兄がBLゲームの主人公だったら…どうする?

なみなみ

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中学生編

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心療内科でのカウンセリングに行くためにお母さんと一緒に家をでた私は、電車にのっていた。お母さんはこの後仕事があるため、心療内科までついてきてくれることになっていた。

電車の窓から見える景色をぼんやりと眺めていると、隣に立っている人と腕がぶつかってしまった。
すみませんと謝って肩にかけたカバンを持ち直すと、私はふう、とため息をついた。
少し前までは肩にぶつかるだけで身を縮めていたものだが、だいぶ平気になってきたように思う。

電車を降りて改札口に向かった私は、そこで珍しい人に出会った。
「………あ。」
「…………お?」
相手の人は私が誰だか分からないみたいで首を傾げた。私はペコリと頭を下げるとそのまま歩きはじめた。

(おお。桜木先生に遭遇しちゃったよ。まさかこんなところで会うとはね。)
今日の桜木先生は、仕事帰りなのかダークグレーのスーツ姿だ。先生はそのまま雑踏の中に消えていった。


私は心療内科のある病院に向かった。
お母さんと別れて受付をすまし、待合室でほんやりとテレビを見ていると、蓮琉くんから無事着いたかと確認のメールがきた。彼に無事着いたことを連絡すると、私はテレビ画面に視線をもどした。今はニュース番組をやっているみたいだ。

桜木先生が紹介してくれた心療内科の臨床心理士の佐々木先生は、熊さんみたいに大きな体にとても優しい目をした先生で、実は桜木先生と同級生らしい。
カウンセリングとはいってもいつも世間話をしているうちにいつの間にか終わってる、という感じだ。

今日ものんびり話しているうちに、カウンセリングが終わり、挨拶をしていたら、いきなり診察室のドアが開いて誰かが入ってきた。
「佐々木……っと悪い。診察中だったのか。」_
「お前なあノックくらいしろよな。花奈ちゃんがびっくりしてるだろう。」
「すまんすまん……あれっ。お前確か……。」
「はいっ。ええと……っ!」
その人はまさかの桜木先生だった。 
気がつくと、桜木先生の顔がとても近くにあり、私は思わずのけぞった。
桜木先生はニヤリと笑って私の頭に手をおいた。
「ポン太の飼い主ですね。今日が診察日だったのですか?」
「桜木!……ごめんね?花奈ちゃん。ええと、次のカウンセリングは来月でいい?」
「はい。大丈夫です。」
「予約入れたからね。ありがとう。また来月ね?」
「はい。ありがとうございました。」
立ち上がった私の頭を桜木先生が押さえつけた。
「今日は一人で来たのですか?」
言葉使いは丁寧なのに、やってることは乱雑だ。
私は彼にこの後の予定を伝えることにした。

蓮琉くんはまだ九条沙也加に対しての警戒を解いていないらしく、私を決して1人で行動させないように、いつも誰かが一緒にいるように考えてくれていた。
今日はお兄ちゃんも蓮琉くんも部活なので、三田くんが迎えにきてくれることになっていた。
彼には以前唇を舐められたりしたが、その後特に態度がかわらないので、私もいつも通りに彼に接している。

「はい。ええと、今日は、三田くんが迎えにきてくれることになってます。」
「そうか……。じゃあ、会計すんだらそのまま待合室で待っておいて下さい。外にはまだ出たらダメですよ?」
「………え?」
私がよく分からなくて首を傾げると、佐々木先生がクスクス笑いながら私に教えてくれた。
「花奈ちゃん。お迎えの子がくるまで、桜木が一緒にいてくれるらしいよ。ごめんね。彼と少し話があるから、待合室で待っててね。」
「はあ……。」
よくわからないまま、私は会計を済ませるとそのまま待合室の椅子に腰をおろした。



少し待っていたら、桜木先生がやってきた。
「お待たせしました。行きましょうか。とりあえず病院の前で三田君を待ちましょう。」
桜木先生は私に声をかけるとそのまま歩いて外に出て行った。私は慌てて立ち上がると、先生をおいかけた。

外にでると、冷たい風に私は身をすくめた。
あまりの寒さに吐く息も白い。
前を歩く先生に追いつくと、私は先生の斜め後ろをそっとついて行った。やがて、建物横の駐車場で立ち止まると、先生は煙草を吸いはじめた。
少し早かったのか、三田くんはまだ来ていないようだった。
先生の後ろ姿をそっと観察する。
三田くんよりは少し背が低い。蓮琉くんと同じくらいだろうか。先生の少し長めの黒い髪がさらさらゆれるのをぼんやりと見ていると桜木先生が話しかけてきた。
「君……あれからどうですか?」
「…………え?」
「九条ですよ。なにもされてませんか?」
「はい……あ~。あることはありましたけど、蓮琉くんもお兄ちゃんもいてくれたので大丈夫でした。それからは何もないです。」
「そうですか。」
桜木先生は、それきり何も言わずに煙をはきだした。

そのまま三田くんを待っていると、先生がいきなり周りを見回した。そして、携帯灰皿にすっていた煙草を押し込むと、私の体を抱き寄せた。
不思議に思いながらも先生を見上げる。
「あの……せ……っ!」
桜木先生が私の手を取り、いきなり走り始めた。

後から追われているような気配がする。
何がなんだか分からず、私はただひたすら走った。
前を走る先生の背中をひたすら追いかける。
どのくらい走っただろう。
足が疲れてきてガクガクするのをこらえて、ひたすら走り続けていたが、先生が後ろをちらりと見ると物陰に身を隠すように止まった。
「このへんでいいだろう。」
彼は崩れ落ちそうになる私を支えながら、壁に背を預けて息をついた。私は切れ切れの息の中、先生に尋ねた。
「………桜木、先生、なにか、あったんです、か?」
「ん?いや……。まあ、病院からでたあたりからどうも見張られてる気がしましてね。試しに走ってみたら当たりだったようです。」
私はドキリとした。
もしかして九条沙也加?彼女が関係してるのかな。

「三田の携帯の番号わかりますか?」
「あ、はいっ。」
「……いや、待って下さい。やっぱりいいです。」
桜木先生は、ズボンのポケットから携帯電話を取り出すと、どこかにかけ始めた。
電話が終わった先生は、苛立ったように舌打ちをすると、私を見た。
「行きますよ。」
「えっ。」
そのまま歩き出す彼の背中をぼんやりと眺めていたが、はっと気がついた私は慌てて彼をおいかけた。

「あのっ。先生、どこ行くんですか?」
「私は君の先生じゃありませんよ。」
「……桜木さん。どこに行くんですか?」
「駅ですけど?君帰るんですよね。仕方ありませんから送っていきますよ。ここで何かあっても寝覚めが悪いですからね。病院に来る時母親と一緒に来てませんでした?どこか行かれました?」

私は驚いた。
すれ違っていた時、私だって気がついてたんだ。

「お母さんは仕事に行きました。あの……三田くんが病院にむかえきてくれるって聞いてたのですが、行き違いになってしまいます。戻っていいですか?」
「三田君には私から連絡しておいたから大丈夫ですよ。それより君、尾行されてるみたいですよ。病院に来る前、私とすれ違った時から気配がありましたからね。」
「ええっ。あの時から?……嘘ですよね?」
「こんなことで嘘つくほど暇じゃありませんよ。」
先生は肩をすくめて私を見た。

私は不安になって自分の体をギュッと抱きしめた。
まさか、九条沙也加なのかな。
やっぱりまだ蓮琉くんをあきらめてないのかな。
私は不安に耐えるように、ぐっと手を握りしめた。

先生はそんな私を興味なさそうに見ていたが、突然ギョッとしたように目をむいた。
「お前ら……っ。」

桜木先生の周りを黒いスーツのいかにもな男の人達が取り囲んでいた。
「若!何かありましたか?」
「いきなり走りだすもんだから、びっくりしやしたよ。」
「しかも追われたじゃねえっすか。今調べさせてるんすけどねえ。でもあいつら、極道のモンじゃなさそうっすね。」

彼らは口々に桜木先生に話しかけた。
その口調は乱暴だが、先生を心配している気持ちが伝わってくる。
先生は無言で煙草に火をつけると、紫煙をくゆらせた。
「じゃあ、俺らはこれで。調べが終わりしだい、また連絡しやすから。」
黒服の彼らは言いたい事を言うと去っていった。
 
私は彼らをぼんやりと見送った。
桜木先生は、極道桜木組の次男坊だったはずだ。
実家の稼業を嫌って教師の道を選び、家もでているが、そこは大事な息子。常時護衛がついており、異変があったら今みたいに護衛の彼らがやってくる。

気がつくと、桜木先生が私のことをじっと見ていた。
「……お前、あんまり驚いてないな。」
ぎくっ。
私は内心顔をひきつらせた。

ゲームの知識があるので、先生のバックグラウンドはばっちり把握してますなんて言えないよね。
だらだら冷や汗を流していると、先生の手が私の横におかれた。壁を背に立っていた私は彼の腕に囚われる形になる。
先生は私の顔に煙をはきだした。
「……ゴホッ。」
「今の……誰にも、言わないよな。」
言いません。言いませんとも。
私は咳こんで返事ができず、涙目で彼を見上げた。

「……………っ?」
気が付いたら彼の唇が私のそれに重なっていた。

呆然としていると、彼の舌がわたしの口内に入ってきていて、強引に舌をからめられた。
こういうキスは、仲直りの時に蓮琉くんにもされたことがあるけど、全然違う。もっと激しく、容赦なく私の全てをもっていかれそうでこわい。
気が付いたら、私の息はあがっており、立っている力もなくなり彼に支えられてやっとの状態になっていた。

桜木先生は私から唇をはなすと、ニヤリと笑った。

「こんなキスされちまったら、彼氏にも言えないよなあ。女はこういう秘密は絶対にばらさないからな。彼氏に知られたくなかったら誰にも言うなよ?」
「…………?私、彼氏いませんけど。」
「はあ?嘘言うなよ。一条とつきあってんだろ?」
「蓮琉くんはお兄ちゃんの友達で、隣のお兄ちゃんです。」
「……ああ?」
桜木先生は、私を睨みつけると、今度は壁を足で蹴飛ばした。
まるでチンピラだ。話し方も通常の丁寧さが抜け落ちて荒々しいものになっている。
先生はもともと綺麗な顔立ちをしている。そんな彼が乱暴な話し方と荒々しい態度をすると妙な迫力があるのだ。

「俺の家でお前らなにやってたよ。キスして抱き合ってたよな。あれでつきあってない方がおかしいだろ?」
「蓮琉くんは昔から、あんな感じですよ?…ああ、でも仲直りのキスは他の人とはしたらダメだって言ってましたね。そこは、怒られるかもしれません。蓮琉くんは怒らせたら面倒……というか怖いんですよね。」
私は少し気が重くなって、俯いたが、ひとつため息をつくと、そのまま歩きだそうとした。
歩きだそうとしたのだけど。

桜木先生が壁を蹴飛ばしたままの状態でかたまっていた。
そして、ギギギと音のしそうな動きで私に顔を向けた。
「………え?本当に、彼氏ではないのですか?」

先生、話し方戻りましたね。
私は黙って頷いた。















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