兄がBLゲームの主人公だったら…どうする?

なみなみ

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中学生編

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二葉くんが最近疲れている。

「お~い。二葉、生きてる?」
彩子が机につっぷしたまま動かない二葉くんに声をかけた。
二葉くんは無言で手だけをあげて手でバツをかいた。
「ダメだ。こりゃ。かなりやられてるね。二葉。なにかあったの?」

二葉くんはむくっと起き上がると、私をじとっと見据えた。
「斎藤。なんだあの女は。」
私は視線をそらしながら、小さく答えた。
「ええと、九条沙也加さんです?」
「そうだな。名前はそうだ。名前はな。あんな女見たことがない。断っても断っても誘いをかけてくる。しかも俺の動きをすべて把握してるんじゃないかってくらい俺の行く先々に出没するんだ。しかも、なんで俺の家の電話番号だけじゃなく、住所まで知ってるんだ?頭おかしいんじゃないのか?」 
「うわあ。すごいのにまた出会ったねえ。」
彩子は、珍しく長文を話す二葉くんに憐れみの目をむけた。
私はひきつった笑みを貼り付けて、二葉くんを見た。
九条沙也加ってば、最近私に連絡してこないと思ったら二葉くんに狙いを定めていたのね。
二葉くんをここまで疲れさせるなんて。
すごいな。九条沙也加。


私をじっと見ていた二葉くんは、ふっと目を和ませた。
「まあ、斎藤が無事ならいい。」
「お?なになに?意味深だねえ。」
にやにやする彩子を気にすることもなく、二葉くんは私に、手紙を渡してきた。
「そうだ。恭子から手紙を預かってきた。あいつの友達に最近年上の友人ができたらしくてな。最近その話ばかりだ。」
「へえー。もしかして、彼氏?二葉も心配だねえ。オニイチャン。」
「阿呆。まあ、男じゃないみたいだけどな。」

私は渡された手紙をそっと開いた。
二葉くんはやっぱり心配そうな目で私を見ている。
目を通していた手紙の内容に驚きのあまり、私はその場にへたりこみそうになった。
「斎藤?」
「花奈!」
慌てて立ち上がった二葉くんと彩子に支えられた私は、事なきを得た。
二葉くんは私の手から手紙をさっと取ると、内容に素早く目を走らせた。
そして、やはりその場にへたりこんで、床に手をついた。
そして、苦しそうな声をだした。
「……すまん。斎藤。」

手紙にはこう記してあった。

『こんにちは!花奈さん。お元気ですか?さいきん、友達に高校生の友達になった人がいて、その人にお茶会にさそわれました。花奈さんも一緒に行きませんか?というか行きましょう。その人は花奈さんのことも知ってるそうです。名前は九さじょうさやかさんです。くわしいことはまたお知らせしますね。ではまた。恭子より。』


**********

約束の日。
私は九条沙也加の家の前にいた。
都会の喧騒から離れ、少し自転車を走らせた場所にある高級住宅街に彼女の家はあった。すぐ隣の街だとは思えないほど瀟洒な街並みが続く。
門の外からでも九条家がいかに豪邸であるかを感じることができる。
私は深いため息をついた。

(ううう。すでに不安しかないよ。二葉くんと恭子ちゃんとその友達とで九条沙也加の家を訪問するなんてどのルートでも見たことないんだけど。どうなってるんだろう。)


もちろん、蓮琉くんとお兄ちゃんには反対された。

「はあ?そんなの、危険だろ。危険しかねえよ。俺も行く!」
「蓮琉。俺らが行くのもなんか変だろ。呼ばれてるメインの奴は侑心の妹達なんだぞ?」
「すみません。なんなんですか、あの女。おしが強いっていうか…恭子の友達がすっかり手なずけられてしまって。斎藤が呼ばれたのは、二人でいくのが不安だったから、恭子が彼女も誘いたいって言い出したみたいなんです。」
「そうか。今回は俺狙いじゃないみたいだな。侑心、気を付けろよ。」
「はい。すげえ憂うつなんですけど。ていうか、環先輩なにかあったんですか?俺狙いじゃないって……?」
「あ~。まあ、な。」
二葉くんの問いに言葉を濁したお兄ちゃんに、蓮琉くんが勢いこんで話しかけてきた。
「そうだ。環!迎えに行くのはどうだ?後輩がお邪魔してましたからって!」
「それぐらいなら……いいんじゃねえの?」
「花奈!なんかあったら連絡しろよ?あの女の家の近くで待機してるから。」
「それ、すでに迎えじゃねえだろ。」

