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六
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あの戦が終わってからというもの、
村には一時の安らぎが訪れていた。
稲は全て刈り取ることができ、
領主に納めても全ての村民が
米を口にできる程になった。
だが、そのまま安穏として
いたわけではない。
村人達はいつ来るかわからぬ戦いに備え、
柵や石垣を直し、新たな堀を刻み、
戦技を鍛えて過ごした。
実際、それを活かす機会はすぐに到来した。
木谷と門田が大きな戦を起こしたからだ。
村が木谷氏の所領に変わる程の
大合戦は多くの荒くれ者を生み出した。
例に漏れず村に殺到した奴らだったが、
村人達はもはや怖気付かなかった。
大きな味方と勝利の喜びを味わった
彼らには恐れなど残っていなかったからだ。
やがて餓鬼の如き輩は
村に寄りつかなくなった。
やがて冬がやってきた。
飢えに喘がず、
悲嘆に暮れることもない
豊かな冬だった。
それは大菊童子も例外ではなかった。
「猪肉ってぇのはうめぇなぁ…」
猪一頭分を齧りながら
大菊童子は呟いた。
「それはよかった…」
「おっと勘違いすんじゃねぇぞ、
人の肉はもっとうめぇからな‼︎」
「とかなんとか言って…
人の肉なんか喰ってないじゃねぇか」
平助が揶揄う様に言った。
「!…平助…」
「…な…なんだ?」
「頭を齧らせろ」
大鬼が本気の目を向けて言った。
「‼︎………」
一瞬にして背筋が凍りついた。
「……ウハハハハァァ、冗談だ‼︎」
「ハハ…ハハ…」
平助は顔を引き攣らせながら応えた。
「キク!平助をあまり虐めてやるな!」
「すまんすまん、
おっかなそうな顔が面白くてついな‼︎」
満面の笑みを見せながら、言葉を繋ぐ。
「本当に喰うなら義助にするでの!
ウハハハハァ!」
誰もがこれまでよりも
平和な未来を信じて疑わなかった。
あの日までは…
年が明けてしばらく経ったある日…
孝蔵の家に村の者が転がり込んできた。
「どうした、権作?野伏か⁈」
「……ち……ちげぇちげぇ」
「では、なんだ?」
「………お…お侍、木谷の殿様の…」
「何と…」
麓の畦道を通って
二十頭ほどの馬が村の中へと駆けてきた。
馬上にはよく手入れされた具足を
身につけた侍が跨っている。
「この村の長はお主か?」
位の高そうな侍が前に出て尋ねた。
「いかにも、ところで貴方様は?」
「我が名は早瀬蔭虎…
此処へは我が主君の命に従い参上した」
「…はて……何を申しつけられたのかね?」
孝蔵が尋ねると蔭虎は書状を広げ、
馬に跨ったままこう言いつけた。
「お主らの取った米の半分を年貢と
して大殿に献上せよ‼︎」
「な!なんじゃと⁈‼︎」
孝蔵はこれまでに聞いた事ない程の
大きな驚きの声を上げた。
それはもちろん他の村人達も同様であった。
「そんな無茶な!」、
「年が明ける前に門田の
お殿様に納めたばっかりだ!」
「鎮まれぇ‼︎‼︎」
先ほどの孝蔵にも負けないほどの
大声を上げた。
「早瀬殿……
次の刈り取りまで
待っていただけないかね?」
「ならん‼︎今すぐに米を納めるのだ‼︎」
「俺達に飢え死にしろってのか‼︎」、
「そんなのあんまりだ‼︎」
「だから鎮まれと言っとるだろうがぁ‼︎‼︎」
刀を鞘から抜き取ったかと思うと
刃先は人々を捉えた。
「な……何を…」
「この刃の鯖になりたくなければ…
米を渡せ‼︎」
ギラリと鋭い閃光を放つ刃先が
孝蔵の首元に近づく
大抵のことではたじろがない
長老も息を呑んだ、その時
「オイ‼︎貴様何モンだ‼︎」
鉄砲にも勝る空気の振動が
村民達の背中から打ち出された。
驚愕で見開かれた目を
蔭虎がそちらに向ける。
その先には怒気を体中から
吹き出させた大男が聳え立っていた。
額からツノを生やした姿は
恐ろしい事この上なかったが、
侍である以上、気丈に応えた。
「木谷の大殿からこの地を賜った
早瀬蔭虎という者だ!」
「何故、刀を突き立てておるのだ‼︎」
ズシンズシンと巨体をこちらに近づける。
早瀬は刃先をゆっくりとそれに向けながら答える。
「この者が米を渡さんと執念いゆえ、
こうしておるのだ!」
「……そうか…なるほどな…」
「それならば…さっさとここを去れ…」
「……お主…化け物だからと言って…」
「調子に乗るな‼︎‼︎」
ヒュッ!ガギッ‼︎
素早く振り上げられたはずの刀は
容易く掴み取られた。
「‼︎……」
刀身にギリギリと力を込めながら、
鬼はこう告げた。
「調子に乗るな……」
ピキィィィン……
刀が砕けたと同時に
「さっさと出て行けぇぇ‼︎‼︎」
大轟音が蔭虎達を襲った。
馬は主を放り出し、
部下も大きく退いた。
当の蔭虎も鞍から転げ、
腰が砕けてしまった。
腕の力を振り絞り、
部下達の元へとズルズルと近づく。
その途上に振り返り、
怒りに満ちた表情で見つめる。
「この仕打ち…忘れぬぞ……」
そう言い残すと部下の肩を借り、
村から出ていった。
村人達はただ立ち尽くし、
それを見つめるしかなかった。
大きな戦になるかもしれない、
これまでとは比較にならない程大きな…
