【病院編完結】私と踊っていただけませんか、7階の死神さん(マドモアゼル)?

才式レイ

文字の大きさ
29 / 44
第三幕 Smile for me―――決別

第8話

しおりを挟む
 そして、いよいよ待ちに待った日がやってきた。普段の淡白な病人服から脱却し、三人は私服姿で海に到着。
 無論、普通の車椅子だと砂浜の上で漕げないから、彼が暴れ出すよりも先に雅代まさよが彼を確保し、現場で砂浜用車椅子を借りて乗り換える。
 しかし一人の力だけでは彼を抑えるには到底叶わず、姫とみおも彼女を手伝った。乗り換えることに成功して、一緒に閑散とした浜辺を歩く。

「すごぉーい。海なのに静かだね、お姉ちゃん」

「……もう秋だからね」

「冬になったらどうなるの?」

「……更に人が来ないんじゃない? それこそ、夏でもない限りは」

「へえー、そうなんだぁ~」

 みおは姫と繋いだ手を軽く振り回しつつ、感心する。
 実際に海に来たことがあるのなら、このような質問をしないはず。だとすれば、今回はみおにとって初めての海になるだろう。けれど、こんな人気のない海がみおの初めてになるのは少し不憫だと、姫は感じた。

――もし季節が夏で、服も私服ではなく水着だったら、もうちょっと雰囲気あるのに。
 姫は静かに揺れる波間に目を向けて、小さく息をついた。
 『万が一があったらすぐに病院に戻る』という条件で外出した以上、できればこれ以上のリスクを冒したくない。だから、このような形に落ち着いたけれど、やはりどこか物足りなさを感じてしまう。
 しんみりとなった姫の背中に気付いたや否や、亮は一際明るい声で静けさを破る。

「ヨシ! 追いかけっこをしようか、みおちゃん!」

「下郎貴様、ただワタシにリベンジしたいだけなのでは」

「ピンポンピンポ~ン! だーいせいかぁーい! さすが雅代まさよさん、今日も冴えてますなぁ~。いてッ」

 雅代まさよにぺちっと頭を叩かれ、反動で前のめりになった亮。少し大袈裟っぽく演出するように、彼は後頭部を押さえつつ座り直す。
 亮が言った『リベンジ』というのは、彼を確保した際に『姫とみお』という彼にとって効き目があり過ぎる防衛ラインを雅代まさよが張ったとのこと。
 当時、彼を逃すまいと二人は両腕を伸ばした。そして、見事に術中に嵌った亮は「参りましタ!」と降参したおかげで、あっさりと彼を捕獲ならぬ、確保できたというわけだ。その腹いせに雅代まさよに復讐したくなるのにも頷ける。

「全く、このワタシを辱めたいという魂胆が丸見えでございますね。全力で断っていただきます」

「ええ~、マイターお姉ちゃんも一緒に遊ぼうよぉ~」

「僭越ながら、全力でお相手させていただきます、みお様」

 雅代まさよから手のひら返しをされて気持ちを切り替えるように、亮はコホンと咳払い一つ。

「では、これより第一回――『姫の尻を頂く選手権』、スタートゥ!」

「……ちょ、ちょっと! どうしていきなり――」

 何故か謎の選手権が開催され、しかも自分の身体の部位が賭けられたことに焦り出す姫。しかし、その言葉は某メイドには効果抜群で、聞いた瞬間に彼女の両目がいつになく鋭くなった。

「なにッ?! お嬢様のお美御尻は誰にも渡さん! とぅ!」

「って、雅代まさよさああぁぁーん! お忘れ物しましたよぉぉぉ! 私を忘れましたよおおぉぉぉぉー!」

 見事なスタートを切って自分を置いてけぼりにした雅代まさよの背中に手を伸ばしても、空虚を掴むだけ。姫は雅代まさよの姿を見て笑いながらも走り出すみおの小さな背を見送り、立ち尽くす。
 例え場所が違っても、この四人と居れば落ち込む暇なんてない。間近特等席で散々見てきたのに、ついつい昔の癖に戻ってしまう。
 思い悩むのもバカバカしくなって、姫は唇だけで失笑して彼の隣を追い越す。

「……自分のものは自分で守らないといけないから、お先ね」

「そんなッ!? 姫にまで見捨てられ?! ハッ、もしやこれはいわゆるあの有名な放置プレー的なアレか?! 即ち、これはごほぉぉービッ! うひょぉー、ありがとうございます、神様ぁ~!」

 その場で変なことを連発する亮を尻目に、姫は今度こそ声に出して笑った。いつの間にか彼女の心を占めている暗いものが晴れ、自分が“生きている”ことにより強く実感できる。
 潮の匂いで胸がいっぱいになり、心地良い風に頬を撫でられる中で、彼女は内心で「ありがとう」と言う。

 勝負は結局雅代まさよの勝ちで終わったが、姫が嫌がるから話自体が無効になった。けれど、一方的に無効させられても勝者本人があまりに気にしていないのは、今まで散々美味しい思いをしてきたからだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

処理中です...