結局、お兄ちゃんと蓮琉くんが九条沙也加の家の近くに待機してくれることになった。
迎えに行くのは蓮琉くん。
お兄ちゃんは、顔をみせて、九条沙也加を刺激してもいけないから、門の外で待機しておくことになったらしい。



その時のお兄ちゃん達を思い出し、勇気をもらった私がインターホンを押すと、家の人の声がして、中に入るよう促された。
私は、恐る恐る門の中に入った。
中に入ると、よく手入れのされた日本庭園が広がっていた。石畳を歩いて玄関までいくと、お手伝いさんらしき人がドアを開けて待っていてくれた。

「いらっしゃいませ。お連れ様は、もう着いておられます。どうぞこちらへ。」

部屋に案内されると、中から九条沙也加と、恭子ちゃんの友達の笑い声が聞こえてきた。私に気がつくと、恭子ちゃんが手をふってきた。若干顔が引きつっている。
「花奈さん!遅いですよ。私たち、結構前に着いてましたよ?」
「ごめんなさい。」
素直に謝った私は、約束の時間より15分早く来たはずなのにな、と内心首をひねったが口には出さなかった。
そして、恭子ちゃんは立ち上がると、紹介を始めた。
「あ、私の友達の有里です。有里、この人斎藤花奈さん。」
「……こんにちは。」
私達はおずおずと挨拶をした。
すると、恭子ちゃんが頬をふくらませて私を見た。
「聞いてください。お兄ちゃん、ちっとも口聞かないんですよ?地蔵のように黙り込んで。」
「恭子ちゃん、女の子ばかりだから侑心くんも居づらいのよ。大目に見てあげて?」
九条沙也加が、穏やかに微笑んだ。
こうしてみると、綺麗な優しいお姉さんだ。
「沙也加さん優しい~。恭子ちゃんのお兄さん、沙也加さんと結婚すればいいのに。そうしたら、沙也加さんがお姉ちゃんですよ?こんな綺麗な人がお姉ちゃんだったら最高ですよねっ!」
「まあ、有里ちゃんたら恥ずかしいわ。」
ころころ笑う九条沙也加に、彼女を憧れの目で見る恭子ちゃんの友達。
恭子ちゃんは、友達と九条沙也加に挟まれてまだ引きつった顔をしている。

恭子ちゃんの友達から危うい感じがするのはどうしてだろう。九条沙也加に気に入られようとするあまり、空回りしてる感じがする。まるで薄い氷の上を歩いているかのように不安定だ。

そして、二葉くんは恭子ちゃん達の様子を気にしながらも、確かに地蔵のように動かない。

恭子ちゃんの友達はお酒でも飲んだのかしらってくらいテンションが高い。
私は出されたお茶を一口飲むと、ふう、とため息をついた。


それにしても、二葉くんは攻略対象だから別にして、ゲーム内の悪役三人が揃ってるよ。
主人公の妹と、二葉くんの妹。そして、九条沙也加。
これはこれですごいな。



ぼんやりと考え込んでしまった私は、恭子ちゃんの話に返事をするのが遅れてしまった。
「花奈さん?あれ、またぼうっとしてる?」
「この人、恭子ちゃんのお兄ちゃんの同級生なんでしょ?」
「うん。同じ中学生だよ。」
「へえー。なんだか普通な感じの人だね。……沙也加さんとは全然違う。」
恭子ちゃんの友達はひっそりと笑った。
恭子ちゃんは、友達に焦った顔を向けた。
「花奈さんの悪口は言ったらダメ!悪魔がくるから!」
恭子ちゃんの友達は訳がわからない、と訝しげな顔をしていたけど気を取り直して、九条沙也加に話しかけた。
「ねえ、沙也加さん。わたし、お庭が見てみたいわ!」
「そうね、今日は天気もいいし、庭に出てみましょうか?侑心君も体を動かした方が気がまぎれるわ、きっと。」
歓声をあげた有里ちゃんがまず立ち上がり、私と恭子ちゃんを連れて外に出た。
九条沙也加は、二葉くんとゆっくり後を歩いてくる。
有里ちゃんが私を見て、ふふっと笑った。
「ねえ、花奈さん。沙也加さんと恭子ちゃんのお兄さんお似合いだと思いません?」