皆の胸にその不安が重くのしかかった。
ただ一人を除いては…
村には一時の安らぎが訪れていた。
稲は全て刈り取ることができ、
領主に納めても全ての村民が
米を口にできる程になった。
だが、そのまま安穏として
いたわけではない。
村人達はいつ来るかわからぬ戦いに備え、
柵や石垣を直し、新たな堀を刻み、
戦技を鍛えて過ごした。
実際、それを活かす機会はすぐに到来した。
木谷と門田が大きな戦を起こしたからだ。
村が木谷氏の所領に変わる程の
大合戦は多くの荒くれ者を生み出した。
例に漏れず村に殺到した奴らだったが、
村人達はもはや怖気付かなかった。
大きな味方と勝利の喜びを味わった
彼らには恐れなど残っていなかったからだ。
やがて餓鬼の如き輩は
村に寄りつかなくなった。
やがて冬がやってきた。
飢えに喘がず、
悲嘆に暮れることもない
豊かな冬だった。
それは大菊童子も例外ではなかった。
「猪肉ってぇのはうめぇなぁ…」
猪一頭分を齧りながら
大菊童子は呟いた。
「それはよかった…」
「おっと勘違いすんじゃねぇぞ、
人の肉はもっとうめぇからな‼︎」
「とかなんとか言って…
人の肉なんか喰ってないじゃねぇか」
平助が揶揄う様に言った。
「!…平助…」
「…な…なんだ?」
「頭を齧らせろ」
大鬼が本気の目を向けて言った。
「‼︎………」
一瞬にして背筋が凍りついた。
「……ウハハハハァァ、冗談だ‼︎」
「ハハ…ハハ…」
平助は顔を引き攣らせながら応えた。
「キク!平助をあまり虐めてやるな!」
「すまんすまん、
おっかなそうな顔が面白くてついな‼︎」
満面の笑みを見せながら、言葉を繋ぐ。
「本当に喰うなら義助にするでの!
ウハハハハァ!」
誰もがこれまでよりも
平和な未来を信じて疑わなかった。
あの日までは…
年が明けてしばらく経ったある日…
孝蔵の家に村の者が転がり込んできた。
「どうした、権作?野伏か⁈」
「……ち……ちげぇちげぇ」
「では、なんだ?」
「………お…お侍、木谷の殿様の…」
「何と…」
麓の畦道を通って
二十頭ほどの馬が村の中へと駆けてきた。
馬上にはよく手入れされた具足を
身につけた侍が跨っている。
「この村の長はお主か?」
位の高そうな侍が前に出て尋ねた。
「いかにも、ところで貴方様は?」
「我が名は早瀬蔭虎…
此処へは我が主君の命に従い参上した」
「…はて……何を申しつけられたのかね?」
孝蔵が尋ねると蔭虎は書状を広げ、
馬に跨ったままこう言いつけた。
「お主らの取った米の半分を年貢と
して大殿に献上せよ‼︎」
「な!なんじゃと⁈‼︎」
孝蔵はこれまでに聞いた事ない程の
大きな驚きの声を上げた。
それはもちろん他の村人達も同様であった。
「そんな無茶な!」、
「年が明ける前に門田の
お殿様に納めたばっかりだ!」
「鎮まれぇ‼︎‼︎」
先ほどの孝蔵にも負けないほどの
大声を上げた。
「早瀬殿……
次の刈り取りまで
待っていただけないかね?」
「ならん‼︎今すぐに米を納めるのだ‼︎」
「俺達に飢え死にしろってのか‼︎」、
「そんなのあんまりだ‼︎」
「だから鎮まれと言っとるだろうがぁ‼︎‼︎」
刀を鞘から抜き取ったかと思うと
刃先は人々を捉えた。
「な……何を…」
「この刃の鯖になりたくなければ…
米を渡せ‼︎」
ギラリと鋭い閃光を放つ刃先が
孝蔵の首元に近づく
大抵のことではたじろがない
長老も息を呑んだ、その時
「オイ‼︎貴様何モンだ‼︎」
鉄砲にも勝る空気の振動が
村民達の背中から打ち出された。
驚愕で見開かれた目を
蔭虎がそちらに向ける。
その先には怒気を体中から
吹き出させた大男が聳え立っていた。
額からツノを生やした姿は
恐ろしい事この上なかったが、
侍である以上、気丈に応えた。
「木谷の大殿からこの地を賜った
早瀬蔭虎という者だ!」
「何故、刀を突き立てておるのだ‼︎」
ズシンズシンと巨体をこちらに近づける。
早瀬は刃先をゆっくりとそれに向けながら答える。
「この者が米を渡さんと執念いゆえ、
こうしておるのだ!」
「……そうか…なるほどな…」
「それならば…さっさとここを去れ…」
「……お主…化け物だからと言って…」
「調子に乗るな‼︎‼︎」
ヒュッ!ガギッ‼︎
素早く振り上げられたはずの刀は
容易く掴み取られた。
「‼︎……」
刀身にギリギリと力を込めながら、
鬼はこう告げた。
「調子に乗るな……」
ピキィィィン……
刀が砕けたと同時に
「さっさと出て行けぇぇ‼︎‼︎」
大轟音が蔭虎達を襲った。
馬は主を放り出し、
部下も大きく退いた。
当の蔭虎も鞍から転げ、
腰が砕けてしまった。
腕の力を振り絞り、
部下達の元へとズルズルと近づく。
その途上に振り返り、
怒りに満ちた表情で見つめる。
「この仕打ち…忘れぬぞ……」
そう言い残すと部下の肩を借り、
村から出ていった。
村人達はただ立ち尽くし、
それを見つめるしかなかった。
大きな戦になるかもしれない、
これまでとは比較にならない程大きな…
皆の胸にその不安が重くのしかかった。
ただ一人を除いては…
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