18 / 48
中学生編
18
しおりを挟む
彼は体育館の裏の方に向かっていた。
だんだん周りも人の気配がなくなっていく。
どこまで行くのか、不安になってきた私の耳に、誰かが騒ぐような声が聞こえてきた。私は木の影に隠れるようにして、様子を伺った。
「お前ら、しつこいっつ~の。」
「てめえ!斎藤!」
アイドルの衣装を着たお兄ちゃんが、数人の男子生徒を相手に逃げ回っていた。ミニスカートが翻って、ほんとに女の子が襲われてるみたいだ。
だが多数に無勢。
疲れもでてきたのか、お兄ちゃんの動きもにぶくなっている。
柴崎蓮が、男子生徒に、声をかけた。
「何やってんの?さっさと捕まえてよね。」
「柴崎!こいつ意外に素早くてさあ。お前も手伝えよ。」
「やだよ。そういうのは君たちがやってよね?」
男子生徒が、お兄ちゃんに、足払いをかけた。
不意をつかれたお兄ちゃんがバランスをくずすと、そこを狙って数人がかりで、押さえつける。
「てめえっ!離せよ、このっ……っ!」
お兄ちゃんも拘束をとこうと暴れるが、力で押さえつけられてるせいか、びくともしない。柴崎蓮は、お兄ちゃんに近づくと、歪んだ笑みを、浮かべて話しかけた。
「はははっ。いいザマだね?斎藤。キミに忠告しておいてあげる。ちょっと綺麗だからって、四楓院様に馴れ馴れしくしないことだね。」
「はあ?知るかよ!あいつが勝手に話しかけてくるんだろうが……ぐあっ!」
人を殴るような音が聞こえてきて、お兄ちゃんの呻き声が聞こえてきた。私は助けを呼びに行こうとした。体を動かそうとするのに、体が震えてなかなか動かない。
(お願い!動いて?)
「ちょっと。忠告するだけなんでしょ!あんまり乱暴なのはごめんだよ。」
「うるせえな。すげえ、この格好してたら、マジ女襲ってるみてえ。これで男だなんて信じられねえよなあ。」
「はあ?悪趣味だね。どこがいいのさこんな奴?」
「柴崎くんは興味ねえってよ?さあ、斎藤くん?いい声きかせてくれるかなあ?」
「誰からする?」
私は彼らの会話にじっとりと冷汗を流した。
お兄ちゃんはいつの間にか地面に押さえつけられている。
(り……輪姦エンド?)
このままではお兄ちゃんが……!
その時、私の目に、体育館倉庫に立てかけてあったホウキが目に入った。誰かが片付け忘れたのだろうか。
私は咄嗟に体育館倉庫に向かって走ると、ホウキを掴んで、お兄ちゃん達のところに走りよった。
「お兄ちゃんを離せ………っ!」
「わっ!なんだ、こいつ?」
「あぶねっ!」
無茶苦茶に振りまわしながらお兄ちゃんのところに行くと、お兄ちゃんを抑えていた人たちが慌てて私から避けた。倒れているお兄ちゃんを背に、ホウキを構える。
柴崎蓮が、目を細めて私達を睨みつけた。
「さっきの地味な奴じゃん。何してんの?そんなものから手を離しなよ。危ないよ?」
彼は私の手を素早くつかむと、ギリっと握りしめた。
私の手から力が抜けて、ホウキを取り落としてしまう。
「……っ!」
「柴崎、なにこの地味な奴。」
「……柴崎の知り合いか?でも一応、こんなんでも女だよなあ。ガキだけど。発育悪そうだし。まあ、そのぶんあっちがいいかもしれねえけどな。」
「こんな地味なガキにも反応するの?どう見ても中学生でしょ。犯罪だよ?ハンザイ。やめとけば?」
下品な笑い声をあげる彼らに、私は震えることしかできない。
泣くものかと思うのに、勝手に涙があふれてくる。
「あれ?泣いちゃったぞ?」
「……あ、ヤベ。泣き顔ヤバくね?」
「ちょっと。やめてよね。手を出すなら、斎藤だけにしといてよ。後が面倒くさい。」
「ちょっとだけ……な?」
男子生徒の1人が、私の近くにやってきた。
柴崎蓮から私の腕を乱暴に離し、地面にたたきつけられる。
男子生徒にのしかかられて、私は頭が真っ白になった。
「や……やだあっ!お兄ちゃんっ……!」
服に手をかけられそうになって、私は思わず目を瞑った。
「………?」
気がついたら、私の上から人がいなくなっている気配がした。
恐る恐る目を開けると、私にのしかかっていた男子生徒が倒れていた。
「花奈?立てるか?」
ホウキを構えたお兄ちゃんが立ち上がっていた。
私は震える体を叱咤しながらなんとか立ち上がると、お兄ちゃんの後ろについた。
「花奈。俺から離れるなよ。」
「……うんっ!」
「てめえっ!斎藤!」
男子生徒の1人がお兄ちゃんに、向かってきた。
お兄ちゃんは冷静に彼の間合いに踏み込むと彼にホウキをたたきつけ、素早くまた、構えをとった。
「そういえばコイツ、有段者じゃねえの?」
「やばくねえ?」
男子生徒たちから焦りの声がでたが、柴崎蓮が冷たく言い放った。
「馬鹿なの?人数でかこめばなんとかなるんじゃないの?」
お兄ちゃんのホウキを握る手に、少し力が入ったのを感じる。
私はお兄ちゃんの背中をじっと見つめた。
しがみつきたいけど、お兄ちゃんの動きの妨げになるのも嫌だ。私達はゆっくりと狭まってくる包囲網を少しでも避けるように身を寄せあった。
「くそっ。花奈っ!」
「……やっ!」
お兄ちゃんは男子生徒達にホウキで応戦した。
だが、数人がかりで来られると、背後がガラ空きになってしまう。さすがのお兄ちゃんも、私を守りながら大人数の相手をするのは難しかったようで、じりじりと包囲網をせばめられた私達は彼らに捕えられてしまった。
「あ~あ。形勢逆転だね。残念だったねえ。斎藤くん?」
「てめえ。柴崎。マジ殺す。」
「…へえ。そんな顔もできるんだ。天使の斎藤くん?わかったら、四楓院様に近づかないでよね。」
「なあ。やっぱりやっちまうか?」
「誰か見張り立っとけよ。」
「なあ、順番どうする?」
(どうしよう。このままだと、ほんとにバッドエンドになっちゃう!どうにかしないと……っ!)
「くそっ。花奈だけでもなんとか……っ。」
なんとか逃れようと暴れるお兄ちゃんが、さらに押さえつけられる。私も男子生徒に拘束され、身動きができない。
私は心の中で助けを求めた。
(誰か助けてっ……蓮琉くんっ!)
「………っ!」
その時、風が吹いた。
私を捕まえていた男子生徒は、その風に凄い勢いで吹っ飛ばされた。
「おまえら、何してやがる。」
「花奈?大丈夫か?!」
「タマちゃん生きてる~?」
四楓院先輩と蓮琉くんだった。何故か三田くんもいる。
蓮琉くんは、私のもとに走ってきて、三田くんはお兄ちゃんのもとへはしっていった。先輩は、私達の前に、柴崎蓮から私達を守るように立っていた。その広い背中を見て、私はああ、助かったんだと実感した。
先輩は、私の周りにいた男子生徒を次々に吹っ飛ばすと、柴崎蓮の前に立った。そして、地をはうような低い声をだした。
「これは、どういうことだ。蓮。」
「四楓院様!どうしてここに……?」
先輩の剣幕に、顔面蒼白になった柴崎蓮だが、気丈にも先輩に聞き返してきた。先輩は暴発しそうな感情を必死に抑えているようで。そして、静かすぎるくらい冷静に声を出した。
「生徒の保護者から、娘がトイレに行ってから戻ってこない、との相談が学校側に入ってな。とりあえず風紀委員が捜索にでてたんだ。まさかと思って体育館裏に来てみたら、この有様だ。娘の名前は斎藤花奈。……お前だな?」
私を振り返らずに、柴崎蓮に視線は合わせたまま。
四楓院先輩は、冷静な口調を崩さない。
蓮琉くんは、私をゆっくりと抱き起こして安心させるように抱きしめた。
お兄ちゃんを見ると、三田くんが、やはりゆっくりと起こして支えている。
「タマちゃん、タマちゃん。大丈夫?」
「うるさい、三田。お前の声の方が頭に響く。」
心配でしょうがない、といった三田くんにお兄ちゃんはわざと元気な声をだした。痛みに顔をしかめてるから、殴られたところとか、かなり痛いはずだ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ばあか。俺がこんくらいでやられるタマかよ。花奈は、大丈夫か?」
「私だって、大丈夫だもん。……あれっ?」
「………花奈?」
「あれえ。どうしよう。震えが止まらない、みたい。……っ。」
私の目から涙がこぼれ落ちた。
兄が乱暴されていた状況と、自分も危なかった状況に対する恐怖。
そして、助かったことに対する安堵。
そのいろんなことが、私の中で渦巻いて、そして爆発した。
いきなり声をあげて泣きだした私に、蓮琉くんは抱きしめている力を少し強くした。そして、自分も泣きそうな声をだした。
「……ごめんな。来るの遅くて。怖かったな。もう大丈夫だ。環も大丈夫だよ。」
声をあげて泣き続ける私に四楓院先輩は一瞬目を向けたが、すぐに柴崎蓮に視線を戻した。
「風紀委員室で話を聞く。陽向、連れてくのを手伝え。斎藤、来れそうか?」
「大丈夫です。行けます。蓮琉、花奈を頼む。」
「わかった。環のお母さんが、事務室にいるはずだから、とりあえず目立たないように合流しとくな。」
「げ。そういえば母さん来てたんだよなあ。心配かけちまったな。まあ、行ってくるわ。花奈、俺は大丈夫だからな。ちょっと反撃に、失敗しちまったけど。まあまあ強かったろ?」
乱暴に頭を撫でるお兄ちゃんに、さらに涙があふれてくる。
泣き続けて、泣き続けて。
疲れきって眠るまで、私は泣き続けた。
だんだん周りも人の気配がなくなっていく。
どこまで行くのか、不安になってきた私の耳に、誰かが騒ぐような声が聞こえてきた。私は木の影に隠れるようにして、様子を伺った。
「お前ら、しつこいっつ~の。」
「てめえ!斎藤!」
アイドルの衣装を着たお兄ちゃんが、数人の男子生徒を相手に逃げ回っていた。ミニスカートが翻って、ほんとに女の子が襲われてるみたいだ。
だが多数に無勢。
疲れもでてきたのか、お兄ちゃんの動きもにぶくなっている。
柴崎蓮が、男子生徒に、声をかけた。
「何やってんの?さっさと捕まえてよね。」
「柴崎!こいつ意外に素早くてさあ。お前も手伝えよ。」
「やだよ。そういうのは君たちがやってよね?」
男子生徒が、お兄ちゃんに、足払いをかけた。
不意をつかれたお兄ちゃんがバランスをくずすと、そこを狙って数人がかりで、押さえつける。
「てめえっ!離せよ、このっ……っ!」
お兄ちゃんも拘束をとこうと暴れるが、力で押さえつけられてるせいか、びくともしない。柴崎蓮は、お兄ちゃんに近づくと、歪んだ笑みを、浮かべて話しかけた。
「はははっ。いいザマだね?斎藤。キミに忠告しておいてあげる。ちょっと綺麗だからって、四楓院様に馴れ馴れしくしないことだね。」
「はあ?知るかよ!あいつが勝手に話しかけてくるんだろうが……ぐあっ!」
人を殴るような音が聞こえてきて、お兄ちゃんの呻き声が聞こえてきた。私は助けを呼びに行こうとした。体を動かそうとするのに、体が震えてなかなか動かない。
(お願い!動いて?)
「ちょっと。忠告するだけなんでしょ!あんまり乱暴なのはごめんだよ。」
「うるせえな。すげえ、この格好してたら、マジ女襲ってるみてえ。これで男だなんて信じられねえよなあ。」
「はあ?悪趣味だね。どこがいいのさこんな奴?」
「柴崎くんは興味ねえってよ?さあ、斎藤くん?いい声きかせてくれるかなあ?」
「誰からする?」
私は彼らの会話にじっとりと冷汗を流した。
お兄ちゃんはいつの間にか地面に押さえつけられている。
(り……輪姦エンド?)
このままではお兄ちゃんが……!
その時、私の目に、体育館倉庫に立てかけてあったホウキが目に入った。誰かが片付け忘れたのだろうか。
私は咄嗟に体育館倉庫に向かって走ると、ホウキを掴んで、お兄ちゃん達のところに走りよった。
「お兄ちゃんを離せ………っ!」
「わっ!なんだ、こいつ?」
「あぶねっ!」
無茶苦茶に振りまわしながらお兄ちゃんのところに行くと、お兄ちゃんを抑えていた人たちが慌てて私から避けた。倒れているお兄ちゃんを背に、ホウキを構える。
柴崎蓮が、目を細めて私達を睨みつけた。
「さっきの地味な奴じゃん。何してんの?そんなものから手を離しなよ。危ないよ?」
彼は私の手を素早くつかむと、ギリっと握りしめた。
私の手から力が抜けて、ホウキを取り落としてしまう。
「……っ!」
「柴崎、なにこの地味な奴。」
「……柴崎の知り合いか?でも一応、こんなんでも女だよなあ。ガキだけど。発育悪そうだし。まあ、そのぶんあっちがいいかもしれねえけどな。」
「こんな地味なガキにも反応するの?どう見ても中学生でしょ。犯罪だよ?ハンザイ。やめとけば?」
下品な笑い声をあげる彼らに、私は震えることしかできない。
泣くものかと思うのに、勝手に涙があふれてくる。
「あれ?泣いちゃったぞ?」
「……あ、ヤベ。泣き顔ヤバくね?」
「ちょっと。やめてよね。手を出すなら、斎藤だけにしといてよ。後が面倒くさい。」
「ちょっとだけ……な?」
男子生徒の1人が、私の近くにやってきた。
柴崎蓮から私の腕を乱暴に離し、地面にたたきつけられる。
男子生徒にのしかかられて、私は頭が真っ白になった。
「や……やだあっ!お兄ちゃんっ……!」
服に手をかけられそうになって、私は思わず目を瞑った。
「………?」
気がついたら、私の上から人がいなくなっている気配がした。
恐る恐る目を開けると、私にのしかかっていた男子生徒が倒れていた。
「花奈?立てるか?」
ホウキを構えたお兄ちゃんが立ち上がっていた。
私は震える体を叱咤しながらなんとか立ち上がると、お兄ちゃんの後ろについた。
「花奈。俺から離れるなよ。」
「……うんっ!」
「てめえっ!斎藤!」
男子生徒の1人がお兄ちゃんに、向かってきた。
お兄ちゃんは冷静に彼の間合いに踏み込むと彼にホウキをたたきつけ、素早くまた、構えをとった。
「そういえばコイツ、有段者じゃねえの?」
「やばくねえ?」
男子生徒たちから焦りの声がでたが、柴崎蓮が冷たく言い放った。
「馬鹿なの?人数でかこめばなんとかなるんじゃないの?」
お兄ちゃんのホウキを握る手に、少し力が入ったのを感じる。
私はお兄ちゃんの背中をじっと見つめた。
しがみつきたいけど、お兄ちゃんの動きの妨げになるのも嫌だ。私達はゆっくりと狭まってくる包囲網を少しでも避けるように身を寄せあった。
「くそっ。花奈っ!」
「……やっ!」
お兄ちゃんは男子生徒達にホウキで応戦した。
だが、数人がかりで来られると、背後がガラ空きになってしまう。さすがのお兄ちゃんも、私を守りながら大人数の相手をするのは難しかったようで、じりじりと包囲網をせばめられた私達は彼らに捕えられてしまった。
「あ~あ。形勢逆転だね。残念だったねえ。斎藤くん?」
「てめえ。柴崎。マジ殺す。」
「…へえ。そんな顔もできるんだ。天使の斎藤くん?わかったら、四楓院様に近づかないでよね。」
「なあ。やっぱりやっちまうか?」
「誰か見張り立っとけよ。」
「なあ、順番どうする?」
(どうしよう。このままだと、ほんとにバッドエンドになっちゃう!どうにかしないと……っ!)
