間違えたかこのザマだ。
来ている服はボロボロ…。ほぼホームレス同然の生活。
仕事がない。
お金がない。
外見も悪い。
頭もよくない。
こんな俺の事を支えてくれる伴侶も当然ながらいない
今の俺にはとにかくなんにもない。
ギシ…ギシ…
軋む階段を上り、雨漏りがする廊下を歩き、懐かしい部屋の扉をゆっくりと開ける。ドアノブを回すと、ゆっくりと大きな音を立てて扉が開いた。
ギィイイイィィィィ‥…
窓ガラスが割れて、天井からは雨漏りが滴り、湿気で重たくなったベッドだけが残されていた。
俺の部屋だ。…いや、部屋だった。
小さくなったベッドに腰を下ろして、力なく横たわる。体力も限界だ。もう何日も飲み食いしていないし、流行り病に冒されたこの体はそう長くない、自分の事だからこそわかるんだ。俺は最後に、自分が昔住んでいた家に戻ってきたかった。
「母さん…とう、さん」
朽ち果てた部屋を見ながら、遠い過去の事を思い出す。不思議と、鮮明に、色鮮やかに映し出されたその世界には、今は亡き父と母、小さな自分と従者がそこにはいた。領内にできた学校、という施設に行くことになり、父と母が身支度を手伝ってくれた時の思い出だ。泣き虫で甘えん坊だった俺は学校に行くのが怖くて母に泣きついていて、それを父が叱っていた。
(勉強も、運動も得意ではなかった俺は学校に居場所がなくて、行きたくなかったんだよな…。)
視界が涙で歪むとそのままそっと目を閉じた。この30年、いろいろなことがあった。そのすべてが、俺の人生を台無しにしようと、立ちはだかる大きな壁になった。ことごとくその障害に俺は負け、没落し、職を失い、住居を失い、こんなみじめな終わり方をしようとしている。
「っい…て」
ベッドの上で寝返りを打った時、背中に強烈な痛みが走って唸り声が出た。何かが刺さったようだった。
腕を背中に伸ばすと、学生時代に同級生の女の子からもらった女神の十字架がそこにあった。
錆びてボロボロになりながら、中心にはめ込まれた石が淡く青白く光っている。
「可愛かったなぁ。たしか…ステラちゃんだったか…優しくて、母性的で、小さなママって感じの子で、守ってあげたい女子!って感じの子だったなぁ。」
彼女の姿を思い出しながら、女神の十字架を力強く握りしめると、あつい涙が流れるのがわかった。
(あの頃に、もう一度戻りたい…。こんなクソみたいな人生…やりなおしたい!俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!)
唇をかみしめながら、寒さに震えながら十字架を握ると、暖かい感触が伝わってくる。どうやら強く握りしめたせいで手が切れたらしい。手のひらが生温かく、ジンジンする。
過去の記憶が走馬灯のように思い出される中、震えることすらできなくなり、いつの間にか手のひらの痛みも治まっていた。
喉が渇いた…。時折顔にかかる雨を、魚のように口を力なくパクパクとさせることしかできなかった。
チ‥…リィ‥‥…ィ‥…ン‥…。
なにか聞こえたような気がして、重い瞼を動かしてみる。
ほとんど聞こえなくなった耳。
ぼやけて滲む視界。
最後にうっすらと見えたのは黒髪の少女のようなもの…。なにか語り掛けてくれている声…?
