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五
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村の両翼が敗走する前に時を戻そう。
義助の頼みを聞き入れ、
七兵衛は村を大きく迂回する形で
村へと急いでいた。
つまり、山道の反対にある
田畑の方向から
村に戻ろうとしていたのである。
脇目も振らずに孝蔵の元へと走った。
草木の生い茂る林を、砂利が転がる坂を、
よく見慣れた畦道を
村に入ると陣を崩さんと石と矢が
雨のように降り注いでいたが、
七兵衛は臆さず韋駄天の如く走った。
そして、本陣となっていた孝蔵の家に転がり込んだ。
あまりの勢いに中の者が一瞬身構えたが、
七兵衛とわかると
「おぉ!七兵衛‼︎」と喜びに声を上げた。
「爺様!今帰ったど‼︎」
「うむ…」孝蔵は深く頷いた。
その様は威厳に満ちており、
正しく一軍の将というに相応しかった。
「鬼がオイ達の味方になってくれる
と言ってくれただ!」
「それは本当か!」
「ただ、村に呼ぶ前に
やってほしい事があるど!」
「何だ⁈」
「村の右端と左端の槍襖を
村の真ん中に集めてほしいど!
そんで、皆で山道の敵に突っ込むんだど‼︎」
「なんだと‼︎」、
「それは危ねぇ、やめた方いい!」
孝蔵以外の村人達は戸惑った。
しかし、孝蔵は違った。
「………ふむ…」と軽く唸った後、
「…わかった‼︎そうしよう!」と応えた。
「爺様‼︎」
咎めるように一人の男が声を上げた。
しかし、孝蔵はその者に向きなおり、
「このままやっておっても
死ぬのを待つだけじゃ‼︎
……儂は三人を信じる‼︎」
と一喝すると、
それに異議を唱える者はいなくなった。
斜面を落ちるように左右から
野盗達がなだれ込んだ。
山道の本隊もそれらが合流するのを見計らって
突撃の態勢を整えた。
その時、潰走していた筈の農民達が
一ヶ所に集結しているのが見えた。
「奴ら、ワシの首を飛ばすつもりかぁ⁈」
「そのようで」
「前を厚くせぇ!弾き飛ばすのじゃあ‼︎」
流石に元々侍だっただけある、
見事に村人の考えを読んでいた。
村民が歪な方陣で突撃したのに対して、
野盗は三方から包みこもうと
距離を詰め始めた。
「七兵衛ぇ!本当にこれでいいんかぁ⁈」
後方から迫り来る敵が見えると
怖気付いてしまう者も少なくない。
「もう少しだど!皆頑張るんだど‼︎」
それらを励まし、来るべき時を待った。
「話にならん!、
さっさと蹴散らしてしまえぇ‼︎」
あまりに頼りない方陣は
弾き飛ばせると思った。
その時‼︎
「ウハハハハァァァァ‼︎ウハハァァ‼︎」
山の上から震えんばかりの高笑いが聞こえた。
猛烈な土煙とともに大きな人影が
斜面を下り落ちてくる。
その背の丈は人のそれではなく、
額にはツノが見えた。
正しくその姿は鬼と呼ぶに相応しかった。
「な…なんじゃぁ!」
「鬼じゃ!鬼がきよる‼︎」
野盗達がざわめき、狼狽えはじめた。
それは村民達も例外ではなかった。
「うわぁぁ‼︎」「逃げろぉ‼︎」
各々が声を上げるが、七兵衛が呼び止める。
「落ち着くど!ほれ、義助が見えるど‼︎」
よく見ると確かに凄まじい土煙の中に
駆け降りる義助が見えた。
それがわかると村人達に落ち着きと
喜びが広がっていった。
「ウハハァァ‼︎どけどけぇぇ‼︎」
丸太のような大太刀を軽々と振るい、
人馬の別なく薙ぎ払っていく。
全く斬れぬ鈍だが、
凄まじい重さは想像絶する破壊力を産み、
一撃を受けた者は風に舞う落ち葉の如く、
軽々と空を飛んだ。
時に背後から首を狙おうとする猛者もいたが、
義助が刀を振るいそれらを返り討ちにした。
あまりの光景に頭目はしばし呆気に取られていたが、自分が危機の中にあることを悟った。
「ぬかったぁ‼︎」
「このままでは囲まれます!」
「わかっておるわぁ‼︎
左右へ別れて退けぇ‼︎」
必死に指示を飛ばすが、
大鬼は邪魔者を蹴散らしてこちらに駆け寄ってきた。
「グゥアアァァァァ‼︎ヌゥゥゥ‼︎」
疾風迅雷、その狂暴な姿に馬は恐れ嘶いた。
野盗共も混乱と死の恐怖に
散り散りに逃げ惑った、
その姿のなんと無様な事であろうか。
「これぇ‼︎鎮まらんかぁ‼︎」
頭目は激しく揺さぶられ、
馬上からドサリと振り落とされた。
「こ…これぇ!お前達…‼︎」
手下を呼び止めようとするが、
そんな余裕は何処にもない。
悪いことに潰走する味方に
蹴り飛ばされ踏み潰された。
「………くぅ……ふぅぅ…」
痛みの余り身を丸めていると
グワァシと何かに頭を掴まれるのを感じた。
「…うぅぅ…ぐわぁぁぁ!」
痛みに声を上げ、目を開けると
深く皺が刻まれている物が現れた。
鬼の顔だ…
「お前が奴らの頭かぁ‼︎‼︎」
「……ぁ…………ぁぁ」
恐怖に目を見開き、
声が出せずに小さく頷いた。
「……出ていけ………さっさとここから‼︎」
そう言い放った怒りの表情から
笑みのように口角を上げ、言葉を繋いだ。
「さもないと……喰っちまうぞ」
「……ぁ…ああぁぁ…ああぁ…………」
涙を流しながら、激しく首を縦に振った。
戦は終わった…多くの亡骸を残して…
肩を落とし過ぎ去る野盗共を背に
人々は喜びに沸いた。
追い返したのではなく
間違いなく勝ったのだから…
義助の頼みを聞き入れ、
七兵衛は村を大きく迂回する形で
村へと急いでいた。
つまり、山道の反対にある
田畑の方向から
村に戻ろうとしていたのである。
脇目も振らずに孝蔵の元へと走った。
草木の生い茂る林を、砂利が転がる坂を、
よく見慣れた畦道を
村に入ると陣を崩さんと石と矢が
雨のように降り注いでいたが、
七兵衛は臆さず韋駄天の如く走った。
そして、本陣となっていた孝蔵の家に転がり込んだ。
あまりの勢いに中の者が一瞬身構えたが、
七兵衛とわかると
「おぉ!七兵衛‼︎」と喜びに声を上げた。
「爺様!今帰ったど‼︎」
「うむ…」孝蔵は深く頷いた。
その様は威厳に満ちており、
正しく一軍の将というに相応しかった。
「鬼がオイ達の味方になってくれる
と言ってくれただ!」
「それは本当か!」
「ただ、村に呼ぶ前に
やってほしい事があるど!」
「何だ⁈」
「村の右端と左端の槍襖を
村の真ん中に集めてほしいど!
そんで、皆で山道の敵に突っ込むんだど‼︎」
「なんだと‼︎」、
「それは危ねぇ、やめた方いい!」
孝蔵以外の村人達は戸惑った。
しかし、孝蔵は違った。
「………ふむ…」と軽く唸った後、
「…わかった‼︎そうしよう!」と応えた。
「爺様‼︎」
咎めるように一人の男が声を上げた。
しかし、孝蔵はその者に向きなおり、
「このままやっておっても
死ぬのを待つだけじゃ‼︎
……儂は三人を信じる‼︎」
と一喝すると、
それに異議を唱える者はいなくなった。
斜面を落ちるように左右から
野盗達がなだれ込んだ。
山道の本隊もそれらが合流するのを見計らって
突撃の態勢を整えた。
その時、潰走していた筈の農民達が
一ヶ所に集結しているのが見えた。
「奴ら、ワシの首を飛ばすつもりかぁ⁈」
「そのようで」
「前を厚くせぇ!弾き飛ばすのじゃあ‼︎」
流石に元々侍だっただけある、
見事に村人の考えを読んでいた。
村民が歪な方陣で突撃したのに対して、
野盗は三方から包みこもうと
距離を詰め始めた。
「七兵衛ぇ!本当にこれでいいんかぁ⁈」
後方から迫り来る敵が見えると
怖気付いてしまう者も少なくない。
「もう少しだど!皆頑張るんだど‼︎」
それらを励まし、来るべき時を待った。
「話にならん!、
さっさと蹴散らしてしまえぇ‼︎」
あまりに頼りない方陣は
弾き飛ばせると思った。
その時‼︎
「ウハハハハァァァァ‼︎ウハハァァ‼︎」
山の上から震えんばかりの高笑いが聞こえた。
猛烈な土煙とともに大きな人影が
斜面を下り落ちてくる。
その背の丈は人のそれではなく、
額にはツノが見えた。
正しくその姿は鬼と呼ぶに相応しかった。
「な…なんじゃぁ!」
「鬼じゃ!鬼がきよる‼︎」
野盗達がざわめき、狼狽えはじめた。
それは村民達も例外ではなかった。
「うわぁぁ‼︎」「逃げろぉ‼︎」
各々が声を上げるが、七兵衛が呼び止める。
「落ち着くど!ほれ、義助が見えるど‼︎」
よく見ると確かに凄まじい土煙の中に
駆け降りる義助が見えた。
それがわかると村人達に落ち着きと
喜びが広がっていった。
「ウハハァァ‼︎どけどけぇぇ‼︎」
丸太のような大太刀を軽々と振るい、
人馬の別なく薙ぎ払っていく。
全く斬れぬ鈍だが、
凄まじい重さは想像絶する破壊力を産み、
一撃を受けた者は風に舞う落ち葉の如く、
軽々と空を飛んだ。
時に背後から首を狙おうとする猛者もいたが、
義助が刀を振るいそれらを返り討ちにした。
あまりの光景に頭目はしばし呆気に取られていたが、自分が危機の中にあることを悟った。
「ぬかったぁ‼︎」
「このままでは囲まれます!」
「わかっておるわぁ‼︎
左右へ別れて退けぇ‼︎」
必死に指示を飛ばすが、
大鬼は邪魔者を蹴散らしてこちらに駆け寄ってきた。
「グゥアアァァァァ‼︎ヌゥゥゥ‼︎」
疾風迅雷、その狂暴な姿に馬は恐れ嘶いた。
野盗共も混乱と死の恐怖に
散り散りに逃げ惑った、
その姿のなんと無様な事であろうか。
「これぇ‼︎鎮まらんかぁ‼︎」
頭目は激しく揺さぶられ、
馬上からドサリと振り落とされた。
「こ…これぇ!お前達…‼︎」
手下を呼び止めようとするが、
そんな余裕は何処にもない。
悪いことに潰走する味方に
蹴り飛ばされ踏み潰された。
「………くぅ……ふぅぅ…」
痛みの余り身を丸めていると
グワァシと何かに頭を掴まれるのを感じた。
「…うぅぅ…ぐわぁぁぁ!」
痛みに声を上げ、目を開けると
深く皺が刻まれている物が現れた。
鬼の顔だ…
「お前が奴らの頭かぁ‼︎‼︎」
「……ぁ…………ぁぁ」
恐怖に目を見開き、
声が出せずに小さく頷いた。
「……出ていけ………さっさとここから‼︎」
そう言い放った怒りの表情から
笑みのように口角を上げ、言葉を繋いだ。
「さもないと……喰っちまうぞ」
「……ぁ…ああぁぁ…ああぁ…………」
涙を流しながら、激しく首を縦に振った。
戦は終わった…多くの亡骸を残して…
肩を落とし過ぎ去る野盗共を背に
人々は喜びに沸いた。
追い返したのではなく
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