兄がBLゲームの主人公だったら…どうする?

なみなみ

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中学生編

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「よかった。今度は間に合ったな。」

「蓮琉くん!」

私を抱きとめたまま優しく微笑む蓮琉くんに私は思わずしがみついた。
その場を支配していた九条沙也加の淫蕩な気配が霧散してやっとまともに息ができる気がする。
二葉くんがほっとしたように息をはいた。
そして、蓮琉くんに向かって泣きそうな顔をした。

「一条先輩!……すみません!……っ!」

蓮琉くんはその場で呆然と立ち尽くしている有里ちゃんをちらりと見ると、二葉くんに安心させるように笑いかけた。
そして、九条沙也加にゆっくりと視線を向けた。

「すみません。後輩がお邪魔してるって聞いたので。急に訪問なんてご迷惑でしたよね。すぐにお暇しますので。」

蓮琉くんに笑いかけられた九条沙也加は、頬を赤くそめて、はにかんだ笑を浮かべた。その表情は、先程までの妖艶さなんて1ミリも見せない清純そうなもので。

「迷惑だなんてそんなことあるわけないじゃない。来てくれてうれしいわ。」

瞳に艶をのせて、蓮琉くんをそっと見上げる仕草が同性の私でさえ見とれてしまいそうになる。

気味悪そうに九条沙也加を見ていた二葉くんは、何かに気がついたように、ハッとして周りを見回した。そして、有里ちゃんを見つけると走りよって腕をつかんだ。
「……っ!なにするのよ?」
「お前、なにやったのかわかってるのか?一歩間違えたら斎藤に怪我させてたんだぞ?」
「知らないわよ!だって、花奈さんが早く帰らないから。恭子ちゃんのお兄さんと沙也加さんにくっついて欲しいんだもの。」
「迷惑だ。俺の好きな人は自分で決める!お前はやっていいことと悪いこともわからないのか?いい加減にしろ!」


怒鳴りあう二葉くんと有里ちゃんを私と恭子ちゃんはおろおろして見ていることしか出来なかった。
有里ちゃんは、キッと二葉くんを睨みつけると、叫ぶように言った。
「だって、沙也加さんが花奈さんに早く帰って欲しそうだったんだもん。そうだよね?沙也加さん!」
縋るように九条沙也加を見る有里ちゃんは、すでに半分泣きそうだった。
自分でも人を傷つけそうになったことに対して不安があるのだろう。でも素直に認めたくなくて。彼女の瞳が不安で揺れている。

九条沙也加は、ふわりと微笑むと、可愛らしく首を傾げた。
「さあ……そんなこと言ったかしら?ごめんなさい。わからないわ…。花奈さん、怪我がなくてよかったわ。有里ちゃんがいきなり突き飛ばすから、私、ビックリしてしまって。」
「えっ……。」
有里ちゃんは驚いて目を見はった。
そして、信じられない、とでもいうように首をふった。
「だって、沙也加さんそう言ったよね?花奈さんはもう帰ってもらおうって。」
「……だから、知らないって言ってるでしょう?訳の分からないこと言わないで。ごめんなさい、一条くん。この子ちょっと変よね。家の中でコーヒーでもどう?」
九条沙也加の苛立った声と冷たい言葉に、有里ちゃんはついに泣き出してしまった。
有里ちゃんに寄り添う恭子ちゃんが不安そうに二葉くんを見た。

(いやいやいや、ないでしょう!)

私は目の前で繰り広げられる九条沙也加劇場にむうっと眉をひそめていた。確かに有里ちゃんは私を突き飛ばした。だけど、それはおそらく九条沙也加に唆されたからで。
小学生の彼女からみたら、九条沙也加はきっと別世界の人だろう。綺麗で、スタイルよくて。そんな人にあなたは特別よって優しくされたりなんかしたら舞いあがるのもしょうがない。しかも、そこまでもちあげておいて、いきなり手のひら返された彼女の気持ちを考えるとかなり複雑だ。

蓮琉くんは、九条沙也加に添えられていた手をさり気なく離すと、彼女を咎めるように見た。
「使えなくなったら、切り捨てるんですか?」
「……あなたにはしないわ。だってあなたは特別なんですもの。ふふっ。」
蓮琉くんに抱きついて蠱惑的に見上げてくる彼女に返事をすることもなく、蓮琉くんは無表情のまま彼女の体を押しのけた。
「……帰るぞ。二葉、荷物取ってこい。」
「……はいっ!」
荷物を取りに行く二葉くんの背中を見送った蓮琉くんは、泣き続けている有里ちゃんの頭を乱暴になでた。そして彼女に、にっこりと笑いかけた。この笑顔で今まで何人の女の子が蓮琉くんに夢中になったことだろう。
泣いていた有里ちゃんも思わず蓮琉くんを見上げた。そして、顔をひきつらせた。

「ほら、もう泣くな。学校で習わなかったか?していいことと悪いことがありますって。それに…俺は君を許せないんだよね?花奈を傷つけようとした君を。」
真っ青になって震えだした有里ちゃんを、蓮琉くんは黙ってみていたが、ため息をついて、頭をかいた。
「…悪い。今のちょっとやつあたりが入った。これにこりたら、あそこにいる怖いお姉さんには二度と近づかないことだ。……いいね。」
何度も頷く有里ちゃんの頭を撫で、そのまま私達を促して門の方に歩こうとした蓮琉くんの足が止まった。
九条沙也加が背中から蓮琉くんに抱きついていた。

「ごめんなさい。私、あなたがもっと欲しくなったみたい。……侑心も、もちろん好きだけど。やっぱりあなたが一番ね。」

蓮琉くんの表情が剣呑なものに変化していく。
振り向いて怒鳴りつけようとした蓮琉くんはやってきた人の気配に口を噤んだ。

「遅い。いつまで待たせるんだよ。いいかげん、寒いっつーの。」
お兄ちゃんは九条家の塀の外で待機していたんだけど、あまりの寒さに待ちきれなくなったらしい。
「ぶえっくしょん。う~。もうさっさと帰ろうぜ。用事すんだんだろ?」
寒そうに体を擦るお兄ちゃんに、蓮琉くんはふっと表情をゆるめると、腰にまわされた九条沙也加の腕をほどいた。
「悪い。もう終わったから。」
そして、そのまま門の方へ歩き始めた。
二葉くんも戻ってきて、みんなで一緒に門に向かって歩く。

ふと、後ろを振り返ると、九条沙也加は瞳に冷たい色彩を浮かべて私達を見ていた。そして、その唇がゆっくりと笑みの形をとる。
「斎藤環。あなた、邪魔ね。」
「………はあ?」
「一条くんを独り占めしないで。体育祭の時はたいへんだったでしょう?」
「……柴崎を唆したのって、やっぱりあんた?」
「唆すだなんて。ふふっ。私は彼の気持ちを理解して、後押ししてあげただけよ。彼の四楓院先輩に対する思いをね?」
「それを唆すって言うんだけどね。」
「あなたの妹さんだって、たいへんだったでしょう?今もカウンセリングに通ってるんですって?可哀想に。あなたが一条くんを独り占めするからよ。そういえば、陽向も最近あなたがお気に入りね。ほんと、目障り。」
九条沙也加は、お兄ちゃんに向けていた視線を外し、私を見た。
「……花奈さんだって、嫌でしょう?お兄さんのせいでこれ以上怖い思いなんてしたくないわよねえ。今度は、未遂ではすまないかもしれないわね。ふふっ。それにさっき有里ちゃんにつき飛ばされたみたいに嫌な思いもしたくないわよねえ。……ねえ、あなたからも斎藤くんにお願いしてみたら?一条くんを解放してあげてって。幼馴染だからって、いつも一緒にいる必要はないと思わない?」

(……むむ。)

私の中で、何かがはじけたような気がした。
彼女の言葉が頭の中でこだまする。
これって、脅されてる?
怖い思いをしたくなかったら、蓮琉くんを差し出せ的な感じ?
私はストーカーの時のことを思い出して、俯いた。掴まれた腕のあたりをおさえ、震える体をぎゅっと抱きしめると、目を閉じた。

お兄ちゃんのせいで私が怖い思いをする?
でも、それって違うよね。
お兄ちゃんが今どのルートにいるのかはわからないけど。
彼女が蓮琉くんを手に入れるために、周りが犠牲になるなんて、おかしいと思う。
私はぐっとお腹に力をいれて顔をあげた。

「……それ、違いますよね。」
「………え?」
九条沙也加は怪訝そうに私を見た。
まさか私が言い返すとは思わなかったんだろう。

二葉くんと恭子ちゃんが驚いた顔で私を見ているのが目の端にうつった。

「蓮琉くんをそうやって、無理矢理手に入れて、あなたは満足なんですか?……私はそうは思いません。お兄ちゃんと蓮琉くんには笑っていてほしいと思うからっ……!」
「あなた……。」
九条沙也加は私をあ然とした顔で見ていたけど、いきなり笑い出した。
「………ふふっ。あはははっ。ああ、可笑しい。……ねえ、どっちがいいかしら。」
「…………?」
「そうね。あなたが私のお友達に滅茶苦茶にされるのと、斎藤くんが滅茶苦茶にされるのとどっちがいい?あなたに選ばせてあげる。」

なにその無茶な二者択一。
私がかたまっていると、九条沙也加がすうっと音もたてずに近寄ってきた。
「私は欲しいものを手に入れたいだけなの。斎藤くんだけじゃなくて、あなたも邪魔するんだったら……許せないのよ。ねえ……どっちがいい?]

「どっちもごめんだよ。」
お兄ちゃんが私を守るように背中から抱きしめてきた。
そして、蓮琉くんが彼女から私とお兄ちゃんを守るようにたった。
「花奈。ありがとな。俺と環のために怒ってくれて。」
「久しぶりだな~。花奈のお怒りモード。」
「確かに。たまに無謀になるよな。環そっくり。」
「そうかあ?」

「一条くん。わたしは………っ。」
縋るように蓮琉くんを見つめる九条沙也加に、蓮琉くんが冷たい目を向けた。
「頭の悪い女だな。もう俺のことは諦めろよ。どう足掻いてもあんたになびくことはねえよ。」
「……っ!」

そのまま歩きはじめた蓮琉くんは、思い出したように九条沙也加に振り向いた。
「ああそうだ。先輩。」
「…………?」
「環と花奈は俺の大事な人なんです。次に手をだしたら容赦はしません。……ご理解、頂けますよね?」
蓮琉くんは、九条沙也加から視線を外すと、そのまま踵を返し歩きはじめた。

そして、二度と振り返る事はなかった。



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