兄がBLゲームの主人公だったら…どうする?

なみなみ

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中学生編

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私はとにかく走り続けていた。
目の前にはすがりつきたくなるような広い背中がある。
ずっと走り続けていたためか、息が苦しくて、足の感覚もおかしくなってきている。

「ここらへんでいいだろう。」

彼は立ち止まると、その場に崩れ落ちるようにしてへたりこむ私を支えてくれた。
私は、彼の名前を呼んだ。


*********


九条沙也加宅でのお茶会騒ぎから数日。
私達は平穏な日々を取り戻していた。

あの日から二葉くんにも、私にも九条沙也加から連絡がくることはない。でも、蓮琉くんは彼女がまだ何か仕掛けてくるんじゃないかと疑っているみたいで、私を守ろうとできる限り迎えにきたりしてくれている。
あんなに憔悴して疲れきっていた二葉くんも以前の精悍さを取り戻しつつある。最近は二葉くんまで帰りを送ってくれるようになって、なんだか申し訳ない感じだ。
剣道部が練習している武道館の前を通ると、元気な声が聞こえてくる。私はうれしくなって、顔を綻ばせた。

その日も、私と二葉くんは彩子との分かれ道を過ぎたあと、一緒に帰っていた。
冬休みを間近に控え、冷たくなってきた風に体を震わせながら歩く。

「今日も寒かったね。」
「そうだな。そろそろ雪が降るかもな。」
二葉くんは空を見上げた。
日がおちるのも早くなってきた。
私は二葉くんに話しかけた。
「そういえば恭子ちゃんは元気?」
「ああ。この前の九条沙也加の件で斎藤に謝ったあと、すげえ反省していた。友達があんなことするとは思わなかったって。」
「あれは……。もういいんだよ。」
私は先日のことを思いだしていた。
九条沙也加に唆された恭子ちゃんの友達に私はつき飛ばされた。でもそれも、蓮琉くんを手に入れようとする九条沙也加の策略だったのだ。私を脅かすことでお兄ちゃんを蓮琉くんから引き離そうとした。彼女はお兄ちゃんさえどうにかすれぱ蓮琉くんが手に入ると思ってるみたい。
そんなことで、蓮琉くんがあの人のものになるとは思えないけど。

二葉くんと明日の小テストのこととか、部活のこととか、とりとめのない話をしていたら、いつの間にか家の前まで帰ってきた。

「二葉くん、送ってくれてありがとう。いつもごめんね?遠回りになるのに。」
「……いや。俺があんたを送りたいんだ。だから、気にしないでくれ。それに……。」
二葉くんはまっすぐ、真剣な眼差しで私を見た。
彼の背がのびたので、目を合わそうとすると私が見上げる形になる。

「情けないけど、俺はこの前あんたを守れなかった。あの妖怪女。次に会ったら絶対に負けねえ。今度こそ、あんたを守りたいんだ。……守らせてくれるか?」
「……えっ。ええと、ありがとう。」
彼の真っ直ぐな眼差しが眩しくて、私は俯いた。
なんだか頬があつい。
二葉くんは最近少し男の子から男の人になってきたようで。
たまに知らないひとみたいに感じることがある。
そんな時は、少し鼓動が速くなって、彼をみるのが少し眩しい。

二葉くんはふっと微笑んで、そのまま踵をかえすと走り去って行った。
私は彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送って、家の中へ入った。


リビングのカレンダーを見ると、私はゲームの展開に思いを巡らせた。
(クリスマスイブまであと少しかあ。)

このゲームも、すでに終盤に差しかかっている。
お兄ちゃんは誰を選ぶのかな。


家に着いた私は、とりあえずのんびりとお茶を飲むことにした。
お気に入りのカップに紅茶をいれると、リビングのソファでまったりと過ごす。
暖房のきいた部屋でのんびりしていると、軽い眠気におそわれて、私はゆっくりと目を閉じた。

(少し、だけ……少し寝たら晩ご飯つくろう…)

夢の中。
私はゲーム機をもってうんうん唸っていた。
画面にはゲームの主人公が泣いているスチルがうつしだされている。
(うわあ。またバッドエンド。けっこう難しいよねえ。このルート。)
バッドエンドで終わったゲームの画面がオープニングにもどった。夢の中で私はゲーム機を再び持ち直してゲームを始めた。
オープニング曲が流れていく。
あ、この曲好きだったんだよね。
男性シンガーがノリの良いメロディーにのって高らかに歌いあげる。わりと有名なロックバンドが歌っていたはずだ。

(ようし。今度こそ、桜木先生をクリアするぞ!もうヤクザにかこまれて心中エンドなんてまっぴらごめんだもん!)

オープニング曲にあわせて鼻歌を歌っていた私は思わずブフッと変な声をあげた。

そういえば、あったね。
あったよね。

夢の中でさくさく進んでいくストーリーを私はぼんやりと眺めていた。
隠しキャラである高校教師桜木数馬。
全てのキャラを攻略してからでないと、彼のルートはオープンされない仕組みになっている。

桜木ルートに入ると、他のキャラの学園ストーリーと違って、いきなりハードボイルドな展開になってくる。
先生の実家はヤのつく稼業をしている。先生は実家の稼業を嫌って、正反対の教師という職を選んだ。そして実家を出て、安アパートで一人暮らしをしている。
主人公は、先生と過ごしていくうちに、敵対している組との抗争に巻き込まれていく。その危険を二人で乗り越えて、やっとベストエンドにたどり着くのだ。


夢の中で私は、ゲームの画面を食い入るように見ていた。だって、話覚えてないとお兄ちゃんを助けられないもんね。
でも見たそばから忘れていく記憶に私は焦りを覚えていた。
(どうしよう、覚えられない!)
ゲーム画面では、再びバッドエンドが流れていく。
思わず手を伸ばしたところで。
私は目を覚ました。

「……おい、花奈。こんなところで寝てたら風邪ひくぞ~?」
「はっ?……お兄ちゃん?」
「そうですが。疲れてんのか?今日の晩ご飯出前でもとるか?」
私は時計をみて目をむいた。
「ええええっ?ごめんなさい!お兄ちゃん!」
時刻は7時をまわっている。
私はそのまま寝入っていたらしく、晩ご飯を作るのを忘れ去っていたのだ。
私は急いで立ち上がると、晩ご飯をつくるためにキッチンへ向かった。よかった。今日のメニューを簡単メニューにしておいて。

今日の晩ご飯は牛丼にほうれん草のお浸しに味噌汁。
もう一品きんぴらごぼうを作ろうと思ってたんだけど割愛させて頂いた。

食べ終わってお皿を洗っていると、ふとゲームの内容を思い出した。そういえば、桜木先生のルートに入るきっかけになるのは、彼と偶然一緒に帰ることになった時に彼の実家のヤクザにからまれて、一緒に撃退するんだったよねえ。

すると、お風呂からでたお兄ちゃんが話しかけてきた。

「そういえばさあ。今日、珍しく桜木先生と帰りが一緒になって駅まで話しながら帰ってきたんだけど。途中で先生にイチャモンつけてくるヤツらがいてさあ。思わず一緒に撃退しちまったんだよなあ。桜木先生けっこう強かったぞ?でも、花奈も気を付けろよ?最近変なの多いからな。」
「ごふっ。」

私は変な咳とともにその場にがっくりと座り込んだ。
お兄ちゃんがギョッとした顔で私を見た。
「………え?花奈?どうした?」
「な、なんでもない……っ。」

こ、これは。
まさかの桜木先生ルート?

その日の夢は、黒服のヤクザさんがたくさんでてくる夢で。
私はうんうん魘されることになった。










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