兄はBLゲームの主人公……でした。

なみなみ

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卒業式までのお話

15

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『本日は二話更新してます。こちらは二話目です。』

明日から冬休み。

勉強の追い込みは佳境を迎えている。私のただでさえ容量の乏しい頭からは理解しきれない数式があふれ、覚えきれない英単語が口から流れでそうだ。

ホームルームを終え、帰宅するために校門を出る。
詩織ちゃんと話しながら歩いていると、後ろから私を呼び止める声がした。

「斎藤さん。」

神山さんだった。
今日は他の友達と一緒ではないみたいで、一人で立っている。彼女は手に持った紙袋をそっと私に差し出してきた。

「斎藤さんって樹くんの家の隣に住んでるんでしょう?今日、樹くんに渡したかったんだけどタイミングがあわなくて。もしよかったら斎藤さんから渡して貰えないかな。」

「は……はあ。」

今まで、あまり話しかけられたことのない人からいきなり頼み事をされる、という状況に私は思わずかたまってしまった。
同じ塾のユカコさんから聞いた話からみても、神山さんは私にあまり良い印象がないと思っていたので余計に戸惑う。
詩織ちゃんも疑問に思ったのか、不思議そうな声をだした。

「なんで?自分で行けばいいのに。神山さんが直接家に行った方が、一条も喜ぶんじゃない?」
「それは……っ。だって樹くんから声かけられてもないのにあたしからお家にお邪魔するなんて、恥ずかしいじゃない。これ、樹くんから借りていた参考書なの。冬休み勉強するのに必要かなって思って……。」
樹くんのことを話す神山さんは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

(樹くんのこと本当に好きなんだなあ。まあ預かるくらいなら大丈夫かな?)

「わかった。預かるよ。」

まあ家も隣だし渡すくらいならいいか、と思った私は彼女から紙袋を預かることにした。
紙袋を受け取った時に、近づいてきた彼女から甘い香りがふわりと漂った。

(お花の香り……かな?)

受け取った紙袋からも、その花の香りがするような気がする。それから彼女はカバンの中から小さな袋のようなものを取り出した。

「ありがとう!これ、お礼にあげるね。」
「え?」
「あたしの好きな香りのアロマストーンなの。小物を作ったりするのが趣味なんだ。斎藤さんにもあげる。」

そこには可愛らしい柄がプリントされた小袋の中に、小鳥の形をした石のようなものが入っていた。

「可愛いね。なんの花の香り?」
「すずらんよ。あたしね、すずらんの花が大好きなの。」

彼女の好きな花の香りのする、小鳥の形をしたアロマストーンをじっと見る。女子力が高いって素晴らしいよね。

「ありがとう。可愛いね。」

お礼を言うと、神山さんは可愛らしくにっこりと微笑んで、くるりとスカートを翻して走っていってしまった。

詩織ちゃんは眉をしかめると、私から一歩下がった。

「うわ。匂いきつくない?」
「あはは。ちょっとね。でもこれ可愛いよね。」
「あ~ごめん。私はダメだわ。」

預かった樹くんへの荷物と、もらったアロマストーンをカバンにおさめると、匂いも少しましになったのか、詩織ちゃんが私に近寄ってきた。

「なんだろ。最近一条と二葉にべったりくっついてるから満足して、花奈ちゃんへのあたりが弱くなったのかなあ?」
「それはどうかなあ。」

私と詩織ちゃんは二人で駅まで話しながら一緒に歩いたあと、改札口で別れてそれぞれの帰途についた。

改札口を通りかけて、シャーペンの芯がなかったことを思い出した私は、電車の時間までまだ余裕があることを確認して、駅の構内にあるコンビニによる事にした。シャーペンの芯と、喉が乾いたのでついでにお茶のペットボトルも購入する。

お財布をだすためにカバンをあけると、先程神山さんからもらったアロマストーンから甘い香りが漂ってきた。

(あれっ。)

くらりと目眩がした。

甘い匂いに、頭が朦朧としてくる。

ぼんやりとした思考でなんとか会計をすませると、私はそのままふらふらとした足取りで歩き出した。

(どこかに行かないと。)