あれから何時間が経過したのか分からないが、もう、疲れたんだ。
俺は、静かに大きく息を吸い込んだ。
古びた屋敷…とはお世辞にも言えない廃屋の中、手元の灯りを頼りに俺はゆっくりと進んだ。
近日中に取り壊しも決まっているようで、家財道具もほとんど残っていない。ホコリっぽい臭いと、水で濡れたジメジメとしたかび臭い空気が体にまとわりつく。
運命の歯車がおかしくなったのはいつだったか。小さい頃は、毎日がそれなりに楽しかった。やりたいことや、将来の夢、なんていうのも人並みにあったんだ。
貴族の息子として産まれた俺。裕福な方ではなかったが、父が治める領地は活気があったし、大好きだった母は人望があり、領民から慕われていた。
それが、どこでどう間違えたかこのザマだ。
来ている服はボロボロ…。ほぼホームレス同然の生活。
仕事がない。
お金がない。
外見も悪い。
頭もよくない。
こんな俺の事を支えてくれる伴侶も当然ながらいない
今の俺にはとにかくなんにもない。
ギシ…ギシ…
軋む階段を上り、雨漏りがする廊下を歩き、懐かしい部屋の扉をゆっくりと開ける。ドアノブを回すと、ゆっくりと大きな音を立てて扉が開いた。
ギィイイイィィィィ‥…
窓ガラスが割れて、天井からは雨漏りが滴り、湿気で重たくなったベッドだけが残されていた。
俺の部屋だ。…いや、部屋だった。
小さくなったベッドに腰を下ろして、力なく横たわる。体力も限界だ。もう何日も飲み食いしていないし、流行り病に冒されたこの体はそう長くない、自分の事だからこそわかるんだ。俺は最後に、自分が昔住んでいた家に戻ってきたかった。
「母さん…とう、さん」
朽ち果てた部屋を見ながら、遠い過去の事を思い出す。不思議と、鮮明に、色鮮やかに映し出されたその世界には、今は亡き父と母、小さな自分と従者がそこにはいた。領内にできた学校、という施設に行くことになり、父と母が身支度を手伝ってくれた時の思い出だ。泣き虫で甘えん坊だった俺は学校に行くのが怖くて母に泣きついていて、それを父が叱っていた。
(勉強も、運動も得意ではなかった俺は学校に居場所がなくて、行きたくなかったんだよな…。)
視界が涙で歪むとそのままそっと目を閉じた。この30年、いろいろなことがあった。そのすべてが、俺の人生を台無しにしようと、立ちはだかる大きな壁になった。ことごとくその障害に俺は負け、没落し、職を失い、住居を失い、こんなみじめな終わり方をしようとしている。
「っい…て」
ベッドの上で寝返りを打った時、背中に強烈な痛みが走って唸り声が出た。何かが刺さったようだった。
腕を背中に伸ばすと、学生時代に同級生の女の子からもらった女神の十字架がそこにあった。
錆びてボロボロになりながら、中心にはめ込まれた石が淡く青白く光っている。
「可愛かったなぁ。たしか…ステラちゃんだったか…優しくて、母性的で、小さなママって感じの子で、守ってあげたい女子!って感じの子だったなぁ。」
彼女の姿を思い出しながら、女神の十字架を力強く握りしめると、あつい涙が流れるのがわかった。
(あの頃に、もう一度戻りたい…。こんなクソみたいな人生…やりなおしたい!俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!)
唇をかみしめながら、寒さに震えながら十字架を握ると、暖かい感触が伝わってくる。どうやら強く握りしめたせいで手が切れたらしい。手のひらが生温かく、ジンジンする。
過去の記憶が走馬灯のように思い出される中、震えることすらできなくなり、いつの間にか手のひらの痛みも治まっていた。
喉が渇いた…。時折顔にかかる雨を、魚のように口を力なくパクパクとさせることしかできなかった。
チ‥…リィ‥‥…ィ‥…ン‥…。
なにか聞こえたような気がして、重い瞼を動かしてみる。
ほとんど聞こえなくなった耳。
ぼやけて滲む視界。
最後にうっすらと見えたのは黒髪の少女のようなもの…。なにか語り掛けてくれている声…?
あれから何時間が経過したのか分からないが、もう、疲れたんだ。
俺は、静かに大きく息を吸い込んだ。
36
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!
たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。
途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。
鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒!
素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。
裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。
そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。
しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!
命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。
そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。
――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる