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卒業式までのお話
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(あ、これ夢だ。)
気がつくと、私は中学生になっていた。
今は通学中らしく、お兄ちゃんと蓮琉くんも中学生の制服を着て前を歩いている。
いつもと違うのは、お兄ちゃんと蓮琉くんが二人の会話に夢中になっていることだ。いつもだったら蓮琉くんが私の右にいて、お兄ちゃんは少し前を歩いていて、たまに振り返るのが私達の通学風景だった。
寂しくなったのか、夢の中の私はお兄ちゃんに声をかけた。
『お兄ちゃん!』
お兄ちゃんは、私をちらりと振り返った。だけど、そのまま返事をすることなく前を向いて、蓮琉くんと話し始めた。
『お兄ちゃん!』
諦めきれない私はもう一度お兄ちゃんに声をかける。
お兄ちゃんは、ゆっくりと振り返ると迷惑そうに私を見た。
『お前、俺にばかりくっついてないで、自分の友達作れよ。』
『お兄ちゃんにお話聞いて欲しくて……。』
『はあ。お前ウザすぎる。』
『うえっ……。』
『うわ。泣くなよ。めんどくさい。もう行こうぜ、蓮琉。』
『ああ。』
私を見ることなく早足で歩き始めたお兄ちゃんの後を追うように蓮琉くんも行ってしまった。ちらりと私を見た時の興味のなさそうな表情に胸がズキリと痛む。
(もし私に前世の記憶がなかったら、お兄ちゃんに甘えまくって我が儘姫になって、こんな関係になっていた可能性もあるわけね……。ううっ。夢だってわかっててもこれはきついなあ。)
お兄ちゃんも蓮琉くんもいつも優しくしてくれるから、正直一般的な兄妹というものがわからない。
だけどね。
これは人としてどうかなと思うんだよね。
話を聞いてほしいって人がいて、あんな風に冷たくあしらわれるのってされた方は傷つくよね。ホントに悩んでて話を聞いてほしいのかもしれないのに。
これから、お兄ちゃんと蓮琉くんが大人になっていく上でこれが当たり前で成長していくなんて……嫌だなあ。そんなお兄ちゃんと蓮琉くんは見たくない。
気がついたら、私は手に持っていた体操服の入った巾着袋を握りしめていた。
「えいっ!」
まっすぐに飛んでいったそれは、お兄ちゃんの後頭部に吸い込まれるように当たって、地面に落ちた。
ふはははは。私だってやる時はやるのだ!
信じられないといった表情で振り返るお兄ちゃんに、私はスタスタと歩み寄ると、体操服の袋を拾い上げた。
「お前っ。何しやがる。」
「そんな小者みたいな台詞やめてくださいよ。」
「はあ?」
「さっきの態度は人としてどうかと思います。妹としてそんな人間が兄だなんて恥ずかしいからやめてください。」
お兄ちゃんは、いきなりの私の反抗に驚いていたけど、舌打ちしたと同時に、私にヘッドロックをかけてきた。
(兄妹喧嘩にしては激しすぎませんかね?く、苦しいんだけどっ。)
夢の中だというのに、息が苦しくてたまらない。
手を外そうともがくけど、お兄ちゃんの力がすごく強くて外れる気配がない。
(もう、だめかも………っ。)
苦しくて、だんだん気が遠くなる。
体がどんどん沈んでいく感覚に耐えきれず。
私は意識を手放した。
*******
(……………?)