九条沙也加と二葉くんが寄り添っている姿を見るちらりと見た私は確かに、と頷いた。

「確かに和風美人な感じでお似合いだよね。」
「ですよね?やっぱりそうですよね!」

九条沙也加がさり気なく二葉くんの手を取って彼に話しかけた。
「侑心君は剣道をしてるの?」
「……ええ、まあ。」
二葉くんのぶっきらぼうな返事に、有里ちゃんが慌てたように話を付け足した。
「そうなんですよ。小学校の時も恭子ちゃんのお兄さん剣道上手くて有名でしたよ?」
「武道を嗜んでる方って、ストイックな感じがして素敵よねえ。……ねえ、斎藤君も確か剣道部よね?」
有里ちゃんが、思い出したように答えた。
「……ああ。斎藤環さんのことですね?私、姉がいるんですけど、その人と同級生なんですよ。確か、環教信者ってくらい、剣道部のカリスマで信奉者がいるらしいですよ?すごいですよね。」
「まあ、信奉者がいるの。それは素敵ねえ。……ふふっ。ほんとうに、素敵。」
私は何故かゾクリと身を震わせた。
九条沙也加の言葉がやけにひっかかる。

地蔵のように動かなかった二葉くんの表情が少し動いた。
何かに警戒するように九条沙也加を見る。
そして、ゆっくりと口を開いた。

「恭子。あんまり遅くまでお邪魔するのも迷惑だから、もう帰ろう。」
「そうだね。有里、帰ろう?」
「ええ?やだ。もっと沙也加さんと遊びたい!」
恭子ちゃんは困ったように有里ちゃんを見た。
「……有里?」
「まあ、ふふっ。まだいいじゃない。私、一人っ子だから、妹ができたみたいで嬉しいの。そうだ!晩御飯も食べていったらいいわ。家の者に伝えてくるわね。」
「いえ。そこまでご迷惑をおかけするわけにはいきません。」
二葉くんがはっきり断ろうと、彼女を真っ直ぐに見た時。
一瞬で空気が変わった。

「………侑心。」

先ほどのまでの穏やかで明るい雰囲気が霧散し、淫靡な気配が漂う。
彼女は二葉くんの前にするりと音をたてずに近づいてきた。
紅い唇が誘うように二葉くんに囁いた。

「あなたは賢い子よね?侑心。」

二葉くんは素早い動きで彼女から距離をとった。

「あらやだ。怖い顔。ふふっ。そういう子ほど従順になった時可愛いのよねえ。侑心。いらっしゃい。」

クスクス笑う声が頭にこだまするように響く。
なんだか私までくらりと目眩がしそうだ。
二葉くんが、私と恭子ちゃん達の位置を目で確認して、有里ちゃんの手をつかんだ。

「すみません。やっぱり、失礼します。…………うわっ!」

二葉くんがバランスを崩して転がった。手をつかんだ二葉くんを有里ちゃんが力一杯引っ張ったのだ。
有里ちゃんはにっこりと笑った。

「恭子ちゃんのお兄さん、ダメだよ。沙也加さんの言うことをちゃんときかないと。あ、花奈さんは先に帰って下さいね?まさか沙也加さんの仲を邪魔するなんてことはありませんよね?」
「お兄ちゃんっ?有里?どうしちゃったの?」
恭子ちゃんが地面に転がった二葉くんに走りよった。

(有里ちゃんどうしちゃったんだろう?)

有里ちゃんは戸惑っている私の手を引っ張ると、門の方へと引きずるように連れていった。その力は小学生のものだとは思えないほど強いもので。

「斎藤?……おい、お前!やめろ!」

素早く立ち上がって二葉くんが私に手を伸ばす。だがのばされた手も虚しく、私は彼女に思い切り突き飛ばされた。
門に向かって倒れていく私は痛みを予想してぎゅっと目を閉じた。
 
(……あれ?)

痛みが来ない。
恐る恐る目を開けた私は、驚きに目を丸くした。

「ギリセーフってとこかな。」

「蓮琉くん!」

私を支えた蓮琉くんがにっこり笑っていた。











 






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