鬼の用心棒 〜過ぎたる力は誰がために〜

三須田 急

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屈辱くつじょくを味わった翌日、
蔭虎は優れぬ体調を押して
大殿の元にせ参じていた。

怒りを抑えつつ村での出来事を
つまびらかに報告し、
いかに処分すべきかと問うた。

木谷家当主、木谷繁信はただ一言
「お主の所領じゃ……好きにするが良いぞ…」
と答えるのみであった。

「ははぁ!それではこれにて‼︎」
期待通りの言葉に返答にやや上機嫌が伺えた。
そこから自らの居城に至るまで、
痛みを忘れて駆け戻った。
護衛の者が追いつけなくなるのでは
ないかと心配になる程であった。

どっぷりと陽が暮れた頃、
蔭虎の元には父の代より仕える
重臣じゅうしん達と有望な若侍達が集まった。
ろうの光が者どもの輪郭りんかく
怪しく照らしていた。

「皆の衆、よくぞ集まってくれた。」
家臣一同、主に深々とこうべを垂れる。
「憎っくき門田との戦で苦労を掛けたが…
また、頼まれてほしい事がある!」
何事かわからない家臣達は
眉を少しばかり動かすことしができなかった。

「奴らから奪い、大殿から
たまわった所領のことは知っておるな?」
声に出さずとも存じているという
空気が立ち込める。
「その中に米を納めぬどころか、
我らを足蹴あしげにしようとする
者どもの村がある。」

「それは誠でございますか⁈」
事情を知らぬ重臣が問う。
蔭虎が答えようとしたが、
その時護衛に付いていた者が
「誠じゃ!しかも化け物を連れておった‼︎」
と声を張り上げた。

「なんと…」、「そんな事があるのか?」
家臣達はざわめき、
疑問と困惑が広がっていった。
「静まれぃ」
再び静寂せいじゃくが訪れる。

「太助の言った通りだ、
その村には人の形をしたみにくい化け物がおる!」
家臣の顔が一気に強張こわばった。

「その村の者達は自分可愛さに
化け物に屍人しびとの肉を
食わせるような不徳の輩だ!」
蔭虎は右膝を立て、そこに右手を添えた。

「そのような輩を野放しにする
わけにはいかん!そうであろう⁈」
スッと立ち上がり家臣達を
見渡しながら言い放った。

「オォ‼︎」
威勢のよい声が部屋一面に響いた。
しかし、その中で声を張り上げる者がいた。

「殿!恐れながら一つ伺いたく存じます‼︎」
鬼の恐ろしさを目の当たりにした太助だった。

「何か!」
勢いを削がれて
やや不機嫌そうに蔭虎が尋ねた。
「化け物を殺すのは良いとして…何か策は?」

「もちろん講じておるわ…安兵衛!」
「ハ!」
初老の男がゆっくりと地形図を
家臣達の目の前に広げ、
ドカッと蔭虎が元の位置に座り込んだ。

「村は扇状地の上にある、
まず主力に見せかけた支隊を
その足下の田畑に置く」
山の麓の田畑を指差し、
そのまま横になぞる。

「次に本隊となる足軽を山の斜面に忍ばせ、
突撃に備える。」
村と斜面の境界に人差し指を置いてなぞる。

「そして、化け物どもを村から引き剥がす。」
山腹の村に指を突き立て、そのまま田畑へ動かす。

「時期を見て、本隊が村の背面に突撃し、
農民どもを村の外へといぶり出す」
田畑を指差していた右手を村を包む様に広げ、
麓に押し出した。

「その後、支隊は山へと取って返し、
村へ向かう」
握り締めた左拳を田畑に下ろし、
村の方へと進める。

「村にて全軍合流の後、戦をやめるか、
根絶やしにされるまで争うかを問うまでよ!」
握り拳を掌に叩きつけ、
不敵な笑みを浮かべた。

「陣を敷くとはいえ…
化け物の相手なぞできるのでしょうか?」
尚も太助が不安の声を上げると、
表情をそのままに蔭虎がこう返した。
あんずるな…
我らには熊殺しがおるではないか…」

「おぉ!確かに」、「喜蔵殿なら…」
家臣達の声に希望の色が戻った。
それもそのはず、その刀さばきで熊を十も仕留めた
早瀬家家臣団一の手練てだれの名が上がったのだ。

「ヤツならば化け物の息の根を止めるなぞ
容易たやすい事……
そうじゃろう‼︎喜蔵‼︎」
「…………」
喜蔵はただ黙するのみであった。

「そういうことじゃ!
もはや異存はあるまいな?」
「ははぁ‼︎」
「それでこそ早瀬の兵どもじゃ‼︎
ウワハハハハァァァァ‼︎」
覇気に満ち、誰もが自分達の勝利を
信じて疑わなかった。

「…………」
その中にただ一人、
喜蔵のみが異なる空気をまとっていた。
「…………」
怒りとも悲しみともつかない表情を浮かべ、
トボトボと夜の闇をただようのみであった。
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