受験する大学のこととか、最近あったこととか。
ちょっと一人でじっくり考えてみようかな。
どこか一人になれるところがいいかな。

夢遊病のように歩を進めていた私は、気がついたら、駅から離れた場所にある大きな道路を渡る、歩道橋の中央あたりまで来ていた。
手すりから下を見下ろすと、道路を走っている車が見える。止まることのないその流れをじっと見ていると、吸い込まれそうになるような気がして目眩がしそうだ。

ぼんやりと立ち尽くす私に、通行人の一人が話しかけてきた。

「おい。あんたやけにふらふらしてるんだが、体調でも悪いのか?」
「は……い…?」
「?お前確か……斎藤の妹?」

遠くで誰かの甲高い笑い声がする。
ゆらゆら、ゆらゆらと震える。

あなたは誰?


ぱたりと手から力が抜けて。

私の意識はゆっくりと深く沈んで……いくかと思ったんだけど。


倒れ込みそうになった私を、その人が咄嗟に支えてくれたらしい。でも何故かその人が触れたところに静電気みたいな痛みが走って。

「いたたたたっ!」

あまりの痛みに私は閉じかけていた目をパチリと開いた。

私を支えるように抱き抱えているその人と目が合う。
そして意識がはっきりしてきたところで、改めてその人の顔を見た私はあっと声をあげた。

「四楓院先輩!」

四楓院隼人。
ゲームの中では攻略対象の一人としてお兄ちゃんと出会うキャラクターだ。
高校時代、風紀委員長をつとめ、校内の風紀を取り締まっていた。質実剛健といった漢らしい体躯に迫力のある獅子のように猛々しい厳つい顔。数年たった今でも兄貴!と言いたくなる風貌をしている。

でも笑うとちょっと目が優しくなるのを私は知っている。ほら、今も。

「隼人でいいと以前言わなかったか?」
「そうでしたね。つい。お久しぶりです。隼人先輩。お元気でしたか?」
「おう。それにしても、どうしたんだお前。端からみても危ないくらいふらふら歩いてたぞ。体調でも悪いのか?そういえば一条はどうした。今日は一緒にいないのか?」
「今日は学校だったので。それに蓮琉くんといつも一緒にいるわけじゃないですよ。先輩こそこんなところでどうしたんですか?」
「いや。母親の実家がこの近くでな。今日はたまたま用事があって寄ったんだ。」
「そうなんですか。」
「そういうお前はこんなところで何してる?学校から駅に向かう道からは外れてるし、この辺りには店もないだろう。」
「学校帰りに、駅の改札前でシャーペンの芯がないことに気がついて、駅のコンビニでシャーペンの芯とお茶を買ったことは覚えてるんですが……私、どうしてこんなところにいるんですかね。」 

先輩は私の様子を鋭い目付きでじっと見つめていたと思うと、舌打ちをして、ポケットから携帯電話をとりだそうとした。
しかし、先輩の身体が何かにぶつかったように一瞬ゆれ、動きを止めた。

「ちょっと待て……っ。なんだ?あれ?お前……?」

先輩はポケットから携帯電話をとり出そうとした手を止めて、衝撃がきた方向を見た。

「あんたこそ何よっ!ちょっと、花奈さっさと逃げなさいよっ。その絡まれ癖どうにかしてよね?あたしが蓮琉に殺されるでしょっ!」
そこにはカバンを構えてプルプル震えている樹くんが立っていた。

おそらく先輩をカバンで殴ったらしい。
先輩にはあまりダメージがなかったみたいだけど。殴られた方の先輩は、樹くんになんだコイツとでも言うような目を向けている。

「もうっ。何よっ。やだあ。この人チョー怖いんですけど。やっぱりそっち?そのスジの人なの?あたし明日には海に沈められたりしないわよねえ。早まったわあ。もう逃げようかしら。」

樹くんは私が絡まれてると勘違いして守ろうとしてくれたらしい。ちょっと見直しかけたのに、最後の逃げようかしらで帳消しだ。

「やだあ。目つき悪いし、デカいし、ゴツイし。腕の筋肉ヤバいって。あんなので殴られたら……あ、すみません。今あたしが殴ったのナシで。あたしはこの子とは、なあんの関係もありませんので。帰るわね。じゃあ……ぐええっ!」

「まあそういうなよ?」
先輩がニタリと不気味な笑いを浮かべて、樹くんの胸ぐらをつかんだ。もとから迫力があるのに蔑むような表情を浮かべたら、迫力がさらに増すようだ。

「お前が殴ったとこ骨折したかもしれんなあ。どうしてくれるんだ……なあ?」
「ひいいいいっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

(先輩。似合いすぎです。やめてください。)

高校の時も、風紀委員長として校内で恐れられていたその迫力は今も健在だ。年数を重ねた今、さらに、触れるだけで殺されそうな雰囲気が付け足されているせいか、こうやって樹くんをしめあげる姿は、桜木先生のところの本職の人以上に、相手に恐怖感を与えるに違いない。

この前。
遊び半分としても、樹くんがお兄ちゃんの首をしめようとしたことに対して(あと柴崎蓮のクッキーを、大量に食べた件)まだもやもやしているらしい私は、樹くんにもう少し反省して頂こうと、悪ノリしている先輩を止めることなく見守っていた。

樹くんの外見は蓮琉くんによく似ている。樹くんが蓮琉くんの血縁者であることは先輩も予想しているだろうし、あっさり私を見すてようとした樹くんに男としてそれはどうなんだ的なお仕置きも念頭にあるかもしれない。

とはいっても大泣きしている樹くんを見ていると、さすがに可哀想になってきた。そういえば、と神山さんから参考書を預かっていたことを思い出した私は自分のカバンを探ることにした。
絡まれていたはずなのに、悠長に探し物を始める私に、樹くんが唖然とした顔を向けているのが見える。

紙袋をだすためにカバンを開けると、神山さんからもらったアロマの香りがたちのぼってきた。

(こんなにキツかったかなあ?)

気がつくと、私は動きを止めていた。

(ああ、またクラクラしてきた。)

甘い香りがじっとりと私の体を這い上がる。その動きはまるで拘束するように私の四肢を縛っていく。

「……何やってんのよ?花奈。」

私の異変に気がついた樹くんが、私の腕をつかんだ。

「行かないと。」

樹くんの手を振り払うと、私はゆっくりと歩き出した。
しっかり掴んでいたはずなのに、力のない私にあっさりと振り払われたことに驚いた樹くんは、信じられないものを見るかのように、私と自分の手を見ている。

「えぇっ?なにこれ。どうしちゃったのよ花奈ぁ。」

さっきまで先輩に怯えて泣いていた樹くんなのだが、驚きで涙が引っ込んだらしい。今は幽鬼のようにふらりふらりと動く私に怯えた目を向けている。

カバンから中途半端に出かかっていた、神山さんから預かった紙袋がばさりと音を立てて地面に落ちて、中身が袋の口からはみ出した。

参考書と、ハートの形をしたアロマストーン。

匂いがさらにキツくなる。

「行かないと。」

そう呟くと、私は歩道橋から下を見下ろした。
車道を走る車の流れをうっとりと見つめる。

「斎藤!くそっ。……これか?」

先輩が地面に転がるそれらを、中央分離帯の植え込みの中へと放り投げた。
それでも私の動きは止まらない。

「やだやだやだっ。どうしちゃったのよ、花奈!」

樹くんが必死の形相ですがりついてくる。
どうして止めるの?
あなたのためなのに。

全部あなたのためなのに。

すがりついてくる樹くんを振りはらうと、振り払われた勢いで地面に倒れ込んだ樹くんに引っ張られ、私のカバンも飛んでいった。
カバンの中から、私がもらったアロマストーンがもう一つ飛び出しているのが見える。

「これか!」

先輩が素早い動きで地面からそれをひっつかむと、先程の植え込みへと放り投げた。

立ち込めていた匂いが、ゆっくりと消えていく。

ふらりと傾いた私の体を先輩が咄嗟に抱きとめる。
静電気のようなものが再び私の体をかけめぐった。

「いったあああいっ!」
「お。すまん。」
あまりの痛さに涙目になった私は、先輩を見上げた。

「先輩。なんなんですか?これ。」
「ああ。それはだな。くそっ。どう言ったらいいのか……。」

「もし良かったら、私から説明しようか?」

言いよどむ先輩の声を遮るように、涼やかな声がその場に響いた。
甘い香りで澱んだ空気に、凛とした声が雫となって落ち、波紋となって広がっていく。

振り向くと、闇から抜け出てきたような一人の男が歩道橋の中央に佇んでいた。

後ろでゆるく結わえられた腰まである漆黒の髪。
さらに印象的なのは、見つめられるとどこまでも沈んでいきそうな深い闇色をした瞳だ。
整った顔に、細めだけど均整の取れた体つきをしている。
先輩がその男に不機嫌そうに声をかけた。

「本家に呼び出したのはお前だろう。なんでいないんだ。」
「ああ。それは方便だよ。今日は朝から妙な気配がしてね。試しに隼人に動いてもらったんだ。」
「お前なあ……っ。」
「怒らないでくれるかい?私の勘もなかなか冴えてるだろう?隼人が本家に行って、ここを通ったから彼女を助けることができたんだからね。隼人は私にもっと感謝してくれてもいいんだよ?…ああ、まだ残ってるのかい?行っておいで、クロ。食事の時間だよ。」

男はポケットから紙のようなものを取り出すと、ふうっと息を吹きかけた。それは黒い鳥のような形になったかと思うと、先輩が放り投げたモノのあたりに飛んでいった。

その男は、体の向きを変えて私をじっと観察するように眺めたあと、むうっと眉をしかめた。

「なに?君から蓮の気配がするね。」

そう呟くとするりと私に近寄り、不意に顔を近づけてきた。底知れない闇色の瞳に全てを見透かされていそうでかなり落ち着かない。その男は、私をじっと見つめていたかと思うと、何かをなぞる様に、その指で私の唇に触れてきた。

「………っ?」
「ああ。そういった感情は残ってないようだね。なら許してあげよう。あの子は優しい子だからね。仲良くしてやってくれたまえ。」
「ええと……?」

「何をやってるんだ!お前は!」
戸惑う私を庇うように先輩がその男の前に出た。凄みのある眼力で相手を睨みつけている。その迫力は後ろにいる私にも伝わってくるというのに、その男はそよ風でも吹いたのかといった涼しい顔をしている。
「10代の女性にそう簡単に触れるものではないと日頃言っているだろう!すまんな、斎藤。日々常識をこいつに教えてるんだが、なかなか上手くいかんのだ。」
「はっ。子供にも怖がられる、強面の隼人に言われてもねえ?」
「子供に気味悪がられるお前よりはマシだ。」
「そうかな。この間はすれ違っただけの大人の男にも怯えられていたじゃないか。」

大人二人がかなり大人気ない喧嘩をしている中、影のように立っていた樹くんがにこりと微笑んで私を見た。

「ねえ花奈、悪いけどあたし先に帰るわね。」

(樹くんの顔にこいつらヤバいやつらだわ。近づいたら、まずいわよ絶対。さっさと逃げるに限るわねって書いてある!)

「聞いてるのか?……どうした?」

ともに舌戦を繰り広げていた男が、不意に黙り込んで、視線を宙に向けたことに気がついた先輩が、訝しげな声を出した。

「おや、まだ気配があるねえ。まあ、少し遠いようだけど?クロ、行っておいで。」
「なんだと?まだ斎藤に危険がありそうなのか?」

先輩の鋭い声に、その男は目を細めて東の方角を見た。そして、詠うように声をあげた。

「……なんとか間に合ったようだ。魂と体はこちらに残りそうだね。」
「そうか……。」

先輩は、ほっとしたように息を吐いた。
帰ろうとした樹くんは、いきなり緊迫した雰囲気に、戸惑って足を止めていた。すると、いきなり樹くんの携帯電話の着信音が鳴り響いた。樹くんは恐る恐る、といった様子で画面をタップした。

「はい。リサ?どうしたの?……え?……ん。わかった。またかけるね。」

どうやら友達からかかってきたらしい。
樹くんはただでさえ白い顔をさらに青くして、かすれた声をだした。

「ユカコ、事故にあったんだって。いつもなら通らない道を通ってたみたいで、いきなり車道に飛び出したらしいわ。いま、病院に運ばれたってリサから連絡が……。」

その時、バサリと音を立てて、空から黒い鳥が男の腕に舞い降りてきた。

「やあ、おかえり。休んでいいよ、お疲れ様。」

その男の声が終わるとともに、飛んできた黒い鳥は、霞のように消え去ってしまった。

(き、消えた?)

私と樹くんは、目の前で起きた現象に、驚いて目を瞬かせた。
先輩は慣れているのか鳥が消えたことに驚く様子もない。その男は、ゆっくりとした動きで樹くんに視線を合わせた。

「おや、君。随分と執着されてるねえ。もう帰るんだろう?まあその相手とお幸せに。」
「いや、ちょっと待って。」
「ああ、少々嫉妬深いところもあるようだ。悋気もひどそうだから、呪い殺されないように気をつけることだね。」
「ねえ、何怖いこと言ってんの。冗談でしょ?ドッキリ?ドッキリ企画なのよね、これって。そうって言ってよ!」
樹くんの必死な様子に、男はその秀麗な顔にアルカイックスマイルを浮かべた。

「そう思うなら思えばいい。ああ。ほら、来た。」

私と樹くんはまた目を合わせた。
残念ながら私達には何も見えないし聞こえない。
その男の視線の先を辿るだけだ。

その男の視線はゆっくりと移動していく。
だんだんと樹くんへと向かって。
今にも到達しそうになったその時。

「やだああああ!あたしホラーはダメなのよ!無理!絶対無理!お兄さん!助けて!何でもするから!」

樹くんの瀕死の叫び声がその場にこだました。

(な、何かいるのかな?全然、わからないんだけど?)

私がかなり不安そうにしていたからだろうか。

「大丈夫だ。」

安心させるように、先輩が私の頭をぽん、と叩いた。
先輩に触れられた時痛かったのを思い出して体をびくりと震わせてしまう。
「……っと、すまん。驚かせたか?」
「いえ、痛くない……?」
「ああ。それは、」
「なんだい隼人だって女性に触ってるじゃあないか。」
「ああ?」
「いやだねえ。自分のことは棚上げしてさあ。そういうのムッツリって言うんだろう?はあっ。親戚から不審者がでるなんて嘆かわしいねえ。」
「いい加減にしろよ、お前。」
「ああ怖い。お嬢さんだってこんな強面に触られたら怖いだろう?」

いきなり声をかけられた私は、思わずその男を見た。何を考えているのか、わかりにくい瞳が私を見据えている。
なんだか緊張してしまった私は慎重に自分の思いを声にだすことにした。

「さっき先輩に触られた時、静電気がはしったみたいに痛かったのでつい過剰に反応してしまいましたが、さっき触れられた時は痛くなかったので、もう触れられても大丈夫だと思います。それと、先輩が優しいことは知ってるので、強面でも怖くはない、です。」

「………ふうん。」

その男は私を観察するようにじっと眺めていたけど、やがて静かに目を伏せて独り言のように呟いた。

「あの子が気に入るのも、わからないではない……か。」

その男は、緩慢な動きで私に近寄ると、頭にぽん、と手を置いた。

「……まあ、悪くはないね。お嬢さんには特別に教えてあげよう。隼人は嫌われる体質なのさ。」
「嫌われる?」
「そう。霊的なものや、呪術的なもの。そういったものは隼人に近づけない。近づいたら吹き飛ばされてしまうからね。君は今日そういった何かに影響をうけていた。だから隼人が触れた時その何かと反応して君に痛みが生じたわけだ。」

「ええっと……つまり。」

「君は誰かに呪いを受けた。それだけのことさ。」

「……っ?」

私は無言で首を傾げた。

この世界は私が前世でプレイしていたBLゲームの世界。
はたしてそこに、オカルト要素はあっただろうか。記憶のページをめくるけど、なかなか見つからない。

記憶を探りながら、ダラダラと冷汗を流す私に、その男は闇色の瞳を向け、綺麗なアルカイックスマイルを浮かべた。

「自己紹介がまだだったね。私の名前は四楓院葵。そこの隼人の従兄弟にあたる。よろしくね?お嬢さん。」

(オカルト要素……あったかなあ?)











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