目が覚めたら、柴崎蓮の無表情の顔と指が目の前にあった。鼻を抑えられているのか、とにかく苦しい。
「ふがっ!」
「起きた?」
「ぷはっ。はあはあ、何するんですか!」
柴崎蓮は私の鼻から指を外すと、無表情のままテーブルに頬杖をついた。
「君がどこに座ったのか探してたら、窓側の席で爆睡してる人がいてね?こんなとこで寝るなんて何て不用心なんだと思って呆れて見てたんだよ。まさか、君だとは思わなかったけどね。」
「………ぐっ。」
「しかも、ヨダレたれてたし。ペーパーで拭いたよ?とりあえず女子としてどうかなと思ったからね。」
「………ふぐっ。」
「しかも途中でうなされ始めて、かけ声やら高笑いやらしだすし。ほんとどうしてくれようって思ったよ。」
「す、すみません……ん?」
とりあえず謝りつつ視線をそらした私は目の前のものを見て、目を輝かせた。
テーブルの上に置かれたトレイには。
ホットティーにリンゴ果汁をあわせたアップルオーチャードティーに、大粒果肉のりんごソースとナッツの食感のアクセントとなったキャラメルソースがかかったパンケーキに、スクランブルエッグとサラダを添えたワッフルのワンプレート。
私の目の前にとても美味しそうなケーキとワッフルがきらきらと輝いているのだ。
「ありがとうございます!すごく美味しそう!」
「僕が選んだんだから当たり前でしょ。」
「うわあ。いただきます!半分こしましょう。口をつける前に半分に分けますね?」
「あ、ケーキはいらない。ワッフルは一口欲しい。」
「はいっ!」
柴崎蓮のワッフルを分けると、私はフォークを持って目を煌めかせた。パンケーキを一口大に切り分けて、リンゴのソースをからめて、まず一口。
(糖分が体と心にしみわたる……!)
「うわ……おいしい!りんごの甘味とほのかな酸味にひふんわりとしたバターの香りが溶け合い、キャラメルソースにはナッツ食感がアクセントとしてプラスされ、もう、とにかく美味しいです!」
これは是非柴崎蓮に食べていただきたいと思った私は柴崎蓮ににっこりと笑いかけた。ソースをからめたケーキをフォークで柴崎蓮の口元に持っていく。
「はい!ほら柴崎蓮も食べてください。ほらほら。口開けてくださいよ。はい、あ~ん。」
「………。」
「………あれ?」
動かない柴崎蓮をみると、無表情になって私を見ていた。そして呆れたようにため息をつくと、フォークを持った私の手をつかんで、自分の近くに持っていってパクリと食べた。
「ん。確かに美味しい。」
「そうですよね!」
柴崎蓮は、カップのカフェオレを飲むと窓の外に目を向けた。私はそれからは黙々とお皿の中のものを攻略していった。
「ねえ、さっき寝てる時、ずいぶんとうなされてたけど、夢でも見てたわけ?」
「……え。」
ほとんど食べ終わって果肉入のアップルティーを飲んでいると、柴崎蓮が話しかけてきた。
夢の内容は、なんとなく覚えてる。
お兄ちゃんと蓮琉くんの冷めた目だとか。
冷たい言葉とか。
さっき路地裏で女の子達に言われた言葉が私の中でまだ消化しきれていないこともあり、今世では有り得ないってわかってても、ちょっと落ち込む。
「いやあ、あははは。」
笑って誤魔化そうとした私に、柴崎蓮はさらりと告げた。
「話した方がいいと思うよ?」
「……え?」
「さっき君が路地裏で泣いてたことは、一条達にも伝えることになると思う。その後カフェで寝落ちして、寝ながら泣いてたこともね。夢の内容も一緒に伝えたらあまりつっこんで来ないとは思うけど。一条のことだし、君の全てが気になるだろうから夢の話も根掘り葉掘り聞いてくるかもね。まあ、頑張って?」
「話します!話しますから!柴崎蓮、蓮琉くんのことで脅迫するのやめてくださいよ。」
「脅迫?注意勧告の間違いでしょ。ほら。」
私は偉そうに椅子に座っている柴崎蓮の足を踏みつけたい気持ちになりながら、ポツポツ話し始めた。
「ですから、夢の中で私は中学生になってたんですよ。」
「うん、それで?」
「登校中っぽい感じでした。」
「……… うん?」
「お兄ちゃんと蓮琉くんが前を歩いていて、私が話しかけるんですけど相手にしてもらえなくて。」
「………っ。」
「私が泣きだしたらウザイ、めんどくさいってお兄ちゃんと蓮琉くんのが先に行っちゃうんですよ。その目がまた興味がないものを見る目というか……。もし、私がお兄ちゃんに依存しすぎたらこんな感じになるのかなあ、とか。私がお兄ちゃんの妹じゃなかったらどうなってたのかな。やっぱりこんな風に相手にされなかったのかなあっていろいろ考えちゃって。」
「……それは君の夢の中の話なんでしょ?」
「夢の中の話だってわかってるんですけど。やっぱり、きついですよね。お兄ちゃんと蓮琉くんにあんな表情されると。お前になんか興味無いんだよって言われてるみたいで。やっぱり愛情の反対は無視ですよね?」
「……まあ、そうかもね。」
「というか!」
ダン!と音をたてて机を叩いた私は、むうっと頬をふくらませた。
「やっぱり納得いかないんですよ。」
「はあ?」
柴崎蓮は何故かキョトンとした顔で私を見ている。ちょっと可愛い。
私は咳払いすると、柴崎蓮に思いを伝えるために話し始めた。
「私の夢の中にでてきたお兄ちゃんと蓮琉くんの行動とはいえ、こっちが必死に声をかけているのにあの塩対応。人としてどうかと思いますよね?」
「まあ……そうだね。」
「あまりに気持ちが収まらなかったので、体操服の入った巾着袋を投げつけたら、逆にヘッドロックかけられちゃって。苦しくて死ぬかと思いましたよ。」
「へえ、ソウナンダ。」
「それで……ねえ、柴崎蓮ってば。聞いてます?」
「うん。聞いてる。」
「それでですね……。」
「ぶふっ。」
「えっ?」
変な声が聞こえるなと思って柴崎蓮を見ると、柴崎蓮が体を折り曲げて震えていた。
私は心配になって、席から立ち上がった。
「え?柴崎蓮大丈夫ですか?体調が……。」
「くふっ。ははっ。あははははっ。」
柴崎蓮はガバッと音がしそうな勢いで姿勢をおこすと、これまたすごい勢いで笑い出した。
「……え?いま?今このタイミングで笑います?というか、そんなに爆笑する柴崎蓮を初めて見たような気がします。」
「そう?ほんとうに君は、僕の予想の斜め上をいくよね。夢の中とはいえ、冷たい態度とられて落ち込んでるかと思ったらちゃんと対抗してたんだ。ブサ犬のくせに、ほんと生意気。」
口からでる言葉はほとんど悪口かな?と思うような言葉だったけど。その目はとても優しくて。
思わず胸がドキリとしてしまったことを隠すように、席を立ったままの私はさらに腰に手を当てて、柴崎蓮を睨みつけた。
「もうっ。ちゃんと聞いてくださいよ!夢の中にでてきたお兄ちゃんと蓮琉くんが、ほんと感じ悪かったんですよ?私もすっごく傷つい………ふえっ?」
後ろから腕が伸びてきたかと思うと、私はふんわりと抱きしめられていた。
「何だ。そいつ。花奈を傷つけたのか?俺が殴りに行ってやるよ。」
「お、お兄ちゃん?」
私の抱きしめたまま、私の肩にあごをのせてきたのは、さっきまさに私の夢に出演していたお兄ちゃんだった。
「なあ、どこにいるんだ?そいつ。」
「もう、いないよ。」
私が小さく呟くとお兄ちゃんはムッとしたように声を尖らせた。
「だって、花奈を傷つけたんだろ?俺は許せないけどな。そいつのこと。」
「だって、夢の中のことだもん。」
「じゃあ、俺はそいつに会えないのか?」
「そうだね。会えないね。」
お兄ちゃんは、私を抱きしめる腕に力をいれた。
少し、苦しい。
「お兄ちゃん?」
「だったら、そいつのことお兄ちゃんって呼ぶな。花奈の兄貴は俺だろう?そして、花奈は俺の妹なんだ。そのことは絶対に揺らぐことはない。……いいな?」
「……うん。」
「ほんとにわかってんのか?……おい、柴崎。なにニヤニヤしてんだ。」
「美しい兄妹愛だね。斎藤、君の妹はやっぱりな斜め上だね。……ふふっ。」
「最高だろ?やらねえからな。」
「おや、嫉妬深い男は嫌われるよ?いつもぽやぽやしてるから忘れそうになるけど、君の妹は大事なコトを守るためなら闘える人だったよね。そういえば初めて会った時も闘ってた。」
「………闘ってましたっけ?」
首を傾げる私に、柴崎蓮は自嘲気味な笑を浮かべると、珈琲のカップを手に取り、少し揺らした。
「闘ってたよ。君のお兄さんを僕が襲う計画を実施した現場でね?」
「…………あ。」
その時、私の脳裏に高校での出来事がよみがえってきた。まだ私が中学生だった頃、お兄ちゃんの高校の文化祭に行った時のことだ。
柴崎蓮とお兄ちゃんはまだその頃友達になってなくて。
柴崎蓮は、尊敬する先輩が自分だけでなくお兄ちゃんを構うことに嫉妬して、許せなくて。数人の男子生徒とともに、お兄ちゃんを襲ったのだ。ちょうど私も居合わせていて、お兄ちゃんを守るために参戦したのだ。あんまり役に立たなかったけど。
その後柴崎蓮の謝罪にお兄ちゃんが頷いて、二人は友達になったんだよね。
柴崎蓮はふと表情を真剣なものにして、私を見た。
「だから、少しは分かるつもりだよ。嫉妬に身を焦がして道を誤るヤツの気持ち。……もう繰り返す気は無いけどね。」
気がつくと、私は中学生になっていた。
今は通学中らしく、お兄ちゃんと蓮琉くんも中学生の制服を着て前を歩いている。
いつもと違うのは、お兄ちゃんと蓮琉くんが二人の会話に夢中になっていることだ。いつもだったら蓮琉くんが私の右にいて、お兄ちゃんは少し前を歩いていて、たまに振り返るのが私達の通学風景だった。
寂しくなったのか、夢の中の私はお兄ちゃんに声をかけた。
『お兄ちゃん!』
お兄ちゃんは、私をちらりと振り返った。だけど、そのまま返事をすることなく前を向いて、蓮琉くんと話し始めた。
『お兄ちゃん!』
諦めきれない私はもう一度お兄ちゃんに声をかける。
お兄ちゃんは、ゆっくりと振り返ると迷惑そうに私を見た。
『お前、俺にばかりくっついてないで、自分の友達作れよ。』
『お兄ちゃんにお話聞いて欲しくて……。』
『はあ。お前ウザすぎる。』
『うえっ……。』
『うわ。泣くなよ。めんどくさい。もう行こうぜ、蓮琉。』
『ああ。』
私を見ることなく早足で歩き始めたお兄ちゃんの後を追うように蓮琉くんも行ってしまった。ちらりと私を見た時の興味のなさそうな表情に胸がズキリと痛む。
(もし私に前世の記憶がなかったら、お兄ちゃんに甘えまくって我が儘姫になって、こんな関係になっていた可能性もあるわけね……。ううっ。夢だってわかっててもこれはきついなあ。)
お兄ちゃんも蓮琉くんもいつも優しくしてくれるから、正直一般的な兄妹というものがわからない。
だけどね。
これは人としてどうかなと思うんだよね。
話を聞いてほしいって人がいて、あんな風に冷たくあしらわれるのってされた方は傷つくよね。ホントに悩んでて話を聞いてほしいのかもしれないのに。
これから、お兄ちゃんと蓮琉くんが大人になっていく上でこれが当たり前で成長していくなんて……嫌だなあ。そんなお兄ちゃんと蓮琉くんは見たくない。
気がついたら、私は手に持っていた体操服の入った巾着袋を握りしめていた。
「えいっ!」
まっすぐに飛んでいったそれは、お兄ちゃんの後頭部に吸い込まれるように当たって、地面に落ちた。
ふはははは。私だってやる時はやるのだ!
信じられないといった表情で振り返るお兄ちゃんに、私はスタスタと歩み寄ると、体操服の袋を拾い上げた。
「お前っ。何しやがる。」
「そんな小者みたいな台詞やめてくださいよ。」
「はあ?」
「さっきの態度は人としてどうかと思います。妹としてそんな人間が兄だなんて恥ずかしいからやめてください。」
お兄ちゃんは、いきなりの私の反抗に驚いていたけど、舌打ちしたと同時に、私にヘッドロックをかけてきた。
(兄妹喧嘩にしては激しすぎませんかね?く、苦しいんだけどっ。)
夢の中だというのに、息が苦しくてたまらない。
手を外そうともがくけど、お兄ちゃんの力がすごく強くて外れる気配がない。
(もう、だめかも………っ。)
苦しくて、だんだん気が遠くなる。
体がどんどん沈んでいく感覚に耐えきれず。
私は意識を手放した。
*******
(……………?)
目が覚めたら、柴崎蓮の無表情の顔と指が目の前にあった。鼻を抑えられているのか、とにかく苦しい。
「ふがっ!」
「起きた?」
「ぷはっ。はあはあ、何するんですか!」
柴崎蓮は私の鼻から指を外すと、無表情のままテーブルに頬杖をついた。
「君がどこに座ったのか探してたら、窓側の席で爆睡してる人がいてね?こんなとこで寝るなんて何て不用心なんだと思って呆れて見てたんだよ。まさか、君だとは思わなかったけどね。」
「………ぐっ。」
「しかも、ヨダレたれてたし。ペーパーで拭いたよ?とりあえず女子としてどうかなと思ったからね。」
「………ふぐっ。」
「しかも途中でうなされ始めて、かけ声やら高笑いやらしだすし。ほんとどうしてくれようって思ったよ。」
「す、すみません……ん?」
とりあえず謝りつつ視線をそらした私は目の前のものを見て、目を輝かせた。
テーブルの上に置かれたトレイには。
ホットティーにリンゴ果汁をあわせたアップルオーチャードティーに、大粒果肉のりんごソースとナッツの食感のアクセントとなったキャラメルソースがかかったパンケーキに、スクランブルエッグとサラダを添えたワッフルのワンプレート。
私の目の前にとても美味しそうなケーキとワッフルがきらきらと輝いているのだ。
「ありがとうございます!すごく美味しそう!」
「僕が選んだんだから当たり前でしょ。」
「うわあ。いただきます!半分こしましょう。口をつける前に半分に分けますね?」
「あ、ケーキはいらない。ワッフルは一口欲しい。」
「はいっ!」
柴崎蓮のワッフルを分けると、私はフォークを持って目を煌めかせた。パンケーキを一口大に切り分けて、リンゴのソースをからめて、まず一口。
(糖分が体と心にしみわたる……!)
「うわ……おいしい!りんごの甘味とほのかな酸味にひふんわりとしたバターの香りが溶け合い、キャラメルソースにはナッツ食感がアクセントとしてプラスされ、もう、とにかく美味しいです!」
これは是非柴崎蓮に食べていただきたいと思った私は柴崎蓮ににっこりと笑いかけた。ソースをからめたケーキをフォークで柴崎蓮の口元に持っていく。
「はい!ほら柴崎蓮も食べてください。ほらほら。口開けてくださいよ。はい、あ~ん。」
「………。」
「………あれ?」
動かない柴崎蓮をみると、無表情になって私を見ていた。そして呆れたようにため息をつくと、フォークを持った私の手をつかんで、自分の近くに持っていってパクリと食べた。
「ん。確かに美味しい。」
「そうですよね!」
柴崎蓮は、カップのカフェオレを飲むと窓の外に目を向けた。私はそれからは黙々とお皿の中のものを攻略していった。
「ねえ、さっき寝てる時、ずいぶんとうなされてたけど、夢でも見てたわけ?」
「……え。」
ほとんど食べ終わって果肉入のアップルティーを飲んでいると、柴崎蓮が話しかけてきた。
夢の内容は、なんとなく覚えてる。
お兄ちゃんと蓮琉くんの冷めた目だとか。
冷たい言葉とか。
さっき路地裏で女の子達に言われた言葉が私の中でまだ消化しきれていないこともあり、今世では有り得ないってわかってても、ちょっと落ち込む。
「いやあ、あははは。」
笑って誤魔化そうとした私に、柴崎蓮はさらりと告げた。
「話した方がいいと思うよ?」
「……え?」
「さっき君が路地裏で泣いてたことは、一条達にも伝えることになると思う。その後カフェで寝落ちして、寝ながら泣いてたこともね。夢の内容も一緒に伝えたらあまりつっこんで来ないとは思うけど。一条のことだし、君の全てが気になるだろうから夢の話も根掘り葉掘り聞いてくるかもね。まあ、頑張って?」
「話します!話しますから!柴崎蓮、蓮琉くんのことで脅迫するのやめてくださいよ。」
「脅迫?注意勧告の間違いでしょ。ほら。」
私は偉そうに椅子に座っている柴崎蓮の足を踏みつけたい気持ちになりながら、ポツポツ話し始めた。
「ですから、夢の中で私は中学生になってたんですよ。」
「うん、それで?」
「登校中っぽい感じでした。」
「……… うん?」
「お兄ちゃんと蓮琉くんが前を歩いていて、私が話しかけるんですけど相手にしてもらえなくて。」
「………っ。」
「私が泣きだしたらウザイ、めんどくさいってお兄ちゃんと蓮琉くんのが先に行っちゃうんですよ。その目がまた興味がないものを見る目というか……。もし、私がお兄ちゃんに依存しすぎたらこんな感じになるのかなあ、とか。私がお兄ちゃんの妹じゃなかったらどうなってたのかな。やっぱりこんな風に相手にされなかったのかなあっていろいろ考えちゃって。」
「……それは君の夢の中の話なんでしょ?」
「夢の中の話だってわかってるんですけど。やっぱり、きついですよね。お兄ちゃんと蓮琉くんにあんな表情されると。お前になんか興味無いんだよって言われてるみたいで。やっぱり愛情の反対は無視ですよね?」
「……まあ、そうかもね。」
「というか!」
ダン!と音をたてて机を叩いた私は、むうっと頬をふくらませた。
「やっぱり納得いかないんですよ。」
「はあ?」
柴崎蓮は何故かキョトンとした顔で私を見ている。ちょっと可愛い。
私は咳払いすると、柴崎蓮に思いを伝えるために話し始めた。
「私の夢の中にでてきたお兄ちゃんと蓮琉くんの行動とはいえ、こっちが必死に声をかけているのにあの塩対応。人としてどうかと思いますよね?」
「まあ……そうだね。」
「あまりに気持ちが収まらなかったので、体操服の入った巾着袋を投げつけたら、逆にヘッドロックかけられちゃって。苦しくて死ぬかと思いましたよ。」
「へえ、ソウナンダ。」
「それで……ねえ、柴崎蓮ってば。聞いてます?」
「うん。聞いてる。」
「それでですね……。」
「ぶふっ。」
「えっ?」
変な声が聞こえるなと思って柴崎蓮を見ると、柴崎蓮が体を折り曲げて震えていた。
私は心配になって、席から立ち上がった。
「え?柴崎蓮大丈夫ですか?体調が……。」
「くふっ。ははっ。あははははっ。」
柴崎蓮はガバッと音がしそうな勢いで姿勢をおこすと、これまたすごい勢いで笑い出した。
「……え?いま?今このタイミングで笑います?というか、そんなに爆笑する柴崎蓮を初めて見たような気がします。」
「そう?ほんとうに君は、僕の予想の斜め上をいくよね。夢の中とはいえ、冷たい態度とられて落ち込んでるかと思ったらちゃんと対抗してたんだ。ブサ犬のくせに、ほんと生意気。」
口からでる言葉はほとんど悪口かな?と思うような言葉だったけど。その目はとても優しくて。
思わず胸がドキリとしてしまったことを隠すように、席を立ったままの私はさらに腰に手を当てて、柴崎蓮を睨みつけた。
「もうっ。ちゃんと聞いてくださいよ!夢の中にでてきたお兄ちゃんと蓮琉くんが、ほんと感じ悪かったんですよ?私もすっごく傷つい………ふえっ?」
後ろから腕が伸びてきたかと思うと、私はふんわりと抱きしめられていた。
「何だ。そいつ。花奈を傷つけたのか?俺が殴りに行ってやるよ。」
「お、お兄ちゃん?」
私の抱きしめたまま、私の肩にあごをのせてきたのは、さっきまさに私の夢に出演していたお兄ちゃんだった。
「なあ、どこにいるんだ?そいつ。」
「もう、いないよ。」
私が小さく呟くとお兄ちゃんはムッとしたように声を尖らせた。
「だって、花奈を傷つけたんだろ?俺は許せないけどな。そいつのこと。」
「だって、夢の中のことだもん。」
「じゃあ、俺はそいつに会えないのか?」
「そうだね。会えないね。」
お兄ちゃんは、私を抱きしめる腕に力をいれた。
少し、苦しい。
「お兄ちゃん?」
「だったら、そいつのことお兄ちゃんって呼ぶな。花奈の兄貴は俺だろう?そして、花奈は俺の妹なんだ。そのことは絶対に揺らぐことはない。……いいな?」
「……うん。」
「ほんとにわかってんのか?……おい、柴崎。なにニヤニヤしてんだ。」
「美しい兄妹愛だね。斎藤、君の妹はやっぱりな斜め上だね。……ふふっ。」
「最高だろ?やらねえからな。」
「おや、嫉妬深い男は嫌われるよ?いつもぽやぽやしてるから忘れそうになるけど、君の妹は大事なコトを守るためなら闘える人だったよね。そういえば初めて会った時も闘ってた。」
「………闘ってましたっけ?」
首を傾げる私に、柴崎蓮は自嘲気味な笑を浮かべると、珈琲のカップを手に取り、少し揺らした。
「闘ってたよ。君のお兄さんを僕が襲う計画を実施した現場でね?」
「…………あ。」
その時、私の脳裏に高校での出来事がよみがえってきた。まだ私が中学生だった頃、お兄ちゃんの高校の文化祭に行った時のことだ。
柴崎蓮とお兄ちゃんはまだその頃友達になってなくて。
柴崎蓮は、尊敬する先輩が自分だけでなくお兄ちゃんを構うことに嫉妬して、許せなくて。数人の男子生徒とともに、お兄ちゃんを襲ったのだ。ちょうど私も居合わせていて、お兄ちゃんを守るために参戦したのだ。あんまり役に立たなかったけど。
その後柴崎蓮の謝罪にお兄ちゃんが頷いて、二人は友達になったんだよね。
柴崎蓮はふと表情を真剣なものにして、私を見た。
「だから、少しは分かるつもりだよ。嫉妬に身を焦がして道を誤るヤツの気持ち。……もう繰り返す気は無いけどね。」
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