「くそっ。花奈だけでもなんとか……っ。」
なんとか逃れようと暴れるお兄ちゃんが、さらに押さえつけられる。私も男子生徒に拘束され、身動きができない。
私は心の中で助けを求めた。
(誰か助けてっ……蓮琉くんっ!)
「………っ!」
その時、風が吹いた。
私を捕まえていた男子生徒は、その風に凄い勢いで吹っ飛ばされた。
「おまえら、何してやがる。」
「花奈?大丈夫か?!」
「タマちゃん生きてる~?」
四楓院先輩と蓮琉くんだった。何故か三田くんもいる。
蓮琉くんは、私のもとに走ってきて、三田くんはお兄ちゃんのもとへはしっていった。先輩は、私達の前に、柴崎蓮から私達を守るように立っていた。その広い背中を見て、私はああ、助かったんだと実感した。
先輩は、私の周りにいた男子生徒を次々に吹っ飛ばすと、柴崎蓮の前に立った。そして、地をはうような低い声をだした。
「これは、どういうことだ。蓮。」
「四楓院様!どうしてここに……?」
先輩の剣幕に、顔面蒼白になった柴崎蓮だが、気丈にも先輩に聞き返してきた。先輩は暴発しそうな感情を必死に抑えているようで。そして、静かすぎるくらい冷静に声を出した。
「生徒の保護者から、娘がトイレに行ってから戻ってこない、との相談が学校側に入ってな。とりあえず風紀委員が捜索にでてたんだ。まさかと思って体育館裏に来てみたら、この有様だ。娘の名前は斎藤花奈。……お前だな?」
私を振り返らずに、柴崎蓮に視線は合わせたまま。
四楓院先輩は、冷静な口調を崩さない。
蓮琉くんは、私をゆっくりと抱き起こして安心させるように抱きしめた。
お兄ちゃんを見ると、三田くんが、やはりゆっくりと起こして支えている。
「タマちゃん、タマちゃん。大丈夫?」
「うるさい、三田。お前の声の方が頭に響く。」
心配でしょうがない、といった三田くんにお兄ちゃんはわざと元気な声をだした。痛みに顔をしかめてるから、殴られたところとか、かなり痛いはずだ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ばあか。俺がこんくらいでやられるタマかよ。花奈は、大丈夫か?」
「私だって、大丈夫だもん。……あれっ?」
「………花奈?」
「あれえ。どうしよう。震えが止まらない、みたい。……っ。」
私の目から涙がこぼれ落ちた。
兄が乱暴されていた状況と、自分も危なかった状況に対する恐怖。
そして、助かったことに対する安堵。
そのいろんなことが、私の中で渦巻いて、そして爆発した。
いきなり声をあげて泣きだした私に、蓮琉くんは抱きしめている力を少し強くした。そして、自分も泣きそうな声をだした。
「……ごめんな。来るの遅くて。怖かったな。もう大丈夫だ。環も大丈夫だよ。」
声をあげて泣き続ける私に四楓院先輩は一瞬目を向けたが、すぐに柴崎蓮に視線を戻した。
「風紀委員室で話を聞く。陽向、連れてくのを手伝え。斎藤、来れそうか?」
「大丈夫です。行けます。蓮琉、花奈を頼む。」
「わかった。環のお母さんが、事務室にいるはずだから、とりあえず目立たないように合流しとくな。」
「げ。そういえば母さん来てたんだよなあ。心配かけちまったな。まあ、行ってくるわ。花奈、俺は大丈夫だからな。ちょっと反撃に、失敗しちまったけど。まあまあ強かったろ?」
乱暴に頭を撫でるお兄ちゃんに、さらに涙があふれてくる。
泣き続けて、泣き続けて。
疲れきって眠るまで、私は泣き続けた。
21
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる